文献名1大本七十年史 上巻
文献名2第1編 >第2章 >1 帰神よみ(新仮名遣い)
文献名3開教よみ(新仮名遣い)
著者大本七十年史編纂会・編集
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一八九二(明治二五)年、なおは五七才(数え年)の正月を迎えた。旧正月元旦(新暦一月三〇日)の夜、なおは、ふしぎな夢をみた。それは、いつしか神霊の世界に入った、なおが、おごそかで美しい楼閣のある宮殿において、尊貴な神々にまみえた夢であったという。同じような霊夢が、夜ごとにつづき、なおを神霊の世界へといざなっていった。
旧正月五日(新二月三日)の夜おそく、いつものように淋しく留守番をしていた、りょう(一二才)とすみ(九才)は、とつぜん母の大きな声でとび起きた。なおは、西町の大槻鹿造の宅で、狂乱状態のよねを見舞って、おそくなったのであったが、その夜のなおは、日頃のやさしい母ではなかった。情愛のこもった、やさしい声しかしらない幼い二人に、なおは、力のこもったきびしい声で、「西町のおよね姉さんとこへ行って、はやく改心するように三六お灯明をあげと申してこい」と命じた。
りょうとすみは、おどろいて、大槻の宅へかけつけ、鹿造に母のことばを伝えた。帰ってみると、母は、凍てつくような寒夜の井戸ばたで、一心に水をかぶって身をきよめていた。水行が終わると、なおは、怖れとおどろきで立ちすくんでいる二人にむかって、「それはご苦労であった。はやくおやすみ」と、平常のいつくしみ深い声にかえっていうのであった。
なおの帰神は、こうして始まった。身体にかかっている神の命ずるままに、毎晩、水行がつづけられ、はげしい帰神のために、こののち一三日間は、食事をとることもできなかった。
帰神がおこると、なおは、じぶんの身体が非常に重くなり、力が満ちてくるような感じを覚えた。姿勢は正しくなり、やがて、身体が、ややそりかげんにゆるゆると振動をはじめると、畳にすわったままいる時も、ひざが交互に音を立てて上下する。そのとき、あごは引きしまり眼はかがやいて、おもむろに腹の底から、威厳ある大きな声が出る。この声は、じぶんで意識しない言葉となり、押さえようとしても、どうしても押さえることはできない。
なおは、昼夜の別なく、断続して帰神状態となった。帰神が終わると、しばらくは魂が脱け出たような疲労を覚えて、平常の様子にもどった。
なおは、食事もとれず、時には夜中も眠れないこともあった。なおは、突如として自分にかかった「神」について思い悩み、しばしば神との問答をくりかえした。この問答は、よそ目には、自問自答のかたちであったが、神のことばのときは、男のような重々しい声となり、なお自身のことばは、ふだんの、つつしみ深い声であった。神となおの問答のなかで、神は、いつも「この方は艮の金神であるぞよ」と答える。そして、くりかえしなおにたいして、艮の金神が、いかなる神であるかをさとし、なおを励ますのであった。
「……この神は三千世界を立替え立直す神じゃぞ。三千世界一度に開く梅の花、艮の金神の世になりたぞよ。この神でなければ、世の立替えはできぬのじゃ。天理、金光、黒住、妙霊先走り、とどめに艮の金神が現われて、三千世界の大洗濯を致すのじゃ。これからなかなか大謨なれど、三千世界を一つに丸めて万劫末代続く神国にいたすぞよ……」
大本では、一八九二(明治二五)年旧正月元旦の霊夢にひきつづいてはじまった出口なおの帰神をもって、その開教とし、艮の金神のもとに、金勝要の神・竜宮の乙姫・綾部の熊野神社をはじめとして、八百万の神々が綾部の本宮新宮坪の内に神集いして、ここに救世の神業がひらかれたとしている。
〔写真〕
○一輪の梅(耀盌 越殿楽) p80
○水行に使用されたつるべ p81
○帰神のふでさき p82