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文献名1霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
文献名2第1篇 千軍万馬よみ(新仮名遣い)せんぐんばんば
文献名3第12章 山上瞰下〔442よみ(新仮名遣い)さんじょうかんか
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-14 20:52:43
あらすじ一行は固虎の案内で、シラ山山脈を越えている。ロッキー山は西にそびえている。珍山彦は淤縢山津見に、ロッキー山の伊弉冊命が本物かどうか、問いかけている。淤縢山津見は竜宮城で別れるときに、伊弉冊命が「ロッキー山に行く」と言っていたことを信じていた。固虎も常世の国の人民一般は、ロッキー山に現れたのが真の伊弉冊命であると信じている、と言う。珍山彦は、神様の経綸は表もあり裏もある、と言って、注意を促す。また、ロッキー山に行ってみて、現実が思っていたとおりと違っていても、信仰をぐらつかせることがあってはならない、と諭した。固虎は、昨冬にここにいる松・竹・梅と同じ名前の宣伝使が常世城に囚われてきて、そのときの騒動で自分は門番から上役に変えられた、とこれまでの経緯を語った。すると、ロッキー山の方から鬨の声が聞こえてきた。一行はシラ山の山頂でそれぞれ袂を分かち、各自行動することになった。
主な人物 舞台シラ山山脈の峠 口述日1922(大正11)年02月22日(旧01月26日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年8月20日 愛善世界社版100頁 八幡書店版第2輯 426頁 修補版 校定版104頁 普及版46頁 初版 ページ備考
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本文  固虎の案内にてシラ山山脈を春風に吹かれながら、漸うにしてその峠の巓に達したり。東には漂渺たる大海原、際限もなく展開し、西に聳ゆるロッキーの山は、中腹より山巓にかけて、或は濃く、或は淡き叢雲に包まれてゐる。
 一行六人は峠の青草萠ゆる芝生の上に息を休め、四方の景色に眼を新しく洗ふ。
珍山彦『ホー、淤縢山さま、貴方は矢張りロッキー山に伊邪那美尊、日の出神が坐しますと信じて居ますか』
淤縢山津見『無論の事です。之がどうして信ぜられずに居れませうか。現に竜宮城から御供して海上で別れた時、之からロッキー山に行つて身を隠す、とお口づから御言葉を承はつたのですから』
『成程、それも無理のないことだが、私の神懸りで言つた事は、如何しても信じませぬか』
『信じない事もないですが、今の処では五里霧中に彷徨するとでも言ふやうな心理状態です』
『神様の御経綸は、その大体に於て一定不変であつても、其処には又裏もあり表もあるものだ。奥の奥にも奥があれば、底の底にも底がないほど深い底のあるもの、そこの処をよく審神せぬと大変な間違ひが起りますよ。それだから神の道の宣伝使は、見直し、聞き直し、宣り直せと神歌に示されてあるのですよ』
『ハア、その真偽、当否は時の問題です。吾々は一日も早く万難を排して敵の厳しき警戒を突破し、ロッキー山に登つてその消息を探つて見たいと思ふのです』
『斯う申すと済まぬが、貴方の心の裡は恰度、あのロッキー山の様ですよ。半分は雲に包まれ、半分は春の野山の生地を顕はして居るのと同じ事だ。心の雲を晴らさねば、真実の神の経綸はハツキリしない。この固虎に聞いたら一番よく分るであらう』
固虎『いえ、私も確な事は申上げられませぬが、常世神王の仰せによれば、伊邪那美の大神様、日の出神様は、ロッキー山に居られるとの事、常世城は申すに及ばず、一般の人民も左様だと思つて確く信じて居ります。吾々も、どちらかと言へば、信じて居る方の仲間ですよ』
珍山彦『淤縢山さまと云ひ、固虎さまと云ひ、実に曖昧模糊の考へですな。貴方の精神は不安ではありませぬか。よくマア、そんな頼りない事で信念が続くかと、不思議に思はれてなりませぬワ』
