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文献名1霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻
文献名2第1篇 変現乱痴よみ(新仮名遣い)へんげんらんち
文献名3第5章 鞘当〔1259〕よみ(新仮名遣い)さやあて
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-05-18 09:10:54
あらすじランチ将軍が奥の居間に帰ってみると、清照姫と初稚姫は片彦将軍を囲んで笑い語らっている。ランチ将軍は嫉妬を抑えて、将軍が女にうつつを抜かすとは何事かと自分を棚に上げてたしなめた。しかしランチ将軍があらわれると、二人の女はどうしたことか急に片彦に冷たくなり、ランチ将軍にまとわりつきだした。片彦が何を言っても二人の女は邪険に答え、得意になったランチ将軍は、片彦に退室を命じた。ランチ将軍は二人の女をはべらせて雪見の宴を開こうと駕籠を呼んだ。アーク、タール、エキスらも呼ぼうとしたが、彼らは泥酔して雪に埋もれたため発見できなかった。そこで二人の副官(ガリヤ、ケース)と二人の美人だけ伴って雪をかきわけ、物見やぐらに到着した。片彦はお民をくどこうとしていたが、ランチ将軍が三五教の二人の美人を連れて物見やぐらに雪見の宴を張っていると聞くと、お民を伴って物見やぐらに進んで行った。
主な人物 舞台浮木の森のバラモン軍の陣営 口述日1923(大正12)年01月12日(旧11月26日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年10月25日 愛善世界社版63頁 八幡書店版第8輯 610頁 修補版 校定版65頁 普及版32頁 初版 ページ備考
OBC rm4805
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本文の文字数4534
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本文  ランチ将軍は慌しく奥の吾居間に帰つて見ると、清照姫、初稚姫及び片彦将軍がニコニコとして、火鉢を真中に三つ巴形となつて喋々喃々と笑ひ声を洩らして居る。ランチ将軍は之を見てやけて耐らず、忽ち一刀を引き抜き、片彦将軍をめがけて梨割にする所だが、遉二人の女にはしたない男と思はれてはとの考へから、腹立をグツと圧へ、態と素知らぬ顔して其場に進み入つた。されど其唇と云ひ手と云ひ足の先迄激しき震動を感じて居た。怒りの頂上に達した時は全身が激しく動くものである。片彦はランチ将軍の入り来りしを見て、眥を下げ、
『ヤア是は是は将軍殿、何処におはせられた。いやもう二人のナイスに手を引かれ、甘酒にもりつぶされ、いかい酩酊を致して厶る、御無礼の段は平にお赦し下さいませ』
『別に尖めも致さぬが、苟くも将軍の身をもつて、即ち三軍を指揮する尊き職権を有しながら、作法を弁へず、拙者の不在中に女に現をぬかし、何の態で厶る。些とおたしなみなさい』
『ヤアお説一応御尤も、拙者も部下に対して模範を示さねばならない重要の地位に立てるもの、女なんかに心を蕩かすやうな柔弱なものでは厶らぬ。併し此等両人、某に熱烈なる恋愛を注ぎ申すにより、無下に捨つるも男の情ならじと、迷惑ながら女に導かれ此処に参つた処で厶る。イヤ如何に固造のかた彦も、女の魔力には敵し得ず、骨も節もゆるみ、さつぱりガタ彦となつて了ひました。先程迄は此ナイス、貴方に熱烈なる愛を捧げて居たやうですが、もはや此通り、屋外に冷たき雪が降つて居りますれば、貴下に対する両人の恋情も冷やかになつたと見えますわい。どうかして此中の一人を貴方の御用をさせたいと思ひますが、どうしたものか、両人共首を左右に振り、ランチキ将軍のお世話にならうとも又お世話をしようとも申しませぬ、イヤもう此片彦もかたがたもつて迷惑でも何でも厶らぬ。アハヽヽヽ』
清照『モシ、ランチ将軍様、どこへ往つてゐやしたの、妾、どんなに探ねて居たか知れませぬよ』
 ランチは此声に生返つたやうな心持になり、顔の色まで勇ましく、頓に元気づき、
『ヤア清照姫殿、誠に済みませなんだ、実は軍務上の件につき調査すべき事があり、暫く席を外して居りました』
