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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名22篇 四十八文字よみ(新仮名遣い)しじゅうはちもじ
文献名3第7章 蛸入道〔357〕よみ(新仮名遣い)たこにゅうどう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-02 19:09:31
あらすじ闇の中に光明輝く姿を現した清彦は、絶対無限の神格備わり、眼もくらむばかりであった。猿世彦と駒山彦はしばらく息をこらしていたが、清彦の姿はばったりと消えうせた。そして闇の中に大きな声が聞こえてきた。その清彦の声によると、今まで八頭八尾の大蛇の霊魂にたぶらかされて悪事の限りを尽くした自分だが、三五教の大慈の教えを聞いて、吾が身が恐ろしく、恥ずかしくなった。日の出神の後を追って真人間になり、悪の改心の模範を天下に示そうと日夜、神に祈った。そのお恵みで、朝日丸に乗り込んで日の出神にめぐり合い、教訓を賜って霊魂は神直日大直日に見直し聞き直され、今は日の出神のご名代にまでなることができた。汝ら二人も、我を手本として片時も早く悪を悔い、善に立ち返って世界の鏡を謳われて黄泉比良坂の神業に参加せよ。汝らの改心ができれば、また会うときもあろう。今は汝らが心の雲に隔てられて、自分の姿を現すことができないのが残念ではある。そして辺りを照らす大火光となって中空に舞い上がり、智利の都を指して飛んでいった。猿世彦と駒山彦はこの様を目の当たりにして、清彦の改心に心を打たれ、曲がりなりにも宣伝使となり、せめてもの罪の贖いをしよう、ということになった。そしてそれぞれ分かれてめいめい、高砂洲の宣伝を行うことになった。猿世彦は南へ、駒山彦は北へと袂を分かった。猿世彦は、光った頭から湯気を立てて、カン声を振り絞って海辺の村々を宣伝して回った。ある漁村で漁師たちが猿世彦の姿を見て、大きな蛸が歩いてくると勘違いし、蛸の親分だと思って不漁の相談を持ちかけた。猿世彦は快諾して、海に向かってカン声を絞って宣伝歌を歌い始めた。すると海面にたくさんの蛸が頭を出した。猿世彦が差し招くと、蛸たちはざるの中に数限りなく飛び込んだ。このことが漁師仲間の評判となり、猿世彦は尊敬されることになった。この村はそれより、蛸取村と呼ばれるようになった。蛸取村より数十町西方に、アリナの滝という大瀑布があった。猿世彦はそこに小さな庵を結んで、この地方の人々に三五教の教理を宣伝することになった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月06日(旧01月10日) 口述場所 筆録者有田九皐 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版45頁 八幡書店版第2輯 167頁 修補版 校定版47頁 普及版20頁 初版 ページ備考
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本文  忽ち暗の中に光明赫灼たる神姿を現したる清彦は、絶対無限の神格備はり、仰ぎ見るに眼も眩むばかりに全身輝き渡りけり。
 猿世彦、駒山彦は、此姿に慴伏して屢し息を凝らしゐたるに、清彦の姿は、パツタリ消えうせ、暗の中より耳を裂く如き大なる声聞え来たる。
『猿世彦、駒山彦、よく聞けよ。吾は汝の知る如く、今までは八頭八尾の大蛇の霊魂に誑かされ、曲事のあらむ限りを尽くしたることは、汝らの熟知する通りなり。然れど吾は三五教の大慈悲の神の教を聞きてより、今までの吾身の為し来りし事が恐ろしく且つ恥しくなり、日の出神の後を追ひ、真人間に成つて今までの悪に引かへ、善一筋の行ひをなさむ、悪も改心すれば此通りといふ模範を、天下に示すべく日夜、神に祈りゐたるに、神の恵みは目の当り、不思議にも名さへ目出度き朝日丸に乗り込み、日の出神様に廻り会ひ、結構な教訓を賜りてより、吾霊魂は、神直日大直日に見直し聞き直され、今は清き清彦が霊魂になつて世界の暗を照す日の出神の御名代、汝ら二人は吾改心を手本として、一時も早く片時も速かに悪を悔い、善に立帰り、世界の鏡と謳はれて、黄泉比良坂の神業に参加せよ。汝の改心次第によつて、吾は再会することあらむ。汝らが心の雲に隔てられ、遺憾ながら、吾姿を汝らの目に現はすことは出来なくなりしぞ。駒山彦、猿世彦、さらば』