淤縢山津見『何を言つても、愚昧な吾々人間の考へで、広大無辺の神様の御神業がハツキリと分るべきものでない。寧ろ分らないのが当然だらうと思ひます。神様の御神業に対して審神をしたり、或は批評をするのは、人間の分際として僣越だと考へて居ります。只何事も刹那心で、行く処まで行かなくては分らない』
『若し伊邪那美神様、日の出神様が贋物であつたら、その時貴方は如何致しますか』
『その時始めて心の雲霧が晴れ、心の海に真如の日月が輝き渡るのです。只何事も惟神です』
『腹を立てる様な事はありますまいか』
『三五教の宣伝歌の通り、その時こそは直日に見直し聞き直し、宣り直す覚悟です』
『ホー、そのお考へならば貴方も宣伝使の及第点が得られますよ。大変に信仰の持ち方が変つて来ましたなア。信仰の力は山をも動かすと云ふ事があるが、貴方はあの山を自分の前に引寄せるだけの信仰力をもつて居ますか』
『到底そんな事は霊的の事で、現実的には出来ますまい。貴方は出来ますか』
『出来ますとも、霊界のみでない、現実的に私の前に山を引寄せて見せませう。貴方等も私の後に跟いて御出でなさい。手を翻せば雨となり、手を覆へせば雲となる、自由自在の世の中、万々一吾言霊によつて動いて来なかつた時は、山の神さまに何か御都合があつてお忙しいのだらうから、こちらの方から歩いて往つて目の前に引寄せるまでの事ですよ』
『大抵ソンナ事だと思つて居た。それなら吾々も海でも引寄せるワ』
『オー、固虎さま、貴方は今の今まで、悪神の眷属となつて大変に吾々を苦しめようとされたが、ようマア俄に掌を返した様に変つたものですなア』
固虎『手を翻せば雨となり、手を覆へせば雲となる』
珍山彦『オイオイ、真似をしてはいかぬよ。悪なら悪、善なら善、何処迄もつき通したら如何だ。悪かつたと思つて、俄に精神を燕返しにすると言ふのは、日頃剛毅の固虎さまにも似合はぬではないか』
『これは心得ぬ宣伝使のお言葉、悪を謬つて善と信じた時は、何処までも猛進するのが男の本領だ。悪かつたと思つて気がついた時は、忽ち見直し、聞き直し、宣り直すのが誠の男ではありますまいか』
『変説改論の御本尊、宣り直しは結構だ。角の生えた牛雲別や嘴の鋭い鷹取別を離れて、牛を馬に乗り換へのり直すと云ふやうなものだなア』
淤縢山津見『アツハツハヽヽ、面白い面白い』
珍山彦『固虎さま、またロッキー山へ行つたら、燕返しではないかなア。変説改論の張本だから案じられたものだよ』
固虎『巌より堅い固虎の鉄の様な腹中を見て下さい。さう馬鹿にしたものぢやありませぬよ。かたがた以て無礼千万なことを仰有いますが、それに就ても合点のゆかぬは、常世城の昨冬の不思議、今此処に御座る三人の宣伝使様と同じ名のついた宣伝使が、間の国から召捕られて常世城に入り、常世神王の大変なお気に入りであつた処、何時の間にやら煙の様になつて消えて了つたのです。そのとき私は門番をやつて居ましたが、照彦と言ふ三五教の宣伝使も召捕られて、これまた不思議や、煙となつて消えて了ひ、種々な不思議を現はし、常世神王や鷹取別等を心の侭に散々の目に遇はし、私はその時の罰によつて、門番から常世城の上役人に落されましたのか、上げられたのか、イヤハヤ、もう訳の分らぬ事ですよ。之が所謂、迷宮と云ふのでせうか。門番も俄に天に上つて羽振りを利かし、大勢の家来を連れてカリガネ半島に貴方等を囲んで一つ手柄をしようと思つたらあの有様、改心せずには居れないぢやありませぬか』
『怖さ、恐ろしさ、生命が惜しさの改心は真実の改心ぢやない、怪心だ。固虎、宣り直しなさい』
 この時ロッキー山の方に当つて鬨の声一時に聞え来る。一行六人は、
『ヨー危機一髪だ。皆さま、之から各自に覚悟致しませう』
と思ひ思ひに山頂に向つて袂を別ち、愈ロッキー山に対して自由行動をとる事となれり。嗚呼この結果は如何。心許なくまた心強し。
(大正一一・二・二二 旧一・二六 北村隆光録)
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