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文献名1霊界物語 第28巻 海洋万 卯の巻
文献名2第1篇 高砂の島よみ(新仮名遣い)たかさごのしま
文献名3第3章 玉藻山〔803〕よみ(新仮名遣い)たまもやま
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-11-12 19:01:58
あらすじ真道彦命は、国治立大神の御代より台湾島に鎮まり、子孫はみな真道彦の名を名乗り、新高山の北方に居を定めていた。しかしアークス王は島に漂着したバラモン教に帰依したため、真道彦一派は、アークス王の権力が及ばない、新高山の南方に移って教勢を維持していた。真道彦は新高山の東南にある高原地・日月潭に居を構えた。サアルボース兄弟は、この地を征服しようと何度も兵を送っていた。あるとき、ホーロケースは三五教の巡礼に化けて聖地に入り込み、日月潭の玉藻山の聖地に押し寄せた。真道彦は、息子の日楯・月鉾とともに防戦に当たった。ホーロケースの勢いすさまじく、その剣は真道彦の胸を貫いたと見えた。真道彦は突き倒され、その体から白煙が上がり、女神の姿となって雲の彼方に姿を隠してしまった。真道彦の軍は敗れて散り散りとなり、玉藻山はホーロケースに占領されてしまった。日楯と月鉾は日月潭の竜の島にのがれ、島山の頂上の岩窟に身を隠した。二人は岩窟の奥へ進んで行くと、日月潭を見渡せる断崖に着いた。そこから見える玉藻山は、すでにホーロケースに占領されてしまっている。兄弟はもやはこれまでと、この断崖から大神に祈願を籠めて飛び降り、生きていたなら再びバラモン教を打ち負かすことができるだろうと言って、決行しようとした。すると傍らの木のかげから宣伝歌が聞こえてきた。宣伝歌の主は、言依別命と国依別であると名乗り、兄弟に玉藻山を取り戻す神宝を授けようと歌った。兄弟は夢かとばかり驚いて平身低頭したが、二人が面を上げると、不思議にも二人の宣伝使の姿はなかった。これより兄弟は勇気百倍し、再び玉藻山に向かって言霊戦を開始しようと、七日七夜の禊を修し、言霊の練習に全力を尽くした。マリヤス姫は、玉藻山の聖地に逃げていたが、ホーロケースの襲来により、捕われてしまった。ホーロケースは玉藻山を占領して我が物顔に振舞っていたが、マリヤス姫を幽閉し、自分の妻となるよう迫っていた。マリヤス姫がホーロケースの横恋慕に苦しんで述懐の歌を歌っていると、俄かに館内騒がしく、バラモン軍たちが慌しく逃げ出した。ホーロケースは慌ててやってくると、変事が突発したと言って、マリヤス姫を連れ出そうとした。そこへ琉球の玉の威徳によって五色の霊光を放射しながら、日楯・月鉾が入ってきた。ホーロケースは太刀打ちできず、数多の部下とともに逃げて行った。玉藻山の聖地は再び三五教に戻り、広大な神殿が造営された。日楯・月鉾の名声は近隣にとどろいた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月06日(旧06月14日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年8月10日 愛善世界社版37頁 八幡書店版第5輯 366頁 修補版 校定版38頁 普及版17頁 初版 ページ備考
OBC rm2803
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本文  真道彦命は国治立大神の時代より、此島に鎮まり、子孫皆真道彦の名を継いで、新高山の北方に、聖場を定め、三五の道を全島に拡充し、神国魂の根源を培ひつつあつた。然るにバラモン教の一派此島に漂着してより、花森彦命の子孫なるアークス王は、三五の教を棄ててバラモン教に帰順せしため、住民は上下の区別なく、残らずバラモンの教に帰順して了つた。されど新高山の以北にのみアークス王の権力も、バラモンの教権も行はれて居たのみで、新高山以南は少しも勢力が及ばなかつた。
