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文献名1霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻
文献名2第2篇 狐運怪会よみ(新仮名遣い)こうんかいかい
文献名3第9章 文明〔1219〕よみ(新仮名遣い)ぶんめい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-03-13 18:07:40
あらすじ文助は朝から晩まで白装束に白袴を着け、松に一本角の黒蛇、蕪、大根を書いていた。そこへお菊がやってきて、蠑螈別がお寅に三万両を渡したことを話した。そして不思議なことなので来て見てやってくれと頼む。お菊は文助を先導して教主館へと導いた。文助は奥の間にいるお寅に向かい、蠑螈別が三万両の大金を持って帰ってきたことへの祝を言った。お寅は身を正すと、文助に対して自分は今、けっこうなご神徳をいただいたと語りだした。そして蠑螈別が金を置くと牛のような古狐となって向こうの森に逃げてしまったという。この有様を見てお寅は今まで自分の胴欲が目を曇らせていたのだと悟ったという。蠑螈別は酒に身魂を腐らし、高姫を慕いお民という女に迷っている。それもすっかり判って執着心も晴れ、これからは魂を入れ替えて天地の祖神を祀りなおすと心情を明かした。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年12月15日(旧10月27日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年9月25日 愛善世界社版122頁 八幡書店版第8輯 403頁 修補版 校定版127頁 普及版50頁 初版 ページ備考
OBC rm4609
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本文の文字数3236
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本文  文助は朝から晩まで置物然として白装束に白袴を着け、相変らず松に一本角の黒蛇、蕪、大根を描いて居た。そこへお菊がソツとやつて来て、
『もし、文助さま、お前チヨツト此方へ来て下さらぬか。大変面白いもの見せてあげますよ』
文助『何程面白いものでも、俺に見せてやらうと云ふのは無理な註文だ。盲の芝居、聾の浄瑠璃聞と同じだから、まあ止めておかう』
お菊『何、お前さま、蕪や大根が書ける位なら見えぬ筈がない。見ようと思つたら屹度見えるだらう。本当に妙な事があるのよ。人に分らぬ中、ソツと来ておくれよ』
『さう受付役が席を立つて此処をあけておく訳にもゆかないから、又暇の時に見せて貰はう』
『そんな気の長い事を云つてゐたら駄目よ。今の中に来て見なくちやいけない。実の処は、蠑螈別さまが帰つて来たのよ。さうして三万両の金をお母さまにやつて居るのよ』
『何、三万円のお金をお母さまにあげられましたか。流石は蠑螈別さまだ。夜前夜ぬけをなさつたとかで随分上を下への大騒動、どうなることかと俺も心配してをつたが、あゝ有難い有難い、あの方が帰つて下さつたら小北山は大丈夫だ。神様有難う厶ります』
『一寸見に来て下さいな。どうも不思議で堪らないのよ』
『何、お金は人間の持つものだから三万円位持つて帰つたつて別に不思議はない。あの方だから人の物を泥棒なさる筈がない。それは神様からお情でお金を降らして下さつたのでせう。さうして其お金をお母さまは如何なさいました』
『直様懐へ捻込んで了つたのよ』
『そりや良い事をなさいました。あの方にお持たせして置くといけませぬから。神様有難う厶ります』
と又拝む。
お菊『何、そればつかしぢやないのよ。後から聞いて見れば、まだあと二十七万両、懐に持つて居ると云つてゐたよ』
文助『何、二十七万円、ハヽヽそりや大方聞き違ひだ。二十七銭だらう』
『阿呆らしい、二十七万円と二十七銭と取違へる様な私は馬鹿ぢやありませぬ。確に二十七万両、十分の一与らうと云つて三万両放り出したのだもの、さうしてまだお民さまに二十万両やつて来たと云つてゐましたよ。文助さま、早う来て下さいな。お民さまの処へ、これから行くなんて云つてゐますよ。私、それ聞いて気が気でないので、ソツと貴方を頼みに来たのよ。蠑螈別さまは貴方の云ふ事は聞いて呉れるけれども、お母さまの事は聞いてくれぬのだから』
『そりや大変だ。あんな人に、そんな大金を持たせておいたら、どんな事をするか知れやしない。人間が好いから直に人にとられて了ひ、神様の名を悪くするやうにしちや大変だから。それなら行きませう』
『文助さま、ソツと来て下さいや。あまり人に聞えちや都合が悪いかも知れぬから』
 受付係の文助は  思はぬ話を聞かされて
 何とはなしに勇み立ち  重たい尻をあげながら
 咫尺も見えぬ目を持つて  杖を力にトボトボと
 お菊の後に従ひて  蠑螈別の住居なる
 館をさして出でて行く  お菊は先に立ちながら
 『これこれもうし文助さま  此処が表の入口よ
