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文献名1霊界物語 入蒙記 山河草木 特別篇
文献名2第4篇 神軍躍動よみ(新仮名遣い)しんぐんやくどう
文献名3第24章 木局の月よみ(新仮名遣い)むちのつき
著者出口王仁三郎
概要
備考2024/1/25出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-01-25 21:37:19
あらすじ五月十四日の午前十時半、盧占魁が兵営の出発を見送りにやってきた。日出雄の一隊は轎車二台、大車一台に荷物を積んで多くの兵士を前後に従え、何度も大原野を流れるトール河を渡り、午後三時半に無事上木局収の仮殿に安着した。上木局収の仮殿を護衛するため、十五支ほどの間に三箇所の兵営が設けられた。上木局収の日本人は気楽に日を送っていた。
主な人物【セ】源日出雄、名田彦【場】-【名】盧占魁、井上兼吉、曼陀汗、雛団長、何団長、張彦三旅長、猪野敏夫大佐、真澄別、守高、白凌閣、温長興、大師文、康国宝、萩原敏明、名田彦 舞台 口述日1925(大正14)年08月 口述場所 筆録者 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年2月14日 愛善世界社版216頁 八幡書店版第14輯 626頁 修補版 校定版218頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rmnm24
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本文  五月十四日即ち王日午前九時上将盧占魁は太上将日出雄の陣営に来り、午前十時半、下木局収の兵営の出発を見送つた。轎車二台、大車一台に荷物を積み数多の兵士を前後に従へ、蜒蜿として大原野を流るる洮児河の激流を幾度となく騎馬にて渡り、午後三時半無事上木局収の仮殿に安着した。蒙古の馬は体躯日本の乗馬に比して稍小なれども、極寒極暑に耐へ且つ忍耐力強く柔順である。河水を見れば何れの馬も頭を振つて勇み立ち、青味だつた激流を平然として渡る様は殆ど平地を行くやうである。井上兼吉は馬賊の頭目曼陀汗等と旧くより交際して居ただけあつて、満蒙の事情によく通じて居た。彼は道々馬上にて日本馬賊の作つたと云ふ勇ましい歌を歌ひつつ進む。
 嵐吹け吹けマーカツ颪  雪の蒙古に日は暮れて
 征鞍照らす月影に  仰げば高し雁の群
 吾には家なし妻もなし  国を離れて十余年
 家は有れ共岩の洞  従ふ手下は二千余騎
 馬上叱咤の戯れに  鎗をしごけばスルスルと
 延びて一丈の穂の光り  電光閃く玉を為す
 興安嶺のかくれ家に  剣の小尻を鞭ちて
 闇をすかせば二千人  轡並べて忍び寄る
 殺気立ちたる馬賊の群は  何処で呑んだか酒臭い
 無聊に苦しみ酒を呑む  山と積みにし虎の肉
 肌押し脱げば一面に  日頃自慢の刀傷
 今日の獲物は五万両  明日は襲はむ蒙古の地
 イザヤまどろまむ一時を  取り出す枕は髑髏
 ホンニ忘らりよか古郷の  可愛稚児さんが目に躍る。
