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文献名1霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
文献名2第2篇 杢迂拙婦よみ(新仮名遣い)もくうせっぷ
文献名3第14章 新宅入〔1823〕よみ(新仮名遣い)しんたくいり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2019-02-12 13:29:47
あらすじ高姫と妖幻坊の杢助は、海を渡ってようやくスガの港にやってきた。噂に、三五教の大宮が建てられたと聞くと、なんとかしてその聖場を奪おうと思案を始めた。手始めに、宿泊している旅館の別館を買い取ろうと、妖幻坊は曲輪の術を使い、庭の木の葉をお金に変えてしまう。高姫そのお金で買い取った別館に、ウラナイ教の大看板を掲げて、宣伝の準備を始めた。一方妖幻坊は、人から見えないように離れ座敷を作らせ、元の怪物の姿になって居座っている。高姫は、今は元王妃の肉体に宿っているため、その気品と美貌で宣伝は功を奏し、ウラナイ教は大繁盛しだした。
主な人物 舞台 口述日1926(大正15)年06月30日(旧05月21日) 口述場所天之橋立なかや別館 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1929(昭和4)年4月3日 愛善世界社版165頁 八幡書店版第12輯 662頁 修補版 校定版172頁 普及版64頁 初版 ページ備考
OBC rm7214
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本文  ハルの湖水を渡る折  俄に吹き来る暴風に
 高砂丸は沈没し  妖幻坊の杢助は
 高姫背に負ひ乍ら  浪の間に間に漂ひつ
 漸く湖中に浮びたる  竹生ひ茂る太魔の島
 銀杏の浜辺に着きにけり  茲に二人は種々の
 良からぬ事をなし終へて  浜辺の船を奪ひとり
 杢助艪をば操つりつ  もとより慣れぬ海の上
 浪のまにまにくるくると  彼方や此方に流されつ
 終日終夜を水の上  腹を減かして彷徨ひつ
 やうやうスガの港迄  命辛々着きにける
 高姫杢助両人は  湖辺に沿ひし饂飩屋に
 一寸立ち寄り減腹を  癒せる折しも道を往く
 人の噂にスガの山  三五教の大宮が
 千木高知りて新しく  建てられたりと聞くよりも
 食指は大いに動き出し  何とか工夫を廻らして
 其聖場を奪はむと  考へ居るこそ虫の良き
 日も黄昏になりければ  目抜きの場所なる中の町
 タルヤ旅館に乗り込んで  一夜の宿を求めつつ
 二人は此処にやすやすと  甘き睡りにつきにけり。
 高姫、杢助は朝早くから起き出でて宿屋の様子を考へて居ると、見た割合とは広い屋敷で新しい別館が建つて居る。さうして其別館は北町の街道に面し、布教や宣伝には極めて可い家構であつた。妖幻坊は曲輪の術を使ひ、庭先の木の葉を七八枚拾つて来て何かムサムサ文言を唱へると、それが忽ち百円札に変つて仕舞つた。そつと懐中に秘め置き素知らぬ顔して高姫の前にどつかと坐し、
『オイ、千草の高チヤン、何と此処は良い家構ぢやないか。お前の得意な布教宣伝とやらを此処で行つたら面白からうよ』
