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文献名1霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
文献名2第1篇 毀誉の雲翳よみ(新仮名遣い)きよのうんえい
文献名3第3章 蜜議〔1503〕よみ(新仮名遣い)みつぎ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ三五教の宣伝使・初稚姫は、玉国別一行の危難を守ろうと、猛犬スマートを引き連れてキヨの湖を渡り、バラモン軍関守のチルテルの館に立ち寄っていた。そこの離れ家に落ち着き、一弦琴を弾じながら使命を果たそうと潜んでいた。チルテルは初稚姫の美貌にうつつを抜かし、姫を屋敷の中に留め置いて、妻ある身でありながら恋の野望を遂げようと企んでいた。チルテルの妻チルナ姫は、部下のカンナとヘールに初稚姫を口説かせて、夫の初稚姫に対する興味を失せさせようとした。初稚姫はやってきたカンナとヘールを自室に招き入れ、手ずから茶菓を供じて話を聞いている。二人は美人の前でいいところを見せようと、それぞれ初稚姫の美しさを褒めたたえる即興の歌を歌って見せた。三人は互いに歌をもって心を探り合いつつ、夏の長い日を知らぬ間に暮らしてしまった。チルナ姫は二人の成功を案じ煩いつつ、足音を忍ばせて窓の外に立ち寄り、息を潜めて中の様子を聞き入っている。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年04月01日(旧02月16日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年7月8日 愛善世界社版42頁 八幡書店版第10輯 499頁 修補版 校定版44頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm5903
本文のヒット件数全 1 件/竜宮の乙姫=1
本文の文字数3297
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本文  三五教の生神と  其名も高き宣伝使
 初稚姫の神司  玉国別の一行が
 危難を救ひ守らむと  猛犬スマート引連れて
 キヨの湖打ち渡り  バラモン軍の関守の
 チルテル館に立ちよりて  いと麗しき離れ家に
 一絃琴を弾じつつ  神の依さしの神業に
 心を尽し身を砕き  仕へ給ふぞ畏けれ
 これの関所を預かりし  チルテル司は初稚姫の
 貴の容姿に魂抜かれ  妻ある身をも省ず
 家敷の中に留め置き  時を伺ひ此姫の
 吾身を慕ふ時を待ち  恋の野望を達せむと
 一絃琴を与へおき  静に一室に隠しけり
 初稚姫の宣伝使  チルテル司の乞ふがまま
 離れの一間に立て籠り  心密に神言を
 称へ上げつつコードをば  弾じて憂を慰めつ
 時の至るを待ち給ふ  チルナの姫は吾夫の
 心の底をはかり兼ね  悋気の焔を燃やしつつ
 カンナ、ヘールの両人を  私かに近く呼びつけて
 心の丈を打ち明し  二人の男に謀計
 授けて姫を館より  放逐せむと企らみつ
 心を配るぞいぢらしき  カンナ、ヘールの両人は
 恋の奴となり果てて  姫の館の傍近く
 進みて怪しき歌歌ひ  踊りつ舞ひつ恋衣を
 青葉の風に翻し  茲を先途と荒れ狂ふ
 初稚姫は窓の戸を  サツと開きて庭の面
 眺め給へば訝かしや  チュウリック姿の両人が
 恋に狂うた破れ歌  面白可笑しく歌ひつつ
 顔赤らめて眺め入る  初稚姫は声をかけ
 二人の男を呼び入れて  手づから茶菓を取り出し
 いと懇にあしらへば  案に相違の両人は
 眦をさげて涎繰り  願望成就の時来ぬと
 胸轟かす可笑しさよ  初稚姫の神司
 心の玉もピカピカと  輝き給へば両人は
 云ひ寄る術も荒男  ビリビリ体を慄はせて
 他人の家から借つて来た  狆か猫かと云ふやうな
 塩梅式で畏まり  顔を赤らめ控へ居る。
初稚『貴方のチュウリックを伺ひますればリュウチナントさまにユゥンケル様のやうで厶いますが、何と凛々しい、男らしいお姿で厶いますなア。男子はどうしても軍人に限ります。花も実もある武士は、文学にも通達して居るもので厶いますが、唯今承はれば、貴方方は文武両道の達人、誠に感心致しました』
カンナ『ヘエ、滅相な。さうお褒めを頂きましては恐れ入ります。私は一介の武弁、文学趣味は一向持ちませぬ。無味乾燥な代物で厶いますよ』
初稚『イヤどうしてどうして、あれだけのお歌を即席にお詠めになるのは、余程文学の素養がなくては出来る業ぢや厶いませぬ。貴方は今は軍人になつていらつしやいますが、文科大学でも優等で卒業なさつたお方で厶いませうねえ』
カンナ『イヤ畏れ入ります。実は赤門出で厶いますが、お蔭で銀時計を頂戴致しま……せなんだ。アハヽヽヽ』
ヘール『拙者こそ、文科大学出身のチヤキチヤキで厶います。随分私の経歴は波瀾重畳、実に惨澹たる歴史に富むで居ります。到底カンナ君如きは傍へも寄れないでせう』
初稚『どうか一つ貴方の面白き来歴や、又今後の御方針を篤り聞かして頂き度いもので厶いますな』
