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文献名1大本七十年史 下巻
文献名2第5編 >第3章よみ(新仮名遣い)
文献名3農村救済運動よみ(新仮名遣い)
著者大本七十年史編纂会・編集
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-09-26 14:34:37
ページ187 目次メモ
OBC B195402c5306
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本文  統管が東北地方組織のため、地方本部・支部発会式に臨んだころは、全国の農山村は、水害・冷害・旱害などによって非常な打撃をうけていた。ことに東北地方は二、三年来の冷害によって、農作物の収穫は極度に減収した。「未曽有の大凶作」と喧伝されているさなかであった。岩手県の上閉伊郡青笹村在郷軍人分会が一〇月二四日、全国三〇〇万の在郷軍人に窮状をうったえるために、たちあがったときでもあった。東北へおもむいた統管にたいしては、いたるところで各地方団体の代表者が、窮状打開のうったえをもって面会した。当時の内務省調査によると、二〇〇町歩以上の町村で、七割以上減収の町村は宮城一七・岩手一五・青森八・山形二五・秋田一となっているが、この窮状を目撃した統管は現地から指令をだし、昭和青年・坤生会の「むすびの日」による貯蓄金を支出して、白米一〇〇俵を購入し、佐藤愛善・長野春祥を慰問使として派遣することを命令した。
 「宮城県の刈田郡七ヶ宿方面では、ほとんど食物と名のつくものなく、飢餓地獄の惨状を呈し、美貌の女児が浜松其他へ見習奉公の名儀で前借十円乃至三十円にて売られ、その家族の一時の飢をしのいでゐる」(「仙台通信」)。「岩手県上閉伊郡では税収入は凶作以来全然なく、従って町村の支払は、吏官の給料をはじめ小学校教員の諸給料支給も不可能になり、三ヶ月、四ヶ月の不渡りはザラである。そこで義務教育費全額補助の陳情を文部省へした」(「盛岡通信」)。「長野県下所得税調査委員会は協議の上十二月上旬大挙上京し、大蔵省に陳情」(「長野通信」)。「七月北陸地方を襲ふた豪雨のため、家を奪はれ道路を奪はれ、大多数の村民は今なお下流方面から日々人の背によって運ばれた食糧によって辛ふじて露命をつないでゐるが、早くも北国名物の積雪が来らんとし、村民はあげて他県へ移住を希望し県当局へ之が手続を嘆願」(「金沢通信」)。「飯米購入の代金なければ全村民餓死の外なし、税金補助されざれば村役場閉鎖の止むなきに至る」(「盛岡通信」)。代議士小高長三郎は「九州、四国の旱害を視察したが、想像以上で美田はほとんど荒野と化し、農民の焦燥悲嘆、幾多の悲惨事を捲き起してゐる。各県とも日々数百の農民が隊伍を組んで県庁に救済嘆願を続け、某知事の如きは陳情団の猛襲に僻易し所在を晦ました……」(「人類愛善新聞」)。
 各地方の新聞記事はいずれもその惨状をうったえているが、これらとても氷山の一角にすぎない。統管は東北のちいさな駅や、また鉄道沿線に集まって、列車の乗客がくいのこした弁当を投げてくれとむらがり、食物をあさる少年たちを見て、自己の弁当・食物は全部投げだし、随行のものにも絶食を命じたくらいである。農山村の窮状救済に立ちあがる決意をかためた統管は、じらいいたるところで、稜威為本・土地為本による皇道経済をさけびつづけた。このころ副統管の宇知磨はつぎのような書簡を統管におくっている。「農村問題に関して種々考究の結果具体的一方法として、天産自給の大方針の下に愛善陸稲を奨励する事が最もよき方法のやうに考へられます。就ては今秋より東北地方及養蚕地方其他窮乏農村地方には極力之を奨励……農村救済方法には種々あるやうですが、神聖会としては結局皇道経済断行促進の気運を早めるやう、皇道経済論を直向より強調してゆく事が第一のやうに痛感してゐます」(昭和9・9・23)。一方、昭和神聖会を通じて世論を喚起し、政府を動かしてほしいという嘆願がさかんになされるようになり、昭和神聖会の運動のひろがりを非常に期待する人々もふえていった。
 このような状勢に即応して昭和神聖会は人類愛善会とともに、全国的に講演会・座談会・映画会を開催して、農山漁村の飯米自給と農村救済の世論喚起につとめる一方、『愛善陸稲耕作法』のパンフレットを広汎に配布し、愛善陸稲耕作実行組合を全国各地に設置して実地の耕作指導を熱心におこなった。その結果一九三四(昭和九)年における愛善陸稲の作付面積は鳥取県下の二〇〇町歩をはじめとして島根・岡山・高知・徳島・香川・愛媛・熊本・佐賀・長野・福島・茨城・山形・宮城その他の府県をあわせて約六〇〇〇町歩におよび、一二万石の収穫が予想されるにいたった。また愛善陸稲の普及は国内にとどまらず、満州・南洋サイパンなどでも熱心におこなわれ、第二期の試作にはいったほどである。
 「人類愛善新聞」も、「非常時財政の大経綸を行ふべし」「農村未曽有の窮状、聖代の不祥事なり、天日を覆ふ暗愚の為政者」「愛善陸稲を奨む、荒蕪地、痩地、山地及び桑園改植の一大福音」「疲憊に喘ぐ村から、復興の叫び揚る、愛善陸稲で窮状打破、神聖会共鳴者続出」などの見出しのもとに農山村の救済をうったえ、かつ窮状打開にあたる昭和神聖会の運動の成果を報道した。やがて農山村救済の世論は全国的なたかまりをみせるにいたった。

〔写真〕
○東北地方の冷害地へ救援米がおくられた p189
○あいつぐ冷害のため東北地方の農村は草の根や木の皮までも食べ、子女の人身売買がさかんにおこなわれた p190
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