『将軍様、そりや嘘でせう。妾がイヤになつたものだから、何処かへ隠れて居やしやつたのでせう、妾残念ですわ、アンアンアン、オンオンオン』
『エヘヽヽヽ、オイ片彦殿、如何で厶る、可愛いもので厶らうがな』
『コレコレ清照姫殿、貴女は又変心をしましたか』
『ランチ将軍さまが、あの大きな目をむいて私に電波、イヤ電信を送つて下さつたから、どうしても返信(変心)をすべき義務があるぢやありませぬか、ホヽヽヽヽ』
『アヽどうも仕方がない。どうせ片彦が二人の美女を左右に侍らせ、ナイスを一人で独占して居ても仕方がない。清照姫が変心したのも天の配剤だらう、イヤ清照姫、拙者は寛大なる勇猛心を発揮して、ランチ将軍にお任せ申す。唯今限り片彦の事は思ひ切り、ランチ将軍に貞節を尽したがよからう』
『オホヽヽヽ、あの片彦さまの虫のよい事、自惚もよい加減にして置かんせいなア。思ひもかけぬものに思ひ切れとは、マア何と云ふ自惚者だらう。好かぬたらしい。男と云ふものは、ほんとに自惚の強いものだよ』
『ランチ殿、嘸御満足で厶らうのう、エーン、エーン、拙者は大に譲歩致して、年の若い初稚姫で満足致す、どうか拙者の雅量を認めて下さい』
『何なりと勝手に仰有い、両人共拙者の女で厶るぞ。ヘン馬鹿々々しい、拙者が黙言つて居るかと思つてよい気になり、図々しいにも程がある』
『仰せられなランチ殿、拙者が何う致したのでもない、女の方から秋波を送り、女に頼まれて約束致せし迄の事、其女を拙者が貴下にお任せしようと云ふのだから、吾々は感謝をこそ受くべけれ、そのやうな、榎で鼻をこすつたやうな御挨拶は承はりたくない、コレ初稚姫殿、こんな分らない将軍の所に居らうよりも、私の居間に参りませう、貴女は永久に愛します』
『エヽすかぬたらしい、私がいつ貴方を好きました。私は姉さまが好きな人が好きなのです、御免下さいませ』
『何だか外の陽気が変つたと思へば、初稚姫様の鼻息までが変つて来たわい、ハヽ、ウン、分つた、恥かしいのだな、人前を作つて居るのだな。ウンウンヨシヨシ可愛いものだな』
と口の奥で呟いて居る。初稚姫は鋭敏な耳に此声を聞き知り、
『モシ、片彦さま、「可愛いものだ」などと云うて下さいますな、妾、胸が悪くなりました』
『アハヽヽヽ、片彦殿、如何で厶る、色は年増が艮刺すと云ふ事を御存じかな。アハヽヽヽ』
『チヨツ、エーエイ』
『片彦殿、チヨツ、エーエイとは御無礼では厶らぬか、上官の命令だ、この場を退却めされ』
 片彦は鶴の一声、已むを得ず、
『ヘーエ』
と嫌さうな返事をしながら二人の女に心を残し、次の間に飛び出し、襖の外から上下の歯を喰ひ締めたまま唇をパツと開き、
『イーン』
と云ひながら、拳骨で二つ三つ空を打ち、
『チヨツ、上官の命令だなんて、チヨツ、馬鹿にして居る、併し仕方がない、俺も上燗で一杯やる事にしよう、お民でも相手にして』
と云ひながら、すごすごと帰り往く。
 ランチは片彦を室外に突き出し、二人の美人の中央に色男気取りで胡床をかき、目を細くしながら、
『これは清照姫殿、其方は此ランチの眼をよけて、いつの間にか片彦と以心伝心とやらをやつて居たのぢやないか』
『ハイ別に左様な事はありませぬ。併しながら貴方も好きですが、片彦さまの抱持さるる思想が気に入りましたから、それで私は片彦さまは何うでも宜敷いが、新しい思想だと思つて、其思想に惚れ込んで居ます。貴方が、私の思想と同じ思想をもつて下さらば、此位嬉しい事はありませぬ。実は貴方に対しては肉体美を愛し、片彦さまに対しては其思想を愛して居るのですよ』
『片彦の新思想とはどんな思想だ、俺だつて思想については、先繰り新しい書物をあさつて居るから、片彦には負けない積りだ、一体どんな事を云うて居るのだな』
『ハイ、片彦さまの思想はどうかと存じまして探つて見ました所、本当に惚れ惚れするやうな思想で厶いますよ。かいつまんで申せば、軍備不必要論者です、武備撤廃論者ですよ、そして平和な耽美生活を送りたいと云ふ、ほんとに新しい思想ですよ』
『片彦身軍籍にありながら左様な事を申したかな、それは中々もつて不都合千万……ぢやない、吾意を得たる、マヽヽヽ思想だ。ウン、さうして武術の事については、何う云うて居たな』
