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文献名1大地の母
文献名2第10巻「九尾の狐」
文献名3天地剖判
著者出口和明
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
OBC B138910c07
本文の文字数16531
本文のヒット件数全 3 件/稚姫君命=3
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本文 「お忙しいとこすんまへん。ちょっとお久はんのことどすが……」
 湯浅仁斎と梅田信之が、池掘り作業を監督中の王仁三郎のそばへ来た。
「おう、お久はんのことか、だいぶ手を焼いとるらしいのう」
 雪泥水を頭まで跳ねかけたまま、王仁三郎は土手に上がってくる。
「御存じでしたか。お久はんがあっちこっちで一りんの仕組みについて喋りまくっとってです。『金毛九尾もいよいよ改心の時節が来て、この大本へお詫びに来た。奥の奥は言えんが、その一りんの秘密は福島久が握っている。立替え立直しは目前に迫っているさかい、篭池掘ったり悠長に言霊学の講義など聞いとる時やない』……あまり真剣な様子やさかい、中には信じかけて浮足立っとる者もでけてます。わしらも奉仕者から質問を受けて、どう返答したらよいか」
 湯浅は本当に困った顔であった。
 梅田は苦笑する。
「何しろ教祖はんのお血筋のお言いやすことどすさかい、頭から無視するわけにはいかしまへん。信者への影響力が大きおす。おまけに時々どうかと思うことかて口走ってますねん。お筆先の文句と思い合わせたら、わてらかてあるいはと……」
「そうか、金毛九尾の奴、とうとうそこまで大本の中を本格的に撹乱にきやがったか。そんならわしも、奴らの悪の仕組みについて話しておかんならんかのう」
「悪の仕組み……ほう、金毛九尾とか一りんの秘密とか、どこでどうつながっとるんです」と、湯浅は丸い目を光らせる。
 王仁三郎が先に立ち、池畔の蝸牛亭に入った。
 まず敷島に火をつけ口にくわえ、二人にもすすめる。
「これから話すことは十七年前、わしが高熊山で実際に神さんから見せられたことや。生半可な学者に聞かせたら噴飯物やと嗤うじゃろ。嗤われようと嘲られようと、いずれは詳しく発表せんならんが、まだその時期が来とらん。しかしあらましあんたたちに呑みこんどいてもらわんことには、今後の仕組みがやりにくい。素直に聞いといてくれ」
 二人は煙草に火をつけるのを忘れて、紫煙ただよう王仁三郎の口元を見つめる。
「さてと、宇宙剖判に先立ち、無形無声無色の純霊があったと思てくれ。この大元霊を、古事記は天之御中主神、キリスト教ではゴット、ギリシャ神話ではゼウス、ユダヤ教ではエホバ、イスラム教ではアラーと言う。仏教では阿弥陀如来がこれにあたるかのう。漢土では天または天主・天帝、易では太極……それが大本でいう大国常立大神さまじゃ」
「そしたら耶蘇教でも大本でも同じ神さまを拝んどることになりますが……」と、梅田はけげんな顔をする。
「そういうことになるのう。ただ宗教によって御神格の理解の度合いが違うだけじゃ。筆先では天のご先祖さまと親しくお呼びかけしとるし、みろくの大神さまとも言う。主神・独一真神・造物主、それぞれ呼称は違え、みな同じ大元霊をさしとる」
「……となると、古今東西の宗教間の争い……どっちの神さまが尊いかで血を流すなんぞ、全く無意味であほらしおすなあ」と、梅田。
「そのとおり、大きな目で見たら、万教は同根やと悟らんなん時がいずれくるわい」
「……」
「さて、この絶対一元の純霊がほとんど十億年を費やして静的状態を脱し、漸次発達して霊の用を生じた。この霊的状態を、霊系の祖・高皇産霊神とたたえる。次にその霊の発動力である霊体(幽体)が出現する。これを体系の祖・神皇産霊神と言う。言霊学上、霊は『ヒ』または『チ』であり、体は『カラ』であり『カラタマ』じゃ。もともと霊を宿すべき容器やさけ、殻・空魂と言えよう。この殻に霊を満たすことによって二元を結び、初めて『チカラ』を生んだ。高皇産霊神・神皇産霊神と言う神名にある産霊の意味が解るか」
「……」
「産霊とは単なる連結やのうて、陰陽二元の結合から霊(ヒ)すなわち命を蒸す。文字通り霊を生みいだすのやで。古事記冒頭の一節、『天地の初発の時、高天原に成りませる神の御名は天之御中主神、次に高皇産霊神、次に神皇産霊神、この三柱の神はみな独身成りまして隠身なり』……これがいま言うた造化の三神にあたる。高皇産霊神も神皇産霊神も天之御中主神の不断の活動につれて生ずる霊体二元の働きを表現した神名で、三神にして一神、一神にして三神という三位一体の関係にある。つまり三神即一神にして他に比類するもののない独一真神や。その霊力体の大元霊としてのお働きは、幽の幽、神秘の最奥において行なわれているさけ、隠身といえる」
