文献名1大本史料集成 3 >第2部 第二次事件関係
文献名2第2章 裁判所資料 >第2節 地裁公判速記録(出口王仁三郎)よみ(新仮名遣い)
文献名3地裁公判速記録(6)よみ(新仮名遣い)
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●進行 弁護士の確認
午前十一時開廷
小山(昇)弁護人 裁判長、ちよつと希望を申上げたいのですが。
裁判長 進行上ですか。
小山(昇)弁護人 被告人の方で答弁致しますことが、裁判所の御問に対しまして、途中で何かと見当違ひのやうな感じを致しますことがありまして、さう云ふ際には裁判所の方で、其所は見当が違ふからと言はれて、また御問ひになることがあるのですが、兎に角一応の答弁を……出来ますことなれば、大凡言はむとする趣旨を、其の際一つ明かにして、さうして御進行を願ひたいと思ひますのです。
此の前も丁度、神政成就と云ふことが、所謂公認教になると云ふ意味が、一つ含まれて居るのぢやと云ふが如くに準備の時に思ひましたことは、後に至りまして、それも一つの神政成就だと云ふことが、非常にはつきりしたやうなこともありますので、其の点を一つ、出来ますことならば──非常に慎重に御審議を戴きますので喜んで居りますが、もう一つ御願ひしたいと思ひます。
それから、只今の御問に対しまして、今日迄一寸私として御問と答とが、全然なんかちぐはぐになつたやうに思ひましたので、もう一度──一番後の所の「国常立尊の再現の理論は何に基いて出来たのか」と云ふ御問であつたのか、「どう云ふ根拠から出たのか」と云ふ御問だつたのか、能く私もはつきり致しませぬのですが、被告人の方の答弁と致しましては、兎に角宗教としてはミロクの菩薩の下生とかキリストの再現とか云ふことが生命だ、と斯う云ふやうな答だつたと思ひます。
御問と其の答とがなんだかちぐはぐのやうに思ひますので、もう一つ最後の所を御確めを願ひたいと思ひます、それだけ希望を申上げて置きます。
裁判長 第一番目の点は御尤もです、後からの問題は、ちぐはぐになつたから具体的に、……だから古事記とか日本書紀の国常立尊の点、弥勒上生経、聖書の点などを加減して、国常立尊の隠退再現の教義と云ふものが、出て来たのかと云ふことを聞いたのです。
小山(昇)弁護人 裁判所の御問は、私の方で感じましたことは、是はどう云ふ資料に基いて作製したのかと云ふ、御問だつたと思ひます。
裁判長 根拠です。教義の出来た根拠l。
小山(昇)弁護人 教義の出来た根拠が、今迄色々聞いて居ります処に依ると、「神様が言はれて出来たのだ」と云ふやうに思へますし、今のでは、宗教の生命だから入つて居るのだと云ふやうな答にも思はれるし、そこの所がはつきりしませぬが──。
裁判長 はつきりせぬ点もあるかも知れませぬが、それは此方の決定に書いて居るので、是れだけは訊かねばなりませぬから訊いたのです。
小山(昇)弁護人 どう云ふやうに御訊き下さいましたか、私の方にはつきりしませぬから……。
裁判長 問に対して答がなつて居りませぬから、具体的に決定のことを訊いたのです、第一の国常立尊の出来た根拠は、さうぢやないかと訊いた訳です、しつかり聴いて貰はぬと困りますね。
小山(昇)弁護人 しつかり聴いて居りますが、はつきりしませぬのです、御訊の趣旨はどう云ふ趣旨でございましたのでせうか。
裁判長 国常立尊の退隠再現の根拠は如何、と云ふ問です。
小山(昇)弁護人 大本教義の……。
裁判長 国常立尊の退隠再現の根拠は如何と云ふ問は、変な問をして居りましたから、それで具体的に決定に書いてあることを訊いたのであります。
小山(昇)弁護人 根拠如何と云ふ趣旨は、どう云ふ所から、どう云ふ所から出て来たのだと云ふことですか。
裁判長 初の方は抽象的に訊いたので判らなかつたから、又、具体的に訊いたのです。
竹川弁護人 それは私も同じやうに感ずる。
根拠如何と云ふことを言はれると、どう云ふ文献の根拠があるのか。
神憑の根拠であるのか、或はそれを政略に使つた、手段に使つてやつたのであるかと云ふやうな説のやうに、思はれるが、どれか一つになりさうである。
そこで、再現とか云ふことはどこの宗教でもある。処が、さう云ふと、何だか一つの手段に見える。
其の答弁がちよつと裁判所のお問ひになつたのと、我々の期待して居ることと、少し違うやうに思ひますから、もう一遍お確かめ願ひたい。
小山(昇)弁護人 其処まで言ふと、誘導するやうに聞えますが、要点は其処なんです。
出口 もう一遍言はして貰ひたい。
裁判長 決定の所には、「古事記、日本書紀のことが色々書いてあり、国常立尊の退隠再現のことを出したのだ」と書いてありますね。
之を実は訊かなければなりませぬ。
裁判所は、それを、私の方ぢや先つ先に訊きまして、根拠如何と訊いたこともです。
判らなかつたから之を訊いたのです。
小山(昇)弁護人 恐れ入りますが、答弁をもう一度聞かして戴きたいのでございます。
●争点 神の言葉が創造か
裁判長 さうですか、それでは判つたね、具体的の方です。
出口 日本書紀、古事記は、此の間も申したやうに、参考に読んで置いたのであります。
さうして、是は、「神憑りと云ふものは総て神典を読んで置く」と云ふのが法則です。
それで、私が別に基督教をやり、何かを寄せて来て拵へた、作成したのではないのです。
唯、さう云ふことは自分の頭に、外流して入つて居りましたが、其の艮の金神のミロクやとか、或は退隠の理由やと云ふことは我々には判らないから、それで神憑となつて神様に直接知らして貰つて拵へた。