『武術家は臆病者だと云つて居られました。臆病者なるが故に世の中が恐ろしくなり、疑心暗鬼を生じ、敵なきに敵を作り、何人か自分を害するものはなきかと、心中戦々兢々として安らかならず、常に自己保護の迷夢に襲はれ、武術を練り、柔術などを稽古するのだと云うて居られました。ほんとに世の中に愛善の徳さへあれば、虎狼でも悦服して、決して其人に敵するものではありませぬ。況して人間に於てをやです、私はこの思想が大に気に入りました。心に邪悪分子を含んで居るものは、徒に人を怖がり人を恐るるものです。かかる人間が身を護るために剣術柔術を学ぶものです。地獄界に籍を有し、八衢に彷徨うて居るものが武術を志すものです、低脳児や殺人狂の徒が喜んで人命を奪ひ財産を奪ひ、或は人の国土を奪ひ或は人の子女を辱かしめ、悪逆無道の限を尽して英雄豪傑と誇り、其驕慢券とも云ふべき窘笑を、胸にブラブラ下げて居るのは、本当に時代後れだと片彦さまが仰有いましたよ』
『それだと云うて、世界に国家として存在する以上は軍備は必要だ。仮令ミロクの世となつても軍備の撤廃は出来ない、さう新思想にかぶれて仕舞つては駄目だ。一方に偏せず片寄らず、其中庸を往くのが最も安全の道だらうよ』
『姉さま、ランチ将軍さまのお言葉は、本当に間然する所ありませぬが、併しながら三五教の治国別さまとやらを、深い陥穽へ突つ込み遊ばしたと云ふ事をチラリと聞きましたが、それを聞くと、本当にゾツと致しますね』
『さう、さうなの、アヽいやらしい、何とランチさまも甚い事をなさいます、私それを聞いて俄にこの人がどことはなしに嫌になつて来ましたよ。矢張片彦さまがお優しくて、仰有る事が新しうて、胸の琴線に触れるやうですわ』
 ランチは慌てて、
『イヤイヤ決して私がしたのではない、片彦の計らひで致したのだ。彼奴は偽善者だから、其方達の前でそんな事を云うて居るのだ。彼奴は武断派の隊長、軍国主義の張本だ。併しながらあの治国別及び竜公と云ふ奴は、どうしても許す事の出来ない奴だ。これを許さうものなら、バラモン軍は根底より破壊せられなくてはならない、大黒主の大棟梁様に申訳ない、又竜公とやら、吾軍の秘書役を勤めながら敵に裏返つたのだから、陥穽に陥つて斃るのも自業自得だ、仮令愛する汝のためなればとて、是ばかりは赦す事は出来ない』
『妾この館に左様の人が九死一生の苦みをしてゐらしやるかと思へば、恐ろしくて仕方が厶いませぬ。どうか何処かへ雪見にでも連れて往つて下さいな』
『アハヽヽヽ、遉は女だな。気の弱い事を云ふものだ。併し其弱いのが女の特色だ、女の可愛い所なのだ。さらば、これより早速雪見の宴を催すため、入口の風景の佳き物見へ往つて、酒汲み交しながら楽しむ事と致さう』
『ハイ、早速の御承知、有難う厶ります。サア初稚姫さま、将軍の後について、少し遠うは厶いますが、物見櫓までお供を致しませう』
『この積雪に、女の足では行歩になやむだらう。幸ひ駕籠があるから、従卒に舁がしてやる』
『姉さま、さう願ひませうかな』
『此丈の雪の中、どうせ駕籠で送つて貰はねば、とても歩けませぬわ』
 ランチはポンポンと手を拍つた。次の間に控へて居た二人の副官は慌しく出で来り、
『将軍様、何か御用で厶いますか』
『ウン、今日は稀なる大雪だ。四方は一面の銀世界、雪見の宴を催すから、お前達も供をせい。そして駕籠を五六挺持つて来いと云うて呉れ』
 二人の副官は、
『ハイ』
と云つたきり早々に此場を立つて出でて往く。
 ランチは、アーク、タール、エキス、蠑螈別等の所在を従卒に命じ探さしめ、雪見に伴ひ往かむとしたが、折柄の積雪に埋もつて居たため発見する事が出来なかつた。此時お民は片彦将軍の居間に招かれて、いろいろと片彦の意味ありげな話に、膝をモヂモヂさせながら苦しさうに時を移して居た。ランチ将軍は四人の姿の見えざるに、どこか雪見でもする積りで郊外に往つたのだらうと思ひ、二人の副官と二人の美人を伴ひ、五人連れ駕籠に揺られながら物見櫓をさして進み往く。地上二尺許りの積雪に、駕籠舁の足音はザク、ザク、ザクと馬丁が押切りにて馬糧を切るやうな音をさせ、綺麗な雪道にスバル星を数多印しながら、漸くにして物見櫓に安着した。此処に炭火を拵へ、酒の燗をなし、雪見の酒宴を催す事となつた。
 一方片彦はランチ将軍が二人の女を伴ひ、物見櫓に雪見の宴を張つて居ると云ふ事を、従卒の内報によつて聞き知り、大方蠑螈別其他も同伴せしならむと、二挺の駕籠を命じ、お民と共に宙を飛んで物見櫓をさして進み往く。
(大正一二・一・一二 旧一一・一一・二六 加藤明子録)
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