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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名2第4篇 鬼門より竜宮へよみ(新仮名遣い)きもんよりりゅうぐうへ
文献名320章 副守飛出〔320〕よみ(新仮名遣い)ふくしゅとびだし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-06 18:12:12
あらすじ竜宮島(冠島)には、潮満・潮干の玉が隠されている。船が着くと、船客たちはみな上陸し、竜宮の宮に詣でた。日の出神は田依彦、時彦、芳彦を伴って島の山の奥深くへ分け入った。田依彦の案内でたどり着いたところは、芳しい匂いのする酒が天然に湧き出ていた。竜宮の乙姫様が造った、酒の滝であるという。日の出神と田依彦は、お祭りをしてそれが終わったら酒を飲ませてやる、といって時彦、芳彦をじらし、最後に二人を後ろ手に縛って、酒をひしゃくでくみ上げて、顔の近くに突きつけた。時彦と芳彦が何とか酒を飲もうと舌を出すうちに、卵のような焼け石が口から飛び出して、滝つぼのなかに落ち込んだ。それ以来、時彦、芳彦は酒の匂いも嫌になってしまった。時彦と芳彦は、竜宮島の宮の造営を命ぜられ、久々司、久木司という名を与えられ、住家を造る役目となった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月31日(旧01月04日) 口述場所 筆録者谷村真友 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版122頁 八幡書店版第2輯 79頁 修補版 校定版128頁 普及版52頁 初版 ページ備考
OBC rm0720
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本文 『竜宮見たさに沓島越せば、竜宮送りの風が吹く』
と節面白く船頭は歌ひ始めたり。長閑な春の海面に幾百千とも知れぬ白き帆の往来する様、春の野に胡蝶の群の飛交ふ如き美々しき光景なり。
 船は漸くにして潮満、潮干の玉の隠されたる冠島の岸に着きぬ。又もや船の諸人は一人も残らずこの島に上陸し、竜宮の宮に詣でける。
 日の出神は、祝姫、面那芸二人に、船客に向ひ宣伝を命じ置き、自らは田依彦、時彦、芳彦を伴ひ、当山の奥深く姿を隠しける。田依彦は道案内として先に立ち、日の出神はその後に随ひ行く。時彦、芳彦は屠所に曳かるる羊の如く、悄然として恐る恐る追従する。
芳彦『オイ時公、貴様あまり頑張るものだから、たうとうこンな山奥に引張り込まれるのだ。どンな目に遭はされるか知れやしない。貴様の胸を見い、大きな波を立てて胸をどきどきどき彦ぢやないか』
時彦『ヨヽヽ芳公、そんな事は止しにしてくれ。俺やもう一足も歩けない。アイタタ』
とバツタリ谷道に倒れてしまつた。田依彦は後振り返り、
『オーイ、早く来ぬかい。何をグヅグヅしてるのだい。なめくじだつて、もつと足が早いぞ。この山の奥には結構な甘い酒が、泉の如くに湧いて居るのだ。そこで貴様らに飲ンで飲ンで飲堪能さしてやるのだから喜ンで来い。何事も神直日、大直日に見直し、聞き直して、宣り直す三五教の教だ。喜ばして改心さして遣らうと仰しやるのだ。何も恐いことはない。酒ぢや酒ぢや早う来ぬかい』
 時彦は酒と聞くや、俄に元気回復し、
『ヤアヤア有難い。ほンたうかい』
と云ひながら走り出し、どんどん進んで山奥の谷間に屹立する大岩の麓に付く。何とも言へぬ、馨しき匂ひのする酒が天然に湧き出て居るのを見て、時彦は鼻蠢かし咽をクウクウ言はせながら、直に掬つて飲まむとするを、田依彦はこれを遮り、
『待て待て、この酒は無茶苦茶に飲ンだら、命が無くなる。マア神さまに御願ひした上の事だ』
時、芳『死ンでもよいから早く飲まして呉れ、モウ堪らぬ堪らぬ』
 日の出神は時彦の顔をギロリと睨みけるに、時彦は睨まれて縮み上がり打ち伏しぬ。
