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文献名1霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻
文献名2第3篇 天国巡覧よみ(新仮名遣い)てんごくじゅんらん
文献名3第14章 天開の花〔1247〕よみ(新仮名遣い)てんかいのはな
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-04-26 19:51:15
あらすじ治国別と竜公は一心不乱に油断と慢心の罪を謝し、一時も早くわが精霊に神格が充たされることを祈願していた。そこへ臭気紛々たる病人が膿汁をしたたらせながら二人の前にあらわれた。病人は岩石に躓いて苦悶し始めた。竜公は、天国にこのような汚れた者がいるはずはないと治国別に訴えて、この場を離れようとする。治国別は、目の前に苦しんでいる人を救うことこそ、自愛を捨てて善と愛の光明にひたることであり、地獄も天国となすと諭した。打ち倒れた病人は二人を認めると、宣伝使なら自分の膿を吸って苦しみを和らげろと命令した。治国別は言われるがままに病人を介抱し、いやがる竜公を諭した。病人はますます横柄になり、治国別に膿を吸い出すように命令した。竜公はこの様を見て憤慨し病人をなぐった。すると病人はたちまち容色端麗な女神と変わった。女神は治国別の神の愛を賞賛し、自ら天教山の木花姫と名乗った。そして先ほど言依別命として二人の前に現れたのは、国治立尊であることを明かした。木花姫は竜公の師匠を思う義を称しつつも、愛を徹底させるようにと諭した。木花姫は最下層の天国から中間の天国団体へ二人を案内しようと、二人ともに被面布を授けた。二人は木花姫の後を慕い、足に任せて東にさして一瀉千里の勢いで進んで行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月09日(旧11月23日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年10月6日 愛善世界社版203頁 八幡書店版第8輯 547頁 修補版 校定版212頁 普及版100頁 初版 ページ備考
OBC rm4714
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本文  治国別、竜公両人は一心不乱に油断と慢心の罪を謝し、一時も早く吾精霊に神格の充たされむ事を祈願しつつあつた。
 そこへ天国には居るべき筈もない臭気紛々たる弊衣を着し、二目とは見られぬ様な醜面を下げ、膿汁のボトボトと滴る体をしながら、三尺ばかりの百足虫の杖をつき二人の前に現はれ来り、忽ち岩石に躓き苦悶し初めた。竜公は驚いて、
『もし、先生、天国には決して斯様な穢いものは居らない筈です。こりや何時の間にか慢心して地獄へ逆転したのぢやありますまいか。此通り四方は暗雲に包まれ、一丁先は見えぬ様になり、得も云はれぬ陰鬱の気が襲うて来たぢやありませぬか』
『否々決して地獄ではあるまい。最下層の天国に相違ない。然しながら矢張り天国にも不幸な人があると見え、斯様な業病に罹り苦んでゐる方がゐると見える。何とかして救うてやらねばなるまいが、吾々が救ふと云ふのは之亦慢心だ。何うか神様の御神格を頂いて御用に使つて頂き度いものだ』
と神に合掌し初めた。竜公は袖を引いて小声になり、
『もし、先生、こんな穢い人間に触らうものなら、霊身が穢れて忽ち地獄の団体へ落転せねばなりますまい。決してお構ひ遊ばすな。大変で厶ります』
『いや、さうではない。天国は愛善の国だ。神は愛と信とを以て御神格と遊ばすのだ。吾々も神様の愛と信とを受けなくては生命を保つ事は出来ない。さうして神より頂いた此愛と信を洽く地上に分配せねばなるまい。地獄におつるのを恐れて現在目の前に苦んでゐる此憐れな人々を救はないと云ふのは、所謂自愛の心だ、自愛の心は天国にはない。仮令此場所が地獄のドン底であらうとも、自愛を捨て善と愛との光明にひたる事を得るならば、地獄は忽ち化して天国となるであらう』
『さう承はればさうかも知れませぬな。然し乍ら斯様な天国へ来て居りながら、あの様な穢い人間に触れて、折角磨きかけた精霊を穢す様な事があつては、多勢の人間を娑婆へ帰つて救ふ事が出来ますまい。只の一人を助けて精霊を穢すよりも、此場は見逃して多勢の為めに愛と信との光を輝かす方が、何程神界の為になるか知れませぬぜ。此処は一つ考へ物ですな』
『いや決してさうではない。目の前に提供された、いはば吾々の試験物だ。此憐れな人間を見逃して行過ぐる位ならば、到底吾々の愛は神の神格より来る真の愛ではない。矢張り自然界と同様に自愛だ、地獄の愛だ。斯様な偽善的愛は吾々の採るべき道ではない』
 斯く話す時しも、前に倒れた非人は治国別を打眺め、
『おい、そこな宣伝使、俺は今斯様に業病を煩ひ、剰つさへ岩に躓き、此通り足を挫き苦み悶えて居るのだ。早く来て抱き起して呉れないか』
 治国別は、
『ハイ、承知致しました』
と、ツと側に寄り体を抱き起さうとすれば、臭気紛々として鼻をつき、身体一面に蛆がわき、いやらしき種々雑多の虫共が体一面にウヨウヨと、肉体の腐つた部分から数限りもなくはみ出してゐる。治国別がかけた手には幾百とも限り知られぬ蛆がゾウゾウと伝うて、治国別の全身を瞬く間に包んで来る。竜公は之を見て、