高『成程、遉は杢助さまだ。よう気がつきますこと、妾も一つ三五教の奴がスガの山で立派なお宮を建て、大変に偉い勢で宣伝して居ると云ふ事だから、何だか知らぬ気色が悪くて耐らぬので、直様スガの山に乗り込んで、神司の面の皮をひん剥き、道場破りをやつてやらうかとも考へましたが、それでは余りあどけない、無理に占領したと町人にでも思はれちや後の信用に関するので如何せうかなアと今考へて居た処ですよ。併し何程結構な都合のよい家だと云つても一旦湖にはまつて真裸となり、旅費も何もなくなつて仕舞つたのだから、家を借やうもなく、仕方がないぢやありませぬか。斯うして偉さうに宿屋に泊つて居るものの、サア御勘定と云ふ時は如何せうかと思つて、さう思ひ出すと宿屋の飯も甘く喉を通らないのですもの、今晩は甘く夜抜けをしないとグヅグヅして居ると無銭飲食とか何とか云つてバラモンの役所に引張られますからなア』
『ハヽヽヽ御心配御無用だ。そんな事に抜目のある杢助だないよ。一層の事あの別館を主人に相談して買取つたらどうだらう』
高『買取ると云つたつてお金がなけれや仕様がないぢやありませぬか。せめて手附金でもあれば話も出来ますが、昨夜の宿料もないやうな事で、如何してそんなことが出来ませうか。アヽ斯うなれやお金が欲しいワイ』
妖『俺もお金が欲しいのだけれど、お札はあつてもお金は些しもないのだから、
 札や手形は沢山あれど
  どうか(銅貨)こうか(硬貨)に苦労する
とか何とか云つてな、硬貨が無けれや矢張話しても効果がないと云ふものだ。併しどうか(銅貨)してあの家を手に入れたいものだな』
高『硬貨がなくても紙幣さへあれば結構ですが、紙らしいものは鼻紙一つ無いのだもの、仕方がないワ』
 杢助はニツコと笑ひ懐を三つ四つ叩き乍ら、
『オイ、高チヤン、此処に一寸手を入れて御覧。お前の大好物が目を剥いて居るよ』
 高姫は訝かりながら矢庭に妖幻坊の懐に右手を挿し込むと、切れるやうな百円札が七八枚手に触つた。アツと驚き尻餅をつき、
『ヤアヤアヤアこれこれ杢チヤン、危ない事をしなさるなや。お前さまは昨夜妾の寝て居る間を考へて何処かで何々して来たのだらう、ほんたうに怖ろしい人だワ』
妖『ハヽヽ、さう驚くものぢやない、この杢助は決して泥棒なんかしないよ、曲輪の術を以て庭先の木の葉を拾ひ一寸紙幣に化かしたのだ』
 高姫は曲輪の術と云へば一も二もなく信ずる癖がある。
『マアマア、偉いお方だこと、夫でこそ日出神の生宮の夫ですワ。この金さへあれば一つ主人に交渉つて、あの家を手に入れるやうにせうぢやありませぬか。裏には又離棟も建つて居ますなり、お前さまがお休みになるには大変都合がよろしいからなア』
妖『ウンさうだ。何うも別棟がないと俺はとつくり休めないからのう、どうだいお前主人に交渉つてくれないか』
高『ハイ、承知致しました』
と云ひ乍らポンポンと手を拍ち鳴らす、暫くあつて一人の下女、襖をソツと開き淑に両手をつき、
下女『お召しになりましたのは此方で御座いますか』
高『アヽさうだよ、お前は此家の下女と見えるが、下女には用がない、一寸御亭主を呼んで来て下さい、さうして序に昨夜の勘定書をね』
 下女は「ハイ畏ました」と云ひ乍ら、足早に出でて行く。高姫は杢助の懐から出た紙幣を引繰かへし引繰かへし眺めたが、どうしても贋物とは見えぬ。勇気百倍して主人の来るのを今や遅しと待つて居ると、顔中にみつちやの出来た五十恰好の爺、テカテカ光つた頭をヌツと出し、
亭主『ハイ私は当家の主人で御座います、お召によりまして罷りつん出ました』
高『勘定書は幾何だな』
亭『ハイ、お二人様で一円五十銭頂戴致します』
高『そんなら、これは茶代と一緒だよ』
と云ひ乍ら百円紙幣を投げ出せば、亭主は驚いて二人の顔を見詰め乍ら、
『こんな大きなお金を頂戴致しましても剰銭が御座いませぬ、何卒小かいのでお願ひ致します』
高『イヤ剰銭が無けりや宜敷い、一円五十銭は昨夜の宿泊料、九十八円五十銭はお茶代だよ』
亭『宿屋業組合の規則で茶代を廃止して居る今日、こんな物を頂戴しましては仲間をはねられますから、どうぞお納め下さいませ』
高『アヽ茶代が悪けれや、お土産として上げて置かう、それなら好いだらう』
