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文献名1霊界物語 第29巻 海洋万 辰の巻
文献名2第3篇 神鬼一転よみ(新仮名遣い)しんきいってん
文献名3第14章 カーリン丸〔836〕よみ(新仮名遣い)かーりんまる
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-12-31 17:23:39
あらすじ高姫一行は湖のほとりで一夜を明かすと、湖水で顔を洗って禊をし、朝拝を行った。ふと路傍を見ると、石の神像が立っている。その像の裏を見ると、鷹依姫たちがここで改心した記念に彫ったものであることがわかった。高姫はこの奇縁に驚き、また自分が鷹依姫たちを追い出したことで苦労をかけたと嘆き、自らの過去の行いを悔いた。そして罪滅ぼしのために、この神像を自転倒島まで背負って行こうと決心した。これが地蔵の石像の濫觴だという。一行は湖水の中に、縦筋の入っためくら魚と、横筋の入っためくら魚が泳いでいるのを見た。そこへ、縦横十文字の立派な魚が泳いできた。これを見て高姫は、三五教の中でも経・緯それぞれもののわからない信者同士がいがみあっても御神業は成就しないということを思い、反省した。一行は旅を続け、アルの海岸に着き、船に乗り込んだ。船客たちは、鷹依姫一行の噂をしており、高姫にも話が及んでいた。高姫は恥ずかしさに小さくなっている。さらに船客たちは、去年この船に乗った鷹依姫が誤って海中に落ち、それを助けようとした竜国別、テーリスタン、カーリンスの三人も行方が知れなくなっていることを話し出した。船客の一人は、鷹依姫一行が海中に落ちて悲惨な目にあったのも、元はといえば自転倒島を追い出した高姫のせいだと憤っている。高姫は自ら船客の前に名乗り出て懺悔をし、船客の気が済むように自分を処分してくれと真心から謝罪した。憤っていた船客は高姫の真心に打たれて知らずのうちに高姫に尊敬の念を抱くようになった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月12日(旧06月20日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月3日 愛善世界社版203頁 八幡書店版第5輯 540頁 修補版 校定版209頁 普及版94頁 初版 ページ備考
OBC rm2914
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本文  三人は湖水の傍なる椰子樹の森に一夜を明かした。其夜は比較的風強く、湖水の波の音は雷の如く時々ドンドンと響いて来た。此湖水の名を玉の湖と云ふ。東西五十、南北三十五位の大湖水であつた。そして此湖水の形は瓢箪を縦に割つて半分を仰向けにしたやうな形をしてゐる。地平線上より新に生れ出で玉ふ真紅の太陽はニコニコとして舞ひ狂ひ乍ら、刻々に昇天し給ふ。一同は湖水に顔を洗ひ、口を滌ぎ手を清め、拍手感謝の詞を奏上し、蔓苺を掌に一杯むしり取つて朝飯に代へた。能く能く見れば傍に神の姿した石が立つて居る。扨て不思議と裏面を見れば、軟かき石像の裏に、『鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスの一行四人、改心記念の為に此石像を刻み置く……』と刻り附けてあつた。常彦は此文面を読み上げて高姫に聞かした。高姫は驚いて、
