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文献名1霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻
文献名2第1篇 小北の特使よみ(新仮名遣い)こぎたのとくし
文献名3第4章 霊の淫念〔1194〕よみ(新仮名遣い)みたまのいんねん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-02-22 17:22:21
あらすじ蠑螈別は数多の神が自分の体に出入りするので、神様にお神酒を祀るのだと言って、朝から晩まで酒盛りをしていた。お寅に酌をさせながら高姫を思ったり、奥の間に居る松姫をお酌に呼ばせようとしたりして、お寅と喧嘩になってしまう。お寅は嫉妬のあまり、松彦を受け付けに待たせていることも忘れて蠑螈別を押さえつけ、徳利や盃はめちゃめちゃに砕けた。魔我彦がやってきてお寅をたしなめるが、お寅は蠑螈別に思われてウラナイ教に入ってやったのに、その恩も忘れてほかの女に色目を使うと怒って、ますます蠑螈別を押さえつけ殴りつける。蠑螈別は助けてくれと叫ぶ。文助がやってきて、教祖が呼び戻した末代日の王天の神の身魂という松彦が、受け付けでしびれを切らしていると注進する。お寅は蠑螈別を離し、捨て台詞を残して受付に帰って行く。魔我彦はこんな醜態を松彦たちに見られてはたいへんと蠑螈別を奥へ引っ張って行って寝かせてしまった。お寅は松彦一行を導き、この場の荒れた様子を猫のせいにして魔我彦に片付けさせた。お寅は、奥にいる松姫は上義姫の身魂であり、松彦と夫婦となって活動する因縁なのだという。松彦は迷惑な話だと居住まいを正している。万公は偽の神がかりをやって、自分は耕し大神だと自称する。奥からは蠑螈別が、お寅をからかったために大変な目にあった、高姫がなつかしいとうわごとを言っているのが聞こえてきた。お寅は病気の信者に悪霊がかかって、教祖の声色でひとをだますのだとごまかしている。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年12月11日(旧10月23日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年9月12日 愛善世界社版54頁 八幡書店版第8輯 272頁 修補版 校定版58頁 普及版23頁 初版 ページ備考
OBC rm4504
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本文の文字数7590
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本文  朝から晩まで酒盛の  蠑螈別の神司
 数多の神の出入に  酒を祀ると云ひ乍ら
 頬べた迄も赤くして  臭い息をば吹まくり
 侍者の鼻をばゆがませつ  腋臭のかほり紛々と
 あたりの空気を改悪し  天津祝詞の言霊を
 呂律もまはらぬ舌の根に  ころばせ乍ら朝の中
 ウラナイ教の神言を  汗をタラタラ絞りつつ
 唱へて又もや神様に  うましき酒を献り
 づぶ六サンになつた上  真昼が来れば神前に
 足許怪しく進みより  天にまします吾父よ
 御国を来らせ玉へかし  天になります其如く
 地にも天国建てさせよ  アーメン、ソーメン、トコロテン
 ウドンに蕎麦に焼芋の  肴をドツサリ前に据ゑ
 曲津の神の御光来  いと叮嚀に歓迎し
 絶対的に博愛の  趣旨を貫徹させ乍ら