神様が直接にお知らせになつたことを、ずつと教義としてやつて見たのでありまして、別に私が創作したのでも何でもない。
併し、基督教でも何でもないと云ふことは参考に申上げた。
艮の金神さんが再現されると云ふのも、謂はば、基督教が再現すると云ふのも同じ意味でございます、と言ふことを言うたのであります。
別に、基督教の主義からやつたと云ふのぢやございませぬ。基督教の主義を真似て、此の教義を拵へたと云ふのぢやありませぬ。
唯、例に申上げたのであります。
裁判長 今訊ねるやうなことは、知つて居つたのだね。
答 何です。
問 古事記や日本書紀にあることは──。
答 一生懸命研究して居りますから、体のどつかに浸みて居ります。
それで、神憑りの修業をするのには、第一条件として、神典を詳読し、神徳を清くすべし、と云ふことが、修業の条件であります。
裁判長 それで宜しう御座居ますか。
小山(昇)弁護人 判りました。
裁判長 此の点に付きましては、さつきは、此の点に付ては、予審の第一回の二問答に於て、「古事記には斯う々々、それからミロク下生教には斯う々々、基督の再現の何々、木村鷹太郎の何々のことを想像して、国常立尊の退隠再現の理論をば案出したので、其の理論が出て居つたけれども、此の発表は差控へて何した」と云ふことになつて居るが、斯う云ふことが書いてあるから、それの弁解を訊きたかつた。
答 其所の所はさう申しました。
已むを得ぬから、さう申しましたけれども、実際はさうぢやない。
併しながら、神さんと云ふことを、向ふが認めて呉れぬのです。それだから、仕様がないから、神さんを抜きにして、人間的に、「斯うです斯うです」と云ふのは、仕様がないからさう申しました。
私は申しましたけれども、私の本心ぢやありませぬ。其処の所は、仕方がないから申しました。
読んだ書物のことを竝べて……。
問 神と云ふことになつて来るのだな。
答 神様の御神示であつたのだけれども、私が作つたと云ふのでなければ、承知して呉れませぬから、神さんを抜きにして、拵へなければ……。
問 実は、此処を訊きたかつたのだ、それでは──。
答 其処の所は、私が申したことです。
今、仰しやつたことは、木村鷹太郎が斯う云ふことは仕方がないから私が……神さんを認めて呉れないから、返事の仕方がありませぬから、唯神さんだけを抜きにして置いたのです。
問 併し、其処の所は、どんなことが書いてあるか知らぬか……統一するとか何とか。
答 材料のことは申したが……さう云はなければ通りませぬから、さう申したのです。
問 自分で読んで、頭に入つて居つたのか。
答 それも半分は事実です。
問 神懸りで、さう云ふことを云ひ出すやうになつたと云ふことか。
答 それだけの書物を、何十年間かにポツポツあちらこちらで読みましたのが、それがつまり体に浸み込んで居つた意味はあるのです。
さうでなければ、神憑りは出来ない。
問 此の程度で、此の点の訊問は宜しうございますか。
●争点 国常立尊と大国主命、盤古大神と瓊々杵尊の関係
竹川弁護人 宜しいです。
問 教義の理由。之も前に訊ねたことと重複するかも知れないが、訊かなければならぬが、王仁三郎、聞いて居れよ。
大本教の一の教義として国常立尊の名前を藉りて、大国主命の御事、それから盤古大神なる神名を藉りて、瓊々杵尊のことを説いて、決定の如き第二の理由を主張して居りましたか。
答 居りませぬ。
そんなことは初めて聞いたのです。
問 要するに、国常立尊の名前を藉りて大国主命のことを説いて、さうして、其の第二の大本教義を主張して居りませぬでしたか。
答 全然ありませぬ。
其の点を始終やられたのです、盤古が何やとか、国常立尊が……大国主命が……とさう云ふことを言はなければ、今度の事件が巧く行かぬから──
併し、そんなことはありまへぬ。大国主命のことを説いたものは、唯評論として説いただけで、他にありまへぬ。
国常立尊のことは、随分書いてあります。
問 全部読んで御覧なさい。
自分で準備に於ては認めた点もありますから、全部違ふかどうか、明かにして置かなければならぬから──
決定の二、四枚目の(2)と書いてありませう。
答 是は……。
問 能く、全部読んで下さい。
答 先のことを忘れてしまふから、三行程位づつ言はして貰はないと、又、本へ戻つてしまふです。
此の頃、頭を悪くして居りますから──一つ、ぼつぼつ、断片的に言はして貰つて……さうして戴きます。
問 よしよし。
●思想 天孫降臨
答 之をちよつと、少しづつ言はして戴きます。
問 よし。
答 此の「伊邪那岐尊の神勅に依り、天照大神云々」と云ふことは、是は古事記にも、本文に書いてあることでありまして、是は「大海原、即ち地球の主宰神、素盞嗚尊は大海原を治めせよ」と書いてありますが、治める力がないから、是は取消になつて居ります。
神勅で──其のことを……評論的に書いたのです、「天津神と国津神との間には歴然たる区別がある」──是は本当にある。
天は天照大神、地は詰り素盞嗚尊、月界は月読命と云ふことに決つて居つたのです。
是は、歴然たる区別が付いて居つた。「素盞嗚尊の御子孫にして国津神なる」──斯んなことは書いてありまへぬ。
「大国主神が武力を以て統治し居られたる処」──是は素盞嗚尊が勝手に大国主命を命じたのです。朝鮮へ素盞嗚尊が行かれた時に、素盞嗚尊が、大己貴命即ち大国主命の元の名ですが、それが朝鮮の国から逃げて帰る時にちよつと待て──と云つて、素盞嗚尊が「爾は国へ帰つたら大国主命となつてやれ」と言はれたが、併し大国主命となつてやれと言はれても、素盞嗚尊は、既に権利がなくなつて居るのだから、其の権利のない人が命令して、大国主命となつて居つたのですから、それで天孫へ国土を奉還するのは当り前の話です