高姫『あゝ矢張鷹依姫さまも竜国別さまも、テー、カーも、つまり此荒原を彷徨うて御座つたと見える。ホンにお気の毒な、あるにあられぬ苦労をなさつたであらう。此高姫が無慈悲にも、黒姫さまが黄金の玉を紛失したと云つて、鷹依姫さまや、外三人の方にまで難題を云ひつのり、聖地を追ひ出したのは、何と云ふ気強いことをしたのであらう。今になつて過去を顧みれば、私の犯した罪、人さまの恨みが実に恐ろしくなつて来た。せめては鷹依姫さま一同の苦労なさつて通られた跡を、斯うして修業に歩かして貰ふのも、私の罪亡ぼし、又因果の循り循りて同じ処を迂路つき廻るやうになつたのだらう。諺にも……人を呪はば穴二つ……とやら、情は人の為ならずとやら、善にもあれ、悪にもあれ、何事も皆吾身に報うて来るものだ……と口にはいつも立派に人様に向つて、諭しては居たものの、斯うして自分が実地に当つて見ると、尚更神様の教が身に沁々と沁み亘つて、有難いやら恐ろしいやら、何とも申上げやうが御座いませぬ。……あゝ鷹依姫様、竜国別様、テー、カーの両人さま、高姫のあなた方に加へた残虐無道の罪、どうぞ許して下さいませ。あなたがこんな遠国へ来て種々雑多と苦労をなさるのも、皆此高姫に憑依してゐた、金毛九尾の悪狐の為せし業、どうぞ赦して下さいませ。此石像は、鷹依姫様、竜国別様の心を籠められた記念物、之を見るにつけても、おいとしいやら、お気の毒やら、お懐かしいような気が致します。何程重たくても罪亡ぼしの為に此石像を、鷹依姫様、外御一同と思ひ自転倒島まで負うて帰り、お宮を建てて、朝夕にお給仕を致し、私の重い罪を赦して戴かねばなりませぬ』
と念じ乍ら、四辺の蔓草を綯つて縄を作り、背中に括りつけ、其上から蓑を被り、持重りのする石像を背中に負うて、たうとうアマゾン河の森林迄帰つて了つたのである。これが家々に、小さき地蔵を造り、屋敷の隅に、石を畳み、其上に祀ることとなつた濫觴である。
 さて高姫は石像を背に負ひ、エチエチし乍ら草野を分けて湖畔を東へ東へと二人の同行と共に進み行く。
 高姫は玉の湖畔を進み乍ら、湖中に溌溂として泳げる、何とも云へぬ美しき五色の、縦筋や横筋の通つた魚を眺め、
高姫『コレコレ、一寸御覧なさい、常彦、不思議な魚が居ります。これが噂に聞いた、玉の湖の錦魚といふのでせう。一名金魚とか云ふさうですが、本当に綺麗なものぢや御座いませぬか』
常彦『成程、天火水地結と青赤紫白黄、順序能く縦筋がはいつて居りますな。之が所謂縦魚で御座いませう。あゝ此処にも横に又同じ如うな五色の斑の附いた魚が泳いでゐます。どちらが雄で、どちらが雌でせうかなア』
春彦『定まつた事よ。縦筋の方が雄で、横筋のはいつた方が雌だ。経と緯と夫婦揃うて錦の機を織ると云ふのだから、錦魚と云ふのだ。此鰭を見よ、随分立派な鰭ぢやないか』
常彦『併し此魚には目が無いぢやないか。此奴アどうも不思議ぢやないか』
春彦『此縦筋のはいつた盲魚は一名高姫魚と云ひ、横筋のはいつたのは春彦魚と云ふのだ。どちらも盲だから、マタイものだ。それ此通り逃げも何もせぬぢやないか。併し手に取ると、やつぱりピンピン撥ねよるワ。ヤア其処へ本当の錦魚がやつて来たぞ。此奴ア縦横十文字、素的滅法界、綺麗な筋がはいつて、ピカピカ光つてゐる。目も大きな目があいてゐる。……なア高姫さま、これを見ても経と緯と揃はねば、変性男子の系統ばかりでも見えず、女子の行方ばかりでも後先が見えぬと云ふ神様の御教訓ですな』
 高姫頻りに首を振り、
高姫『ウーン、なんとまア神様の御経綸と云ふものは恐れ入つたもので御座います。これを見て改心せねばなりませぬワイ。今迄の三五教の様に、経緯の盲同士が盲縞を織つて居つては、何時迄も錦の機は織り上がりませぬ。夫に就いては私が第一悪かつた。経糸はヂツとさへして居れば良いのに、緯糸以上に藻掻くものだから、薩張ワヤになつて了うたのぢや。あゝ何を見ても神様の教訓許り、何故今迄こんな見易い道理が分らなんだのだらう。ヤツパリ金毛九尾に眼を眩まされてゐたのだ』
と長大嘆息をしてゐる。是れより一行は夜を日に継ぎ、漸くにしてアルの海岸に着いた。幸ひ船はゼムの港に向つて出帆せむとする間際であつた。高姫は慌しく『オーイオーイ』と呼止めた。船頭は今纜を解いて港を少しばかり離れた船を引返し、三人を乗らしめ、折からの南風に帆を孕ませ、ゼムの港を指して波上ゆるやかに辷り行く。