 王仁三郎は、二人の目の色を覗き込むようにして、一息ついた。
「今の若い者には、かびくさい古事記よりももう少し科学的な表現が好まれるかのう。
 こう言い替えてみよう。
 太古、大虚空には、ただ一点の神霊元子と言うものが芽吹いた。霊は火、火素と言っても良い。次に体素、または水素と言うものが派生して二元と成り、虚空にみなぎった。やがて発達した火素・水素は相抱擁帰一して精気を生じ、いわゆる電子を発生する。これが万物活動の原動力となり、動・静・解・凝・引・弛・合・分の八力が完成して、ついに幽の顕である大宇宙・小宇宙が形成される。まあ、一口で言うてしまえばやが……」
「……」
「不思議なもんやのう、酸素と水素の結合(産霊)が水になり、陽極と陰極の結びによって電気が働き、男女の愛の結びによって新しい生命が生まれる」
「なるほど、高皇産霊・神皇産霊の御神名にはそんな深い意味がおしたんどすなあ」と梅田が嘆息する。
「わしは神さまからこう教わった。『宇宙の本源は活動力にして、すなわち神なり。万物は活動力の発現にして、すなわち神の断片なり』とのう……」
 王仁三郎の書き物なら空で覚えている湯浅にしても、幽の幽の段階から新しく説き起こそうとする師の熱意に引き込まれて、全身が耳になった。
「……とまあ、これまでは説明に過ぎんのやが、理屈抜きに見たままを語ると言うのも、むずかしいもんじゃのう。言葉が足らいで、その万分の一が伝えられるかどうか。
 ……これは高熊山修行の時のことやが、いつしかわしは何物かに引き上げられる心地がして、どこまでも昇って行った。そこは仏者のいわゆる須弥仙山の頂上……というても、現身は高熊山の山腹にありながら、霊界の山へ霊身で導かれたわけやが……そこで思いもよらず天地剖判の姿を神さまから見せられた」
「何とまた……」と、思わず梅田は声に出した。
「八方を見回すと、天もなく、地もなく、時間も空間もない茫々たる大虚空の中に一点のヽが現われ、それが次第に拡大して一種の円形を作る。その円形は湯気よりも煙よりも霧よりもかすかな神明の気を放射して円形の圏を描き、ヽを包んでの形になった。つまりこれが幽の幽の段階の主神のありようじゃ。
 この時、寂然たる無言の虚空に、初めてあるかなしかのス声を発した。かすかな声音のようだが、遠く、深く、強く、どこまでもしみ込んでゆく。スースースウーと極みなく延び拡がり、どんどん膨れ上がり、鳴り鳴りて鳴りやまず、宇宙全体がスの音声で満たされ、極まった時にウ声の言霊が生まれる。
 ウの言霊も宇宙大に展開し、ウアーと上へ昇りつめ、その極みにアの言霊が生まれる。
 ウオーと下りに下って拡がっていったウの言霊は、オの言霊を生む。
 こうして、ウの言霊のなり極まるところで物質の大元素が発生した。だからウ声は万有の体を生み出す根源と言うことや」
 余りにも意表外の話に、聞き手は王仁三郎の吐く紫煙にまかれて口元を見つめるのみ。
「ア・オの言霊は互いに催合つつタ・カの言霊神を生み、ターターター、カーカーカーと東に西に北に南に、内に外にと言霊の光は輝き渡り響鳴し合う。大虚空に活気がみなぎり始め、充実しつつ拡大し続ける。やがて生ずるタカアマハラの六声の生言霊は大きな拡がりを持つ宇宙を形作っていった。
 その宇宙に紫微圏なるものがあらわれ、火水を発して虚空に光り、その光がひとところに凝結して無数の霊線を放射し始めた。大虚空は紫色に輝いて紫微圏層が生まれ、次に蒼明圏層、照明圏層、水明圏層、成生圏層と、大宇宙は延び拡がり、形作られていった。
 吐く火水、吸う火水の活用は霊波となって一種の水気を発射し、雲霧を創る。また火気を放って、清明無比なる宇宙が創られていった。最奥至高の天極紫微宮からは、タカタカと言霊輝き、四方八方へと鳴り渡る。言霊の原子は、ついに七十五声の精霊を生み、それらの霊波は一瞬のうちに千万里を照走し、大宇宙に荘重なる和声となってみなぎる。清軽なるものは霊子の根源となって空を浸し、重濁なるものは次第に下がって物質の根源をなし、幽の顕界建設の力となった。大虚空に鳴り鳴りやまぬ霊力体の三元・スの言霊の玄機妙用は紫微天界に大太陽を現出する。その太陽の輝きは、現今の太陽の七倍以上の強さだ。
 神々は天界の完成を祈って繰り返し天の数歌を歌う。ひと、ふた、み、よ、いつ、むゆ、なな、や、ここの、たり、もも、ち、よろず……」
「……」
「紫微圏層の中にも五つの天界が漸次形成されていった。天極にある至厳至美、至粋至純の透明国なる紫天界。続いて蒼天界、紅天界、白天界、黄天界。光彩の渦は巡り巡る。天空には万の星座がきらめいて、その数を増す……」