田依彦『ここは酒の滝といふ所だ。竜宮の乙姫さまがお造り遊ばした酒だから、祝詞を上げてお祓をしてそれからの事だ。サア貴様は祓戸になれ、俺は斎主になつてやらう。芳彦、貴様は神饌係だよ』
『神饌係だつて、何をお供へするのだい』
『貴様の持つて居る魂を御供へするのだよ』
 芳彦、時彦一度に、
『玉を供へたつて折角拾うた玉は、竹熊に奪られてしもうたではないか』
 田依彦は、
『その玉なら俺も奪られたのだ。貴様の魂を供へる事だよ。貴様が酒が飲みたい飲みたいといふ副守護神の魂を綺麗サツパリ御供へせいと云ふ事だい』
時彦『何時も酒を見るとクウクウ云つて、臍の下あたりから上がつて来よるあの魂が副守護神と云ふのか、それなら俺は四つばかりあるわい』
芳彦『俺も二つほど持つて居る』
田依彦『時彦の持つて居る四つの魂と、芳彦の持つて居る二つの魂をお供へするのだ。皆なその副守の魂奴が酒を喰つて貴様の魂や身体をわやにするのだ。綺麗サツパリと御供へしてしまへ』
時彦『御供へせよと言つたつて咽まで出て来ても口へは出て来ぬのだもの。俺の腹を切つたつて出て来やしないし、どうすれば好いのだ。アヽ、甘さうな酒だな、飲みたい飲みたい』
日出神『早く御祭を始めぬかい』
『ハイハイ今始めます。一寸手を洗うて手水を使ひまして嗽を致します。待つて下さい』
田依彦『貴様らは狡猾い奴だナ。嗽するなンて、酒を飲まうと思つて、早くしないか』
『ハイハイ友達の好みで、チツト許り大目に見て呉れても。好ささうなものだなあ』
と芳彦は時彦の耳に口を寄せて囁く。かくして祭典は無事に済みけるが、肝腎の御供へ物の魂はどうしても出て来ない。
時彦『サア御祭が済ンだ。約束の通り御神酒を頂かして貰はうかい』
田依彦『まだまだ待てまて、俺のいふ通りにして魂を出すのだ』
と云ひながら日の出神に目配せした。日の出神は時彦を後手に廻し堅く縛り上げたまふ。田依彦は芳彦の手を後に廻し、是れまた同じく縛り上げたり。二人は泣声を出しながら、
『オイ田依彦、アンマリじやないか。田依ない彦、頼りに思ふこなさまはナンデこの様に無情いぞよ。アーン アーン アーン』
田依彦『貴様らは狂言をするのか馬鹿ツ! 飲みたけりや飲まして遣らう』
と言ひながら、匂ひの高い甘さうな酒をこの滝壺から大の柄杓に汲み上げて、二人の口先に交る交る突付ける。二人は舌を出して飲まうとする。田依彦が、
『ドツコイさうは行かぬ』
と後へ引く。また杓を出す。舌を出す。また後へ引く。突出す。舌を出す。杓を引く。忽ち時彦は「カツ」と声を出した矢先に、卵の如き焼け石が飛出し滝壺の中に「ジユン」と音を立てて落込みける。芳彦の咽からもクワツクワツといふ音がして、二つの焼石が飛び出し滝壺の中に落込みける。芳彦は、
『アア俺もう酒の匂ひを嗅ぐのも嫌になつたよ。酒は嫌ひだよ、酒は嫌ひ 嫌ひ』
と首を振りだす。田依彦は、
『今迄アレほど好きな酒を嫌ひといふことがあるか、飲め 飲め』
と杓を突出す。芳彦は悲しさうに泣き出しける。
『そんなら好し』
と田依彦は芳彦の縛を解く。芳彦は目を、ギロギロさせながら恨めしさうに酒の滝壺を眺め居る。田依彦はまた杓に酒を汲ンで今度は時彦の鼻の先に突出す。時彦は舌を出す。田依彦は、
『オツトドツコイそれやならぬ』
と杓を後へ引く。また杓を出す。舌を出す。また後へ引くと俄に「クワツクワツクワツ」と三声叫びしその途端に咽から焼石三箇一度に飛び出し、酒の滝壺の中に『ジユンジユンジユン』と音をさせて落ち込みにける。田依彦は、
『サア時彦御祭は済ンだ。御供物も是れで終ひだ。何ぼなと酒を飲め』
と杓に酒を汲ンで口の辺へ持つて行く。時彦は目を塞ぎ口を閉ぢ、首を左右に振つて、
『もうもう酒は匂ひを利くのも嫌だ。酒は嫌ひだ、勘忍々々』
と頭を左右に振る。日の出神は時彦の縛を解きけるが、是れぎり二人は酒の匂ひを嗅ぐのも嫌になりたりける。ここに時彦、芳彦は竜宮島の宮の造営を命ぜられ、「久久神、久木神」といふ名を貰つて住家を造る役目となりぬ。
(大正一一・一・三一 旧一・四 谷村真友録)
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