と云ふより早く、又もや四辺を照す大火光となりて中空に舞上り、智利の都を指して中空をかすめ飛去りける。
猿世彦『オイ駒公、本当に清彦は日の出神となりよつたな。もうこれから清彦の悪口は止めにしようかい。吾々を山の奥へ連れて行きよつて、放とけ捨を喰はした腹立まぎれに心を鬼にして、何処までも邪魔をしてやらうと思つたが、たうてい悪は永続きはせないよ。お前と俺とが船の中で、あれだけ拳骨を喰はしてやつても、俺の体は鉄じやといひよつて、痛いのを辛抱して馬鹿口を叩いて笑ひに紛らして居たのは、一通りの忍耐力ではないよ。思へば馬鹿な事を吾々はしたものだナ。日の出神様はあの時に俺らの行ひを見て、何と端たない奴だ、訳の判らぬ馬鹿者だと心の中で思つて御座つたぢやらう。俺はソンナ事を思ひだすと情無くなつて消えたい様になつて来るわ』
駒山彦『それならこれから何うすると云ふのだイ』
猿世彦『まあ、改心より仕方が無いな。清彦のやうにああ云ふ立派な日の出神になれなくても、せめて曲りなりにでも宣伝使になつて、今までの罪を贖ひ、身魂を研いて、黄泉比良坂の神業に参加したいものだ。どうでトコトンの改心は出来はしないが、せめて悪口なと云はないやうにして、世界を助けに廻らうじやないか。而して一つの功が立たら又清彦の日の出神が会うてくれるだらう。その時には立派な宣伝使だ、天の御柱の神の片腕に成つて働かうと儘だよ。是から各自に一人宛宣伝する事にしようかい』
駒山彦『よからう よからう』
と二人は茲に袂を別ち、何処とも無く足に任せて宣伝歌を覚束無げに歌ひながら、進み行く。夜は仄々と白み初めぬ。猿世彦は南へ、駒山彦は北へ北へと進み行く。
 猿世彦は光つた頭から湯気を立てながら、力一ぱい癇声を振搾つて海辺の村々を歌つて行く。ある漁夫町に着きけるに、四五人の漁夫は猿世彦の奇妙な姿を見て、
甲『オイ、此間からの風の塩梅で漁が無い無いと云つて、お前たちは悔みてゐるが、天道は人を殺さずだ。あれ見よ、大きな章魚が一疋歩いて来るわ。あれでも生捕つて料理をしたら何うだらうかナア』
乙『シーツ、高うは云はれぬ、聞いて居るぞ。聞えたら逃げるぞ逃げるぞ』
甲『章魚に聞えてたまるかい。なんぼ云ふても聞かぬ奴は、彼奴は耳が蛸になつたと云ふだろ、かまはぬかまはぬ大きな声で話せ話せ。オイ、そこへ来る蛸入道、俺はな、此村の漁夫だが、此間から漁が無くて困つて居たのだ。貴様の蛸のやうな頭を俺に呉れないかイ』
猿世彦『あゝあなた方は此処の漁夫さまですか。蛸は上げたいは山々ですが、一つよりかけがへの無いこの蛸頭、残念ながら御上げ申す訳には行きませぬ』
丙『なにをぐづぐづ云ふのだイ。聞かな聞かぬで好い、与れな与れぬで好い。皆寄つてたかつて、蛸を釣つてやるぞ』
猿世彦『それは結構です。各自に御釣りなさい。蛸が釣れるやうに祈つて上げますから』
甲『お前さまが祈る。これ丈とれぬ蛸が釣れますかい』
猿世彦『釣れいでか、そこが神さまだ。釣るのが邪魔臭ければ、お前さまも、わしの云ふやうに、声を合して宣伝歌を歌ひなさい。蛸はヌラヌラと海から勝手に這上つて、お前さまの持つて居る笊の中に這入つて呉れる。そこを蓋を閉て家へ持つて帰るのだ』
 猿世彦は、口から出まかせに、コンナ事を云つてしまひける。
乙『おい、蛸の親方、本当にお前の云ふ通りにすれば、蛸は上つて来るかい』
甲『そら、きまつた事だよ。何分親分が云はつしやるのだもの、乾児が出て来ぬ事があるかい。夫れだから貴様達もこの親分の云ふ事を聞けと云ふのだ。俺が呼んでも来たり来なかつたり、貴様らは不心得な奴だぞ。もしもし蛸の親方、蛸を呼んで下さいな』
 猿世彦は海面に向ひ、疳声を搾りながら、宣伝歌を歌ひ始めた。漁夫はその後について合唱した。海面には処々に丸い渦を描いて、蛸入道の頭がポコポコと顕はれて来た。猿世彦は、
『来れ 来れ』
と蛸に向かつて麾いた。蛸はその声の終ると共に、笊の中に数限りなく飛び込みけり。このこと漁夫仲間の評判と成りて、猿世彦を日の出神と尊敬する事となりぬ。それより此漁村は、蛸取村と名付けられたり。
 蛸取村より数十町西方に当つて、アリナの滝と云ふ大瀑布あり。猿世彦は其処に小さき庵を結び、この地方の人々に三五教の教理を宣伝する事となりける。
(大正一一・二・六 旧一・一〇 有田九皐録)
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