又、天孫が御降臨になつて、「之を返せ」と仰しやつたことは当り前です。
私は此のことに付て、別に是が悪いとか、何とか云ふことは言うて居りまへぬ。
さうして、是は丁度言ひますと、「大国主命が御帰順なさつたのは、一通りの帰順でなかつた」と云ふことを書いたことを、非常に悪いことのやうに言はれますけれども……さうです、丁度、今日の支那です、支那に愛善使をやつて、詰り、言うたら日本から公使をやつて、さうして、「日支親善をやらうぢやないか、東洋平和の為めにやらうぢやないか」と言つたが、聴かない。
今度は、天之稚日子命、能く判る人ですが
、之をやつたが判らない。
今度は、愛善使ぢやなく、商買の方で、貿易の方でやらうと、経済使節をやられたが、是も聴かなかつたから、今日の日支事変が起つた。是は健御雷之男神、経津主神が武力を以てやられたのです。
愈々、蒋介石が日本に屈服した処で、是は心からの屈服ぢやありませぬ、力尽きての屈服である。
其の裏には──建御名方神と云ふ……大国主命が屈服して、又、建御名方神が後から邪魔をした。
是は、今から云へばロシヤとか、英国とか云ふものが今日残つてる。此の蒋介石が日本に従つても、とても真からの通常の屈服ぢやない。
是は、「此の大国主命も通常の屈服ぢやない、それだけ三遍も四遍も使を出したのに、一遍に忠誠を現はすのならば、一遍に国土を返上せんならぬのに、三遍も四遍も闘うて、抵抗した」と云ふことを、私が申したのです。
「是は尋常の降服ぢやなかつた」と云ふことを言つたのです、
それを、恨を持つて居つて行はれたから、艮の金神のことにして取られたのです。
ちよつと待つて下さい……大国主命は力尽きて日本の統治権を……日本の統治権とは私は何も書いて居りまへぬ、其の地方の統治権を返還された。
御返しになつた後の、日本及び世界を統治せんが為に、天孫は御降臨になつた。
其の時、天照大神の御神勅に、「此の豊葦原の瑞穂国へ爾子孫の君たるべき地なり、行いて治めよ」と宜はせられた。是は言霊学で言へば、地球の総称であるけれども、完成するに到らず、弱肉強食の巷と化した。そして今日迄まだ完成して居らぬ。
それで、天孫を御降しになつた時から、日本書紀にも「百七十余万年の後の遼遠の地未だ良沢に潤はず」、愈々悪魔が栄へて居つて、天孫の仰しやつた通り、まだ統一が出来て居らなかつた証拠であります。
併し、神武天皇様が、天孫の御降臨になつた日向から、東征を起されて、さうして、愈々日本国と云ふものを御立てになつた。
是が神勅の実行の初めであつて、さうして、愈々今度此の御神勅が実行になり、愈々是れから昭和の御代から実行になると云ふ意味です。
それ迄には色々の悪霊もあり、悪い神もあつて、まだ天孫の御神勅を実行する迄到らなかつたが、是れからはさうなると云ふのです。
艮の金神が蔭から、御守護をして行くと云ふことになつて居ります。
それから、「盤古大神即ち……」是れからが間違つてる。三千万言の中に何も書いてありまへぬ。「国常立尊のことを、其の儘持つて行つて書いたのや」と、斯うして作られたのです。
是は違ひます。国常立尊ぢやありませぬ。是は大国主命のことを言うたのです。大国主命のことです。
此の記事は……それで「盤古大神即ち瓊々杵尊」、こんなことは書いてありまへぬ、思うたこともない、是は盤古大神なる霊が──世界に根を張つてる処の悪霊が邪魔をして居るから、それで此の日本が今日迄、天孫の御神勅通り、世界を統一することがまだ出来て居らぬ、と云ふ意味で、世界には色々の悪魔が居ると云ふのです。
●思想 天津神と国津神
問 さうすると云ふと、此の「伊邪那岐尊の御神勅に依つて、天照大神が高天原、素盞嗚尊は大海原の主宰神となつて、天津神、国津神の区別が、歴然となつて来た」と云ふのは、是はどうだ。
答 是は古事記に書いてある神話の通りでありまして、天津神、国津神と云ふことは、一方には天と地とありますが、此の国で云へば、天は即ち高御座です、地は人民です、天と地と──君臣の分が明らかに決つて居る。
それで、天津神と云ふのが即ち天皇陛下、即ち、天津神は天皇陛下の官吏です。
それから、国津神と云ふのが公吏です。今日で云へば、詰り官吏と公吏のことであります。国津神は公吏であります。
問 天津神は──。
答 天津神は天皇の家来ですから、天皇はんの役人です、官吏様は天津神の中に入るのです。
問 なんですか。
答 天津神も──。
問 官吏、役人は天津神……。
答 さうです、天皇が天ですから、地が国津神、……と云ふのは公吏と云ふのです、市長とか或は村長とか云ふのは公吏です。それを、国津神と日本の神道では言うて居る。
それで、天津神と国津神とは、歴然と分れて居ると云ふのです。
問 「天津神と国津神の区別がある」と云ふのは、神勅に依つて判るのだが、「天津神は官吏で、国津神は公吏のことだ、官公吏の区別が伊邪那岐尊の神勅に依ると云ふのですか──。
答 今日で云へば──神勅にも、天は天、地は地、天は治めるものと、はつきり分つて居ると云ふ意味です。
問 天を治める天と云ふのは──。
答 天と云へば、我が国で云へば上の役です。
天皇陛下が基であつて、天皇陛下に文武百官が付いて居る、親任官あたりです。地方長官は国津神になり、地方長官と言へば……。
問 公吏ぢやないぢやないか。
答 大きく言へば官吏と公吏、細かく言へば親任官は天津神で、地方長官以下は国津神、是は神道が皆之を説いて教へる処です。
問 伊邪那岐の神勅に明らかになつて居るのだね。
答 知食せと仰しやつたのですけれども、知食めさなかつたのです。
