すでに二三丁来たかと思ったが、八衢に引き返してきてしまっていた。そして、地獄に落ちる亡者が、地の底へ急転直下の勢いで落ちていくのを見た。
天然笛を吹くと芙蓉仙人が現れたので聞いてみると、この亡者は大悪の罪により頓死したので、急速に地獄に落ちたのだ、という。
人は死ぬと死有から中有に、そして生有という順序で推移する。死有から中有まではほとんど同時である。四十九日の間が中有であり、その後、親兄弟が決まって生有となる。そのときの幽体は、三才の童子のように縮小されている。
ただ、大善と大悪には中有がなく、ただちに行き先が決まる。大善の者はただちに天国に生まれるが、大悪の者は、先のようにすぐさま地獄に落ちていくのである、と。
それを聞き終わると、ふたたび高天原のほうへ神界旅行に向かおうとした。ところが、顔いっぱいに凸凹のできた妙な婦人が、八衢の中心に忽然と現れた。そして自分の姿を見るなり、神界の入り口指して駆け出した。
自分はひとつ、この怪人の正体を見届けよう、と好奇心にかられて追跡した。そして異様な声を頼りに、怪女と化け物が集っているところを見つけた。
怪女は化け物を放り投げて、化け物が苦しむのを眺め、その血を吸っていた。自分は神界の旅行をしているつもりであるのに、なぜこんな鬼女のいるところに来たのだろう、と合点が行かず、神様に助けを求めようと思った。
瞑目端座して、天津祝詞を奏上した。すると、「目を開けて目を覚ませ、なぜ八衢にいつまでも踏み迷って、神界旅行に旅立たないのだ」と自分をたしなめる声が聞こえた。
化け物がだましている声かもしれないと迷っていると、一喝され、思わず目を開くと、荘厳な宝座が見えた。そのせつな、ふと気づくと高熊山のガマ岩の上に端座していた。