文献名1霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
文献名2第5篇 讃歌応山よみ(新仮名遣い)さんかおうさん
文献名3第25章 道歌〔1681〕よみ(新仮名遣い)どうか
著者出口王仁三郎
概要
備考
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データ凡例
データ最終更新日----
あらすじ
主な人物
舞台
口述日1923(大正12)年07月18日(旧06月5日)
口述場所祥雲閣
筆録者北村隆光
校正日
校正場所
初版発行日1926(大正15)年4月14日
愛善世界社版284頁
八幡書店版第11輯 712頁
修補版
校定版297頁
普及版129頁
初版
ページ備考
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本文
玉国別はサンカオ山の祠を立出で、ヨルダン川の北岸を下り乍ら、元気恢復し、聖地の近づいたに何となく心勇み立ち、声も涼しく宣伝歌を謡ひ初めた。
玉国別『神の教にヨルダンの 川の辺に北の道
進み行くこそ楽しけれ 遥に見ゆるは橄欖の
山の尾の上か聖場か ヨルダン川の水清く
流れの音は淙々と 天地に響く心地なり
霊山会場の蓮華台 蓮の山にあれませる
木花姫の御守り 一度に開く初稚姫の
珍の司に従ひて 心の空も真純彦
その懐に輝ける 玉国別の今日の旅
何とはなしに勇ましく 天にも上る心地して
足も次第にかるがると 流れに沿ふて進むなり
あゝ惟神々々 吾行先はゲッセマネ
月の輝く花苑に 百花爛漫艶競ひ
神の使の吾々を 媚を呈して待つならむ
三千彦司、伊太彦や 鬼春別の治道居士
デビスの姫やブラヷーダ その他の厳の御使は
もはや聖地に着きけるか 吾等は道を急ぎつつ
只一向に進み来て もしや彼等に遅れなば
これ末代の恥辱なり とは云ふものの神界の
仕組ばかりは吾々の 曇りし身魂は分らない
ヨルダン川の川の面 吹く夏風は吾胸を
涼しく清く撫でて行く 黄金の峰と聞えたる
橄欖香ふ聖山に 弥永久に鎮まれる
野立の彦の御化身 埴安彦の神様は
吾等一行の恙なく 到着せしと聞きまさば
嘸や喜び給ふらむ 八大竜王の所持したる
三つの珠まで受取りて いよいよ神業成就の
貴の御玉を献る 吾身の上こそ楽しけれ
案ずる勿れ真純彦 もはや聖地も見えて来た
日出別の神司 数多の伴人随へて
吾等一行の到るをば 喜び迎へ門外に
現はれ待たせ給ふらむ 思へば思へば勇ましや
これも全く瑞御魂 神素盞嗚の大神の
珍の使とあれませる 初稚姫の御引立
慎み感謝し奉る 勝利の都は近づきぬ
進めよ進め勇み立て 貴の聖地に参上り
珍の力をみてづから 埴安彦に授けられ
再び陣容立直し シオンの山に忍びたる
ナーガラシヤーを言向けて 奇しき功績を永久に
立てねばおかぬ吾望み 遂げさせ給へ惟神
聖地にゐます皇神の 御前に願ひ奉る
朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも
仮令大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ
誠一つの言霊の 御稜威によりて玉国別は
漸く都に近づきぬ 思へば思へば皇神の
仁慈無限の御仕組 感謝にあまり自ら
涙は腮辺に漂ひぬ あゝ惟神々々
感喜あまりて言葉なし これにて沈黙仕る』
と謡ひ終り、後振向いて初稚姫の御顔を見れば、姫の容貌は崇高の上にも崇高を増し、形容し難き喜びと威厳とをたたへてゐる。玉国別は思はず知らず、ハツと頭を下げ道の傍に身を転じ、揉手をしながら、
玉国『いや、誠に失礼な事を致しました。サアどうかお先へおいで下さいませ』
初稚『神様は順序で厶いますからな、ホヽヽヽ』
と笑ひ乍ら先に立つて進み行く。
スマートは初稚姫の後より尾を振り乍ら従いて行く。