問 ちよつと待て、さうすると、神勅に書いてあることは宜いが、今の親任官以上だと云ふのだな、国津神は地方長官以下の役人──。
答 今で言へばさうです。
問 「歴然たる区別あり」と云ふのはどうなんだ。
答 はつきり区別が分つて居ると云ふのです。
問 勅任官と親任官の区別があると云ふのですか。
答 さうです、明かですわ、それは──。
問 ……。
答 併し、此の時分の伊邪那岐、伊邪那美尊の時分は、地球やとか何とか書いてあるけれども、此の「古事記と云ふものは総て世界の予言書なり」と云ふて居る。
私は之を世界の予言書と見做して居る。
素盞嗚尊が八岐の大蛇を退治すると云ふことも、世界の悪魔を平げることを云ふのだと思つて、それを予言と信じて居ります。
問 処で、此の点に関して王仁全集の一巻の「至誠殿落成式所感」に、「矢張り神勅に依つて、斯う云ふ区別は明かに付いて居つた」とは、書いてありませぬが、後の続き具合を読んで見ましても、さう云ふことでないやうに思へますが。
答 其処の所は説き方があります。
問 天界の方の神様と、地上現界に於ける神様と、区別したやうに書いてあるぢやありませぬか。
答 書いてあります。
問 それは本当ぢやないか、書いたものがあるのぢやないか、「至誠殿落成式所感」に……「天津神と云ふのは天界に於ける神、地球上の神は国津神」……。
答 それはさう云ふやうに説くのです。
其の時の按配で、地上で云へば此の地にも天地がある、太陽界にも天地がある。それを一様に取られては困る、其処に言うたのは、本当の天と地とを云うたのです。私が今言うたのは天地の事を云うたのです。
問 本職が訊ねるのは、現界の地球上と云ふのぢやないか。
答 此処ですが、是は其の時に天と地と月と、矢張り極く昔のことですから、お前は地球を──お前は何をと云ふやうに。
問 訊ねた通りぢやないか、それで宜いぢやないか、親任官……地方長官は要らない訳ぢやないか。
答 けれども、それは細かく云うたので、地上には斯う云ふものがあるのだ、譬へて云へばそんなもの。
問 地上には斯んなものがある──親任官、奏任官は要らぬ訳だな、此処に書いてある天津神……。
答 地球が出来たのは極く昔で、人類の発生して居らぬ時ですから、そんなに世の中は治つて居りませぬ。
問 だから天津神は天、国津神は地球、さうですね。
答 さうです、他にはさう云ふ意味ぢやない所もある、親任官の場合も……。
●争点 大国主命と天照大神の武力使用の意味
問 親任官、奏任官もありますと云ふ訳だな、全部書いて置きませう……最後の、「日本は素盞嗚尊の御子孫にして、国津神なる大国主命が、武力を以て統治し居られたけれども、」──是はなんかはつきりしませぬか。
答 それは詰り最前申したやうに、大国主神に権利のない癖に、……素盞嗚尊の権利がなくなつて居るのに、大国主命は息子やと言つて、武力を以つてやつて居つた。是は体主霊従です。
葦原の中津国は……天孫は霊主体従であり、こつちは体主霊従です、刀を以て振ひ廻して居つた。
問 是は此の通りで宜いのだな。
答 さうです。
問 「豊葦原の瑞穂国は、大国主命が武力を以て云々」と、書いてあつたのだから、其処を取つて書いたのでありませう。
それから、「天照大神は、天孫御降臨に際して、天使を三回迄派遣せられ、遂に武力を以て云々」とありますが、是はどうだ。
答 さつき申上げました通り、已むを得ず武力を用ひたのです。
今日の日支事変の如く、日本は戦さする積りぢやないが、蒋介石が聞かないから──それと同じ事です、天孫が武力を以てやられたのも──。
問 「大国主命は力尽きて云々」と云ふことはどうです。
答 是は、云ふたら、出雲の国に根拠を構へて──其の時分には、日本と云つては居なかつたのですが、神武天皇様迄は日本と云ふものはなかつたのです。
それは現代の日本の意味を言ふたのです。
其の日本を統治されると云ふことは、現代の……今の日本の中の西部の方面をやつて居つたのです。統治権を天祖に奉還したと云ふことは、お返ししたと云ふことです。
問 それから、「其の後の日本及び世界を統治せられる為めに行かれた」──是はどうぢや。
其の後は、是は否認するのだな、其の後はどうなつたと云ふのだ。
答 其の後は今日迄の状態、世界の状態であります。
世界がまだ我が天皇の統治下になつて居らぬ。
是は優勝劣敗、弱肉強食ばかりです、我れ好しばかりです、それで弱肉強食の現世となつて居るのです。
●争点 天皇の統治、国常立尊の守護
問 其の儘であつて居ると云ふのだね、瓊々杵尊以来、ずつと──それでどうしなければならぬと云ふのですか。
答 それで、愈々天皇に上還しまして、天照大神が、此の艮に幽閉されて居つた国常立尊に命令を出されて、「神界から護れ」と云はれた。「神界から現界を護つて居れ」と云はれた。
さうしたら、それと共に我が皇位が──即ち、今云うたことから、皇御孫命から、続いて来て居る処の天皇様が、世界の主となり、世界の師となり、親となり、──主師親になられると云ふのが目的です、是からさうなるのです。
問 併し瓊々杵尊様以来の現御皇統に於て、治めて居る現世が、弱肉強食の修羅の巷となつて居るが、国常立尊は再現なされて、どうすると云ふのです、此の世の中を。
答 それで我が日嗣天皇の御世にすると云ふのです。大日本にすると云ふのです。
問 大日本と云ふのは……。
答 全部の日本です。
問 外国は抜きにしてか。
答 日本ばかりぢやない。今度は、世界中一つにすると云ふのです。日本だけぢやなしに、外国も一緒に──。
問 日本はどうすると云ふのだ。
答 日本は其の中の基ですわ。
問 国常立尊は再現してどうすると云ふのです。
外国あたりは……。