 夕べになれば正宗の  酒にはあらぬ肉の宮
 蠑螈別は数珠をもみ  南無阿弥陀仏南無阿弥陀
 般若心経波羅蜜経  節面白く唱へ上げ
 三教合同の御本尊  床次さまの後をつぎ
 天晴れ教主と成りすまし  酒の機嫌でドラ声を
 張上げ唸るお寅さま  小皺のよつた手を出して
 燗徳利をひん握り  朝顔型の盃を
 前につき出し目を細うし  お酒の功徳も大広木
 正宗さまよコレちよいと  お過ごしあれと差出せば
 酒のタンクの正宗は  御機嫌斜ならずして
 お寅よお前は偉い奴  年はとつても姥桜
 まだどこやらに花の香が  プンプン残つて居るやうだ
 お前の優しい其目許  オツトヽヽヽヽヽこぼれます
 あまり勢が強い故  情が余つて迸り
 一張羅のお小袖が  サツパリわやになりました
 さは去り乍ら之も亦  正宗さまの御酒に
 よごされたりと見直せば  却て私は有難い
 可愛いお方が好き好む  霊の籠つた露ぢやもの
 如何して不足に思ひませう  一献あがれと徳利を
 又もや前に突出せば  正宗さまは悦に入り
 あゝ世の中に酒と云ふ  奴程可愛いものはない
 お酒が俺の生命だ  酒さへあらば如何様な
 ナイスも嬶も要るものか  お寅のさした盃は
 高姫さまの口元に  どことはなしによく似とる
 此盃を唇に  あててキツスをする時は
 何ともいへぬ味がする  あゝ有難い有難い
 これ高姫よ高姫よ  大けな口を開け乍ら
 ここに居ますと一言の  なぜ言問ひをしてくれぬ
 口ばつかりがあつたとて  肝腎要の肉の宮
 お目にかからな気がゆかぬ  ホンに思へば情ない
 夢の浮世といふことは  こんなことをば言ふのだろ
 夢の蠑螈別さまと  播陽さまが言ひよつた
 コレコレ丑寅婆アさまよ  お前ぢや根つから気がゆかぬ
 大奥に居る上義姫  肉の宮をば呼んで来て
 酒の相手をさしてくれ  何とはなしに淋しうて
 そこらが冷たくなつて来た  そも人間といふ奴は
 異性がなくては面白く  可笑しう此世が渡れない
 サアサア早う上義姫  呼んでお出でとタダこねる
 丑寅婆さまはキツとなり  口角泡をとばしつつ
 団栗眼をむきいだし  蠑螈別の旦那さま
 私の前でそんな事  どこを押へたら言へますか
 過ぎし逢瀬の睦言を  最早お忘れなさつたか
 ホンに薄情なお前さま  私は今は年老つて
 皺苦茶婆アになつたれど  浮木の村の侠客で
 丑寅さまと仇名をば  取つたる女侠客だ
 バカになさるも程がある  何程神が沢山に
 お出入りなさるか知らね共  さうクレクレと猫の目の
 お変り易い恋衣  破つて貰つちやたまらない
 私も了見ある程に  覚えてゐろよと言ひ乍ら
 松彦さまを受付に  待たしたことを打忘れ
 蠑螈別の胸倉を  力に任せてグツと取り
 コリヤコリヤ正宗大広木  蠑螈別よバカにすな
 お寅の腕には骨がある  モウ此儘ですまさぬぞ
 どうぢやどうぢやと胸板を  力に任してもみつぶす
 蠑螈別は泡を吹き  顔を蒼青にサツと変へ
 アイタタタツタ待つてくれ  どうやら息が切れさうだ
 もう是からはスツパリと  松姫さまの上義姫
 肉の宮をば思ひ切り  お前を大事にする程に
 放せよ放せ胸倉を  アイタタタツタ ウンウンウン
 苦しいわいの、コラヤお寅  許してくれよと手を合はし
 剛情我慢の正宗も  命惜さに詫入れば
 呆れてこける燗徳利  盃までがメチヤメチヤに
 砕けて笑ふ面白さ  ガチヤン ガチヤンと拍子取り
 土瓶は躍る徳利舞ふ  朝顔型の盃は
 落花微塵となりはてて  姿小さく数多く
