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文献名1霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻
文献名2第3篇 時節到来よみ(新仮名遣い)じせつとうらい
文献名3第15章 婆論議〔930〕よみ(新仮名遣い)ばばろんぎ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ松公(松彦)、鶴公(鶴彦) データ凡例 データ最終更新日2022-08-25 23:03:08
あらすじ高姫一行は清子姫・照子姫と別れて、ハラの港を目指して行く。清子姫と照子姫は琉球を出て高砂島にやってきたとき、言依別命の命によって三倉山の谷川に進んで国魂神・竜世姫命の宮に詣で、国人たちを教え導いていたのであった。そしてヒル、カル、間の国を経て常世の国にわたり、鬼武彦ら白狐神たちに守られてロッキー山の鬼城山に至り三五の道を宣伝した。その後清子姫は日の出神の命によりヒルの都の楓別命の妻となり、照子姫とともにこの瀑布にやってきて百日百夜の修行をしようとしていたところに、高姫一行に出会ったのであった。後に照子姫は国依別の媒酌によって石熊の妻となった。石熊は国依別から光国別という名を授かり、高照山の館に三五教を開いた。そして楓別命夫婦と合い協力して、ヒル、カルの国にまだ残っていた大蛇を退治する大神業に奉仕することとなった。ウヅの国に残った春彦は、タルチールとともに常世の国を越えて北方の雪国まで進み、抜群の功名を立てたが、その物語はまた後日とする。高姫たちはハラの港から高島丸に乗り込んだ。高姫は船中の人々の雑談を聞くともなしに聞いている。松公と鶴公は、高姫が高砂島にやってきたときの無茶な振る舞いを話のネタにして、わざと船中の人々に聞こえよがしに高姫を非難している。テーリスタンが話に割ってはいると、二人は実はウヅの館の松若彦の命で、高姫を追ってきた三五教の宣伝使だと明かした。二人は、神素盞嗚大神様の御内命で、高姫たちに麻邇の宝珠の誠の御用がさせたいために、付いて教訓を垂れていたのだと語った。そしてまた、自転倒島に着いたらさらに明かす秘密があると言い、一行は道中を共にすることとなった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月28日(旧07月6日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年11月10日 愛善世界社版164頁 八幡書店版第6輯 311頁 修補版 校定版171頁 普及版61頁 初版 ページ備考
OBC rm3315
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本文  高姫一行六人はタルチール、清子姫、照子姫の三人に袂を分ち、ハラの港を指して進み行く。
 因に清子姫は妹照子姫と共に言依別命の命に依り、三倉山の谷川に進み、国魂神の竜世姫命の宮に詣で、数多の国人を教へ導き、それよりヒル、カル、間の国を経て、常世の国に渡り、ロツキー山に進み、鬼城山に到り、鬼武彦以下の白狐神に守られ、三五の道を宣伝し、清子姫は日の出神の命に依りて、ヒルの都の楓別命の妻となり、ヒルの館を立出で、妹照子姫と共に此瀑布に立向ひ、山中の玉の池の中心に屹立せる岩石の上に小さき亭を建て、百日百夜の修行をせむとしてゐたのであつた。又照子姫は国依別命の媒酌に依つて、バラモン教の教主たりし石熊の妻となり、高照山の館に於て三五教を開く事となつた。さうして石熊は国依別命より、光国別と云ふ神名を頂き、夫婦相和して大蛇退治の大神業に奉仕する事となつた。