 王仁三郎は紫天界の様を思いうかべて、しばし目を虚空にとどめていた。
「それ、先程の天の数歌の詳しい意味を教えとくれやす」
 湯浅の頼みに、我に返ったように王仁三郎は語りつぐ。
「天の数歌は単に数の順序と考えたらいかん。幽の幽たる大言霊が百千万の運化を経て幽の顕と現われ給う宇宙創造からの生成化育を示し、その順序をうたい上げて、主神の力徳をたたえまつる言霊や」
「もっと具体的に言うとくれやす」と、湯浅は追及する。
「かいつまんで言うたらこういうことになる。ひと(一霊四魂)とは、大宇宙の根源において独一真神がましまし、一霊のもとに勇親愛智の四魂を統べていられることを表わす。ふた(八力)で、真神のいとなみである陰陽二元の組み合わせにより八力が生じ、み(三元)で、八力の微妙複雑な結合により剛・柔・流の三元ができ、ここで霊・力・体の三大要素が揃ったことを表わす。よ(世)で泥海のような世界ができ、いつ(出)で日月星辰や大地が現われ、むゆ(燃)で草木をはじめ諸生物が萌え出で、なな(地成)で人類が生まれ地上の世界が成就する。や(弥)でそれがますます充実し、ここの(凝)で充実安定を表わす。たり(足)で完成の域に達し、もも(諸)でさらにもろもろのものが生まれ、ち(血)で大造化の血が宇宙をくまなく巡り生命力が満ち、よろず(夜出)で生成発展の光明世界が永遠に開けていく……」
「……」
「この言霊によって、大太陽は百雷の一時に轟くごとき大音響を発し、左旋し始めた。紫の光は四辺を包み光輝燦然、光と熱は千万里を照らしてまさに炎熱熾烈や。
 時にア声の神霊が西南の空に活き給うて高地秀の嶺に顕れ、生言霊を発生する。それは凝ってついに大太陰と顕現し、右旋を始める。たちまち水の霊能が現われて、霧となり雲となり雨となって四辺を潤す。宇宙は清涼の気が満ち、火水和合して炎熱を鎮めた……。
 これがわしの見た『幽の幽』、『幽の顕』、宇宙天界の剖判や。大太陽界に鎮まり給う神霊を厳の御霊・天道立神、大太陰界に鎮まって守護し給う神霊を瑞の御霊・大元顕津男神とたたえまつるのや。
 ごくごく縮めて言ってしまえばこんなものやが、宇宙創造の年代の遠さ、その時の流れの悠久さは数十億年、今にして続いていると思えば呆然たるほどや」
「今にして……ほな、宇宙はまだ未完成と言うことでっしゃろか」と、湯浅が鼻をこすり上げる。
「そうじゃ。未来永劫、宇宙は完成に向こうて歩み続ける……みろくの世を願うてのう」
 梅田信之が考え深げに口をはさんだ。
「霊と物質の創まりが言霊やちゅうのはけったいに聞こえるけど、キリストの聖書の中にもそんな文句がおましたなあ」
「ある。ヨハネ伝首章に『太初に道あり、道は神とともにあり、道は即ち神なり。この道は太初に神とともに在りき。万物これによりて造らる。造られたるものに一として此れによらで造られしはなし』とあるが、まさにその通り。西欧人は言霊を知らんさけ、道の真義がわからんが、道とは天地に満ち満つる言霊のことじゃ」
「……」
「仏教でも、阿吽という言葉があるやろ」
「阿吽の呼吸などと言いますなあ」と、梅田が相づちを打つ。
「それそれ、阿は呼気、吽は吸気を表わす。寺院山門の仁王や狛犬が一方は口を開け、一方は口を閉じているのはそれや。
 弘法大師は阿字本義を提唱した。阿・吽で全宇宙万有を摂し、阿は一切が発生する理体、吽で一切を集結する智徳を表わす。つまり菩提心と涅槃のことや。
 だから真言密教でも、万有が真言、すなわち言霊から発したことはある程度わかっているのやが、ア・ウンの根源にスの言霊の働きのあることを悟らんさけ、彼らには主神はつかめん」
「なるほど、それでうちの親父の奴、なんぼ言うてもその奥の主神がわからんはずや」と、梅田がうなずく。
「さっきも言った古事記冒頭の『高天原に成りませる神の御名は云々』の『成る』とは『鳴る』の意で、タアー、カアー、アー、マアー、ハアー、ラアーと阿声の生言霊が鳴り鳴りて鳴り余りつつあるところを、地上の鳴り鳴りて鳴り足らざる部分におぎない合い、結ばれる。こうしてまず神霊世界が蒸しわかされて生まれていった過程を示しとる」
「なるほど……」と、湯浅が感に堪えぬ声を出す。
「だから言霊は神のご意志や。御神名の尊称に使う尊とは、本来、『御言』、つまり神言をさす。『声』は心の柄、進む寸前に進めの思いが生ずる。われわれの一挙一動はすべて意志、つまりは言霊の力で動かされていると思え」
「言霊の大事な意味がやっと納得でけましたわ」と、梅田が微笑む。
「けどさっきのお話はみな幽の世界、つまりは肉眼で見えん天界のことでっしゃろ。この現界はどうなってます」と、湯浅が聞く。
「そいつをくわしゅう語れば三晩四晩ではきかんやろ。けど天界と現界は次元こそ違え、合わせ鏡や。『幽の顕』界が完成するにつれ、『顕の幽』界にそれはうつってくる」
