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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名2第4篇 鬼門より竜宮へよみ(新仮名遣い)きもんよりりゅうぐうへ
文献名321章 飲めぬ酒〔321〕よみ(新仮名遣い)のめぬさけ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-06 18:01:40
あらすじまた海面は波荒く、船の出港は見合わされ、ほとんど一ケ月逗留することになった。この島は、潮満、潮干の玉が秘め隠され、豊玉姫神、玉依姫神がこれを守護していた。大洪水以前に、ウラル彦の軍勢のために玉は取られ、二柱の女神は遠く東に逃れて、天の真奈井の冠島、沓島に隠れたという、因縁の深い島である。その後は、ウラル彦の部下の荒熊別という者が占領して酒の泉を湛えた。神伊邪那岐神がこの島の守護神として真澄姫命を遣わした。そのため、荒熊別は常世の国へと逃げ帰ってしまった。日の出神は真澄姫命の神霊を祭るために、久々司、久木司に命じて、竜宮島の竜の宮を造営させた。そして、田依彦を飯依彦と改名し、この島の守護神とした。造営の人夫たちは、目付け役の久々司が行ってしまった後で、酒が飲みたいとこぼしている。そこへ、久木司がやってきて、自然に湧いている酒だから、遠慮なく飲むがよい、と飲酒を許可した。人夫たちは先を争って酒の泉にやって来たが、大きな岩で蓋をされ、ところどころに人の口くらいの孔があいているのみであった。人夫たちはその孔に舌を入れて、何とか酒を飲もうとしていたが、そのうちにめいめい喉がごろごろ鳴り出して、腹の中から焼け石が飛び出した。それ以降、この郷の人間は酒の匂いを嗅ぐのもいやになり、神の教えをよく守り、飯依彦の指揮にしたがって楽しく生活を送ることになった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月31日(旧01月04日) 口述場所 筆録者井上留五郎 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版129頁 八幡書店版第2輯 81頁 修補版 校定版135頁 普及版56頁 初版 ページ備考
OBC rm0721
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本文  またもや海面は波荒く猛り狂ひ、出帆を見合はすの止むなきに致り、風を待つこと殆ど一ケ月に及びける。
 この島は潮満、潮干の玉を秘めかくされ、豊玉姫神、玉依姫神これを守護し給ひつつありしが、世界大洪水以前に、ウラル彦の率ゆる軍勢の為に玉は占領され、二柱の女神は遠く東に逃れて、天の真名井の冠島、沓島に隠れたまひし因縁深き嶋なりける。
 その後はウラル彦の部下荒熊別といふ者、この島を占領し、数多の部下を集め、酒の泉を湛へて、体主霊従のあらむかぎりを尽しゐたり。然るに天教山に鎮まり給ふ神伊邪那岐神はこの島の守護神として真澄姫命を遣はし給ひぬ。それより荒熊別は神威に怖れ、夜陰に乗じて常世の国に逃げ帰つたりける。その時の名残として、今に酒の泉は滾々と湧き出て居たるなりき。
 日の出神は真澄姫命の神霊を祭る可く、久々神、久木神に命じ、大峡小峡の木を伐り、美しき宮を営ましめたまふ。是を竜宮島の竜の宮といふ。而して田依彦をこの嶋の守護神となし、名を飯依彦と改めしめたまへり。
 久々神、久木神はこの嶋の人々をかり集め、宮殿造営の棟梁として忠実に立働きぬ。嶋の谷々には木を伐る音、削る音、人の叫び声盛ンに聞えける。
 日の出神は海辺の見はらし佳き高殿に昇りて、海上の静まるを待ちゐたまひぬ。
 山の奥には彼方にも此方にも、斧鉞の音丁々と聞え盛に伐木しゐたり。