 アマゾン河の魔神及時雨の森の猛獣は鷹依姫等の尽力に依りて、何れも神の道に救はれたれ共、未だヒルの国の一部及カルの国の森林には、八岐の大蛇の系統の邪神数多棲息して暴威を揮ひ、人民を苦しめ居たれば、茲に光国別、楓別命の両夫婦は神の力を得て、苦心惨憺の結果、漸く邪神を言向和すことが出来たのである。さうして高姫に従ひ来りし春彦は、タルチールと共に常世の国を乗り越え、遠く北方の雪国に進み、抜群の功名を立てたのである。此物語は後日更めて述ぶることに致しませう。
 高姫一行はハラの港より又もや都合よく高島丸に乗り込み、自転倒島に向つて帰る事となつた。海上波静かにして、さしもに広き大西洋も鏡の如く凪ぎわたつて居る。船中の無聊を慰むる為、あちらの隅にも、こちらの隅にも雑談が始まつて居る。
 高姫一行は静かに諸人の雑談をゆかしげに聞いて居た。高姫の傍に座を占めた三人連れの男、チビリチビリと瓢の酒を呑み乍ら、雑談に耽りゐたり。
甲『先の年、竜宮の一つ島からテルの国へ帰つて来る途中、ヤツパリ此高島丸に乗つて帰つたが、其時に妙なことがあつたよ。小さい舟に婆が一人、屈強な男が二人乗つて来て暗礁に舟を当て、止むを得ず、大胆至極にも波の上を歩き出した所、俄の暴風で波は高くなり、困つて居る所へ、高島丸がそこを通り合せ、救ひ上げた事がある。其時に何でも、高姫とか云ふ名だと記憶して居るが、舟の上から真逆さまに海中へ墜落し、連れの男に助けられて、反対に理屈を言うた悪垂婆アが乗つてゐた。随分世の中には妙な婆アもあるものぢやないか』
乙『高姫に限らず、どこの婆アでも中々意地の悪いものだよ。それだから老婆心と云うて人が厭がるのだ。婆アに碌な奴ア一人もありやしない。俺んとこも女房が来てから、今迄大切にしてくれた内の母者人も俄に心機一転して、一人息子の俺に対してさへ、何とか彼とか云つて強く当るのだものなア。嫁と名がつきや吾子も憎いとか云つて婆アのつむじ曲りは、如何にも斯うにも仕方がないものだ。余り内の婆アが嫁につらく当つて苛め散らすものだから、俺も見るに見かねて……婆さま、まだ年の若い嫁だから、経験がないのは無理はない。これからボツボツと教へ込んで、家風に合ふ様に、婆アさまのお気に入るやうにさすから、暫く女房のする事は、うるさくても目をつぶつてゐて下さい……と頼み込んだ所、婆アさまの怒るの怒らないのつて、忽ち目を縦にして了ひ……お前は今迄私に随分孝行にして呉れたが、あのお亀が来てから、俄に了見が悪くなり、親不孝になりよつた。これと云ふのも、決してお前が悪いのぢやない。あのお亀奴が此年老を邪魔者扱ひにして、早くあの婆アが死んでくれれば良いがと毎朝神様に祈願をこめて居やがる。私の血統にはそんな不孝な子は生れる気遣ひはない、鶴公は性来がおとなしい孝行者だ。兎も角女房が悪いのだ……などと、勝手な理屈を云つて、俺も実は困つて居るのだ。婆アになるとなぜあの様に、奴根性が悪くなるのかなア』
甲『其位な無理云ふ婆は別に珍しい事はないワ。村中九分通まで其式の婆ばかりだ。併し婆は家の宝だから先づ尊敬を払はねばなるまい、が、俺の云ふ高姫婆と云ふ奴ア、又特別製の代物でそんなヘドロイ婆さまぢやないワ。八岐の大蛇か金毛九尾か、モールバンドかと云ふ様なエグイ婆アだと云ふ事だよ。何でも金剛不壊の如意宝珠とか、其外いろいろの立派な玉を呑んだり吐いたりする、鵜の如うな婆アださうぢや。其奴が貴様、高砂島まではるばるやつて来よつて時雨の森のモールバンドに出会し、其奴と角力とつて、彼奴の尻の剣を持つて帰り、自転倒島とかで威張り散らさうと云ふ途方途轍もない悪垂婆アの鬼婆だからなア』
