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文献名1青嵐
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名3妖僧の詐術よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-10-31 04:40:00
ページ1 目次メモ
OBC B120200c04
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本文の文字数2513
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本文 新年の春を迎へて山城の稲荷の山にのぼりてみたりき
官幣大社稲荷神社の大前に参拝すれば賽者のなみうつ
保食の神のみやゐの赤鳥居かずかぎりなく建てる迷信
稲荷下し数多あつまるこの山に初詣でして驚きにけり
迷信者の寄りて建てたる狐塚幾百千ともかぎりなき山
この山に狐は居らず修験者が狐のまねして人をあざむく
一の滝白滝などと巡りみればはだかの男垢離とりてをり
一月の稲荷の山はことさらに人出多きが例なりと聞く
愚夫愚婦を有難がらせ修験者が白衣をつけて狐の真似すも
狐下しを白さんといひ黒さんは狸下しの通名なりけり
この山に古く住まへる真海は狐下しの親玉なりけり
真海はランプのホヤをぱりぱりと食ひて信者を驚かせをり
真海の妖術偽術ことごとくわれおもしろく見聞なしたり
夜に入れば針金仕掛の妖術に宙吊りなして託宣をなす
愚夫愚婦は有難涙にくれながら鼻すすり泣くさまのをかしさ
暗がりゆ針金ひけば真海はつるつるつると宙にのぼれり
筑波山の蠑螈は肺の妙薬と紙につつんで降らす真海
愚夫愚婦は先をあらそひ白紙の包を闇に争ふをかしさ
妖僧の詐術と知らず人人は神のごとくに真海をうやまふ
をかしさにわれたまりかねて噴き出せば世話方棍棒ふりてわれ打つ
棍棒に打たれて逃出し闇のかげにわれ蹲り様子みてをり
かねてより諜し合はせし弟子共は白狐の姿に化けて這ひ出す
あたまから足の先まで白布もて狐のさまに作りたる衣
われこそは鞍馬の山の大僧正頭が高いぞと呶鳴る真海
人人は一度に頭を地につけて般若心経となへゐたりき
一人でも頭をもたぐるものあらば世話方棒にて押へたしなむ
愚夫愚婦の地に伏す間を見計らひ針金ゆるめてするするとおりる
われこそは三剣稲荷大明神〓あたへるといつはる真海
欲惚けの老若男女は手をあはせ勝手なことを口口に祈る
此処のみは世界の外の世界かな人の屑のみあつまりてをり
真海は声厳かに宣りつらく福が欲しくば手付を出せよと
闇に浮く白装束の真海を目あてに銀貨の雨を降らせり
真海は神官扇を顔にあて銀貨のつぶてをさけてゐたりき
この神は手付の千倍にしてやると偽り言いふ真海憎しも
警官の提灯木の間にゆれながら靴音おひおひ近より来る
真海が白衣を脱げば墨ぞめの衣となりて闇に消えたり
弟子どもの白狐姿もたちまちに立ちて木下の闇にかくれし
警官は声とがらせて群集にはやく帰れといましめてをり
群集は次第次第に散りゆきて松風の音いよいよさびし
群集の闇に散りゆくあと追ひて警察官吏山下りゆく
   人間の狐
木下かげにわれ只一人忍びつつあとの始末を見届けてをり
真海をはじめ弟子ども五六人提灯照してこの場に来る
落ち散りし銀貨包をいちはやく拾ひあつめて籠に収むる
警官に気をつけぬかと真海は弟子の狐をいたく叱れり
針金を引かねばならず狐には化けねばならず遑なしといふ
四五匹の白狐は正体あらはして闇の木下にいさかひてをり
人間の狐は銀貨の分配にことさわがしく樹下にあらそふ
をかしさにわれ噴き出して逃出せば闇の山路を追ひかけ来る
かなはじと思ひて駒を立直し咳払ひすれば逃出すをかしさ
またここに警官かくれてゐよるぞと逃足逸く駆け登りゆく
   白滝の朝
風寒き稲荷の山は夜は明けてわれ白滝のもとに立寄る
白滝に裸体の男女五六人かたこと交りの神言宣りをり
稲荷下しの頭とあふぐ服部は白髪まじりの背高き男よ
十余年稲荷の山に巣ぐひたる服部準造は真海の弟子
昨夜の事知らぬ顔なる真海は四五人の弟子連れて来むかふ
いやらしき眼を据ゑて真海はわが面ぢつと睨まへてをり
名に高き真海様かとわれ問へばオーオーさうぢやと威猛高にいふ
その方はいづくのものかと真海はわれに向つて舌長にいふ
私は丹波園部の百姓といへばさうかとうなづく真海
その方の所ぐらゐは知つてゐるただ形式に問ふのみといふ
をかしさをこらへ忍べばわけもなく二つの眼より涙にじめり
私をどうぞお弟子に頼みますといへば真海からからと笑ふ
望みならば弟子にしてやる膝つきを百円出せときり出す真海
先生の弟子になるなら万両も厭はぬ覚悟とわれは答へり
万両と聞きて真海飛びあがり俄に待遇よろしくなれり
   稲荷の茶屋
真海はこちらへ御座れと先に立ち奥村稲荷の茶屋につれゆく
山海の珍味を盛りて真海はいと懇にわれをあしらふ
どことなく尻こそばゆくなりにけり万両出すというたは啌言
一円の金さへもなき懐によくも言つたり万両出すとは
真海とあひむかひつつ山海の珍味にわれは舌つづみうつ
この山に人間に化ける白狐さんが何人ゐるかと問ひ始めけり
白狐さんは白狐さんなり人間は人間ですよと真顔の真海
この山の白狐は銀貨の分配を争ひますかとわれは問ひたり
真海の顔色忽ち蒼くなりおゆるしあれと手を合し拝む
留置場に放り込まれてはこの冬を私の生命続かぬといふ
真海はわれを警察探偵と合点したるかふるひ出したり
御馳走をよばれてすまぬと云ひながらわれは座を立ち帰らんとせり
真海はわが袖掴み声さへもふるはせながら許せと拝めり
松ケ枝の宙吊りのわざ面白しも一度見たしとわれはからかふ
真海はこゑふるはせてこの後は心得ますと泣声になる
筑波山の蠑螈が頂きたいものと云へば真海天窓かきをり
また後日お目にかかるとわれ言へば宜敷く頼むと拝む真海
また来るといひつつわれは足ばやに奥村の茶屋立ち出でにけり
   赤鳥居
山中といへども昼は人出多くわれは心も強くなりたり
をかしさをこらへて走る山路の木の根につまづき打ち倒れたり
倒れたるはづみに打ちし膝頭一寸さけて血は滲み出せり
深さ一分長さ一寸の傷を負ひし膝の頭を手拭にしばる
ちがちがとびつこひきつつ漸くに伝法池のかたへに下る
稲荷下げ征服したる思ひして痛み忘れてほがらかに笑ふ
文明の御代ときけどもこの山の有様みれば何か淋しき
欲といふ悪魔に魂をくらまされ迷ひ来にけむ世の人人は
数知れぬ赤き鳥居の名を見ればその大方は浪花人なる
大阪と京都の町の富豪はみな赤鳥居寄進してをり
保食の神の尊さをよそにして世人は人為の狐に迷ふも
欲ふかき京阪人は狐をば平気の平三でまつりをるなり
ひさかたの天津御神をよそにして狐をまつる人の愚劣さ
狐にもこころおとりしひとびとの朝夕人為の狐あがむる
稲荷山迷信のさま目撃しまことの道の宣伝を感じぬ
物質文明主義の世界の半面にかかる迷信ありと知りたり
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