 真道彦は遠く新高山を越えて、東南方に当る高原地日月潭に居を構へ、東南西の地を教化しつつありき。然るにアークス王の宰相たるサアルボース兄弟は、此地点をも占領し第二の王国を建てんと、時々兵を引連れ、玉藻山の聖地に向つて攻めよせた。されど竜世姫の永久に鎮まり玉ふ大湖水を南へ越ゆることは容易に出来なかつた。
 或時ホーロケースはバラモンの信徒を数多引連れ、三五教の巡礼に身をやつし、玉藻山の聖地に、雲霞の如く押寄せ、隙を覗つて真道彦命を生擒し、一挙に全島を占領せむと試みつつあつた。真道彦命はホーロケースの悪竦なる計画を前知し、数多の信徒を駆り集め、言霊戦を以て、之れに向ふこととなし、玉藻山の山頂に、祭壇を新に設けて、寄せ来る敵に向つて、言霊線を発射しつつあつた。され共、バラモン教のホーロケースは少しも屈せず、獅子奮迅の勢を以て各隠し持つたる兇器を振り翳し、鬨を作つて一挙に亡ぼさむと斬り込んで来た。
 真道彦の子に日楯、月鉾と云ふ二人の信神堅固なる屈強盛りの二児があつた。父真道彦はホーロケースに向つて、言霊を奏上するや、ホーロケースは怒つて、真道彦の胸板を長剣を以て突き刺し、此場に打殪し、凱歌を奏し、其勢天地も震ふ計りであつた。突刺されて其場に倒れた真道彦の身体より白烟忽ち濛々として立あがり、美はしき女神となつて、雲の彼方に姿を隠した。
 日楯、月鉾の兄弟は父真道彦の行方不明となりしを歎き、如何にもして、ホーロケースの一族を亡ぼし、父の仇を報じ、三五教の教を再び樹立せむと苦心の結果、湖中に泛べる竜の島に夜秘かに漕ぎつけ、祈願をこらして居た。此時既に玉藻山の聖地は、ホーロケースの占領する所となつて居た。真道彦の部下は四方に散乱して、其影さへも止めなかつた。
 竜の島は樹木鬱蒼として、湖水の中心に浮び、周囲殆ど一計りもある霊島であつた。二人は島山の頂上目蒐けて登り行く。此処に高大なる巨岩壁の如く立並び、中央に人の入れる計りの岩穴が開いて居た。兄弟は其岩窟に思はず足を向けた。炎熱焼くが如き夏の空に得も言はれぬ涼しき香ばしき風、坑内より頻りに吹き来る。二人は何となく此窟内を探険したき心持となつて、思はず知らず四五丁計り奥へ進んで行つた。
 俄に強烈なる光線何処よりかさし来たる。振かへり見れば、最早岩窟の終点と見えて、両方に円き天然の穴が穿たれ、そこより太陽の光線が直射してゐた。あたりを見れば、階段の如きもの自然にきざまれてゐる。日楯、月鉾の二人は、此階段を登り詰め、前方を遥かに見渡せば、紺碧の波を湛へた玉藻の湖水、小さき島影は彼方此方に浮み、白き翼を拡げたる数多の水鳥は前後左右に飛び交ふ様、実に美はしく、二人は此光景に見惚れて居た。遠く目を東南に注げば、玉藻山の聖地は以前の儘なれど、ホーロケースが襲来せしより、バラモン教の拠る所となり、何となく恨めしき心地せられて、稍今昔の念に沈み居たり。
日楯『オイ弟、斯の如き聖場を敵に蹂躙され、父上は行方不明とならせ玉ひ、吾々兄弟は身の置所なく、漸くにして此竜の島に逃げ来りしものの、未だ安心する所へは往かない。罷り違へばバラモン教の奴原、此島迄吾等が後を追跡し来るやも計られ難し、吾等兄弟は今此処に於て、三五教の大神に祈願をこらし、運を一時に決せば如何に。見下せば千丈の断崖絶壁、神に祈願をこめ、此青淵に飛び込み、生死の程を試し見む。万一吾等両人生命を取り止めなば、再び三五教は元の如く勢力も盛返し、バラモン教の一派を新高山の北方に追返し得む。月鉾、汝如何に思ふや』
と決心の色を顕はして話しかけた。