 長き海上の退屈紛れに船客の間にあちらこちらと雑談が始まつた。高姫一行は船の片隅に小さくなつて控へてゐる。
甲『去年の事だつたか、此船に乗つてゼムの港へ渡る時の船客の話しに、テルの国のアリナの滝とやらに大変な玉取神さまが現はれ、彼方からも此方からも、種々雑多の玉をお供へに行つて、いろいろの願事を叶へて貰はうと、欲な連中が引も切らず参拝してゐたさうぢや。さうすると何でもヒルとか夜とか云ふ国の偉いお方が黄金の玉をお供へになつた。玉取神さまはその黄金の玉が気に入つたと見えて、夜さりの間に玉を引つ担ぎ、何処へ逃げ出し、ウヅの国の櫟ケ原とかで、折角持出した玉を、天狗に取上げられ、這々の体でウヅの国(アルゼンチン)の大原野を横断し、アルの港から船に乗つて、アマゾン川の河上まで行つたと云ふ事だ。併し神さまの中にもいろいろあつて、欲な神さまもあればあるものぢやなア。其玉取神さまの大将は、何でも自転倒島の鷹とか鳶とか烏の様な名のつく、矢釜しい女神があつて、大切に守つて居つた玉を玉取神が失うたので怒つて叩き出し、其玉を手に入れる迄、帰つて来な……と此広い世の中に玉の一つ位、何程捜したつて、分りさうなことがないのに、無茶を言うて、いぢり倒したと云ふ話を聞いたが、随分悪い神もあればあるものだなア。屹度其奴には八岐の大蛇やら、金毛九尾の狐が憑いてをつて、そんな無茶なことを言はしたり、さしたりすると云ふ話しだ。本当に神さまだと云つても、無茶苦茶に信神出来ぬものだ。鷹鳶姫とか玉取姫とか云ふケチな神もある世の中だからなア』
乙『玉取姫位なら屁どろいこつちやが、世間には沢山、嬶取彦や爺取姫が現はれて、随分社会の秩序を紊し、此世の中に悪の種を蒔く神も、此頃は大分に出来て来たぞよ。アハヽヽヽ』
と他愛なく笑ふ。高姫は真赤な顔して小さくなつて、甲乙の談を聞いて居た。
 常彦は高姫の耳に口を寄せ、
『高姫さま、どうも世間は広いやうで狭いものですな。海洋万の斯んな所まで、自転倒島の出来事が、仮令間違ひにもせよ、大体が行渡つて居るとは実に驚きましたねえ。玉野原の玉の湖の椰子樹の下に、竜国別さまが刻んでおいた四人の石像、仮令何万年経つたつて、貴女や私達の目にとまる筈がないのに、何百とも際限のない野の中に、こんな小つぽけな物が只の一つ、それが斯うして貴女の背に負はれる様になると云ふも、不思議ぢやありませぬか。之を思うと人間も余程心得なくてはなりませぬなア』
高姫『サアそれについて、私は胸も何も引裂けるやうになつて来ました。私が変性男子様の系統々々と云つて、それを鼻にかけ、金毛九尾に誑惑されて、今迄は一生懸命に厳の御霊の御徳を落とすこと許りやつて来たかと思へば、如何して此罪が贖へやうかと、誠に恐ろしく、悲しくなつて来ました』
と涙ぐむ。船客は又もや盛んに喋り出した。
丙『オイお前の云うて居つた鷹鳶姫と云ふのは、ソリヤ高姫の間違ひだらう。そして玉取姫と云ふのは鷹依姫の間違ひだらう。高姫と云ふ奴はなア、徹底的我慢の強い奴で、変性男子とか云ふ立派なお方の腹から生れて、それはそれは意地の悪い頑固者の、利己主義の口達者の、論にも杭にも掛らぬ化物ださうな。そして金剛不壊の如意宝珠とか云ふお宝物を腹に呑んだり、出したり、丸で手品師のやうなことをやる、悪神の容物だと云ふ事だ。噂を聞いて憎らしうなつて来る。どうで遠い自転倒島の話しだから、到底吾々には一代に会ふことは出来まいが、若しも出会うたが最後、世界の為に俺は素首引抜いてやらうと思つてゐるのだ。何だか高姫の話しが出ると、腹の底からむかついて来て堪らないワ。去年の今頃だつた。高姫に仕へて居つた鷹依姫、其息子の鼻の素的滅法界に高い竜国別、それに一寸人種の変つた、鼻の高い細長い、色の少し白いテーリスタンとかカーリンスとか云ふ四人連れが、アリナの滝の……何でも近所に鏡の池とか云ふ不思議な池があつて、そこに長らく居つた所、俄にどんな事情か知らぬが、居れなくなつて、たうとうアリナ山脈を越えて、ウヅの国の櫟ケ原を横断し、アルの港からヒルへ行く途中、誤つて婆アはデツキの上から海中へ陥没し、皆目姿がなくなつて了つた。