「顕の幽界……はて、わかるようで、もう一つはっきりのみこめんなあ」
 梅田の呟きに、湯浅も同意を見せる。
「隠身から現身へと生成発展する過程を、仮に四段階に区切ってみた言葉や。幽の幽・幽の顕・顕の幽・顕の顕と……万有一切の現象には、必ず幽の境域がある。
 ここに梅田はんが存在するやろ。ということはやな、その昔、潜在的・無意識的にあんたの生まれるべき素因、いわば霊子があったからや。どうや、なかったとは言えんやろ。それが幽の幽の世界。
 現界での因縁の身魂の父と母が出会い愛を求める時、その想念の中であんたはすでに幽の顕になった。そして夫婦の愛の結びによって母体の中にヽを発生、人類の進化を十ヵ月かけて胎内で体験しつつ成育するのが、顕の幽といえるやろ。
 四十数年前、体内に胞衣を投げ捨ててこの世に生まれた時から、あんたにとって顕の顕界。けどのう、やがていつかは古び破れた肉体という衣を投げ捨て、顕の幽界に戻る時が来る。それも一連の生成化育のうちやが……」
「ほなわてかて、いっかどそうに惟神の法則に従うて生まれてきたことになりまんなあ」と、梅田が照れくさそうに頬を撫でた。
「あたりまえじゃ」と王仁三郎は笑い、
「今、この蝸牛亭の外では、金龍海が掘られとる。わしが高熊山で霊界を見聞して以来、金龍海への想いはあったはずやが、まだはっきりと意識になかった。その段階が幽の幽。そしていよいよ掘ることを決意した時が幽の顕。さて、どの場所に、大きさは、形は、労働力は……日増しに設計は具象化するが、まだ顕の幽の段階や。
 その頃、わしの構想は金龍池やったが、教祖はんに『神界にうつる姿は金龍海』と示されて、顕の幽はわしの胸の中でさらに発展した。工事にかかってやっと顕の顕に入ったが、まだ完成されてはおらん。篭池と嘲笑される金龍海に満々と水が張った時……」
 彼らは一様に、その時の光景を夢見る。
 王仁三郎は二本目の煙草を深々と吸い込む。
「顕の幽界、言いかえれば大地の霊界の片端ぐらいなら、梅田はんや湯浅はんかて霊眼で見えるやろ。わしには大きな使命があるさけ、宇宙の成り立ちをおそろしく超高速度に縮めて見せられたわけやが……ほい、話がそれてしもた。
 つまり、天界での天地剖判が顕の幽界にうつってくる有様やったのう」
 王仁三郎は淡々と語る。
「スの大言霊から顕の幽界に現われて来られた厳の御霊国常立尊は、混沌たる宇宙の球形の中に降り立たれた。初めそれは無辺の濁水の中に立つ金色の円柱かと、わしは見た。
 漂う濁水はゆるく柱の周りを巡る。それが次第に渦となり、速度をはやめてゆく。気がつけば、金の円柱と見たのは、視角に触れぬ高速度で左旋する巨大な回転体じゃ。渦は外周へと輪を広げながら奔騰する。
 回転体は、やがて金色の炎を上げて、少しずつ傾斜し始めた。と、見る間に、振り放たれた小塊体が遠く近く宇宙に散乱し、無数の星辰となって旋回し出した。まだ光のない黒い星たちじゃが……。
 さて、金の円柱はと、視点を宇宙の中心へ戻して見ると、円柱が自ら転げたところにあるのは、金色に光り輝く巨大な龍体やないか。
 あっと瞳を凝らすうちにも、龍体は逆巻く濁流を割って東西南北に駆け巡り始めた。天翔けり水潜り、その意志の発するところ、自在に魂を分かち身を分かち、たちまち大小無数の龍体を生む。それらの巻き起す波動によって、濁れる物は凝り固まって泥土となり、大龍体の通った後には大山脈を、小龍体の通った後には小山脈をなしてゆく。
 希薄な物は低い地へと流れ落ち、集い寄って海を生ずる。やわらかい泥土からも、生まれたばかりの海からも立ちこめる水蒸気に視界はおぼろになった」
「……」
「おりしも海原の中程から、濁水を破って中天高く銀の光が噴き上がった。光は渦を巻いて右旋回し始めた。加速度が増すにつれて、動かぬ銀色の円柱かとも見えてくる。その銀の柱は傾き始め、無数の動植物を遠近に振り撒いて行く。やがて柱は横ざまに倒れ、銀色に輝く龍体と化した。
 東の地上からは金龍が地響きをあげて西へ駆けり、海上の銀龍は波頭を蹴り立て、海鳴りを轟かせて東へと駆ける。その合する所、金銀二つの光の旋回が再び大地を震わして巻き起こった。次第に天地は光輝を発してきよる」
「なんと雄大な物語じゃろ」と、梅田はうっとりという。
「やがてつんざくばかりの轟音とともに、金龍の口から昇騰していく玉がある。それはまばゆく白金の光茫を放って天空にのぼり、嚇々たる太陽となった。
 一方、銀色の龍の口からは清水が噴き上がり、白色の玉が虹の尾を引いて昇り始めた。
 金の龍体が天に向かって息吹を吐く。その火水は虹のように太陽にかかってにわかに光を強め、熱線を放出する。