月鉾『兄上の仰せの如く、これより天地神明に祈願をこめ、此断崖より湖中に飛び込み、神慮を伺ひ見む』
と同意を表し、二人は天津祝詞を奏上し、此世の名残と天の数歌を数回繰返し唱へて居た。傍の密樹の蔭より、
『神が表に現はれて  善と悪とを立別る
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 只何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 身の過ちは宣り直せ  三五教の宣伝使
 言依別や国依別の  神の司は此処に在り
 国治立大神の  教を伝ふる真道彦
 脆くも敵に聖地を追はれ  玉藻の山を後にして
 雲を霞と逃げ去りぬ  後に残りし兄弟は
 力と頼む父には別れ  教の御子には見棄てられ
 寄辺渚の捨小船  泣く泣く聖地を立出でて
 ここに荒波竜の島  涙の雨に濡れ乍ら
 此岩窟に尋ね来て  玉藻の湖面を打眺め
 感慨無量の思ひ出に  今や生死を決せむと
 思ひ煩ふ憐れさよ  日楯、月鉾両人よ
 必ず心を悩ますな  琉と球との宝玉の
 御稜威を吾が身に負ひ来る  三五教の宣伝使
 汝等二人に玉藻山  元の昔に恢復し
 誠の道にバラモンの  敵を言向け和すてふ
 珍の神宝授けなむ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
と歌ひながら、此場に二人の宣伝使は現はれ来り、兄弟の前に直立して、軽く目礼した。
 兄弟は夢かと計り打驚き、平身低頭稍少時、何の応へもなく計り。やうやうにして両人面をあぐれば、こはそも如何に、二人の宣伝使の影は何処へ消え失せしか、山の尾の上を通ふ風の音颯々と響き亘るのみなり。
 これより二人の兄弟は、勇気日頃に百倍し、天の数歌を歌ひ乍ら、湖上に泛べる島々を残る隈なく駆巡り、二人の宣伝使の所在を尋ねたれ共、何れへ行きたりしか、其影さへも見ることは出来なかつた。されど二人は何となく勇気に充ち、再び玉藻山に向つて言霊戦を開始せむと、湖水に浮きつ沈みつ、七日七夜の御禊を修し、言霊の練習に全力を尽す事となつた。
    ○
 セールス姫の侍女として永く仕へ居たるアークス王の落胤なるマリヤス姫は、サアルボースの館を脱け出で、夜を日に次で、新高山を東南に越え、玉藻の湖辺を巡つて、玉藻山の聖地に救はれて居た。然るに、此度のホーロケースの襲来に依りて、真道彦命は行方不明となり、数多の部下は四方に散乱し、日楯、月鉾の二人はこれ亦、行方不明となり、進退谷まる折しも、ホーロケースに捕へられ、散々な責苦に会ひ、遂には一室に厳重なる監視人をつけ、幽閉されにける。
 ホーロケースは兄のサアルボースと相応じて、此全島の主権を握らむと、意気昇天の勢にて、玉藻山にバラモン教の聖場を開き、吾物顔に振るまつて居た。さうしてマリヤス姫を幽閉し、時々其居間に到りて、強談判を開始することもあつた。
 話し変つて、マリヤス姫は、悲歎の涙に暮れ乍ら、独ごちつつ、心の憂さを歌ひ居たり。
『水の流れと人の行末  変れば変る世の中よ
 遠津御祖の其源を尋ぬれば  高天原のエルサレム
 花森彦のエンゼルと  仕へ玉ひし吾御祖
 美しの命の御裔なる  アークス王が子と生れ
 浮世を忍ぶ落胤の  吾は果敢なき身の因果
 高砂島を所知食す  カールス王の妹と生れ
 心汚なきサアルボースが娘  セールス姫の侍女となり
 醜の企みを探らむと  父の御言を畏みて
 心を尽す折柄に  セールス姫のあぢきなき
 其振舞に追ひ立てられ  今は果敢なき独身の
 行方も知らぬ旅枕  神の情に助けられ
 真道彦神の開きます  三五教の霊場と
 音に聞えし玉藻山  これの館に救はれて
 楽しき月日を送る折  月に村雲、花には嵐
