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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名22篇 白雪郷よみ(新仮名遣い)はくせつきょう
文献名3第11章 助け船〔311〕よみ(新仮名遣い)たすけぶね
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ大中教の宣伝使・健寅彦は、あまたの従者と共に木に縛り付けた酋長夫婦を取り囲み、右手に剣、左手に徳利を握りながら、一口酒を飲んでは改宗を迫っている。酋長夫婦は目を閉じ口を結んで、心中に野立彦命、野立姫命の救いを祈願している。このとき、木霊を響かせながら三五教の宣伝歌が聞こえてきた。大中教の宣伝使たちは、この歌を聞くと顔をしかめ頭を抱えてその場に縮んでしまった。日の出神はその場に現れると、ゆうゆうと酋長夫婦をはじめ村人たちの縛を解いた。村人たちは日の出神とともに宣伝歌を大合唱した。大中教の使徒たちはたまりかね、みな山頂めがけてこそこそと身を隠してしまった。日の出神は酋長夫婦の固い信仰を激賞し、面那芸司、面那美司と名を与えた。酋長は、三五教の女宣伝使・祝姫が大中教の者らにかどわかされていることを伝え、救出を要請した。日の出神は酋長夫婦を従えて、救出に向かった。後に村人たちが、日の出神の出現について、あれこれと話し合っている。そこへ、逃げていた八、六、鹿(第9、10章の甲乙丙)がこわごわ姿を見せると、村人たちは口々にその臆病を非難した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月30日(旧01月03日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版63頁 八幡書店版第2輯 58頁 修補版 校定版68頁 普及版27頁 初版 ページ備考
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本文  岩神の祠の前に健寅彦と云ふ大中教の宣伝使は、数多の従者と共に酋長夫婦を木に縛りつけ、右手に剣を持ち左手に徳利を握りながら、一口呑ンでは、
『呑めよ騒げよ一寸先や暗よ、暗の後には月が出る。
おい酋長、貴様は如何しても三五教を思ひ切らぬか。左様な邪教を貴様が率先して信仰をいたすものだから、白雪郷の奴等は残らず呆けるのだ。さあ、俺の歌を唄つてこの酒を喰らへ。結構な醍醐味ぢやぞ。之を呑めば生命が延びる、気分が晴れ晴れする、大中教がこンな結構な酒を呑まして、その上に面白い歌を唄うて遊べと云ふのに、貴様は何が気に入らぬか。夫が嫌ひなら此剣の尖で突いて突いて突き捲り、なぶり殺しにしてやらうか。おい、よく考へて見ろ、結構な酒を喰らつて鼻歌唄つて、この世を天国浄土のやうにして勇みて暮すがよいか。肩の凝るやうな苦しい歌を唄つて、甘い酒も好う呑まず、甘い物も碌に食はず、善と悪とを立別けるなどと仕様も無い。ちと考へてみよ。こンな事は子供でも善悪が解りさうなものだ。斯うして縛りつけた上は、活さうと殺さうとこの健寅彦の宣伝使様の手の裡にあるのだ。返答聞かう』
と左の手に酒を満たした徳利を持ち、酋長の唇の辺に押付け、一方には鋭き剣を眼の前にひらつかせ乍ら、返答如何にと待ち構へ居る。
 酋長夫婦は目を閉ぢ、口を結びて聞えぬふりを為し、心中に深く野立彦命、野立姫命の救ひを祈願し居たり。この時向ふの方より木霊を響かせ乍ら、
『神が表に現はれて  善と悪とを立別る』