亭『ハイ、お土産なら幾何でも頂戴致します。有難う御座います。どうぞゆるゆるお宿り下さいませ、どうも不都合で御座いますが暫く御辛抱願ひます』
高『時に亭主殿、旦那様の思召だが、あの庭先の向ふに建つて居る別館は当家の所有物かえ』
亭『ハイ、左様で御座います。漸く建ち上り畳や襖を入れた処ですが未だ誰も入つて居りませぬ、ほんたうに新しい所です』
高『お金は幾何でも出すからあの家を使はして貰へますまいかな』
亭『ハイ、毎度御贔屓に預りまする外ならぬお客様の事ですから、お言葉通り、譲りでもお貸しでも致します』
高『同じ事なら譲つて貰ひ度いのだがな、借家は雑作するのにも一々お答をせにやならないからな』
亭『一々御尤で御座います、何ならお譲り致しませう』
高『幾何でわけて呉れますか、お金は幾何いつてもかまはぬのですから』
亭『些とお高いか知れませぬが、五百円で願ひたいものです』
高『サアそんなら五百円受け取つて下さい。さうしてこの百円は何彼とお世話にならねばならぬから、お心づけとして上げて置きませう』
 亭主は実の処別館は借家人が首を吊つて死んだ為め、夜な夜な幽霊が出るとか化物が出るとか噂が高くなり家の借り手もなく、家内の者さへも気味悪がつて入らないので持余して居つた処、大枚五百円、しかも即金で買うてやらうと云ふのだから、棚から牡丹餅でも落ちて来たやうに「ハイハイ」と二つ返事で其場で売渡証を書いて仕舞つた。これより杢助、高姫は其日の中に別館に引き移りウラナイ教の大看板を掲げて、宣伝の準備に取りかかつた。
高『サア杢チヤン、気楽な自分の巣が出来たから、ゆつくり休んで下さい。そして明日からは大に活動をして大勢の信者を集め、スガの山の三五教に一泡吹かせにやなりませぬぞや』
妖『アヽ又しても明日から耳が蛸になる程第一霊国の天人、日出神の生宮、底津岩根の大ミロク、三千世界の救世主、ヘグレのヘグレのヘグレ武者ヘグレ神社の大神、リントウビテンの大神、木曽義姫の命、ジヨウドウ行成、地上丸、地上姫、耕大臣、定子姫の命、杵築姫、言上姫とか何とか云ふやくざ神さまの名を聞くのかと思へば今から頭が痛むやうだワイ』
高『これ杢チヤン、これ程妾が一生懸命になつて神様のお道を開かうとして居るのに、何時も何時も妾を嘲弄するのですか。神様の名を聞いて頭が痛いの、目が眩うのと云ふ人は罰当りですよ』
妖『さうだから、ウラナイ教はお前様にお任せ申してこの杢兵衛さまは離棟の一室に立籠り上げ股うつて休まして貰ふのだ。宣伝の邪魔をしても済まないからなア』
高『お前さまは余り人物が大き過ぎて人民に直接の布教は不適当だから昼の間は離棟でお休みなさい、そのかはり夜分になつたら御用を仰せつけて上げますからねえ、ほんとに嬉しいでせう、可愛いでせう』
妖『まるで俺を種馬と間違へて居るやうだなア。どれどれ山の神様の御機嫌のよい中に離棟に参りませう。サアこれから日出神の生宮、大ミロクさまを売り出しなさい』
と云ひ乍らドシンドシンと床板をしわらせ乍ら離棟座敷へ大きな図体を運び、中から錠まいを卸し元の怪物と還元し大鼾声をかき寝て仕舞つた。妖幻坊は人間に化けて居るのが非常に苦しいので、外から見えない一室を何時も必要として居るのである。高姫はいよいよ一陽来復春陽到れりと太いお尻を振り乍ら大道を声張上げて宣伝し初めた。尻は大きいが何と云つても千草姫の肉体、何処とはなしに気品も高く器量もよし、物さへ云はねば何処の貴夫人か、弁天様の再来かと疑はるる許りの美貌であつた。高姫の必死の宣伝は忽ち功を奏したと見え、其翌日からはワイワイと老若男女が詰めかけて鮓詰の大繁昌、スガ山の神殿よりも参詣者が幾層倍増へるやうになつて来た。
(大正一五・六・三〇 旧五・二一 於天之橋立なかや旅館 加藤明子録)
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