答 外国も無論、国常立尊が世界中の国霊になつて護ると云ふのです。
問 立替立直は要らぬのか。
答 護るからして立替立直が出来る。護るからして出来る。
日本は天祐を保全しとあるが、神が守護をして居る。
詰り、神が守つて、日本が世界を統一するやうになると云ふことの或る力を貰うたと云ふのが、即ち、世界を護ると云ふのです。
それで、今日迄英国であらうが、何処であらうが、是は神勅に依れば日本のものであるのに、それを勝手にやつて居るのです。
問 統治権は其の儘にして置いて、国常立尊が再現なされて護ると云ふ意味ですね。
答 さうです、護つて、そして世界を一つにすると云ふのです。
問 此処の点に対しての、被告人の不利益の証拠として、王仁三郎のに十五回の一問答に於て、「盤古大神は瓊々杵尊……盤古大神の名前を籍りて、瓊々杵尊のことを国常立尊の神名に仮託して、大国主命のことを書いた」と云ふやうな──決定通りのやうなことに供述して居ますがね。
答 私はさう云ひまへぬ、向ふで勝手に書かれたのです、「即ち」を入れて、「盤古大神即ち瓊々杵尊」と云ふやうな風にされたのです。
問 是れだけにして置きます。
答 それだつたら私は予審判事さんと話をします、私は決してそんなことは云つて居りまへぬ。
●争点 素盞嗚尊の神逐再現
問 第三の教義のことに入りますが、大本に於ては、大本教義の一つとして、素盞嗚尊の神逐再現のことを説いて居ますね。
答 説いて居ります。
問 それは此処に書いてあるが、こちらで読みませうか、
「伊邪那岐尊の神勅により、天照大御神は高天原、即ち、太陽界の主宰神、素盞嗚尊は大海原、即ち、地球の主宰神と定まり、天津神と国津神との区別、歴然と神定まりたるを以て、日本は勿論、全地球は素盞嗚尊之を統治すべきものなること右神勅に依り明瞭なり。従つて、同尊及び其の御神系に於て日本を統治せられたらむには、天孫瓊々杵尊御降臨の必要なかりしものなり。然るに、素盞嗚尊は諸神の反抗を受け、神逐に逐はれ、次いて同尊の御子孫なる大国主命も、亦、天孫に帰順し、天津神なる瓊々杵尊降臨し給ひ、爾来同尊の御系統なる現御皇統に於て、日本を統治し来り給ひたるも、元来、国津神の御系統の統治すべき日本を、天津神の御系統に於て統治し給ふは、右伊邪那岐尊の神勅に背反するものにして、之が為め現代の如き優勝劣敗、弱肉強食の紛乱状態を呈するに至りたるものなり。因て、至仁至愛の神及び素盞嗚尊は、出口王仁三郎を機関として顕現し、現代の紛乱世界を立替立直して、至仁至愛の世と為すこととなりたるを以て、王仁三郎は、至仁至愛の神及び素盞嗚尊等の霊代として、現御皇統を廃止し、日本の統治者となるべきものなり」等とあるが、是は前ににも、準備の時にも訊いたが今読んだのは判つたでせう。
答 それは皆間違つて居りますわ。其の取り方が違ひます。
御神勅の通り行はれて居つたならば、皇孫が御降りにならなくとも治つたのですけれども、治まらぬやうになつたのは素盞嗚尊が力がない為めに、八百万の神様が抗して居つた……
併し、治めにやならぬ処の、国津神がさう云ふ具合だから、天子様が又御降臨にならなければ仕方がない。
問 要するに、今本職が読んだ要旨は、第一番目は伊邪那岐尊の神勅のことを申したので、天津神、国津神の歴然たる区別是は先に申した通り間違ひはないのだらう。
第二番目に於ては、国津神たる素盞嗚尊並に其の御系統に於て、同じく此の地球を治めたならば、瓊々杵尊の御系統がもう御降りになる必要がなかつたのだと云ふのですが、処が降臨したから神勅に違反して居る。
世の中は斯う云ふ様に紊れて来たのだ。
それで、元に帰つて、素盞嗚尊の系統で治めなければならぬのだ。
其の霊代とは王仁三郎だと云ふことに……。
答 はあ。
問 はあではない。
答 是は素盞嗚尊が治めにやならぬのに、斯う云ふことをしたから、今度は素盞嗚尊が再び霊となつて現はれて、霊代に……現はれて私の身体を霊代として、そして今度は世界の八岐の大蛇を退治して、天孫に忠誠の心を致すと云ふ意味が書いてあるのであります。
問 書いてあるぢやないか……。
答 ……が、其の意味なんです。
素盞嗚尊が今度現れると云ふことは、八岐の大蛇を退治する御用に出ると云ふことです。
問 世界革正の為めにか。
答 素盞嗚尊と云ふ言葉は、神道の講義に依りますと、素盞嗚尊は推進力、正義の推進力と云ふのを素盞嗚尊と申上げるのだ。
今日の日本は神須佐之男命は……建速須佐之男命は武器を持つて戦を進めて行くのだ、今日の支那に対するのは、それは素盞嗚尊であつて、今度は、建速須佐之男命で、終ひには日支親善、東洋平和の為に神須佐之男命になる。
今度、愈々、素盞嗚尊が働いて居ると云ふことになる。
今の日本の皇軍は素盞嗚尊の……神須佐之男命やと云ふことになるのです。
問 さうか、「天津神、国津神は神勅に依つて、歴然たる区別があること、瓊々杵尊様の統治なされて居る現世が紊れて居る」と云ふことも認める訳だな。
答 さうです。
問 神勅に違反して居ると云ふことはどうなるのだ。
答 其の時に素盞嗚尊は違反したのだ。
問 神勅に違反して居るから、紊れたと云ふことは、どうなるのです。
答 神勅に違反したと云ふことは……素盞嗚尊は神勅に違反した基です。
それやから、天孫が御降臨になつたのです、それで紊れて来てしまうたのです。
問 神勅に違反すると云ふことを誤解していけませぬよ、「国津神で治めるべき所を天津神で治めたから紊れた」と云ふことが書いてあるが……。
答 書いてあるのが間違つて居ります。
問 予審の調書で決定の通りのことを言うて居るがね。
答 私はそんなことは知りまへぬ。そんな意味ぢやないのです。
問 神勅に違反の点は認めない訳だね。