 浮世の風に煽られて  今日は悲しき幽閉の身
 あゝ何とせむ只泣く涙  かはき果てたる夕まぐれ
 恋しと思ふ月鉾の  神は何れにましますか
 親子兄弟諸共に  夜半の嵐に散らされて
 行方も分かぬ旅の空  仮令何処にますとても
 マリヤス姫の真心は  山野海河幾千
 隔つるとても何のその  尋ねて行かむ君が側
 とは言ひ乍ら情無や  心汚なき醜神の
 ホーロケースに捉へられ  暗き一間に幽閉されて
 面白からぬ月日を送る吾身の上  朝に夕に涙の袖を絞りつつ
 恋しき人の行方を尋ね  夢になりとも吾恋ふる
 月鉾神に会はせかしと  木花姫の御前に
 祈りし甲斐もあら悲しや  ホーロケースの横恋慕
 牢獄の暗き吾居間に  夜な夜な来りてかき口説く
 其言の葉の厭らしさ  消え入りたくは思へ共
 神ならぬ身の如何にせむ  逃るる由もなくばかり
 恋しき人は来まさずに  蝮の如く忌み嫌ふ
 醜の曲霊の執念深く  朝な夕なに附け狙ふ
 バラモン教の神司  吾身に翼あるならば
 牢獄の窓を飛び越えて  恋しき主が御許に
 天翔り行かむものを  あゝもどかしや苦しや』と
 小声になつて涙と共に掻口説く。
    ○
 折しもあれや館内俄に騒々しく  数多の人々右往左往に逃げ惑ふ
 其様子の一方ならざるに  マリヤス姫は『真道彦命
 味方を数多引連れて  弔戦に向ひ玉ひしか
 但は日楯、月鉾の二人  数多の神軍を引率して
 茲に現はれ玉ひしか  何とはなしに吾が心
 勇ましくなりぬ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
と思はず合掌する。其処へ密室の戸を荒らかに押開けて、形相凄まじく入り来れるホーロケースは、
『ヤア、マリヤス姫、変事突発致した。サア吾れに続いて来れ』
と無理に引つ抱へ、此場を逃げ出さむとする其周章加減、マリヤス姫はキツとなり、
『仮りにもバラモン教の神司、数多の部下を引率し玉ふ御身を以て、其周章方は何事ぞ。先づ先づ鎮まり玉へ。様子を承はりし上にては、あなたの御後に従ひ、参らうも知れませぬ』
とワザとに落付払つて、時を移さうとする。ホーロケースは、
『時遅れては一大事』
と有無を言はせず、小脇にひんだき、密室を駆出さむとする時しも、日楯、月鉾の両人は、琉、球の玉の威徳に感じたりけむ、身体より強烈なる五色の光を放射し乍ら、此場に現はれ来り、
両人『ヤア、ホーロケース、暫く待たれよ』
と声をかけた。ホーロケースは転けつ輾びつ、マリヤス姫を後に残し、数多の部下と共に、雲を霞と夜陰に紛れ、何処ともなく姿を隠した。
月鉾『あゝマリヤス姫殿、御無事で御座つたか、芽出度い芽出度い。これと云ふも全く、大神様の御恵み』
と両手を合せて、感謝の涙を流して居る。
 マリヤス姫は夢か現か幻かと、飛び立つ計り喜び勇み、あたりをキヨロキヨロ見廻し乍ら、ヤツと胸を撫でおろし、
マリヤス『悲しき恐ろしき苦しき所へお越し下さいまして、妾を救ひ賜はり、嬉しいやら、有難いやら、何とも申上ぐる言葉は御座いませぬ。……日楯様、月鉾様、最早館の内は別状は御座いませぬか』
と云ひつつ、月鉾にすがり着いた。
月鉾『マリヤス姫殿、御安心なさりませ。最早敵は残らず散乱致しました。今後の警戒が最も肝要で御座います。まづまづ御心を落着けられよ』
日楯『サアサア、皆さま、打揃うて神前に天津祝詞を奏上致しませう』
 茲に玉藻山の聖地は再び、三五教に返り、宏大なる神殿は造営され、日楯、月鉾の声名は遠近に押し拡まり、旭日昇天の勢となり来たれり。あゝ惟神霊幸倍坐世。
(大正一一・八・六 旧六・一四 松村真澄録)
(昭和一〇・六・六 王仁校正)
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