 変化したるぞ可笑しけれ  お寅は尚も承知せず
 コリヤコリヤ正宗大広木  口先ばかりでツベコベと
 ゴマかしよるか、そんな事  聞くよな婆ぢやない程に
 以後のみせしめ今一つ  あの世この世の境まで
 やつてやらねばおかないと  鬼の蕨をふり立てて
 悋気の勢凄じく  ポカンポカンと打たたく
 目を白黒とさせ乍ら  アイタタ タツタ コリヤ許せ
 金輪奈落天が地と  なる世が来ても正宗は
 決してお前を捨てはせぬ  疑はらして其手をば
 早く放してくれぬかい  折角呑んだ酒迄が
 早遠国へ出奔し  ゾツと身に沁む秋の風
 冬の薄衣ブルブルと  身体一面慄ひ出した
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ
 涙と共に手を合せ  願へばお寅はつけ上り
 今日はどしても許しやせぬ  松姫さまに涎くり
 怪体な細目をむきやがつて  私を盲目にしたぢやないか
 今日はドツサリ身のあぶら  絞つてやらねば虫がいえぬ
 たかが男の一人位  殺した所で何惜い
 観念せよと言ひ乍ら  怒りの面色凄じく
 何時果つべしとも見えざりし  所へスタスタやつて来る
 魔我彦さまの義理天上  日の出神の肉宮が
 見るより忽ち仰天し  アツとばかりに尻餅を
 ついたる様の可笑しさよ  魔我彦漸く口をあけ
 コリヤコリヤお寅婆アさまよ  正宗さまの肉宮を
 なぜ其様に失礼な  無体なことを致すのか
 痩てもこけてもウラナイの  神の教の教祖様
 神の出入の生宮を  打擲するとは何の事
 覿面に罰が当るぞや  早く其手を放さんせ
 言へばお寅は目をすえて  コリヤコリヤ魔我彦義理天上
 訳も知らずにツベコベと  仲裁だてが気にくはぬ
 唐変木のお前さまに  此いきさつが分らうか
 モウ斯くなれば何もかも  一切曝露して了ふ
 実の所は此お寅  正宗さまに思はれて
 夜は暖き敷蒲団  恩も知らずに此色魔
 人もあらうに神様の  御用を遊ばす松姫に
 秋波を送り二世三世  百生迄も夫婦ぞと
 約束したる此わしを  邪魔者扱にさらす故
 お寅の顔が立たないと  今折檻をするとこぢや
 子供の出て来る幕でない  グヅグヅしてると飛ばしづく
 どこへかかるか知れないぞ  お前の足元明い内
 どこなと勝手に逃げなされ  サア是からが荒料理
 腹わた迄もゑぐり出し  大洗濯をしてやらな
 中々改心致すまい  ここらが百尋胃袋と
 無性矢鱈にひつつかみ  鷲のやうなる爪たてて
 引かきむしるぞ恐ろしき  蠑螈別は顔しかめ
 半死半生の為体  アイタタ タツタ ウンウンウン
 苦しい苦しい魔我彦よ  どうぞ助けてくれぬかい
 アイタタ タツタ アイタタタ  お寅といふ奴アこれ程に
 悋気の強い女だと  思はなかつたあゝ苦しい
 助けてくれえと声限り  呼ばはり居たる折もあれ
 目かいの見えぬ文助が  コレコレ申し教祖さま
 あなたがお呼びなさつたる  末代日の王天の神
 生宮さまが受付に  しびれ切らして待つて厶る
 早くお出会なされませ  何だか知らぬがガヤガヤと
 いと騒がしい音がする  痛い痛いと仰有るが
 頭痛がするのか但し又  お肩がこるのか知らね共
 余り人を待たしては  御無礼になるかも知れませぬ
 目かいの見えぬ文助は  此場の様子を露知らず
 平気な事を言うてゐる  お寅はハツと気がついて
 オウオウさうぢやオウさうぢや  末代日の王天の神
 此門口に待つて厶る  コリヤコリヤ正宗大広木
 末代様のお出で故  今日は許しておく程に