鶴公『オイ松公、世の中は広い様でも狭いものだぞ。そんなこと言ふとると、其御本人が若しや此船にでも乗つて居らうものなら、サツパリ始末に終へぬぞ。チト気をつけぬかい』
松公『何れ此船には人間計りが乗つて居るのだから、婆だつて、一人や二人は居るだらう。高姫に能う似た面した奴も俺の近所に居る様な気がするのだ。それだから高姫類似者の霊が俺に憑りよつて、高姫の事を思はせ、已むを得ず、話さなければならなくなつたのだ。言依別の神さまも、良い加減に意茶つかさずに、其玉を高姫に呑ましてやると、根性が直るのだけれどなア。虎でも狼でも腹がふくれて居れば、メツタに人間にかぶりつくものぢやない。人を見たら直にカブリついて、ワンワン吐す痩犬でも腹さへふくらしてやれば、すぐに尾を振つておとなしくなる様なもので、高姫だつて、金剛不壊の如意宝珠を腹に詰め込んでおきさへすりや、おとなしうなつて、言依別さまとやらを、夜叉の様に、こんな所まで追ひかけて来やしようまいになア』
鶴公『まるで人間を四つ足に譬へとるぢやないか。高姫が聞いたら、人を馬鹿にすると云うて怒るだらうよ』
松公『ナーニ、高姫だつて、四つ足のサツクだ。宣伝使とか云ふ雅号を持つてるだけで、何か変つた奴の様に思へるだけだ。宣伝服を脱がし赤裸にして見よ。俺んとこのお竹よりも年が老つとるだけ値打がなくて、おまけに見つともない。尊敬の念はチツトも起りやしないよ。男でも女でも赤裸にして見なくちや、本当の価値は分るものぢやない。大将だとか頭だとか偉相に言つて、立派な風呂敷を被つて居るから、大将らしう見えたり、頭らしう見えるのだが、裸にすりや俺たちと別にどこも変つたところはありやアしない。どうぞ赤裸な人間ばかり住んで居る、誠一つの世の中が来て欲しいものだなア』
鶴公『鷹依姫とか云ふ婆アも、アリナの滝で甘い事云つて、沢山の玉を集め、終局の果てにや、ヒルの国のテーナの里から納まつた黄金の玉をチヨロまかし、夜裏の間に同類四人が、随徳寺をきめこみ、荒野ケ原で神さまに散々に膏を絞られ、とうとう改心とか安心とかしよつて、アマゾン河の畔で兎の王になつたとか云ふ噂があるが、貴様聞いて居るか』
松公『ソラ聞いて居る。何程大きうても、牛の尻尾になるよりも、鶏の頭になる方が人間としての理想だから、鷹依姫は余程偉い奴だと、俺は何時も感心して居るのだ。あの婆アも、ヤツパリ自転倒島から高姫の無理難題に依つて逃げて来たと云ふ話だ。本当に高姫と云ふ奴は、他人が聞いても、向つ腹の立つ悪垂婆アだなア』
鶴公『オイ余り大きな声で言ふない。お前の後に居る二人の婆アが、妙な顔して、ベソをかきかけて居るぢやないか』
 斯かる所へ、テーリスタンはスタスタとやつて来て、
『松公、鶴公とやら、随分婆論がはづんで居りますな』
松公『オー、はづんで居る。随分威張り散らす高姫の噂を摘発して罵詈ついて居るのだ。そこに居る婆々ンツは、昨年此船で見た高姫にどつか似たやうな気がするが、併しあんな白い顔ぢやなかつた。お前は一体其高姫に関係のある代物かなア』
テーリスタン『関係があるでもなし、ないでもなし、お前達が妙な話を面白さうにやつてるから、俺も一つ聞かして貰ひたいと思つて、チツト耳が遠いものだから、近う寄せて貰うたのだ』