 時うつり、太陽が西に没すると、暗星たちはいっせいに輝き始める。白色の玉は太陰となって慈光を増し、地上の水を吸い続けた。夏となり秋と巡るにつれ、地上の水は減じて山野が現われ、やわらかい大地はいつか芽を吹いていた」
「長い長い年月を経ての出来事でっしゃろなあ。けど、龍体やら金銀の柱の話など、この現実の話とは違いまっしゃろ」と、吐息とともに湯浅が言った。
「無論や。これがそのまま現実界の現象そのものと思うことはできん。何度もいうように、わしが目撃したんは霊界のことや。現界には現界の神定め給うた法則があり、その法則に従って自然界は整然と動いて行く。けど人は、その法則の奥に必然的に存在する幽の世界を知らん。
 すべて宇宙は霊が元で体が末、霊界にあったことはいずれ顕の顕、現界である地上に移写してくる。これは太古から今の世まで変わらぬ真理やで」
「その天地剖判にたずさわった、世の元の御龍体たちは?」
 信之の言葉に促されて、王仁三郎は先を急いだ。
「大きな剣膚のいかめしい金の大龍体は、泥海をかき分ける時に必要やった龍身を変じ、その御精霊体は天に昇られ撞の大神として、天界の主宰神となり給うた。
 銀の御龍体はその妻神・豊雲野尊と顕現された。
 白色の龍体から発生された一番力のある龍神は、神々しい男神・素盞嗚尊と化した。長い黒髪、腹まで伸びた髭、大英雄神のみ姿に打たれて思わず見とれとると、そのお体から発した白光が天に冲し、月界に昇られて月夜見尊となられた。
 太陽の現界は日の大神・伊邪那岐の貴子天照大神が司となり、太陰の現界は月夜見尊が司られる。天界・現界ともに日・月の主宰神が決まったので、撞の大神はその分霊を降し給い、自ら国祖・国常立尊として地上霊界を主宰される。そして地上物質界である大海原は日の大神の命によって、素盞嗚尊に任じられた」
「……」
「さて、数十億年を要して生まれた地上霊界は日月星辰なり、山川草木は発生したとはいえ、大空は赤褐色に濁り、海原の水も黄ずんで、樹草の類は葱のようにか弱い。海や岸辺に生まれた動物も、海月や海鼠のように柔軟でしかなかった。
 大地の修理固成に立ち向かわれた国祖国常立尊は地の世界最高の山に登られ、大きく息吹きを放たれた。この息吹きより十二の風の神が吹き荒れ、松・竹・梅をはじめ一切の種物は葦のように吹き倒されてしもうたのや。
 国祖は御自身の胸の骨を一本抜き取り、かみ砕いて遥か四方に吹き出され、これを岩の神、またの名を玉留魂ととなえられた、この神の働きによって、初めて樹草は大地に根を張って立ち、動物は骨が備わり、それぞれ固有の形態を保つようになった。玉留魂を多量に含み、凝り固まった所には、鉱物や岩石が生じた」
 息を凝らして聞き入る二人に紫煙を吹きかけた王仁三郎は、目を細める。
「このままでは日照り続きで、大地は干鰈のようにくすぶりよるわい。おまけに月はまだ水を吸引し続けとる。そこで国祖は、海原に残っておった大小もろもろの龍体を集めて龍神と化し、雨の神と名づけて、海水を狭霧のように吹き放たれた。たちまち雲が湧き満ちて天を覆い、沛然と雨は干からびた地上を潤していく。
 次に雨との調和をはかられて、太陽の熱を御身いっぱいに吸い込まれ、これを放射して火龍神と名付けられた。風の神・雨の神・火龍神・岩の神の調和ある活躍によって、藍色に澄みわたった天空には鳥が舞い、海原には鱗群を養いつつ蒼くうねり、山野は花咲き実り、生き物たちは木陰や草の褥に安らいで眠る」
「……」
「天界そのままの楽土を移して、地界は成った。国祖は太陽・太陰に向かって陰陽の火水を吸い込まれ、息吹きの狭霧より御子を産まれた。この日月の精から現われ給うた御子・稚姫君命は地上霊界の神政の司となられ、大八洲彦命を天使長兼宰相にして、聖地エルサレムの『地の高天原』にある龍宮城で、神務と神政を開かれた」
「地の高天原ちゅうと……綾部のはずやが……」と、湯浅が口をはさむ。
「慌てるな。日本はまだ形もできとらんわい」
 二人が黙り込むのを横目で見て、王仁三郎は続ける。
「一方、伊邪那岐尊の御油断により、手の股をくぐり出て太陽界から今の支那の北方に降誕した神があった。これが盤古大神や」
「どこやらで聞いたことのある名前どすなあ」と、梅田が湯浅の顔を見る。
「ああ、確か上谷の四方春蔵はんに憑いたちゅう……」と、湯浅が呟く。
「盤古大神は支那の祖先神で、日本の国常立尊に相当する神や。元来は温厚無比の正神やが、偽盤古が出て悪をはたらいたさけ、悪神と思われるようになった。四方春蔵に憑ったのは、偽盤古のほうや」と、王仁三郎は昔をしのぶ目になる。
「もう一方、天王星より常世の国、今の北米大陸に降った豪勇の神に、大自在天神・大国彦命がある。地上霊界には、国祖・国常立尊の統治の下、稚姫君命の神政とあわせてこの三神系がそれぞれ一族を擁し、平和に治めていた。ここまでは顕の幽、地上霊界の姿と思え」