 モウこれからは馬鹿なこと  したり言うたり致したら
 お前の首はない程に  覚悟はよいかと云ひ乍ら
 パツと放せば正宗は  ハツと一息鼻汁をかみ
 涙を拭ふ可笑しさよ  お寅は尻目にかけ乍ら
 素知らぬ顔をよそほひつ  襟をば直しソロソロと
 受付さして出でて行く。
 お寅婆アさまの受付へ出た後で、魔我彦は松彦にこんな所を見られては大変だと思ひ、蠑螈別の手を引いて奥の一間へ寝かせて了つた。蠑螈別は夢現になつて、訳の分らぬ事を呶鳴つてゐる。其間にお寅は松彦一行を叮嚀に導き、奥の間へ伴れて来た。
お寅『あゝあ、油断のならぬ悪い猫奴が徳利をこかす、盃をふみわる、なんのこつちやいな、エーエ気のつかぬ、魔我彦は何しとるのぢやいな。其間に座敷を片付けてくれるかと思ひ、ワザと暇を入れて居つたのに……私がしたのだないから知らぬ……といふ様な他人行儀の魔我彦の仕方、エーエ仕方のないものだ』
と小声で呟いてゐる。
松彦『お寅さま、大変大きな猫がゐると見えますなア。盃を踏みわるなんて、随分立派な物でせう』
 魔我彦は次の間からヌツと顔を出した。お寅は目に角を立て、
お寅『コレ、天上さま、気のつかぬ方ぢやなア。これ程猫があばれてるのに、なぜ片付けないのだい。お客さまがお出でになつたのに、みつともないぢやないか』
魔我『ハイ実の所は牡猫と牝猫が二疋やつて来やがつて、噛み合ひをやつたのですよ。牡の方は酒の好きな猫で、ヘベレケになり、一方はドテライ牝猫で而も寅猫でした。滅多矢鱈に咬合ふものだから、火箸でなぐらうと思うたトタンに、猫はなぐれず盃をなぐつて、此通りメチヤメチヤにして了うたのですよ』
お寅『エーエ、何をさしても気の利かぬ方だな、サア、早く片付けなさい、人様にザマが悪いぢやないかい』
 魔我彦は苦笑ひし乍ら、
魔我『ザマの悪い事は誰がしたのだ。ヘン馬鹿らしい』
と口の中で呟き乍ら、不精無精に座敷を片づける。松彦一党は居間の入口に手持無沙汰な風をして立待ちをして居る。魔我彦はあわただしく一間の掃除をなし、火鉢、鉄瓶、徳利、膳などの置場所を直し、座蒲団を七枚布き終り、
魔我『サアえらうお待たせしました。末代日の王天の大神の生宮様、どうぞ正座にお直り下さいませ』
松彦『天の大神も随分落ちぶれて居りました』
と言ひ乍ら、差図する儘に正座に坐つた。
お寅『これはこれはよくマアお出で下さいました。上義姫様の肉の宮が大変にお待受で厶いますよ。神様だつて夫婦がなければ、誠の御神業は出来ませぬからなア』
松彦『吾々にはそんな粋事はありませぬ。お見かけ通りの木石漢ですからなア』
 お寅はツツと傍へ寄り、松彦の手の甲をソツと押へて細目をし乍ら、
お寅『ヘヽヽ、うまい事を仰有いますな。流石姫殺だ。恋の上手はやつれてかかるとか言ひましてな。本当に至れり尽せりだ。蠑螈別オツトドツコイ……大分に違ひますわい。此婆アだつて貴方の様な男らしい生神様だつたら、モウ二十年も若かつたら一苦労して見ますがなア。ホツホヽヽヽ』
 松彦は渋をかんだ様な面付で、
松彦『どうぞ揶揄はやめて下さい。吾々は大切な御用のある身体、其寸暇を伺つてあなたのお勧めに任せ参つたのですから、下らぬ話をなさるのならば、最早お暇を致します』
と箱さしたやうなスタイルでキチンとすわつてゐる。
お寅『これはしたり、誠に失礼なことを申上げました。併しねえ、さう仰有つても、ヤツパリ人間には裏表がありますからなア』
松彦『ハヽヽヽ』
魔我『末代日の王様の生宮様、よくマア御入来下さいました。神政成就の太柱様、どうぞあなたも身魂の因縁だから、他所へは行かずに、神政成就の暁迄、何卒ここに御逗留を願ひます』