『もし先生、何ぼ何でも、そんな腐つた人間を相手になさつちや、いけませぬよ。到底助かる見込はありませぬよ。それ御覧なさい、体一面蛆がわいてるぢやありませぬか』
 治国別は言葉静かに、
『何処の誰方様か知りませぬが、嘸御難儀で厶りませう。サア私の肩にお縋り下さい。何処迄なりとお宅迄送つて上げませう』
『うん、俺の云ふ事は何でも聞くだらうな』
『ハイ、如何なる事でも吾々の力の及ぶ限りは御用を承はりませう』
『先生、宜い加減に止めたら如何ですか。あんまり物好きぢやありませぬか。何程人を助けるが役だと云つても、二目と見られぬ体を抱起して貰ひながら、まるで主人が僕に対する様な言葉を用ゐ、馬鹿にして居やがつて……お礼の一言位云つた処で宜しからうに……其様な恩も義理も知らぬ位だから、此天国に来てもやつぱり苦んでゐるのですよ。神様の罰が当つてゐるものを、何程宣伝使だつて構はぬでもいいでせう。臭い臭い、エグイ香がして来た』
『こりや竜公、慢心を致すな。此方の足を擦れ』
『チヨツ、エー』
『おい竜公、俺の命令だ。此非人さまの云ふ通り、お足を揉まして貰へ』
『ぢやと申して、それが……』
『何が「ぢやと申して」だ。左様な不量見の奴は、只今限り師弟の縁を切る。俺はもうお前と何処へも一緒には行かない』
『エーエ、ぢやと申して、それが如何して……』
『こりや竜、俺の尻を嘗め。早く嘗めぬかい』
『エー、馬鹿にして居やがる。貴様等のアタ穢い尻を嘗める位なら、俺や死んだがましだ。アーン アーン アーン』
『表に善を標榜する偽善者奴、今に貴様も俺の様な病気にかかるが、それでも宜いか』
『そ……そんな業病にかかる様な……ワヽヽ悪い事はした事はないワイ。あんまり馬鹿にすない。俺の大切のお師匠さまを、僕か何ぞの様に使つて、二目と見られない体を介抱させ、尚其上に世話をさせやがつて……エー、もう先生、こんな奴はいい加減にしておきなさいませ』
『これも神様の御恵みだ。袖ふり合ふも他生の縁、かかる尊き天国に於て、かうしてお目にかかるのも何かの御神縁だらう。何程汚き人間様でも、神様の愛の神格に照らされてからは、少しも汚穢を感じない。実に有難く感じてゐる。お前も此方に会うたのを幸ひに、身の罪を償ふべく介抱をさして頂いたら如何だ』
『おい、治国別、俺の足の裏を一寸嘗めて呉れ。大分に膿が出て居る様だ。此膿を吸ひとらねば如何しても歩く事は出来ない』
『ハイ、有難う厶ります。御用さして頂きます』
と云ひながら、足の裏の膿をチウチウと吸ひかけた。竜公は堪りかね、
『無礼者』
と云ひながら、拳骨をかためて非人の頭をポカンと殴つた。拍子に醜穢見るに忍びなかつた非人の姿は、忽ち容色端麗なる妙齢の美人と変り、得も云はれぬ笑をたたへながら、
『治国別さま、貴方は本当に神の愛が徹底しましたよ。サア妾と天国の旅行を致しませう。竜公さまの様な無情漢は、此処に放つといてやりませうよ』
『私は、憐れな精神上の不具なる此竜公を直してやらず、捨てて行く事は出来ませぬ。竜公と共に天国の巡覧が出来ねば、最早仕方がありませぬ。彼と苦楽を共にする考へなれば、何卒貴女はお一人おいでなさいませ』
『成程、さうでなくては神の愛が徹底したとは云へない。治国別殿、天晴々々、妾は天教山の木花姫で厶るぞや』
 治国別は二足三足後へしざり、大地に手をついて一言も発し得ず、感謝の涙にくれてゐる。木花姫は言葉淑やかに、
『治国別さま、貴方はよくそこ迄善の道に徹底して下さいましたね。嘸大神様も御満足で厶りませう。最前言依別命と現はれ給うたのは、国治立尊様で厶りましたよ』
『ハイ、初めの間は智慧暗く証覚うとき治国別、全く言依別命様とのみ思ひ居りましたが、如何やら大神様の御化身なりし事をおぼろげに考へさして頂きまして、感謝の涙にくれて居りました処へ、貴方様の御試みに預り、願うてもなき御神徳を頂戴致しました。何卒々々、此竜公も私同様にお目をかけてやつて下さいませ』
『竜公さま、貴方も随分義の固い人ですな。もう少し愛が徹底すれば天国が立派に被面布をといて上れますよ。師匠を思ふ真意は実に感服致しました。其忠良なる志によつて、貴方の愛の欠点を補ふ事が出来ますから、益々魂を磨いて天国の巡覧を成さいませ』
 竜公は感涙に咽びながら、
『重々の御懇切なる御教訓、有難う厶ります。左様なれば、お供をさして頂きませう』
『ここは最下層の天国、これより中間の天国団体へ案内致しませう。中間天国の天人の証覚や智慧及び愛と信は、下層の天国に住む天人に比ぶれば、万倍の光明が備はつて居ります。それ故此天国より一万倍の愛の善と信の真、智慧証覚を備へなくては、仮令天国へ無理に上るとも、眼くらみ、頭痛甚だしく、力衰へ、殆ど自分の生死の程も分らない様になるものですよ。竜公さまは被面布を頂かれて、先づ之で第二天国の探険も出来ませうが、治国別様は其儘では到底参れますまい。妾が所持の被面布を上げませう』
と云ふより早く懐中より取出し、手早く治国別の頭部にかけ給うた。之より治国別、竜公は木花姫の後を慕ひ、足に任せて東を指して一瀉千里の勢ひで進み行くのであつた。
 あゝ惟神霊幸倍坐世。
(大正一二・一・九 旧一一・一一・二三 北村隆光録)
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