「へえ、まだ自然界はでけてしまへんのどすか」と、梅田は慨嘆する。
「そこで国祖は、いよいよ顕の顕界である地上物質界の修理固成に着手される。この自然界は、これまで五十六億万年の時の力によって因蘊化醇、地上霊界の姿をようやく移し出していた」
「……」
「わかるか。無ともいうべき一点のヽに始まって、大元霊たるの大神はその火水を結んで力を生み、千変万化、ついに大宇宙となって顕現されたのや。いや、その造化の働きは巡り移りを繰り返しつつ、久遠に進化していく。しかも天地森羅万象の一切はそれぞれが神の断片であり、生き物なんや。主神の体であるとともに、その霊を受けとる。動物は無論のこと、剛・柔・流の質的差異こそあれ、植物も鉱物もやぞ」
「人類はどないなってまっしゃろ」と、待ち切れずに湯浅が問う。
「待て待て、今から生まれる所じゃわい」
 王仁三郎は湯浅を制し、三本目の敷島をくわえた。念頭から消えていた金龍海掘りの活気が、一服の紫煙を揺るがし侵入してくる。
「ところでこの自然界は、時間・空間に支配された有限の世界や。力あるものははびこり、弱きものはいつか形を滅するしかない。自然界を統一し、調和ある善美の世界を地上に来たらすためには、同じ三次元界の物質の法則によって成る肉体を持ち、神の心を心として自然を支配する、力ある生き物が必要になる。
 そこで国祖は神の子・神の宮として、神に代わって天地経綸の主宰となり地上を修理固成すべき人間の祖を造られた。有限の肉体の器に無限の火水の霊魂を満たして霊止となし、その陰陽二人を人類の祖としてエデンの園に下された。男を天足彦、女を胞場姫というのや」
「つまりアダムとイブ……」
 湯浅と梅田はうなずきあった。
「そうや。けどのう、わしが神界で見聞したんと聖書とでは、大きく違う所がある」
「それはどこどす」と、湯浅が身を乗り出す。
「まあ、先を聞いてくれ。この長い生成化育の道中は、全智全能である造化の神の全き御意志のままに進んで、善美そのものと思えるやろ。ところがそうはいかん。天界の果て、紫微圏層の外辺においてすら、この時すでに妖邪の気が発生していた」
「なんでどす、なんで天界に悪が……」
「燃える聖火の炎からも、微かに立ちのぼる煤があるやろ。湧き出る清水も一つところに止まれば次第に濁り、虫がわく。スの言霊から成り成りて澄み切った天界の極みにも、時を経て混濁の気が生ずるのは、自然の結果といえる。
 もともと霊力体の三大元をもって創造された宇宙や。霊を清であり善とするなら、相対的には体は濁であり悪ということになる。霊体二元の配合の度合いの差から発する神力は、必然的に善悪混淆、美醜明暗あいまって千変万化し、一切を成り立たせているのや。
 紫微宮では、天界での清明さを保とうと、天の数歌を不断に発声して曇りを拭い、濁りを澄ます太祓の道を開き給うた。ましてや重く濁れる分子のみ凝り固まった地の世界じゃ。時とともにエデンの楽園にも邪気が凝って、霊主体従の神木に体主霊従の果実を結んだ。
『この実を食うべからず』と神は二人に向かって厳命され、その性質を試された。二人は体的欲望にそそのかされてその実を食い、神命を犯して神の怒りに触れた。これより地上世界は体主霊従に傾いて、神界も人界もともに混濁していくのや」
 梅田は逆らうように目をあげた。
「どうも腑に落ちまへん。神さんが全智全能で絶対愛の存在なら、人類の始祖である大切な二人の前に、食わしともない果実なんかなんで、実らせはったんか。エデンの園に侵入する邪気を何で防いでやってやなかったか」
「武士に二言はないというやろ。ましてや宇宙の本体であり真理たる神が一度下した神業は、絶対に途中で変えることはできん。それが厳然たる神威というものや。
 一度、神が人間に一霊四魂を分け与え、神に代わって地上の主宰者たる権限を授けられた以上、人は自律して霊と体を統べ、自分の意志のままに生きねばならん。
 毒あるものを『食うな』ちゅうのは親の愛や。けど成人した息子は、親に隠れて甘い実をむさぼる。それでも親は、かわいい息子に食わしたくない毒の実をこの世から根絶することはできん。なぜなら、それも必要やからや。体的成長のためには、体的欲望がなくてはならん。それを悪とはいえん。絶対悪など、この世に存在せん。
 ただその甘さに魅入られて、霊五体五の神の理想とする調和を崩せば、ずるずると体六体七に傾いていくやろ」
「そうや、わてかて神さんなど忘れて、いや、神さんなどいっそなかったらよいと思うてなあ、本能の虜になったもんどす。本能のままに引きずり回されてなあ……」と、梅田が言う。
「神性をとるも、獣性をとるも、人の自由やでのう。青い大空だけでは、一切を生み出すことはでけんし、大地だけでも育てることはでけん。エデンの園の神木たちのように、大地にしっかりと根を張って天に向かって枝葉を伸ばし、日月の恵みを受ける。そして霊五体五の正しい実を結ぶべきじゃ」