答 神勅の違反は素盞嗚尊が違反したのです。
問 「現世が紊れて居る」と云ふのは、どう云ふ理由だと云ふのだ。
答 其の理由は神様の為の理由ぢやない。
唯、国常立尊があれして、蔭から護る神がなくなつたから、すつかり優勝劣敗になつたと云ふのです。
問 それは体主霊従ですか。
裏から云へば、国常立尊の──体主霊従……。
答 さうです。
此の世の中が、全部、体主霊従になつてしまつたから紊れたのです。
問 それで其処迄判りました。
今度はどうすると云ふのだ。
其の決定に書いてある処を見ると、「素盞嗚尊が現れて立替立直をする」と、斯う云ふのだが。
答 そんな、素盞嗚尊の形のない霊界のものが、実際現れて、現界の政治をすると云ふやうなことに解釈するのが、間違うて居るぢやありませぬか。
問 ありませぬかぢやない。お前に訊かなければならぬのだが。
答 私は違うて居ると思ひます。
最前申したやうに、素盞嗚尊は霊界……。
問 それを云ふのだつたら素盞嗚尊は霊界……現界だから、瓊々杵尊と素盞嗚尊は現界の……生きた人。
答 けれども今は神界である。
問 それは判つて居る。
素盞嗚尊はどうすると云ふのだ。
答 移つて来て総ての教をして、蔭から皇軍を守り、日本を護ると云ふのです。
どうして守るかと云はれても、それは判りまへぬのであります。
問 現在の世の中を、どうする斯うすると云ふのぢやないのか。
答 守つて良い方に進めて行くと云ふのです。
日本が世界の宗主国になるやうにするのが、素盞嗚尊の仕事なんです。
今度は改心して、素盞嗚尊が忠義を尽すと云ふことになつて居る。
問 それが王仁三郎に顕現してやるのか。
答 私に直接移つて知らすと云ふのです。
移つて来た間だけが素盞嗚尊の霊代です。其の他の時は何でもありませぬ。
素盞嗚尊にばかり体を藉して居るのぢやありませぬ、他の神様にも体を藉して居るのであります。
●争点 素盞嗚尊の神逐再現(続)
問 其の位にして置きませう。
それで、此の神勅違反の点は珍らしいことを云うて居るやうだが、「至誠殿落成式所感」と云ふ曩に示したのに斯う云ふことが書いてあるのだ。
「天孫が御降臨なさらないでも、此の国は伊邪那岐、伊邪那美の神様の御神勅が行はれて居つたならば、天孫の御降臨の必要はないのである」と云ふことを書いて居る。
答 其の通りです。
問 まあお聴き。
之に、「神勅の通りならば、降臨がなくても宜いのだ」と云ふことを書いて、「是は伊邪那岐尊の神勅が行はれなかつたのであるから、天孫降臨は伊邪那岐尊の神勅に反する」と云ふことを蔭の方から言ふて居るのぢやないか。
答 それは違ひます。
神勅が行はれなかつたと云ふことは、素盞嗚尊が弱かつた為めに、行はれなかつたので、それで、若し強かつたなら神勅の通り、お降りにならなくても宜かつた。弱かつたから御心配になつて神勅をお下しになつて、お降りになつたと云ふ意味です。
問 さう云ふ意味ぢやありませぬよ、二十二回の二問答に──違ひますな。
答 私が言ふたのぢやありまへぬ。
問 もう一つ斯んなことを言うて居る。
王仁三郎の二十三回の一問答の所に、斯う云ふ事実があつたやうに書いてある。
「昭和五、六年頃に、王仁三郎は谷村正友と云ふ人に対して、地の世界は伊邪那岐尊の神勅に依り、素盞嗚尊の統治することを定めて居りますから、同尊の霊統に依り統治すべきものである。天津神である天照大神が瓊々杵尊を主宰神と定めて降臨せしめられたのは、権限外のことをなされたのである」と云ふ趣旨のことを話して居ます。
答 それは言うて居りまへぬ。向ふが勝手に書いて行かれたのです。
問 お前が言うたと云ふやうに……。
答 片つ方の相手が死んでしまうて居るし、書いてあるのだと言やはるから仕方がない。証拠のないことだから認めて貰へまへぬ。全部違うて居りますわ。
問 権限がないと云ふことは、神勅違反と云ふことになる訳ですね。
答 権限も何も、そんな話をして居ない。
古事記の講釈をしたことはあります。
問 東尾も七回にさう云ふことを云つて居りますね。
答 東尾が予審でも、さう云ふことを云つて居ると云ふことを聞きましたが、東尾が云つて居るならば……東尾が斯う云うて居ると云はれても、仕様がないもの──。
問 それから一番お終ひの点で、日本の皇統を否認して、日本の統治者になると云ふ点に於ては、二十六回で詳しく述べて居るやうだが、決定の通りのことを……読んで見ませうか。
答 読んで見ておくれやす。
問 「素盞嗚尊は曾つて八岐の大蛇を平らげ地上を浄め、天照大神にお目に掛けたと同様、今度再現した素盞嗚尊は悪神の霊統である現御皇室及び諸外国を倒して、日本国内及び世界全体を天下泰平に治め御三体の大神様にお目に掛け、先づ日本の統治者となり、次いで世界の統治者となるのである」と云ふ意味のことを暗示したものであります。
是は曩に述べた如く、「素盞嗚尊の霊代と主張して居りましたから、私が素盞嗚尊の霊代として、現御皇室及び諸外国の統治者を倒して、日本の統治者となり、次いで世界を統一して世界の統治者となる」と云ふ趣旨のことを云つて、国祖御隠退の因縁の所で説明して居りますね。
答 それは申上げますが、全部嘘です。全部それは向ふがさう書かれたので、「宇智麿が斯う云うて居る、伊佐男が斯う云うて居る」と云ふので、私ももう仕方がないから……
弁護士にも会ひまたしけれども、ちよつと面会に来た時に申しました、型に篏めました、私は一定の型が決つて居る、其処に篏めましたと申しました。