 ヘールは茲ぞと云はぬ計り、一歩二歩蹂寄り、自分は文科大学出身だと此ナイスの前で云つたのだから、茲でこそ文学者振りを発揮し、流暢な詩によりて自分の来歴を述べ、姫の心を感動させ、自分の文才を敬慕せしむるが第一の上手段と心得、目を白黒させ乍ら歌を以て吾が来歴を述べ初めた。
ヘール『太陽は天地開闢の昔より
 東天を掠めて登り
 日々西天に入る
 日西天に没して
 忽ち暗黒の闇は来る
 月は忽ち西天に姿を現はし
 照々として天に沖す
 月落ち烏啼いて又太陽東天に現はる
 満天の星光一時に影を隠し
 銀河東西に現はれ或は南北に流る
 天は蒼々として際限なく
 地は浩々として窮極する所なし
 吾は天地の精気を受けて
 満目湘々たる世界に生を稟く
 嗚呼人は万物の霊長天地の花
 忽ち長じて人となり
 ハルナの都に笈を負ひて登り
 文明開化の空気を呼吸し
 文科大学の門を出入し
 優秀の誉を担ふて郷関に錦を飾る
 時しもあれバラモン軍の大元帥
 大黒主の神の神意によつて
 人生最勝最貴の軍人となり
 晨に月を踏み夕に星を頂きて軍務に鞅掌す
 或は河海を渡り浩然の気を養ふて神軍に従ふ
 長駆千里イヅミの国
 漸くつきしキヨの港
 云ふ勿れ下級武官の端と
 前途洋々として極まりなく
 登竜の望みあり
 吾今茲に蹕を留めて生霊を愛護す
 窈窕嬋妍たる美人天より下つて此館に在り
 何んぞ知らむ意中の人
 吾眼前に顕現す
 人間万事塞翁の馬
 小官豈軽んずべけむや
 願はくは吾肚裡に包める
 雄図を看取したまひて
 鴛鴦の契を結ばせたまはむ事を
 バラモン神明の前に拝跪して
 帰命頂礼祈願し奉る』
初稚『オホヽヽヽ。遉文科大学出身丈あつて、どこともなしに余韻嫋々たる詩歌で厶います。妾も文学が大変好きで厶います。本当に春陽の気が漂ひますなア』
ヘール『エヘヽヽヽ。イヤもうお恥かしう厶います。イヤ、カンナ君、リュウチナント殿、君も一つ脳髄の底をたたいて、茲で一つ姫様の御清聴を煩はしたらどうだ』
カンナ『姫様、これから私が、些し計り詩吟をやります。何卒審判は貴女にお願ひ致します』
初稚『ハイ、左様ならば、私が臨時審判長となつて伺ひませう。定めて優秀な詩歌が聞かれる事だと、今から期待して居ります』
カンナ『然らば御免を蒙つて一首吟じて見ませう。オイ、ヘールさま、確り聞いて呉れたまへ』
カンナ『日は照る曇る雨は降る  月は盈ち照り虧け光る
 大空渡る日の影も  月の姿も今此処に
 現れます姫に比ぶれば  比例にならぬ心地する
 此姫様の顔色は  日の出の神の御姿
 心の底は瑞御霊  三五の月と照り渡る
 御頭見ればキラキラと  星の如くに宝玉が
 輝き渡る鮮かさ  人は天地の御霊物
 宇宙の縮図と聞きつれど  今迄名実相叶ふ
 縮図を眺めた事はない  初稚姫の御姿
 天津御国の天人か  但しは竜宮の乙姫
 体一面ピカピカと  内部外部の隔てなく
 輝きたまふ水晶玉  金銀瑪瑙玻璃珊瑚
 瑠璃の色なす御頭  硨磲の笄かざしつつ
 イヅミの国に現はれて  これの館に下りまし
 衆生済度の御誓ひ  三十三相備はりし
 観音勢至妙音菩薩  今目の当り伏し拝み
 心の闇もスクスクと  晴れ渡りたる尊さよ
 恋路に迷ふヘールさま  得意の文学捻り出し
 七難き歌をよみ  アツと云はせて姫様の
 御心動かし奉り  望みを遂げむと焦てども
 如何で動かむ千引岩  押せども引けども吾々が
 弱き力の及ぶべき  あゝ惟神々々
 神の御霊の幸はいて  もしも縁のあるなれば
 これのナイスと永久に  鴛鴦の契を結ばせて
 神の御為世の為に  誠の教を四方の国
 開かせ給へ自在天  大国彦の御前に
 リュウチナントと仕へたる  カンナの司が村肝の
 心を清めて願ぎまつる  あゝ惟神々々
 御霊幸はへましませよ  此処は名に負ふバラモンの
 キヨの関守神司  いや永久に鎮まりて
 三五教やウラル教  其外百の醜道を
 世に布き伝へ人々の  心を曇らす曲神を
 捉へて懲す大聖場  夫の司と任けられし
 チルテル大尉の副官と  仕へまつりし此カンナ
 一日も早く吾思ひ  遂げさせ給へと願ぎまつる。
 朝日子の笑み栄えます姫の姿
  天津乙女に優りぬるかな。

 如何にして心の丈を語らむと
  思へどひとり口籠るかも』

ヘール『何事も神のまにまに進むべし
  此道のみは詮術もなければ』

初稚『情けある武士達に物申す
  吾身は実にも楽しかりけり。

 願はくば神の御為世の為に
  心あはせて仕へむとぞ思ふ』

カンナ『何となくまだもの足らぬ心地すれ
  姫の御心量りかぬれば』

ヘール『恋衣着むと思はば現身の
  垢を洗ひて清くなれなれ。

 村肝の心を神に研きなば
  天津乙女も如何で嫌はむ』

初稚姫『陸奥の蓬ケ原をかきわけて
  萎れぬ花を手折りませ君』

カンナ『手折らむと思ふ心の切なさを
  汲み取りたまへ珍の淑人』

 かく互に歌をもつて心を探り合ひつつ、夏の長き日を知らぬ間に暮してしまつた。チルナ姫は二人の成功を案じ煩ひつつ、足音を忍ばせ窓の外に立ちよつて、息を潜めて聞き居たり。
(大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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