「霊五体五というと……」と、梅田が訊く。
「霊・体の比が合わせ鏡のように和合した理想の状態や。霊を重んじるあまりに、霊六霊七と霊を振り回し体を軽んじても、悪となるのじゃ。
 厭離穢土などとぬかして、神の体の顕現たるこの世を卑しめるのが、この輩や。煩わしい現世を逃れて、我ひとり清しとばかりに深山幽谷に入り霞を食って生きようなどという輩も、悪の最たるもの。
 人の人たる使命は、あくまでこの世にある。体と霊との調和に悩み迷いながら日々の勤めを果たし、心を練り鍛えて神を指向する所に、人生の本分がある。
 霊・体ともに大切ながら、活動が起こるためには、どちらかを主として統一せねばならん。そういう意味で、同じ五と言いながらも『わずかでも霊を優位に立たせい』と神は望まれる。それを霊主体従と言うのや」
「つまりは善と言い悪と言うのも、霊と体とのかね合いから生まれるのですなあ」
 湯浅の言葉に、嬉しそうに王仁三郎は笑った。
「かね合い……その通りや。釣り合いと言うてもよい。政治のことを『まつりごと』というやろ。それは相対するものを『真釣り合わせる』、つまり調和させることや。『真釣り』とは計衡の両端に重量をかけて平衡させる意義がある。天上の儀と地上の儀を相一致させる作法が『まつり』(祭祀)やし、『まつりごと』(政道)や。だから神と人との真釣り合わせ、霊と体との真釣り合わせを祈るのが、祭の本来のあり方や。
 人は親と子、夫と妻、あるいは資本家と労働者といったような相対する関係の中で複雑に生きんならん。宇宙大自然の実相である日月星辰、森羅万象の統一と大調和の中に帰一して神の御心のままに生きようと祈るのが、惟神の大道や。
 ところで、話はどこでそれてしもたかいなあ」
「天足彦と、胞場姫が知識の果実を食ったところ……。人は罪の子というのは、ほんまでっしゃろか」と、梅田が目を光らせる。
「いやいや、やっぱり人は神の子やで。地上物質界はもともと体主霊従に造られたところ、人が神に代わって人智を得、それに奢っていくのも無理はないのや。むしろ宇宙完成のためには、必然的な経過かもしれん。
 初発に聞き分けのない息子の犯した罪を全人類の末裔にまでかぶせて自らを卑しめるのは決して神の御心やない。けどのう、人が神慮に背いて神のみもとを去ったということは、やがて恐ろしい災禍を生むことになった」
 二人は息をのんで、王仁三郎の口元を見つめる。
「荒野に去った天足彦と、胞場姫から生まれた子孫は、やがて各地に散って、人類の子孫を生み増やしていった。神の御意志を代行する生宮として造られた人間も、年移り変わるにつれて人智に長け、情はねじけ、私利私欲のために争うことをはばからぬ存在になっていった。
 言霊は次第に濁って神通力を失い、怒号・悪罵・嘲笑・怨嗟の声は悪意と絡み合って、毒ある邪気を発生し続けた。邪気は邪気を呼んで、天地間に立ち塞がった。清明なる神界よりの火水は、その邪気を含む密雲に妨げられて届かぬ。もはや神と人、天と地の真釣りは断絶した。
 地上は流水の清さを失って腐敗しはじめ、海は混濁して悪臭を放ち、大気は汚染されて息苦しく暗い。人類は、得体の知れぬ流行病に冒され、苦しんだ」
「……」
「地上霊界からこの様を見られた国祖大神は、憂悶やるかたなく、深い吐息をつかれた。その吐息から八種の雷神と荒れの神が生まれた。稲妻は閃きわたってわだかまる邪気を焼き裂き、疾風起こって暗雲を薙ぎ払い、地上は吹き荒ぶ嵐に包まれ、不気味な地鳴りとともに揺れ動いた。
 荒れの後の天地は火水に洗われて蘇ったが、根強く残った邪気は三方に分かれて凝り固まる羽目となった」
「……」
「そいつは、地上人類のもろもろの害毒から溢れ出たばかりやない。天界の端々に残る滓が沈んで澱をなすみたいに、類をもって集まり、力を生んで、ここに邪神界が現出する。
 まず、今でいう露国のあたりに発生した邪神群を、仮に八頭八尾の大蛇と名づける。インドのあたりに極陰性の邪気ばかり凝り固まったのが金毛九尾と思え。八頭八尾の大蛇はその霊を分けて力ある国々の権力者に、金毛九尾の白面の悪狐はその分霊を相手方の女の霊に憑依したがる。
 真っ先に八頭八尾の霊が襲ったのは、盤古大神の子の八王大神・常世彦命。金毛九尾が憑いたんは、その妻神の常世姫命やった」
「ほう……」と、梅田は嘆息する。
「常世姫命は地上霊界の神政の司稚姫君命の第三女や。このために常世国には妖気がみなぎり、政治は乱れて、上も下も体主霊従の行動を好むようになっていく。
 一方、ユダヤのあたりに凝固した邪霊は、六面八臂の邪鬼と化した。彼らは神界・霊界の組織を打ち壊し、力を持って全世界を従えようと、ひそかに企む。この邪気は大自在天神・大国彦命に憑依し、力主体霊的行動をしたがる。
