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文献名1霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
文献名2第4篇 六根猩々よみ(新仮名遣い)ろっこんしょうじょう
文献名3第18章 手苦番〔1518よみ(新仮名遣い)てくばん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ玉国別一行はバーチルの館に帰って行った。テクは一行の先に立って行進歌に述懐を歌う。一行が戻ってみると、バーチル帰還の村を挙げての祝宴はまだ続いており、人々がそこかしこに酔って転がっている。奥の間ではバーチルとサーベル姫が、玉国別一行の無事を神前に祈っていた。二人は玉国別たちが無事に帰ってきたことを喜んだ。テクは滑稽な歌交じりに経緯を語り、一同に笑いを振りまくが、バーチルにたしなめられて祝酒の準備をしに駆けて行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年04月02日(旧02月17日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年7月8日 愛善世界社版241頁 八幡書店版第10輯 570頁 修補版 校定版255頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm5918
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本文  玉国別の一行は  九死一生の危難をば
 思ひもよらぬ神柱  初稚姫に救はれて
 醜の岩窟を抜け出し  初稚姫に相別れ
 アヅモス山の南麓に  甍も高く立並ぶ
 スマの里庄のバーチルが  館を指して帰り行く
 バラモン教のスパイをば  勤めゐたりし大酒豪
 テクは一行の先に立ち  足に力を入れ乍ら
 羽ばたきテクテク歌ひ行く。
『テルモン山の山颪  キヨの湖水の面をば
 ゆたかになでて通り行く  其鼻先はアヅモスの
 山の麓のバーチルが  館に当りガヤガヤと
 物騒がしき今日の空  老若男女は勇み立ち
 呑めよ唄への大騒ぎ  テクは忽ちバーチルの
 家の奴となりすまし  祝ひを兼て里人に
 酒をすすむる折もあれ  バラモン教の関守と
 古く仕へしチルテルが  三五教の神司
 一人も残らず捉へむと  駒に鞭打ちシトシトと
 表門へと進み来る  コリヤ叶はぬと此テクが
 孫呉が秘書をまき拡げ  長柄の杓に甘酒を
 汲むより早く鼻の先  プンと嚊がせば麻酔剤
 吸収したる其如く  始めの権幕どこへやら
 ヒラリと駒を飛おりて  老若男女の中に入り
 口汚くもガブガブと  鯨飲馬食の為体
 何程威張つたキャプテンも  酒にかけたらもろいもの
 ソロソロ酔がまはり出し  館の離室に隠したる
 初稚姫のナイスをば  誘ひ来れ成功すりや
 リューチナントにしてやろと  酒の上にてチヨロまかす
 元より嘘とは知り乍ら  之も一興と勇み立ち
 初稚姫の前に出で  軍人気取りで「あります」を
 連発したる可笑しさよ  初稚姫と思ひしは
 誠の人にあらずして  しまひの果にや尻尾出し
 小牛のやうな白狐と変り  這い出だしたる怖ろしさ
 怪事百出とめどなく  遂には一同穴倉に
 突倒されて吐息つく  折しも真の姫様が
 猛犬スマート引連れて  吾師の君を始めとし
 チルテル其外一同を  救はせ玉ひし有難さ
 あゝ惟神々々  神の恵は忽に
 旭の如く輝きて  まだ明けやらぬ夜の道も
 何とはなしに気分よく  バーチル館へ指して行く
 こんな騒ぎのありしとは  夢にも知らぬスマの里
 集まり来る老若は  七日七夜の酒宴に
 胴腰据ゑてガブガブと  泣いたり笑うたり怒つたり
 牛飲馬食の大酒宴  喉を鳴らしてゐるだらう
 サア是からは是からは  此テクさまも久しぶりに
 思ふ存分般若湯  グイグイグイとひつかけて
 一つげんをば直しませう  あゝ惟神々々
 玉国別の宣伝使  其外百の司たち
 向方に見える森蔭は  夜目には確り分らねど
 正しくバーチル神館  モウ一息だ膝栗毛に
 鞭打ち進み帰りませう  旭は照る共曇るとも
 月は盈つ共虧くる共  お酒の味はいつ迄も
 万劫未代変らない  酒程笑顔のよいものが
 三千世界にあるものか  笑ふも泣くも面白い
 怒り狂ふも一興だ  酒の上にてした事は
 決して世人は咎めない  よい要口が出来たもの
 あゝ燗酒ぢや燗酒ぢや  冷酒鯛汁は甘くない』
 などと下らぬ歌歌ひ  勇み進むで表門を
 潜れば数多の老若が  夜昼かまはず赤裸
 黒い体を曝つつ  鯖の鮨をばつけたよに
 肚一杯に膨らして  ゴロリゴロリと高鼾
 寝言の声や屁の響  人形箱をぶちあけた