そこで息子の竜国別が、婆アさまを助けようとドブンと計り飛込んだが、これも亦波に捲かれて行き方知れず、テ、カの二人も続いてドブンとやつたが、此奴もテンで行方が知れなくなつて了つた。彼奴は悪人か何か知らぬが随分親孝行者だ。母親が陥つたのを助けようと思うて、伜の竜国別が飛込んで殉死し、又弟子の二人が助けようと思つたか、殉死の覚悟だつたか知らぬが、共に水泡と消えて了つた。随分此航路では有名な話しだ。お前まだ耳にして居らぬのか』
乙『成程、親子主従の心中とか云つて、随分有名な話だが、其……何だなア、宣伝使の一行のことか、俺や又どつかの親子主従の心中かと思つてゐた。ホンに可哀相なこつたナア』
丙『それと云ふのも元を糺せば、ヤツパリ高姫と云ふ奴が悪いからだ。彼奴が無理難題を云ひかけて、自転倒島から高砂島(南米)三界迄追ひ出したものだから、たうとうあんなことになつて了つたのだ。四人の宣伝使は可哀相でたまらぬ。俺やモウ其話しを聞いてから、空を翔つてる鷹を見ても癪に障つて堪らぬのだ。人間にでも鷹と云ふ名の附いてる奴に会うと、其奴が憎らしくなつて来て、擲りつけたいやうな気がするのだよ。赤の他人の俺が、何故鷹依姫や竜国別の、それ丈贔屓をせにやならぬかと思うと、不思議でたまらないワ。大方あの陥る時に、アヽ可哀相だと思うて見てゐたものだから、其亡魂でも憑依したのか……。今日は何だか其タカと云ふ名のついた奴が乗つて居やせぬかなア。何だかむかついてむかついて仕方がないのだ』
と目を真赤にし、歯噛みし、拳を握り、形相凄じく息を喘ませてゐる。
甲『ハヽヽヽヽ、他人の疝気を頭痛に病むと云ふのはお前のことだ。そんなことはイヽ加減にしておけ。何程力んでみた所で、肝腎の本人は海洋万の自転倒島に居るのだから駄目だよ』
丙『何だか俄に体が震ひ出した。何でも此船に高姫と云ふ奴、乗つてゐるのぢやあるまいかな。オイ一寸女客の名を、御苦労だが、一々尋ねて来て呉れぬか』
甲『馬鹿を言ふない、おれが尋ねなくても、船長さまに聞けば、チヤンと帳面に附けてあるワ』
丙『それもさうだ、そんなら尋ねて見やうかな』
と立上がらうとする。高姫は、丙の袖を控へて、
高姫『モシモシ何処の方かは知りませぬが、鷹依姫、竜国別一行の為に、能うそこ迄一心に思うてやつて下さいます。定めて四人の者も冥土から喜んで居ることで御座いませう。あなたは最前から承はれば、四人の海へ落ちたのを見て居なさつたさうですが、後に何か残つてゐませなんだか。私があなたの憎いと思召す自転倒島から来た高姫で御座いますよ。罪の深い私、サアどうぞ貴方の存分にして下さいませ。さうすれば、四人の者も定めし浮かぶことで御座いませう。今私の負うて居ります石には、右四人の姿が刻り込んで御座います。かやうなことがあらうとて虫が知らしたのか、チヤンと自分から石碑を拵へて残しておいたと見えます。あゝ因縁と云ふものは恐ろしいものだ。天網恢々疎にして漏らさず、こんなことと知つたら、あんな酷いことを云ふのぢやなかつたに』
と云ひ乍ら、背中の石像を前に据ゑ、手を合せ、
高姫『コレコレ四人の御方、どうぞ怺へて下さい。三千世界の御神業に参加せなくてはならぬ大切な体なれど、私は今此御方に生首を引抜かれて国替を致し、お前さまの側へ行つて、更めてお詫を致します。あゝ惟神霊幸倍坐世。鷹依姫、竜国別、テーリスタンにカーリンス、頓生菩提、あゝ惟神霊幸倍坐世』
と一生懸命に念じてゐる。丙は高姫の真心より悔悟した其言葉と挙動とに、今迄張り切つた勢もどこへか抜け、今は却て、高姫崇拝者と心の中で知らず知らずの間になつてしまつてゐた。
(大正一一・八・一二 旧六・二〇 松村真澄録)
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