 三種の悪霊は三つ巴となって大神の経綸を妨害し、罪悪は平然と横行、弱肉強食の巷と化していくのや。顕幽神三界の混乱紛糾は、収拾ならぬまでに至った」
「その……大蛇とか邪鬼などといわれると、どうもわしの理性が承知しまへん。他に言いようはありまへんかい」と、湯浅が渋い顔になる。
 梅田が湯浅に真剣な顔を向けた。
「けどほんまにおりますで。現にわては、何ともいえんいやらしい動物霊が人間についとるのを見とる。それは霊眼が開けた時に限るけど、他に何とも言い表わしようがおへんで」
「あんたが現に見た言うてんじゃから黙るよりしようおへん。けどなあ、万物の霊長たる人間や、まして神さんが狐や大蛇の霊に支配されるなんて、そんなけったいなことが……」
 好もしげに二人の論争を聞きながら、王仁三郎は紫煙の行方を目で追った。
「湯浅はんの言うことはもっともや。あいつらが現実の狐や大蛇の霊やと考えたら、信じられんやろのう。さっきから言うとるように、邪神とは、天地間の万物の吐き出す不純な気の凝ったもんや。
 邪神は厳然として存在し、邪神界は今や正神界と対立する勢いにある。いや、この時代にはもう、正神界の威令は、ほとんど人間どもの耳には届かんようになった。
 彼らを表現するのはやっかいや。サタン・魔王・白魔・赤魔・妖魅……なんぞ気に入った名前があったらそれでもかまわん。けどその正体ははっきり三系統に分かれとる」
「……」
「正神界の神々がスの言霊の火水から生まれたように、奴らもまた邪悪な想念、言霊から発生して力を得たのや。つまり肉体を持って生まれた霊やのうて、本来は放出気塊の複合体やさけ、その性格を言い分けるとなると、単純な名では言い得んのや。
 彼らが目的と意志を持って動く時、必ず何らかの形を作る。実際は相手方の意に添うように、威容厳然たる正神か美しい女神となって現われたがる。
 しかし見破られた時や包み切れなくなった時など、いわゆる正体を現わすのや。古くからその姿が日本や支那やインドなどで記録されとるが、金毛九尾白面の悪狐、六面八臂の邪鬼、八岐の大蛇というのも、そういう形につけられた名称に過ぎん。
 入道の形をした雲に入道雲と名づけるのは、人間に入道と言う記憶があるからで、鬼や狐の連想からそういうふうに見えるのや。また逆に人間のそういった観念、あるいは相手の潜在意識をついて現われるともいえる。そうした恐ろしい力を崇め、信心してその魔力を自分の力としたがる人間どもがあるのも事実や。古今東西、邪法を行じてその邪悪な思いを達する者は後を絶たん」
「ほんまですなあ。鎮魂帰神を求めてくる連中も、たいていそうですわな」と、湯浅が嘆く。
「そういう邪悪な力にのめり込むと、生きながら邪神界に籍を置くことになる。だから審神者たるもの、よほど心を引き締めてかからんなん」
 湯浅が思わずうなずく。
「ついでに言っておこう。六面八臂の悪鬼と言うのは、何も六つの体に六つの顔や臂がついとる訳やない。六面とは、ある時は若者に変じ、また美神となり、醜神と化し、正神を装うかと思えば鬼面に変わるといった神変不可思議な変化力を指し、八臂というのは、今日の人間に例えたら、精巧な器械を作るのが上手とか、書画に堪能やとか、琴の名手とか、ひとりで一切百種の技能に熟達しとることをいうのや」
「金毛九尾は?……」と、梅田が訊く。
「金毛九尾白面の悪狐と言うのは、化現する時には好んで美しい女神の姿になり、優美で高貴な衣を身にまとい、人に崇拝されたがる。その正体は、黄金色の美しい針毛の狐といわれる。金色は色の中でもっとも尊く、また金属として最上位を占めるからやろ。九尾というのは、一つの体に九本の尾があると言う意味だけやない。九は数の終局であり、『尽くす』の意があり、完全無欠の力を表わす。三軍の将が采配を振るって軍卒を指揮するわなあ。また祓戸主が祭典に大幣を左右左に振って悪魔を祓うやろ。
 つまり正しい神が使用したら金幣を左右左に振るちゅうことになる。邪神が使用すれば、九尾を振るという表現になるのや。金毛八尾とか銀毛八尾とかいうのは、それよりやや力の劣った邪神のことを指す」
「八岐の大蛇は?……」
「八岐の大蛇というのも、一つの蛇体に八つの頭や尾がある訳やない。仏典の九頭龍かて、同じく象徴的な言葉や。八とか九の字がつくのは、自在な分身力に対して昔の人々の持った驚嘆の気持ちや思たらよい。奴らは時空を越えた存在やさけ、三次元界に住む人間が太刀打ちするためには、ただ正神界の加護を得た誠の信仰があるだけや」
 湯浅は二、三度うなずいた。
「お蔭さまで何となくわかりかけた気がします。先を教えとくなはれ」
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