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文献名1霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
文献名2第2篇 心猿意馬よみ(新仮名遣い)しんえんいば
文献名3第7章 囈語〔699〕よみ(新仮名遣い)うわごと
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-02-26 23:28:42
あらすじ高姫は精神錯乱状態になって、その咆哮は館の外にまでびりびりと響いてきた。遠州と武州はうろたえてしまっている。そこへ杢助がやってきた。杢助とお初は高姫の床に来ると、天の数歌を唱えて鎮魂した。荒れ狂っていた高姫は鎮静し、ばたりと床の上に倒れて唸っている。杢助は高姫に心配しないようにと声をかけるが、高姫はやにわに杢助の胸倉をつかんで、杢助とお初が如意宝珠の玉を吐き出させたからこうなったのだ、と八つ当たりをはじめた。杢助は強力に任せて高姫を引き剥がした。お初は高姫に、有形の玉三個を失くした代わりに、もっと立派な無形の玉をみなそれぞれ神様からいただいたのだ、と高姫を諭す。しかし高姫は、お初に飛びかかろうとする。お初は身軽に高姫をかわしている。そこへテルヂーと雲州が高姫の見舞いにやってきた。遠州が出迎えて、高姫の病気が昂じて危険な状態になっているから、今は帰った方がよい、と忠告する。しかしテルヂーと雲州は忠告を聞かずに中へ入っていく。中では高姫がお初に飛び掛りお初がよける、というのを繰り返している。杢助は煙草を吸いながらそれを悠々と見物している。高姫はテルヂーと雲州の姿を見るや否や、二人が玉を盗んだのだろうと飛び掛って玉を吐かせようとする。杢助は強力を発揮して高姫を引き剥がし、蒲団の上につまみ降ろした。高姫はうわごとを言い始めた。そのうわごとは、素盞嗚尊の立派な身魂に感心して三五教へ来てみたが、ハイカラ教主の言依別命に愛想をつかしたので、自分が三つの玉を飲み込んでふたたびウラナイ教を立てようと考えていたのに、黒姫は玉を邪神に取られ、自分の如意宝珠も取られてしまった、と自分の心のうちを白状するものであった。一同は高姫が恐ろしい考えでいたことを知り、肝をつぶしている。そのうちに高姫の館の門前には、見舞い客がごった返してきた。杢助は高姫のうわごとが漏れては大変なことになると、面会謝絶にしてしまった。しかし国依別は遠州が止めるのも聞かずに奥に入ってきた。高姫は杢助に介抱されて寝ていた。杢助は、高姫は取りとめのないことを口走り精神錯乱に陥っているから、もう駄目かもしれない、と悲観する。お初はにっこり笑って、これには深い仔細があることでしょう、と一同を元気付ける。言依別命は教団の幹部を連れて枕頭に訪れ、天津祝詞と天の数歌を歌って回復を祈った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月25日(旧04月29日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月30日 愛善世界社版87頁 八幡書店版第4輯 412頁 修補版 校定版90頁 普及版40頁 初版 ページ備考
OBC rm2207
本文のヒット件数全 1 件/竜宮の乙姫=1
本文の文字数4251
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本文  高姫は一生懸命精神錯乱状態になつて、熱に浮かされ猛虎の如く、咆哮怒号の声屋外にビリビリと響いて来た。遠州、武州は驚いて奥へ駆け入つたり表へ出たり、手の施す所も知らず、
武州『オイ遠州、何うしよう。大変ぢやないか。大変々々』
と狼狽へ廻つて居る。
 杢助はお初の手を引きながら門の戸をがらりと開け、悠々と入り来り、
『オイ、遠州、武州、何を騒いでゐるのだ』
遠州『あの声を御聞きなさいませ、刻々と鳴動がきつくなります。浅間山が爆発するのか、高姫山が破裂するのか知りませぬが、大変な騒動が始まりかけて居ます。何処へ避難したらいいかと思つて、周章狼狽の体で御座います』
『アハヽヽヽ、如何にも偉い鳴動ですな』
『何と云つても三十八度と四十度の間を昇降してゐる熱ですから、随分偉い煙も吐き出します。側に居られた態ぢやありませぬ。何卒貴方、鎮めて下さいな』
『この鳴動は大森博士だつて、如何することも出来はしない。併し杢助が一つ鎮魂をして鎮めて見ませう』
とお初と共に高姫の病床に進み入つた。