私は昔、江木先生に聴いて居りますが、「予審では、無理が通らなかつたら云うて置け、予審の陳述と云ふものは、証拠の参考になるだけだから、予審が難しかつたら、向ふの云ふ通りにして置いても宜い」と云ふことを聞いて居りましたから、安心してさう云うて居りました、向ふは勝手に書かれた、私の陳述になつて居りますけれども、構やしまへぬと、其の積りで放つて置いたのです。
●争点 国常立尊の退隠と素盞嗚の理論の齟齬
問 よし、第三の教義を出したのは、教祖ナカの死亡後のことでせうね、素盞嗚尊神逐再現のことは──。
答 死亡前から申して居つたと思ひますが。
問 それは理窟に合はぬぢやないか。
答 素盞嗚尊のことは教祖の生きて居る中に……。
問 斯う云ふことは。
答 それは後からとも思ひますが。
問 素盞嗚尊の一件を説き出したのは、小山弁護士からも話があつたやうに、古事記の神代の記事を基本にして、地球は大国主命が統治すべきものであると云ふ理論を持出したのぢやないのですか、基本にして……。
答 それは読んでは居りませぬけれども、私は矢張りそんなことを作つたら間違ひますから、神様にそれを訊いて、神様に拵へて貰つたのです。
問 其の通り八回の訊問でも言うて居るやうですから、是は予審でも──。
答 私はそんな馬鹿なことを……お書きになつたのです、そんな不利益なことを、私が云ふ訳がありませぬ。云ひもしなければ答へもしまへぬ。
妙なことを云やはりましたから、私も牢の中から神が「よう云はぬわ」と二度云ひました。
問 八回の二問答に於て、曲解して、地球は素盞嗚尊だと云ふことを──要領だけを書いて居るやうだが、違ひますか。
答 私が書いたのぢやありまへぬ。私の意思で書いたものぢやありまへぬ。
問 大本教義として、国常立尊の隠退再現の理論を云ひながら、素盞嗚尊の神逐再現の理論を説いたのは、どう云ふ訳ですか。
答 それは要するに、神さんが違ひます。其の国常立の神さんと違ひます。
素盞嗚尊を主とする神もあれば、国常立尊を主とする神もあり、国常立尊が現れて来ればそれを主としてやります、素盞嗚尊が現れて来れば、それを主としてやるのであります。
基督教にも現れれば基督を主としてやる、それだから、世界の大本とも云ふたのであります、総て何もかも……。
問 それで国常立尊の隠退再現のことに付て云つたのですが、是が教祖ナカに付ても、霊代であつたと云ふが、死亡後は国常立尊の言ふ訳はないから……。
答 そやありませぬ。死亡後は、国常立尊はんに、私に移つて貰うたのです。
それは本当の神さんかどうか判りまへぬが、私はさう信じた、移つて貰うたと信じて居りました。
問 九回の訊問調書の第三問答で、詳しく説明して居るやうだが。
答 はい。
問 説き方が違ふと云ふのだな、さう云ふ訳か。
答 はい、素盞嗚尊のことは、素盞嗚尊のことであります、国常立尊は国常立尊のことであります。
問 予審で云つたのは覚えがない、と云ふのだな。
答 はい。
問 予審で言つたことも覚えて居らぬか。
答 覚えて居りまへぬ。
病気で寝さして貰つて居つたので、机の前で私は何も聴いて居りまへぬ。
其の話は皆抜けてしまひまして、全部抜けてしまひます。
問 「私は、最初、『豊雲野尊の霊代として、国祖国常立尊の神業を補佐するのである』と云ふことを、言つて置きながら、後になつて、『私が素盞嗚尊の霊代として、立替立直をなすのである』と説くと、前後の連絡が付きませぬので、其の連絡を付ける為めに、『豊雲野尊が素盞嗚尊を霊代として顕現し、素盞嗚尊が之を霊代として顕現したのである』と云ふ、勝手な理窟を案出したのである」と云ふことを云つて居りますね。
答 さうぢやありまへぬ。
向ふは、「斯うやらう、斯うやらう」と云はれるから、そんな馬鹿なことを私が云ふ訳がありまへぬ、もうむかついて腹が立つて……
(裁判長に向ひながら)失礼なことばかり申上げまして、遂ひ声が、自然大きくなりますので……。
問 要するに予審終結決定書の趣旨を総括して見れば、「現御皇統は、日本を御統治なさる御系統であらせられないから、此の神の霊代である自分が御皇統を廃して、日本を統治すべきものなり」と云ふ趣旨のやうに、是は決定になつて居りますが、絶対に否認する訳ですな。
答 さうです。
よく考へて下さい、御三体の神様が天照皇大神で、其の神様の命令を受けて、さうして此の艮の金神が出て居るのぢやありませぬか。
それをどうして、日本の御皇統を何して我々が……そんなことはありまへぬ。
事実に於てもさうぢやありまへんか。
我が御皇統は、天照皇大神の御延長です。それが、即ち、大本の大神様と我々は唱へて居る。
其の大神様の御命令を受けて世の中を治めると云ふのです。
其の神様の御命令を受けた神様の、御系統をなくすると云ふことは、そんなことは理窟に合はないぢやありまへぬか。
●思想 大本祝詞解釈
問 よしよし。それぢや、予審終結決定に書いてある教義は訊問を終つたが、お前さんの考へて居る大本教義と云ふものはどう云ふものか、概括して中心点と云ふものはどう云ふ点にあるかと云ふことを考へて置いて、昼から訊きます。
答 私は考へないでも、それは決り切つて居ります、善言美詞に全部書いてあります。
問 それは読んで居ります。
答 それに大本の善言美詞は……。
問 今簡単に申述べますか、余り長くなりますなら……。
答 余り長くなりませぬ。
最前申しましたやうに、私は国常立尊を初めとして、祝詞には……。
問 大本の教義ですよ。
答 祝詞に書いてあります。
此の「国之常立尊の堅磐に常磐に鎮り居坐して」御治めになつた国である。
それだから、「皇御孫命の天の石位放ち、天の八重雲を伊都の千別に千別て、天降し給ひてより動くことなく変ることなく、人の心は直く正しく」なりますやうにと云ふことを、お祈りするのが本であつて、「天津日嗣の高御座は天地日月と共に動き傾く事無く、生坐す親王等諸王等は、朝日の豊栄登に……」