鶴公『マア一杯やれ、酒もなしに此長の道中、勤まりつこはない』
と瓢をさし出す。
テーリスタン『ソリヤ有難う。併し折角だが、私は下戸だから一滴もいかないのだ』
鶴公『ナヽ何だ、ここは下戸共の来る所ぢやない。折角の興味が醒めて了ふワイ』
テーリスタン『ナイスの話なれば、酒の味も甘からうが、婆ア話では根つから酒も甘くはありますまいなア』
松公『甘くないのは承知だが、一遍高姫オツトドツコイ、そこらの婆アに、聞けよがしに云うておかねばならぬ事があるからなア』
鶴公『そんな事、誰から頼まれたのだい』
松公『松若彦、オツトドツコイ、此松さまが若い時から、婆アが嫌ひでなア、そこへ婆アの海へおちたのを、去年此船で見たものだから、今日は又其時の光景が記憶に浮んで来て、いつとはなしに婆さま話にバサンと深みへ落ち込んで了つたのだ。モウ斯んなババイ話はこれ限りやめにしようかい』
テーリスタン『コレ松公、お前はレコの間者ぢやなア』
松公『バカ言つて呉れない。まはし者なんて、お前の方が気をまはし者だ。人の褌で相撲とるよなズルイ事をする松公とは、チツト違ひますワイ……ナア鶴公、お前私の平常を知つとるぢやらう』
鶴公『貴様は服をつけて、ウヅの都の宣伝使だと威張つて居やがるが、酒を喰ふとサツパリ駄目だな。ヤツパリ元がウラル教だから、其癖が直らぬと見えるワイ』
松公『コリヤ、人の秘密をあばく奴があるか、宣り直せ』
鶴公『モシモシ高姫さまに能う似たお方、其他の御一行様、此松公は三五教の宣伝使で御座いますが、酒を喰ふとサツパリ地金が現はれ駄目だと云ふ意味の事を申上げましたが、松公の請求に依つて、更めて宣り直します、決して宣伝使ではないと思うて下さい。アハヽヽヽ』
テーリスタン『アハー、ヤツパリ、デモ宣伝使だな。一体どこへ行く積りだ。何と云つても最早かくすのは駄目だ、サア事実を言つて貰はう、私もウヅの都から此処迄やつて来た者でヤツパリ三五教の宣伝使の端くれだ』
松公『そんなら、白状しませう。実の所は松若彦さまに命令を受けて、お前さま一行の後をつけて来たのだ。決して悪い考へを持つて来たのぢやない。神素盞嗚大神様の御内命に依つて高姫さまや鷹依姫、竜国別様に、麻邇の宝珠の誠の御用がさせたいから、同じ船に乗つて高姫の慢心をせない様、いろいろとそれとはなしに、教訓をしてくれよとの事で、選まれて、多勢の中からやつて来たのだよ』
テーリスタン『さうか、それは大いに御苦労だ。併しそれ計りぢやあるまい。何か外に折入つて大切な使命を帯びてゐるのだらう。否秘密の鍵を握つて居るのだらう。それを今ここでソツと俺に言つてくれる訳には行かぬか』
松公『秘密はどこ迄も秘密だ。自転倒島に着く迄は、これ計りは言ふ事は出来ない。併し今之を言ふと、お前達の手柄が出来ないから、後の楽みに除けておかう』
テーリスタン『秘密とあれば、どこ迄も追求する訳にも行くまい。兎に角同じ神さまの道を歩む宣伝使だから、互に気をつけあうて、仲良くして行かうぢやないか』
松公『お前と俺とは仲良うしよう。また鷹依姫、竜国別の宣伝使が、若しや此船に居られたら、これは仲良うして貰ひたいものだ。併し乍ら高姫婆さまだけは、マア一寸暫らく御免蒙りたいなア』
テーリスタン『オイ、大きな声で言ふな。そこに本当の高姫さまが目を塞いで居眠つたやうな顔して聞いて御座るぞ』
と耳に口あて、小声にささやく。船は順風に帆を孕み、勢よく海上を辷り行く。
(大正一一・八・二八 旧七・六 松村真澄録)
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