 高姫は金盥の底をガンガン叩きながら、起ちつ坐りつ捩鉢巻になつて暴れ狂うてゐる。杢助は両手を組み、一、二、三、四、……………と天の数歌を静かに唱へ、ウンと一声指頭より霊光を発射し、高姫の面を照した。高姫は漸く鎮静状態に復し、バタリと床の上に倒れ、肩で息をしながらウンウンと唸つてゐる。杢助は高姫の肩を撫で擦りながら声低に、
『モシモシ高姫さま、大層御苦しみと見えますが、何事も神様のなさることでせうから、決して決して御心配のなきやうに、気を確に持つて下さい。言依別の教主様も至極平気で居られますから』
 高姫は此声にムツクと立上り、杢助の胸倉を矢庭にグツと引掴み、肩をいからし声を震はし、歯ぎしりをキリキリと言はせながら眼を釣上げ、
『お前は杢助ぢやないか、仮令言依別が何と云つても、大事の大事の結構な玉を紛失致したのは、神政成就の為には大変な大失策だ。これと言ふのも貴様がお初を伴れて来て、高姫の生宮から無理に引張り出さしたその為に、斯んな目に遇うたのだ。私もそれから何となく変になり、斯んな病気になつたのも、みんな杢助、お前の為だ。神政成就の妨害を致す大曲津奴が。大方八岐の大蛇が化けて居るのだらう。サア白状致して玉の在処を知らせよ。さうでなければ何処までも放しは致さぬぞや』
『高姫さま、それは偉い迷惑、マア悠くりと気を落着けて冷静になつて下さい』
『何ツ、迷惑と申すか。お前の迷惑は小さいことだ。大神様を始め世界万民の迷惑ぢや。第一この高姫が起つても坐ても居られぬ迷惑な目に遇うてゐる。サア、キリキリと白状致せ』
 杢助は高姫の手を強力に任せグツと放した途端に、高姫はどんと仰向けに倒れ、口から蟹のやうに泡を吹き飛ばし、前歯の抜けた口を斜交に開いて、頻りに何事か言はむと上下の唇をたたいている。
お初『小母さま、決して御心配なさいますな。その玉は神様の御手に御預り遊ばして御座るから、神政成就の妨害にはなりませぬ。三個の玉は有形です、そのために皆様はモツト立派な無形の玉を一個宛頂きましたから、御安心なさいませ』
 此声に高姫は気がつき、
『ヤア、お前はお初ぢやな。小豆のやうな態をして、ようツベコベ囀る奴ぢや。私の玉を叩き出した曲者、サア、もう斯うなる上は此高姫が承知致さぬ』
と飛びかからうとする。お初は体をヒラリと躱し、
『小母さま、気を落着けなさい』
『何ツ、猪口才な、ゴテゴテ言はずにすつこんで居れ。大方貴様が玉を盗んだのであらう。サア、日の出神の生宮が承知致さぬ』
と又もや飛びかかる。お初は右へ左へ胡蝶の飛び交ふ如く、ヒラリヒラリと高姫の鋭鋒を避けて居る。門口にはテルヂー、雲州の二人、高姫の病気危篤と聞いて見舞にやつて来たと見え、
テルヂー『これ遠州さま、一寸開けて下さい。テルヂー、雲州の両人だ』
 遠州は此声にガラリと戸を引き開け、
『ヤア、よく来て下さつた。大変に大将の病気が、変になつて来たので困つてゐるのだ』
雲州『変になつたとは何うだい。危篤と云ふのか』
『時々高姫山が鳴動をするので危険でたまらないのだよ。人事不省の高姫山、うつかり踏査でもしようものなら、山と共に奈落の底まで陥落するか分つたものぢやない。今も玉治別さまがカーンとやられて、遁げ帰らしやつたとこだ。気がついたら又俺から篤りと云うて置くから、帰つたがよからうぞ』
テル『折角此処まで来たのだから、御顔だけでも拝見して帰らうか。なア、雲州』
雲州『危険区域だと云つて退却するのは男子の本分ではない。これも修行のためだ、一つ踏査することにしようかい』
と遠州の止むるをも聞かず、無理に奥の間に進み入つた。
 高姫は火の如き顔色に眼を釣り、拳を固めて六歳のお初目蒐けて追ひかけてゐる。杢助は此の騒ぎを他所事のやうに煙草をくすべながら、師団演習の観戦でもしてゐるやうな調子で泰然と構へてゐる。二人の姿を見るより、高姫は、
『ヤー、お前はテルヂーに雲州ぢやないか。貴様は元が小盗人だから、大方あの玉を盗みよつたのだらう。サア、了簡せぬ。早く此処へ玉を吐き出せ』
と雲州の素首をグツと捻ぢ、畳に摺つけ、
『サア、吐け吐け』
と高春山でお初の玉吐せを見てゐた高姫は、同じ流儀に倣つて腰を滅多矢鱈に叩きつける。
雲州『アイタヽ、ウンウン。モシモシさう叩いて貰ひますと、尻からプン州や、ウン州が出ますワイなア。オイ、テルヂー、早う俺を助けて呉れぬかい』
『貴様は身魂が悪いから尻から吐くのだらう。コラ、今デルジリと吐かしただらう。早く尻を出せ』
 杢助は強力に任せ、高姫の素首をグツと握つて、猫を抓んだやうに引提げ、ポイと蒲団の上に抓み下した。
 又もや高姫は発熱甚だしく、ウンウンと苦悶の声を上げながら、床上に力なくグタリと倒れて囈語を始めた。