との宣伝歌を歌つて進み来るものあり。健寅彦はこの声を聞くと共に、手に持てる剣と徳利を思はずバツタリと落し、頭を拘へ顔を顰めてその場に縮みけり。健寅彦の従者共は、同じく目を閉ぢ頭を拘へて大地に蹲踞み震ひ居る。
 この場に悠々として現はれたる宣伝使は、擬ふ方無き日の出神なり。日の出神は大樹に縛りつけられたる酋長夫婦を始め、その他の人々の縛を解きしに、健寅彦の一派は息を殺して縮み居るのみ。日の出神は声張り上げて宣伝歌を歌ふ。酋長夫婦もつづいて宣伝歌を頻りに歌ひはじむる。この場にありし白雪郷の老若男女は、またもや一斉に宣伝歌を唱へ出したるに、健寅彦は堪り兼ね鼠の如くなつて数多の従者と共に、山頂目蒐けてこそこそと身を隠しける。
 日の出神は酋長夫婦の固き信仰を激賞し、これに面那芸神、面那美神の名を与へたまふ。面那芸神は、妻の面那美神に白雪郷を守らしめ、自ら宣伝使となつて天下に道を弘めたりける。
 この時谷の奥に当つて騒々しき物音聞えたり。酋長面那芸神は、日の出神に向ひ、三五教の女宣伝使祝姫は彼らの一味に捕はれ、山奥に誘ひ行かれし事を涙と共に物語れば、日の出神は聞くより早く、二人を後に随へ、山奥指して足早に進み行く。
 後に残りし白雪郷の老若男女は、口々に日の出神の救援を喜び合ひける。
甲『やつぱり信心はせなならぬものだのー。俺はもう迚も此奴は叶はぬと思つたので、一杯呑まされてやらうかと思つた。さあ、さうすると喉の虫奴が御苦労さま、御苦労さまと唸りよつてな。如何にも斯うにも堪つたものぢやない。けれども肝腎の酋長が、彼の甘さうな酒も呑まずに、殺されても信神は止めぬと仰有るのだもの、俺一人が裏切る訳にはゆかず、どうして好からうと思つてゐたが、さあ今九分九厘と云ふ所で女宣伝使の仰有つたやうに結構な神さまが出て救けて下さつたのは、有り難いのう』
乙『あゝ、俺も結構だつたが、しかし八に鹿に六はどこへ行きよつたのだらうか。白雪郷の掟として生るも死ぬるも酋長様と一緒にせなくてはならぬのに、彼奴め中途で飛び出しよつて仕様の無い奴だ。孰れ見せしめに三人の奴らは、酋長からどえらい罰を被るかも知れないぜ』
丙『いや、そンな心配は要らぬよ。三五教は大慈大悲の教だから何事も「直日に見直せ、聞直せ、身の過ちは詔り直せ」といふ信条がある。彼れ丈の信仰の強い酋長さまは、そンなことの判らぬ御方ぢやない。況して日の出神様の御弟子となつて面那芸とか、浦凪とか云ふ名まで頂かつしやつたぢやないか。エーン』
甲『浦凪なンて、そンな恐ろしい名は御免だ。ウラル彦の名を思ひだすよ。うらの所の難儀になるやうな、そンな名は替へて欲しいものだなア』
丁『浦凪ぢやない。好う聞いて置かぬかい二度も三度も仰有つたじやらう。この方の酋長さまは面那芸の神さま、奥様は面那美の神さまとなられたのだよ』
甲『そらまあー、何といふ辛い難儀な名を貰はつしやつたものだナア。奥さまも奥さまぢや、辛い涙の出るやうな名を貰つて、勇むで行かつしやつた。なンぼ宣伝使さまだつて、そンな名は、俺らは御免だよ』
乙『おい、心配するない。貴様らには滅多にそンな名は下さらぬワ。面那芸といふ事はなあ、貴様らが皆難儀な面をさらしよつて、もうウラル彦の宣伝使の方につかうかと云つて、涙を流して吠面かわいてゐたのを、それをば神さまに祈つて助けて下さつた御名だ。それで面那芸、面那美と申上げるのだよ』
 斯かる所へつまらぬ顔をして恐々ながら、八と六と鹿とは現はれ来たりければ、一同は、
『やい、腰ぬけ野郎』
と口々に呶鳴りける。
(大正一一・一・三〇 旧一・三 外山豊二録)
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