 上木局収の仮殿なる日出雄を護衛の為め、僅か十五支の間に三ケ所の兵営を設けられた。其配置は最前方即ち西北方には鄒団長が二百の兵を引きつれ警護し、中央には何団長又百数十名にて警固し、最後即ち東南方の営所には中将張彦三旅長として之を警固して居た。日出雄は此間を悠々として何の憚る所もなく部下の兵士と共に馳駆して馬術を錬つた。日出雄が各兵営を訪づるるや、各団長は兵を門外に整列させ、一斉に捧げ銃の礼を施こし、先頭に立つて兵営に入るのが常であつた。張旅長はモーゼル銃を自ら修繕する際、誤つて自分の脛を討ち、其の弾丸は骨に当つて肉深く残留し苦痛を訴へた。急報により日出雄は医務処長猪野大佐及び真澄別、守高其他を引きつれ、旅長の陣営に馳せつけ、局所に鎮魂を施し激痛を其場で止め、猪野大佐は直ちに刀を取つて弾丸の抉出に尽瘁した。されど弾丸は骨に深くうち込んで居るので抉出することは出来なかつたので、已むを得ず日出雄は其儘平癒すべく神に祈つた。所が不思議にも旅長は俄に苦痛を忘れ、平然として馬に跨り部下を指揮するを得たので、将卒一同は其の奇瑞に感歎の声を放つた。日本人側数名と白凌閣、温長興、大師文、康国宝等は或日兵営と兵営との間を馬をかけて居た所、何に驚いたか萩原敏明の馬は突然直立した刹那、萩原は大地へ真逆様に落され大の字になつて倒れた。萩原の乗馬は雲を霞と駆け出して了つた。後から来た日出雄は我脚下に萩原の倒れてゐるのを見て、俄に馬腹に鞭を加へ其上を一足飛びに飛んで馬蹄蹂躙の難をさけたが、今度は又もや白凌閣の馬は白を地上に投げすて雲を霞とかけ出す。数多の騎馬兵を四方に出して幸ひ両馬とも捕獲することを得た。二三日すると奉天に軍使に行つた名田彦が、支那兵数名と共に上木局収の仮殿に無事帰つて来た。名田彦は日出雄を見るより声をあげて懐かしさに泣いた。彼は幾度も途中危難に遭遇し漸くにして生命を全うして帰つて来た嬉しさが一時に込み上げて来たのである。守高と名田彦はそれより日々乗馬の練習に余念がなかつた。さうして守高は王連長や王参謀に暇ある毎に柔術を教授して居た。守高に柔術を学ぶものは支那将校の中四五名はあつた、併し大部分の将卒は柔術を蔑視して居た。彼等は云ふ『何程柔術が達者でも飛び道具には叶ふまい、今日の戦争は銃砲より外に力になるものはない、柔術など云ふものは一種の遊芸だ』と。守高は或は騎馬にて郊外を散策する時、例のシーゴーに吠えつかれ、乗馬が驚いて馳け出す途端に落馬したが、彼は落馬したのではない無事着陸したのだと不減口を云つて笑つて居た。名田彦も自ら乗馬の達人と称して居たが、これもシーゴー数十頭に取囲まれ馬が驚いて馳け出す途端に地上に遺棄され、驚いて起き上つた時分には、乗馬は影の見えない所迄遠く逃げ去つて居た。日出雄は此報告を聞くなり数名の士官や兵卒に命じ遁馬を捕獲すべく命じた。温少佐は六名の兵士と共に際限なき荒野を駆け廻り、日の暮るる頃漸く馬を捉へて帰つて来たので、日出雄は温以下の労苦を謝し種々と菓子や煙草などを与へて慰めた。さうして名田彦に向ひ、
『オイ、名田彦、乗馬の達人が落馬するとは何の事だい』と一本参つた、すると名田彦は頭をガシガシ掻き乍ら、
『ハイ、弘法も筆の誤りです』
と相変らずの負け惜みである。上木局収の仮殿にゐる日本人は何れも気楽なもので、
『オチココテノ、ウツトコハテナ、ボホラヌボ、オンクスアルテチ、ウンヌルテ、オホノトルテ、ピーシヤムツトルテ、マラカウンスナ、コトラアンテイナ、パサパーナ、シエスシエーナ』
 などと他愛もない下がかつた話計りして暮して居た。日出雄は上木局収の仮殿に起臥して居る中、沢山の歌や俳句を詠んだが其中の一部を茲に紹介する。

 国を出て四つの月をば重ねつつ吾生れたる月夜に会ふかな
 夕暮の東の空を眺むれば神島に似し雲の浮べる
 昨夜降りし雨の大空晴れ渡り十二日の月光目出度し
 東方の空のみ村雲立ち昇るいかなる神の示しなるらむ
 野雪隠掘りて日々パサパーナ為さむ為め守高鍬を手にする