松彦『それは聊か迷惑、半時ばかり御邪魔を致し、今度は是非共お暇を頂きませう』
魔我『何と仰有つても、身魂の因縁で引寄せられ遊ばしたのだから、そりや駄目でせう。マアゆつくりとして下さいませ』
松彦『ハイ有難う』
万公『モシ義理天上さま、此ブラリ彦は何時帰つたら宜しいかな』
魔我『どうぞ貴方の御随意になさつて下さいませ。御都合が悪ければ、今直に御帰りになりましても構ひませぬ』
万公『山竹姫の口から生れた生宮ぢやないが、マンマンマン ウマーと呆れざるを得ませぬわい。ヘン』
魔我『お前はウラナイ教を研究しましたか。ようそんな細かいことまで御存じですな』
万公『ハイ此中でウラナイ教通と云つたら、マア私位な者でせう。私はお寅さまの内の入婿でしたからなア。何か因縁があるので、神様が知らして下さいますわ。山竹姫さまは馬が出来たので、ビツクリして今度目に又、天の大神様にお祈り遊ばし、猪を生まれたでせう。それから又次に口から玉を生み出し、其玉がヘグれて孔雀が生れたでせうがなア。其位なことはチヤーンと此万公は知つてゐるのですからなア』
魔我『成程コリヤ感心だ』
万公『私の随意にこれから御暇を致しませうか』
お寅『コレコレ万さま、お前、何時の間にそんなおかげを頂いたのだい。それを聞くからは、帰のうといつたとて帰なしはせぬぞや。それではヤツパリお前の霊はブラリ彦ではなかつた。耕し大神の霊かも知れぬぞえ。なア魔我彦さま、どうも耕し大神の様ですなア』
魔我『メツタにタガヤ……シませぬぢやらうかな。私や疑やしませぬけれどなア。耕し大神にしてはチツと軽いやうな気がしますがなア』
 万公は両手を組み、目を閉ぎ『ウン』と飛上り、
万公『コリヤ、魔我彦、其方は耕し大神の霊を何と心得て居る、そんなことで義理天上日出神の生宮と言へるかア。三千世界の事なら、隅から隅迄、何もかも知つて知つて知りぬいた此方だぞウ』
魔我『ハイ恐れ入りました』
お寅『これはこれは万公、イヤイヤ耕し大神の生宮様、誠にすまぬことを致しました。コレコレお菊、教祖様がいつも言うて厶つただらう、お前の霊は地上姫だ、地上姫の夫は耕し大神の生宮と仰有つたぢやないか。サア早うこちらへ来て御挨拶を申上げないか』
と大きな声で呼ばはつた。お菊は驚いて此場に走り来り、
お菊『お母アさま、耕し大神の生宮さまて、どなた? 此お方ですか』
と松彦を指さす。万公は包みきれぬ嬉しさと可笑しさを無理に笑ふまいと気張つてゐる。成るべくコクメンな素知らぬ体を装うとしたが、どうしても堪へ切れなくなり、
万公『パーハツハヽヽヽ』
と吹出した。
お寅『マアマア耕し大神様の御機嫌のよいこと、ソラさうだろ、永らく地の底へ落ぶれて厶つたのだもの、ここで肉の宮と肉の宮の御対面を、天晴と現はれてなさつたのだから嘸御満足で厶いませう。コレお菊、耕し大神の肉の宮はあの万公さまだよ』
お菊『エーエ好かンたらしい、あたしイヤだわ。あんな黒い褌しとつた男、それお母アさま、にえ茶を呑ンでこけた時、あれ思ひ出すと、何ぼ耕し大神さまだつて、愛想がつきますワ』
五三『ウツフヽヽヽ』
 アク、タク、テク一度に『ワアハツハヽヽヽ』
アク『何とマア都合のよい教だなア。俺も今日からスツパリとウラナイ教へ入れて貰はうか知らぬてなア。サア何と言つたらよからうかな。アクビ直し彦でもつまらぬし……ウンさうだ、同じアのつく天若彦になつてやらう。ウンウンウン』
 ドスン……
『此方は悪にみせて善を働く天若彦であるぞよ』
お寅『オホヽヽヽ』
魔我『アハヽヽヽ』
お寅『おきやんせいなア。そんな受売をしたつて誰が買ふものか。よいかげんに冗談もなさるがよい。悪垂彦命奴が』
