大八洲彦命は一度天教山に退却した。稲山彦は潮満の珠をもって天教山を水没させようとした。地上はたちまち泥の海と化した。
このとき天神が雲間より現れて、魔軍に火弾を投げて発射し、天教山の神軍を応援した。泥海に火弾は効果を発揮しなかったが、白煙が立ち上ってそれが敵軍を悩ませた。
稲山彦は潮満の珠によってますます水かさを増して、天教山は危機に瀕した。ここにおいて稲山彦は降伏の文書を天教山に送り、大八洲彦命が竜宮の職をなげうつか、自殺するか選択を迫った。
大八洲彦命は天運ここに尽きたと覚悟を決めて、まさに自殺をしようとしたその刹那、東の空から天教山に下ってきた足玉彦、斎代姫、磐楠彦の三部将は風軍を引き連れ、大風を引き起こした。
水は天教山からさかしまに、稲山彦の陣取る天保山に打ち寄せた。さらに竜神を引き連れた部将神たちが、水を天保山に発射して応援した。
稲山彦は潮満の珠を取り出して、再び天教山に水をあふれさせた。水はたちまち大八洲彦命の首の辺りまでも浸すほどになってしまった。
このとき突然、天教山は大音響とともに高く突出し、逆に邪神の陣取る天保山は水中深く没してしまった。天教山は、富士の神山となった。
天教山の頂上から鮮麗な光輝が立ち上ると、木花姫命を頭とする天人たちが現れ、大八洲彦命に真澄の珠を与えた。
天教山が天高く突出したのは、国常立尊が蓮華台上で雄たけびしたもうた神業の結果である。天保山の陥落した跡が、今の日本海となった。
九山とは、九天に届くばかりの高山を意味し、八海とは、八方に海をめぐらした国土の意味である。ゆえに、秋津島根の国土を、九山八海の霊地と称するのである。