真純『もし先生、貴方、又失敗致しましたね。今初稚姫様が只一言、神様は順序だと仰有つたでせう。貴方が偉さうに先に立つておいでになるものだから、叱られたでせう。サンカオ山の麓でも、「神は順序だ。順序を破れば秩序が乱れる」と仰有つたのを忘れたのですか』
玉国『いや、そんな考へではない。姫様を御案内申上げる積りで先に立つたのだ。畢竟私の考へは先伴をお仕へする考へだつたよ』
真純『貴方御案内遊ばす丈けの資格があるのですか。エルサレムの勝手は分つてるのですか。勝手分らずに御案内も出来ますまい。彼方の方が大抵エルサレムだらう位の事では、案内者とは云へませぬからな。神様のお道だつて充分究めて置かねば宣伝使となれないと同じに、道案内だつてさうではありませぬか』
玉国『さう云へばさうだが、肝腎の聖地に近付いたのだから、慎んで苦情がましい事は云はないで欲しいな。俺だつて気がもめるのと嬉しいのとで、チツと許りは脱線するかも知れないからな』
真純『聖地に近づいたから御注意を申し上げるのです。嬉しいから脱線するやうな事でどうなりますか。道中は私と二人だから何程ヘマやつても恥にもなりませぬが、エルサレムに着けば錚々たる神司がおありですから、第一、神素盞嗚大神様の御神徳に関しますよ。ここは厳御魂様の御鎮座所ですから、産土山の斎苑館とは、余程窮屈ですよ。厳の御魂様から、「何と素盞嗚尊も先の見えぬ神様だな。あのやうな宣伝使をようも遣はしたな」と思召したら、貴方許りの恥ぢやありませぬ。つまり主人の名誉を傷つけるやうなものです。ヤレ聖地へ着いたから嬉しいと思つちやなりませぬ。益々緊張して、心得た上にも心得ねばならぬでせう』
玉国『あ、お前ならこそ、面を犯して、ようそこ迄云つて呉れた。や、有難い。沢山の弟子があつても、私の肺腑を衝くやうな意見をして呉れる者は無い。人間は何が不幸だと云つても、真心で忠告して呉れるものがないほど不幸はないからのう。イヤ、気がついた事があれば、何卒、私は怒らないから注意して貰ひたい』
真純『貴方に御注意申上げたい事は山程厶いますが、もはや聖地も近づきましたから道々申上げても、どうせ申上げきれないと思ひまして……又お姫様の御同道ですから、あまりの事を申せば先生の御人格に関しますから、貴方ユツクリお考へ下さいませ。又「人から気をつけられて気づく位ではいかぬ」と、厳の霊のお筆先にもありますからな。然し人の欠点はよく分りますが、自分の顔の墨は分らぬもので厶います。私の欠点も沢山ありませう。何と云つても貴方の教を受けた弟子ですから、欠点だらけでせう、いや間違だらけでせう。何卒御注意下さいませ』
玉国『私の教育を受けたから欠点だらけ、間違ひだらけ、とはどうも仕方がないな。イヤさうだらう。お前に間違だらけを教へとつたら、そこは神直日大直日に許して貰ふのだな』
初稚姫は後振返り、
初稚『オホヽヽヽ、大変にお話がはづんで居りますな。これからは最早聖域内になりますから、宣伝歌の外は一切喋らないやうにして下さい。此玉さへ納まれば、何程なりとお喋りなさつて宜しい』
玉国『はい、畏まりました。屹度心得ます』
初稚『さうして、御両人とも自分の欠点をよく考へて、今の内にお直し成さいませや。聖地には立派な神司許り居られますから、何卒お恥しくない様にお願しますよ。貴方は今勝利の都へ近づいたとお謡ひなさいましたが、勝利の都と御油断なされば、聖地に於て敗者となり、失敗の都となるかも知れませぬよ。何事も九分九厘と云ふ所が大切です。最も注意を要する所です。誰でも得意になると九分九厘で転覆するものですからな』
玉国『あ、何と窮屈な事で厶いますな。私は只今迄難行苦行して漸く聖地の空を見たのですから、やれやれユツクリ一服をさして貰つて嬉しく楽しく参拝をしようと思ひましたが、人間の考へは実に果敢ないものですな。エルサレムと云ふ所は天国浄土かと思つてゐましたのに意外にも窮屈な所で厶いますな』