アク『あゝあ、たうとう尻尾を見られて了つた』
お寅『心得なされや、私の前だからよいが、よそへ行つて、そんな山子をなさると、ドテライ恥をかきますぞや』
五三『ウツフヽヽヽ、たうとう悪の企みの現はれ口だ。口は災の門とは能く云つたものだな、無茶苦茶に口をアクとアカンことになるのだ、のうテク、タク、俺達の面よごしだ』
アク『万公だつて、さうぢやないか、万公の言ふことが通用して、俺のいふことが通用せぬといふ理屈がどこにあるかい』
五三『アリヤ万が良いのだ。アハヽヽヽ』
松彦『肝腎の大広木正宗さまは何処にゐられますか。私は正宗様に会うてくれと仰有つたので参つたのですが、御本人が居られぬとすれば仕方がありませぬ。帰りませうかな』
お寅『ヤ、居られます。併し今御神懸の最中ですから、どうぞ暫く御待ち下さいませ。奥の間にお伺ひの最中で厶います』
松彦『私も何となく気がせきますから、そんなら私の方から伺ひませう』
とツツと立ち、行かうとする、お寅は酔ひつぶれた蠑螈別を見られては大変と、両手を拡げ、
お寅『マアマアマア、待つて下さい。今貴方に行かれては、一寸都合の悪いことが厶います』
五三『松彦さま、酒に酔うて厶るのですよ。受付へ聞えとつたでせう、此お寅さまと酒に酔ひ、イチヤ付喧嘩をして、胸倉をとられたり、頭をコツかれたり、助けてくれ……と叫んでゐられたでせう。盃を破つたのも猫ぢやありませぬよ、皆二人の意茶付喧嘩の産物です、シツカリせぬとゴマかされて了ひますで』
松彦『アハヽヽヽ、人さまの内のことは言ふものぢやない。沈黙しなさい』
と云ひ乍ら再び元の座に着いた。隣の間には蠑螈別が酒に酔ひつぶれ、うつつになつて囈語を言ひ出した。其声は次の間へ筒抜けに聞えて来る。
蠑螈『あゝあ、エライことになつたものだ。つひ酒の勢で南瓜みたやうなお寅婆アをなぶつたのが病み付で、こんな目に会はされたのだ。あゝあ之を思へば高姫は親切だ。あゝあ高姫は如何して居るだらうなア。高姫ー々々、会ひたいわいのう。ウニヤ ウニヤ ウニヤ ウーン』
 お寅の顔色は俄に変つて来た。
魔我『エヘヽヽヽお寅さま、お気のもめる事でせうなア』
お寅『アリヤ信者の病人があんなこと言つてるのだよ。ここへ時々気のふれた者が参つて来るから……厄介な事だ』
魔我『それでも教祖さまの声にソツクリぢやありませぬか』
お寅『サアそこが気違だ。悪神が憑つて教祖様の声色を使つてるのだ。そんなことが分らいで、仮令看板丈でも、副教祖が勤まりますか。すまないが此お寅は教祖様の……ウンではない……エヽ二世の○○だよ。お寅さまを差おいてヅケヅケと言ふものでない。スツ込んでゐなされや』
魔我『義理天上日出神もお寅さまにかかつては駄目ですわい』
 万公は長らく手を組んでゐたが、足はしびれ、手はだるくなつて堪え切れなくなり、ワザとにドスンと飛上り、空呆けた顔をし乍ら、
万公『あゝ、あゝ大変な夢を見て居つた。綺麗な別嬪さまと祝言の盃をしたと思へば……何だ夢だつたかいな。オヽそれそれ其お菊とソツクリの女だつた。何とマア妙なことがあるものだなア』
お寅『ナアニ、お菊と同じ美人と結婚をしたことが霊眼にうつつたのかな。オヽさうだろさうだろ、それで益々確実になつて来た。神様の仰有つたことは違はぬワイ……神様、有難う厶います、惟神霊幸倍坐世』
と蠑螈別の腹立を忘れてお菊の為に祈つてゐる。
(大正一一・一二・一一 旧一〇・二三 松村真澄録)
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