 温突の暖気を避けむと庭の面に今日改めて久土築きにけり
 山火事と吾出発の写真をば仕上げの際に焦せし惜しさよ
 静なる月の姿を見る毎にナラヌオロスの信徒思ふ
 ホイモール眼は弥々丸くなりて夕日の空に月は輝く
 窓明けて月の面をば眺めつつ心静かに行末おもふ
 バラモンの醜の鋭鋒避けながら蒙古の空に月を眺むる
 十二夜の月の光に照らされて樺の幹のみ山に光れる
 司令部を駒に鞭ち立ち出でて今日上木局収の月を見るかな
 忽ちに魚鱗の雲の塞がりて可惜月影呑まむとぞする
 野の中に放ちやりたる馬の群れ寝屋に帰るを厭ひて走る
 日の出づる国にて見たる月よりも蒙古の空は珍らしく見る
 雨雲は空一面に塞がりぬ今宵の月の別れおしさよ
 瑞月の雲かくれせしを守らむと十二夜の月かくれしならむ
 浮雲の薄き衣をば通してゆほのかに見えし今の月かげ
 すがすがし祝詞の声の聞えけり守高のホラの雄たけびならむ
 河辺に立出で団長等と共に騎馬の照相写し撮りけり
 暫時は此地にありて外蒙に進まむ時の英気養ふ
 林間に駒を並べて勇ましく涼しき風を受けつつすすむ
 吾は今万の原野を乗り越えて草野の小村に経綸を立つ
 九十六の日を重ねつつ我は今蒙古の奥に駒に鞭打つ
 時々に国の事など思ひ出でて今日の我身の幸をよろこぶ
 蒙古語を学ばむとして今日も亦肩こらしつつペンを走らす
 窓障子破れて風のあたるたび猶ペラペラと言ひさやぐかな
 桃太郎誕生したる照相を馬飼が原に撮りし今日かな
 大空の雲かき分けて三五の月の光もあきらかに照る
 雲の戸を明けて今宵の月影は吾が賤の家を照したまひぬ
 肩痛み腰張り頭痛鉢巻でペンを執りつつ窓の月見る
 トルコノロホルまで痛む今宵こそ曲神の吾を窺ふなるらむ
 ナルンオロス曲の関所を潜り来て又もや蒙古の曲に襲はる
 背に肩脚腕までも痛みてゆ已むを得ずして昼寝せし哉
    ○
 木局の野に駒嘶きて草萌ゆる
 木局の野の初夏の夕べや杜鵑啼く
 人心荒き木局収の宿営かな
 無頼の徒集まりて住む木局収
 陽は清く風暖かに草萌ゆる
 豚の児に石を投げつつ野遊かな
 食物に乏しき木局収の仮寝かな
 ハタハタと白旗の鳴る初夏の風
 山低く雲また低し木局の野辺
 牧草の乏しき木局収駒細り
 駒止めて少時見入りぬ河の面
 河水の音高々と夢に入る
 身を忍び気力養ひ時を待ち
 コルギーホワラ、チチクさへ無き上木局収
 オンクスアルテチ、ウンヌルテと鼻摘み
 来客にモンタラパンナと席譲り
 夜な夜なに啼く杜鵑気に懸り
 雨雲や瞬く中に空塞ぎ
 空に雲覆ひて忽ち風寒し
 イリチーカ最も悲しげな声搾り
 ガーガーとガーハイの声耳に立ち
 喇嘛服に着替へて馬上の照相撮り
 千万荒野の奥の馬遊かな
 寝そべりつ窓の側にてペンを執り
 ペン先は早くも坊主となりにけり
 山も野も吾も坊主の蒙古かな
 ポロハナの力も薄き蒙古喇嘛
 どの山も金字形なり上木局収
 駒並べて軍の司来りけり
 紅の夕日の空に月清し
 夕日影山野をボルに染めにけり
 紫の雲たなびきて入日近し
 十四夜の月は日の内輝けり
 窓明けて初夏の満月拝みけり
 初夏の月初めて見たり蒙古地に
 月清く星稀にして風寒し
 吾友は今宵の月を吾と見む
 月次の今日の祭りや月丸し
 雪解けて河水日々に増りけり
 草も木も青み出でけり初夏の雨
 大空の月を包みし雲散りぬ
 雪とけて三五の月空に照り
 日人の夢にも知らぬ吾神業

(大正一四、八、筆録)
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