『三五教の変性男子様の結構な教を、変性女子がワヤに致して盗つて了はうとするので、これは何でも系統の高姫が、一つ腰を入れねばなるまいと黒姫を説き諭し、青彦や魔我彦に言ひ聞かして、到頭ウラナイ教を樹てて、神政成就の御用を致さうと思ひ、日の出神の生宮が現はれ、黒姫には竜宮の乙姫様が引添うて、御守護遊ばすなり、力一杯変性女子の悪の守護神に敵対うて見たところが、思うたよりは立派な身魂で、ミロクさまのやうな素盞嗚尊ぢやと感心して、それから心を改め三五教へ帰つて、手を引合うてやらうと思へば、奴灰殻の学と智慧とで固まつた言依別命が教主となり、又もや学と智慧とで此世をワヤに致さうと致すに依つて、アヽ三五教も駄目だ、私が三つの玉を呑み込んで、再びウラナイ教を樹てて見ようと、心の底で思つて居つた。それ故黒姫に黄金の玉の御守をさして置いたのに、彼奴は莫迦だから到頭八岐の大蛇の眷属に奪られて了ひよつた。アヽ残念ぢや。三つの御玉が一つ欠けた、何うしよう、斯うしようと気が気でならず、到頭黒姫を鞭撻つて玉探しに出したが、これでは雲を掴むやうな頼りのない話。併しながら此の高姫が保管して居る二つの玉さへあれば、何うなり、斯うなりと、神様に対して高姫が変性男子の御用継ぎを致せると思うて居つたら、其の二つの玉も大蛇の乾児に、何時の間にか盗られて了ひ、今は蟹の手足をぼがれたやうな悲惨な事になつて了つた。
 これと云ふのも言依別命が、余り物喰ひがよいので、何でも彼でも塵芥を、此の聖らかな神様の御屋敷へ引張り込むものだから、斯んな縮尻が出来たのだ。エーもう仕方が無い。併し此の玉は遠くは行くまい。何れ未だ近くに隠してあるに違ひない。さうでなければ誰かが呑み込んでゐるのかも知れぬ。仮令死んでも、火になつても蛇になつても、此の三つの玉を取返さねば置くものか。エーエー残念や、口惜しや、ウンウンウン』
と千切れ千切れに自分の腹の底まで白状して了つた。
 之を聞いた杢助、お初、テルヂー、遠州、雲州、武州は目と目を見合はし、高姫の腹の中の清からざりしに肝を潰してゐる。
 高姫の大病と聞きつけて、次から次へと見舞客は踵を接し、門口は非常に雑沓を極めた。されど杢助は深く慮るところあり、高姫の囈語を大勢に聞かせては大変と、遠州、雲州に堅く言ひつけ面会を謝絶せしめつつあつた。此処へ国依別は駿州、三州を伴ひやつて来た。
国依別『コレコレ遠州さま、高姫さまの御病気は如何です。些とよい方ですか』
遠州『善とも悪とも、テンと見当がつきませぬ。善いと思へば悪い、悪いと思へば善い、到底凡夫の吾々、見当の取れぬ仕組と見えますワイ』
『コレコレ遠州さま、今日は教理のことをたづねに来たのぢやない。御病気は如何と云ふのだよ』
『病気ですかい。御病気は矢張身体の機械が、どつか破損したのですなア。随分奇怪千万な病気ですよ。何でも彼りや憑いてますなア』
『誰がついて居るのだ。看護婦は何人位居るか』
『何分日の出神さまの生宮ですから、神主もそれはそれは沢山居るでせう。人間の目には根つから見えませぬなア。死虱とか云つて、随分観音さまが沢山、御守護してゐらつしやいますワ』
『莫迦云ふない。オイ、駿州、三州、斯んな奴に相手になつて居つても、とんと要領を得ない。サア、奥へ強行的進軍だ』
と行かむとする。遠州は両手を拡げ、
『アヽ国さま、駿、三、マア待つて下さい。杢助さまが喧ましいから』
『なに、杢助さまが来てゐるのか。そんなら猶の事、這入らねばなるまい』
『今お前達が這入ると病気は益々危篤になると云つて、杢助さまが心配して御座つたので、軈て御臨終も近寄つただらう』
『それほど危篤に陥つて御座るのなら尚更の事だ。何うしても御目にかからねばなるまい。其処除け、邪魔ひろぐな』
と突き除け刎ね除け進み入る。見れば高姫は、杢助に抱かれて、スヤスヤと睡つてゐる。
国依別『アヽお初さま、杢助さま、皆さま、大変に御苦労でした。御様子は何うですな』
杢助『ハイ、案じられた容態で困つてゐます。精神錯乱と見えて取止めもないことを口走るので、実のところは面会謝絶をしてゐたのです。併しよう来て下さつた。到底もう駄目でせう』
と絶望的悲調を帯びたカスリ声で、力なげに答へる。
 お初はニコニコしながら、
『何れも方、御心配下さいますな。これには深い様子のあることでせう』
 斯る処へ言依別命は、言依姫、お玉の方、言照姫、紫姫、若彦を伴ひ、病気見舞のために此処に現はれ、枕頭に座を占め、天津祝詞を奏上し、天の数歌を唱へて恢復を祈つた。
(大正一一・五・二五 旧四・二九 外山豊二録)
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