 大乱雑の光景を  眺めてテクは吹き出し
 アハヽヽハツハ アハヽヽヽ  面白うなつてお出たと
 大玄関を一跨げ  ドスンドスンと奥の間へ
 勢込んで進み入る。
 アキス、カールの両人は一行が奥の間へ進まむとする途中、畳廊下でベツタリ出会した。テクは見るより、
テク『サア、番頭さまのお帰りだ。早く酒を一斗許り持つて来い。何をグヅグヅしてゐるのだ。新番頭さまの天晴功名手柄話、汝も奥へ来てトツクリ聞くがよからうぞ』
アキス『ヘン、馬鹿にすない。番頭だなぞと、勝手に定めやがつて、番犬のバンタ奴、汝等が当家の番頭にならうものなら、それこそ大変な番狂はせだ』
テク『馬鹿云ふな、俺は主人公からチヤンと委任をうけてるのだ。バーチル家の家政一切は皆此テクさまの御支配だぞ』
玉国『コラコラ、こんな所で喧嘩をしても約らぬぢやないか』
テク『ハイ、心得ました。アキスの奴、バンタだの番犬だのと、余り失敬なことをいふものですから、チツと癪に障つたのですよ。サア、兎も角、今度の功名手柄を主人公に報告致しませう』
と故意とに大手を振り、大股にドスン ドスンと四股をふみ乍ら主人の居間に進み入る。
 バーチル、サーベル姫は一生懸命に神前に向つて玉国別一行の無事安全を祈願してゐる最中であつた。玉国別一行も拍手を拍ち神前に無事凱旋せしことを感謝し了つて席に着いた。夫婦は拝礼を了り、玉国別一行の無事な顔をみて打喜び、涙をハラハラと流し乍ら、
バーチル『あ、先生能うまア帰つて下さいました。御案じ申て居りました』
サーベル『あ、デビス姫様、三千彦様、伊太彦様、何うしてゐられました。旦那様と大変な心配を致しまして、神様の前にしがみついて泣いてお願をして居りました。マアお目出たう厶います』
玉国『ハイ有難う。いろいろと神様の御試しに会つて参りました。やアもう、エライ御心配をかけ申訳が厶いませぬ。マア此通り一人の怪我もなく無事に帰りましたからお喜び下さい』
 夫婦は一度に頭を下げ、喜びの余り嬉涙にかきくれてゐる。
テク『(のり)モウシ モウシ旦那様  一応お聞きなされませ
 三千彦司を救はむと  玉国別の神司
 真純の彦に従ひて  先の番頭のアンチーを
 案内させてスタスタと  裏道指して出でて行く
 空には日輪カンカンと  輝き玉ひ頭上から
 火熱を浴びせる苦しさに  森の木蔭に立寄つて
 玉国別や真純彦  アンチー三人を休ませつ
 此テク奴は只一人  チルテル館の裏門へ
 進むで見ればピツタリと  戸締り厳しくありければ
 肝玉放り出し表門  廻つて見れば人もなし
 事務室いかにと眺むれば  猫の子一匹居らばこそ
 天井に鼠がチウチウと  恋を争ひ狂ふ声
 此奴ア不思議と裏口に  立出でみれば離屋の座敷
 初稚姫と云ふナイス  白い面してニコニコと
 二人の裸を前におき  何か命令下し居る
 コリヤ面白い面白い  仔細あらむとかけよれば
 豈計らむやチルテルと  ヘールの二人が角力取り
 勝つたお方の女房に  ならうとお化が甘い事
 いふた嘘をば真に受けて  此テク奴も釣り込まれ
 ドスンドスンと四股ふみならし  汗をタラタラ絞りつつ
 俄に変る力士  難なく二人を投付けて
 地底の洞へと投げ込むだ  初稚姫はテク奴の
 お手を握らしくれぬかと  優しい顔してつめかける
 コリヤ面白い面白い  男と生れた上からは
 一つ握手しキッスをば  やつてみようと手を伸ばし
 グツとつかめばこはいかに  細い腕は毛だらけだ
 忽ち白狐となり変り  眼を怒らし睨みたる
 其権幕の恐ろしさ  あとをも見ずに
 エツサツサ エツサツサ  スタコラヨイヤサと駆け出し
 玉国別の待ち玉ふ  森の中をば暗がりで
 当途もなしに走り入る  暗さは暗し真純彦
 胸に頭をうちつけて  アツと倒れた苦しさよ
 まだまだ先は長けれど  お酒を一杯貰はねば
 どうやら息が切れさうだ  コレコレもうしアンチーさま
 早くお酒をついでくれ  之より先はいはれない
 玉国別や皆さまの  一生の恥になりまする
 言はぬが仏神心  あゝ惟神々々
 之にて中止仕る  アハヽヽアツハ、アハヽヽヽ』
一同『ウツフヽヽヽ』
バーチル『オイ テク、芝居がかりで、種々と報告してくれたが、どうも真相が分りにくい。併し乍ら皆さまが無事に帰つて下さつたのだから、こんな嬉しい事はない。サア彼方へ行つて、充分酒でもあがつて下さい。そして、アキス、カール等を、決して揶揄つてはなりませぬぞ』
テク『ハイ、畏まりました。然らば御主人夫婦様、玉国別一統様、一寸暫時御免を蒙ります。左様ならば』
といふより早く酒の場さして駆けて行く。
(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 松村真澄録)
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