『おい、皆一服しやうじやないか。いま久々神があちらへ行きよつたで、叔母の死ンだも食き休みと云ふ事があるよ。鬼の様な大将が彼方へ行つた留守の間に、鬼の来ぬ間の洗濯だ。おいおい、休め休め』
『おーい皆の奴、一緒に休まうかい』
『それでも休むと音が止るから、また呶鳴られるよ』
『休ンで、そこらの木を叩いて居ればよいワイ』
『一体、宮を建てるとか云つて、まるで吐血の起つた様に、夜さにも俺らを寝ささずに、ひどく酷使ひよるじやないか。結構な酒はあーして湧いて居るのに、飲まれぬなどと吐かしよるし、堪つたものじやない。合間には酒位、ただ湧いて居るのじやもの、飲まして呉れたつてよかりさうなものじやないか。一体こりや何の宮だらう』
『酒を飲まさぬから、お前達ア腹が立つ、その腹を立てさせぬため、神さまを祭らすのだ。それで何でも、腹がたつよ姫とか、真澄姫とか桝呑姫とかいふ神さまじやさうだよ』
『けたいな神さまだね。立つものは腹ばかりぢやない。疳癪も立つし、鳥も立つし、立疳姫の神やら、立鳥姫の神も祭つたらどうだらう』
『馬鹿いふない。それまた彼処へ痛い奴さまが来たぞ。それそれ釘の神さまだ』
『釘ぢやない。久木神さまといふのだい。なまくらをして居ると、首きりの神さまにならつしやるぞ』
 かかる処へ久木神は廻り来たり、
『オー、皆の者御苦労だな。酒が飲みたさうな顔をして居るが、酒はあまり飲まぬがよいぞ。俺も今まで酒が好きだつたが、たうとう嫌ひになつて了つた。好きなものを無理に止めよと云つても、止むものぢやない。お前たちは充分に酒を飲ンで満足したら、しまひには舌がもつれ口が痺れ副守が飛出して酒が飲めなくなるかも知れぬぞよ。飲みたい飲みたいと思つて辛抱して居ると、根性が曲つてよく無い。酒は百薬の長だ、御神酒あがらぬ神は無いから、お前たちも神さまになりたくば、ちつとも遠慮は要らぬ。自然に湧く酒だから遠慮なしに飲ンで来い』
と云ひ捨てて、この場を立ち去る。後見送つて、
『おいおい、久々神は酒を飲むなと、喧しう吐かすが、いま来た久木神さまは流石に苦労人じやなあ。根性が歪ンではいかぬから、飲みたい丈け飲ンで来いと云ひよつたぞ。お許しが出たのだ。天下御免だ。飲ンで来うかい』
『よからう、よからう』
と、大勢は先を争うて、酒の湧き出る滝壺指して走り行く。
 来て見れば酒の泉の滝壺は、千引の岩にてすつかり包まれ、処々に人の口位な孔が上面に開いてをる。
『やいやい皆の奴、久木神も腹が悪いじやないか。こンな巨大きな岩で、何時の間にやら、ぴつたりと蓋をして置きよつて、飲みたけりや飲ンで来いなンて、俺らを馬鹿にするじやないか』
『さうだな、しかし其処に孔が開いて居るじやないか。その孔から口を突込ンだらどうだい』
『おー、それもさうだ。皆の奴ここから飲まう飲まう』
 一同は岩蓋の上に取り縋つて、その孔より舌を突き出して見てゐたるが、
『おい甘さうな酒は沢山あるが、舌が届かぬワイ。もう一分といふ所だ』
『貴様舌が短いのだ、どれどれ俺が飲ンで見てやらう』
『貴様は何時も舌の長い奴だ。舌長に物を吐かすから、こンな時にや重宝だ。やつて見よ』
『エヘン』
と咳払ひしながら、岩の孔から舌を突込ンで見たが、是も届かない。交る交るやつて見たが、どうしても酒の所までは、間隔があつて嘗めることが出来ない。しかしその孔からは何とも云へぬ馨しい酒の匂ひがして居るので、各自に口を当てて匂ひを嗅いだ。喉は各自にごろごろ唸り出して、腹の中の焼石は残らず酒壺に向つてジユンジユンと音を立てて、落ち込みにける。
 それよりこの郷の人間は、酒の匂ひを嗅ぐさへも嫌になり、神の教をよく守り、飯依彦神の指揮に従ひて、名にし負ふ竜宮島の楽しき生活を送りたりける。
(大正一一・一・三一 旧一・四 井上留五郎録)
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