 さあさあ私が手を曳いて  教祖のお居間へ参りませう』
 云へば文助首肯いて  一寸笑をば湛へつつ
 年の若いに似もやらず  何から何まで蕪から
 大根菜種の端までも  気のつく娘と褒めながら
 奥の一間へ進み入り
『これこれもうしお寅さま  目出度い事が出来ました
 蠑螈別の教祖さまは  御無事でお帰り遊ばして
 私も嬉しう厶ります  その上沢山のお金をば
 土産にもつてお帰りと  私は聞いて飛び上り
 大神様に御礼を  直様申上げました
 昨夜蠑螈別様が  駆落なさつたと聞いてから
 館の上下大騒動  数多の信者の信仰が
 ぐらつき出して私まで  頭を痛めて居りました
 其上尚も神様の  尊き恵みによりまして
 三十万両の金もつて  無事にお帰りなさるとは
 何に譬へむものもなき  歓喜の極みで厶ります
 これこれもうし教祖さま  私は文助受付の
 時間を盗んで御挨拶  致さにやならぬとお菊さまに
 お手をひかれて参りました  何卒結構なお話を
 私に聞かして下さんせ  真に嬉しい事ですよ
 鶴は千歳と舞ひ遊び  亀万歳と歌ひ舞ふ
 こんな目出度いお目出度い  事が如何して来たものか
 これもやつぱりユラリ彦  末代日の王天の神
 五六七成就の大御神  リントウビテン大神や
 日の出神の義理天上  大将軍や常世姫
 旭の豊栄昇り姫  其外尊き神様の
 御守護の徳で厶りませう  あゝ惟神々々
 何程嬉しいと云つたとて  口が塞がる筈がない
 蠑螈別さま、お寅さま  あまり私をじらさずに
 早くお話し下さんせ  気がせきます』と呼ばはれば
 お寅は呆れて倒れたる  身体ムツと引き起し
 火鉢の前に座蒲団を  キチンと敷いて行儀よく
 膝に両手をおきながら  『文助さまか、よくもまあ
 お目の悪いにトボトボと  お訪ねなさつて下さつた
 私は結構な御神徳  今日は初めて受けました
 天の岩戸が開けたる  やうな心地が致します
 何卒喜んで下さんせ  本当に目出度い吉日』と
 申せば文助勇み立ち  『そりやまあ結構な事でした
 蠑螈別の教祖さまは  大きな神徳頂いて
 三十万両を懐に  入れてお帰り遊ばして
 十分一の三万両  お前さまにスツパリ下さつた
 やうにお菊さまに聞きました  本当に目出度い事ですな
 私に直接頂いた  やうに嬉しう厶ります
 さうして蠑螈別さまは  お声が根つから聞えぬが
 疲れ果ててグツスリと  お寝みなさつて厶るのか
 それならそれで私も  お寝みなさる邪魔をしちや
 真に済まない事故に  これからお暇申します
 これこれもうしお寅さま  娘御寮のお菊さま
 これから御免蒙つて  書き残したる蕪の画
 スツカリ仕上げた其上で  お暇を頂き見えの番
 足を伸ばして今夜こそ  グツスリ寝さして貰ひませう
 何れもサラバ』と立上る  此時お寅は声をかけ
 『文助さまよ今私が  結構なお神徳を頂いた
 天の岩戸が開けたと  云つたは金の事でない
 百万両はまだ愚か  幾千万とも限りなき
 譬へ方なき神徳を  スツカリ受けた事ですよ
 蠑螈別が突然と  此場に帰り来りまし
 三万両の小判をば  ゾロリと私の目の前に
 並べて呉れたと思ふうち  豈図らむや蠑螈別
 忽ち姿を変更し  牛の様なる古狐
 クワイ クワイ クワイと泣きながら  向ふの谷の森林を
 目蒐けて姿をかくしました  あまり私は胴欲で
 汚い事のみ朝夕に  思つて居たのが罪となり
 清い尊い魂が  自然に曇つて居つたのか
 此有様を見るよりも  一度に開く蓮花
 サラリと開いた胸の暗  これ程嬉しい事はない
 蠑螈別の教祖さまは  お前も知つてゐる通り
 酒に身魂を腐らして  前後夢中に首をふり
 精神病者となつてゐる  あんな分らぬ男をば
 何程大切にしたとても  神のお道は何処までも
 拡まりさうな事はない  又あの人はお民と云ふ
 女に迷ひ三五の  お道に厶る高姫を
 慕うて朝晩胸痛め  鬱散ばらしに酒をのみ
 居るやうな人を私が  何程大切に思うても
 最早駄目だと知る上は  執着心も何もかも
 速河の瀬に流し棄て  今は嬉しき水晶の
 御空の如くになりました  喜び勇み神様に
 お礼を申して下さんせ  私もこれから魂を
 入れ替へ天地の祖神を  祀り直して神妙に
 一心不乱に仕へます  文助さまよ今迄の
 私の醜行見直して  愛想つかさず何処までも
 交際なされて下さんせ  今日更めて願ひます
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  もう此上は吾心
 決して決して変らない  天地の神よ百神よ
 初めて悟る吾々が  真の道の御光を
 いや永久に照らしつつ  此肉体は云ふも更
 此世を去つて神界へ  旅立ちする時吾魂を
 安きに救ひ給へかし  神は吾等の救ひ主
 心も身をも傾けて  偏に願ひ奉る
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
(大正一一・一二・一五 旧一〇・二七 北村隆光録)
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