初稚『「結構な処の恐い所だ」と厳御魂の神諭にも出てゐるでせう。油断は少しもなりませぬよ。寸善尺魔の世の中ですから弥勒の世が完成する迄は、腹帯をしつかりしめて気を張弓にして置かなくては魔神に襲はれますからな』
玉国『聖地でさへも魔神が居りますか』
初稚『美しい花には害虫多く、よき果物には虫害多きが如く、宝の集まる所には盗人の狙ふ如く、世界中の人間がエルサレム エルサレムと云つて憧憬してるのですから、悪の強い欲の深いものは皆聖地に来て、何か思惑を立てようとするのですよ。エルサレム程偽善者の集まる所はないのですから、よく善悪正邪を弁へて、御交際を願ひますよ。それ丈け御注意致しておきます。又真純彦様も最前から玉国別さまの欠点を親切に注意されましたが、貴方には玉国別様以上の欠点がありますから、よく反省なさいませや』
真純『恐れ入りまして厶います。聖地に到着迄に幾千も時間が厶いませぬから、何だか俄に心忙しくなつて参りました。之から自分の欠点を考へもつて歩きますから、姫様何卒ユツクリ歩いて下さいませ。さう急いでお歩き下さると、自分の欠点を考へる暇が厶いませぬからな』
初稚『よい考へは到底人間では出ませぬよ。神様にお願ひなさいませ。さうすれば刹那刹那に気をつかせて貰ひます。今から考へたつてよい考へが出るはずは厶いませぬわ』
真純『然らば惟神に任して参りませう。取越し苦労は致しますまい』
初稚『ア、そこへお気がついたらそれで宜しう厶います。貴方はいつも宣伝歌の末尾に惟神々々と仰有るでせう。それさへお忘れにならなければそれで宜しう厶います。サア急いで参りませう』
玉国『姫様、真純彦を通し結構な御教訓を賜はりまして、玉国別も初めて落付きました。有難く感謝致します』
初稚『感謝なんかして頂くと妾困りますわ』
と一層足を早めて進み行く。
真純彦は道々小声に謡ひ乍ら、二人の後について行く。
真純彦『あゝ有難や有難や 待ちに待つたるエルサレム
吾目の前に開展し 何とはなしに村肝の
心は勇み身は踊り 足の歩みも軽々と
知らずに早くなりにけり 只何事も惟神
神に任せと姫様の 千古不滅の御教訓
今更乍ら有難く 感謝の涙漂ひぬ
神が表に現はれて 善と悪とを立分ける
此世を造りし神直日 心も広き大直日
只何事も人の世は 直日に見直し聞直し
身の過ちは宣り直す 神の教を聞き乍ら
ついうかうかと忘れ行く 人の心ぞ浅間しき
取越苦労や過越の 苦労をやめて刹那心
善悪正邪に超越し 只何事も皇神の
心のままに任しなば いかなる重き神業も
いと平けく安らけく 奉仕し得べき真諦を
今更の如悟りけり 朝日は照るとも曇るとも
月は盈つともかくるとも 仮令大地は沈むとも
神の誠の御教に 従ひ進む身なりせば
如何なる枉の猛びをも いと安々と免れむ
次第次第にエルサレム 山の景色も近づきて
茂り合ひたる橄欖の 木の葉の風にそよぐさま
見ゆる許りになりにけり いよいよこれよりゲッセマネ
神の集まる花園に 時々刻々に近づきて
別れて程経し神司 三千彦伊太彦其外の
神の柱に会ふならむ 思へば思へば勇ましや
あゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ』
と謡ひ乍ら漸くにしてヨルダン川の渡し場に着いた。昔はここに黄金橋と云ふ黄金の橋のかかつてゐた処である。川の西岸には日出別命数多の神司を従へ、幾百旒とも知れぬ紫赤白黄浅黄の旗を河風になびかせ、初稚姫一行の到着を待たせ玉ひつつあつた。日出別命の命によつて新造の無棚舟は、四人の水夫が櫓櫂を操り乍ら、此方に向つて漕ぎ来る。川の向ふには、ウラーウラーの声山岳も揺ぐ許りに聞えて来た。初稚姫一行は迎への舟に身を托し悠々として向ふ岸に渡り、川岸に着くや日出別命は初稚姫の側にツと寄り添ひ、固き握手を交換した。次いで玉国別、真純彦に握手を交はし、数百人の神司や信徒に前後を守られて、安の河原と称へられたるゲッセマネの園へと練り行く事となつた。
(大正一二・七・一八 旧六・五 於祥雲閣 北村隆光録)