問 成るべくゆつくり──書いて居りますから……
速記は商売ですが……。
答 私は今云ふたことを、もう一遍申します、「天津日嗣の高御座は天地日月と共に動き傾く事無く生坐す親王等諸王等は朝日の豊栄登に咲栄えませ」もう一つは、「邂逅に礼無く黒き心以て、射向奉る敵在る時は国民挙り、御祖神の伝へ賜へる敏心の倭心を振起し、劔の手頭取り締り、厳の雄健び踏健び厳の嘖譲を起して、海往かば水漬く屍山征かば草生屍大君の辺にこそ死なめ、閑には死なじ顧は為じ」とあるが、是は今日来らむとする世界の戦争やなんかの用意に神様に願つて、祝詞にちやんと日本の精神を決めるやう、又大本信者の精神も決めるやうに、之を祝詞として朝晩拝んで居る言葉であります。
問 それの意義を訊かなければならぬが。
答 是は日本の国に無礼を加へるものがあり、又或は、日本の国民に無礼をするものがあるならば、国民が承知をしない、それで国民挙りさうして倭心を以て至誠の誠の心を以て、それでさうして倭心を振起し、劔の手頭取り締り……刀の此処です(と手真似をしながら)刀を抜いて厳の雄健び踏健び──と云ふのは勇気を起すことであります。
何処迄も悪に向つては平げて行くと云ふ意味です。
厳の雄健び踏健び国賊を平げると云ふ意味です。
「噴譲を起して海征かば水潰屍山征かば草生屍大君の辺にこそ死なめ顧はせじ、草の中で屍を曝すとも」、海で曝すとも、天皇の為にはと云ふ大君の、陛下の為なら死ぬ、それ以外には我々は、日本男子は死なないと云ふことを祈つて居ると云ふ意味です。
それは大本の本当の精神です。
問 本当の教義なんだね。
答 さうです、朝晩是は六、七歳の子供にも暗誦さして、居ります。
長い祝詞ですけれども、是が本当の大本の教義であります。
問 皇室中心か。
答 皇室中心主義ですとも。
皇室中心であり、皇室があつて、世界がないと云ふ……。
問 それで尽きて居りますか。
答 尽きては居りませぬ。
又何処にもありまつしやろ。
道の為に働くものが病気になる時は助けて下さり、又五穀が豊穣するやうにとか、或は官々に仕へまつる人達は……。
問 官と云ふのは……。
答 譬へば申上げますと、裁判官なら裁判官、警、閏察官なら警察官、が官々に仕へ政を行ふことで「茂鉾の中執持ちて」と云ふことは中心、真ん中の所です。「茂鉾」と云ふことは中と云ふことの枕言葉です。
「大御前の事白さしめ給ひ」と云ふことは天皇陛下の御前と云ふことです。
それで、正しき政治が出来るよう、正しきお裁きが出来るようにと云ふことを「茂鉾の中執持ちて大御前のことを白さしめ給ひ」と云ふ、斯う云ふ意味です、斯う云ふこと迄も、ちやんと言つて居る。
問 大本の根本教義は、大掴みにすると、毎朝の祝詞にも書いてある、其の趣旨は、皇室中心主義と、今云うたやうなことだ、さう云ふことになる訳なのだね。
答 さうです、之を予審の時にも、此のことを言はうと思ひましたけれども、若し云うたら、私の利益なことやと思うたらそれを湮滅されたら困ると思つて、是は公判まで残して置いたのです。
それはもう、今迄に言はむことを、公判で皆申すことが沢山あります、調書の中に沢山あります。
●思想 修養訓と大教宣布の御詔勅
問 今言はむとしたことは判りました。
教義に付て、其の他に付け加へて置く点はありませぬか。
答 私、今忘れてしまふて居りましたが、矢張り信条もあります。
問 趣旨は変りはないか。
答 変りありませぬ、明治三年三月三日に天皇陛下がお出しになりました、修養訓と云ふものがあります。
それは、「天理人道を明かにすべきこと」、「敬神愛国の旨を体すべきこと」、「皇上を奉戴し、朝旨に尽力〔又は遵守〕せしむべきこと」此の三つが大本の教義に入つて居るのです。
問 何処に入れてあるか。
答 どつかにあると思ひます、印刷物の中に。
それを、三条の教訓を分析して、色々としてそれを教義にしたのです。
問 分析してね。
答 三条の御教訓を書いたものは、一箇所か二箇所ありますけれども、それを細かく詳しく書いたものが大本の教義であります。
問 他に付け加へて置きたい点はありませぬか。
答 それから大教宣布の御詔勅があります、此の御詔勅に基いて此の大本のなにが出来た。
詰りちよつと。……ちよつと頭が悪くなつて出ませぬけれども、えゝと。
問 此の大教を天下に普及せしめることが明治天皇様の……。
答 ……いや。
問 今想出せなかつたら、書面で出したら宜しい。
答 書面と云ふても参考書がありませぬ。もう何もありませぬ。
私は刑務所に入ると、「古事記と日本書紀と信仰書だけは、是は差入れることはならぬ、読むことはならぬ」と厳命を受けた。
参考書も何もありませぬ。神道のは是はちよつとも許されて居りませぬ。法律の本も一度見たいと思ひますが、それも許されて居りませぬ。今は読んで居りまへぬ。
問 教義に付て想ひ付いたことがあれば。
答 ちよつと具体的に想ひ出せませぬ。
問 後で想ひ出したら書いて出すのは、差支ないよ。
答 有難う御座います。
大本の文献を見て貰うたら、大抵書いてあります、素盞嗚尊のことでも──。
問 急に答へ得なかつたら後でも宜いぢやないか。
答 十二年の神霊界のニ月号か、三月号にあつたと思ふのです。
問 何がです、もう一遍云つて下さい。
答 十年のニ月か三月の、神霊界にきつと書いてあります。どつかに……
私はもう十年のニ月に未決に入つて居りましたのですけれども、大抵私が直接書いて居るものを、出したのであります。
裁判長 午前は是れだけにして置きませう、午後は一時からやりますから、勉強して……。
十二時十三分休憩