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文献名1霊界物語 第1巻 霊主体従 子の巻
文献名2第5篇 御玉の争奪よみ(新仮名遣い)みたまのそうだつ
文献名3第40章 黒玉の行衛〔40〕よみ(新仮名遣い)くろたまのゆくえ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2019-06-25 18:44:38
あらすじ
竹熊は次に、玉彦の持つ黒玉を狙った。玉彦は地位が低かったが名誉欲が強く、黒玉を得てから慢心を起こしていた。

竹熊は大八洲彦命の部下であった長彦をたぶらかし、黒玉を得ようとした。長彦は、玉彦が黒玉を得てから自分の命令に反抗するようになったことを、面白くなく思っていた。

竹熊の間者は、大八洲彦命の命令と偽って、「近頃慢心する玉彦から黒玉を奪い、汝が保有するように」と長彦を焚きつけた。

長彦は、玉彦が妻の坂姫の言うことなら何でも聞くことを知った。また、坂姫が舞曲が好きであることを知ると、竹熊の間者・鳥熊と計って自ら舞曲を会得し、舞曲を通じて坂姫と親友になってしまった。

あるとき坂姫は長彦・鳥熊と舞曲に興じているときに、舞曲の小道具として、黒色の玉を使わせてもらうよう、玉彦に懇願した。玉彦はやむなく黒色の玉を持ち出して舞曲に供した。

鳥熊は舞曲を演じる振りをして黒色の玉を奪って樹上に上ると、追ってきた長彦を蹴落として打ち殺した。長彦の死に玉彦・坂姫が驚き狼狽している間に、鳥熊は大虎彦の鳥船に乗って、その場を逃れてしまった。

そして大虎彦は鳥船から鳥熊を投げ殺すと、黒色の玉を奪って竹熊に献上した。
主な人物 舞台 口述日1921(大正10)年10月24日(旧09月24日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1921(大正10)年12月30日 愛善世界社版213頁 八幡書店版第1輯 122頁 修補版 校定版213頁 普及版110頁 初版 ページ備考
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本文  竹熊は謀計をもつて、田依彦の持てる玉を手に入れたるより大いに勢を得、今度はすすんで玉彦の持てる黒色の玉を、奪取せむことを企てた。玉彦は名誉欲が強く、つねに衆人の下位に立ち不平満々で日を送つてゐたのである。
 しかるに茲に黒玉を得て心中勇気を増し、意気揚々として竜宮城内を濶歩し、他の者たちに対して、
『われは位の低き者なれども、大神より特に選ばれて、黄金水の黒玉を得たり。かならずや時きたらば、われは立派なる上の位地にのぼり、竜宮城の権力を掌握するにいたらむ』
と心ひそかに期待してゐた。
 竹熊は醜女、探女を放ちて、玉彦の心中を探り、玉彦の持てる玉を奪らむとすれば、まづ名誉欲をもつてこれにのぞまねばならぬことを知つた。そこで竹熊は大八洲彦命の部下の長彦を誑らかし、長彦の手より玉彦の妻坂姫を説き、坂姫より玉彦の黒玉を得むとした。長彦は十二の玉のうち一個の玉も吾が手に入らざりしを心足りなく思ひゐたる矢さきなれば、玉彦に対しても、やや嫉妬の念の萠してゐた際である。そこへ自分の下位にある玉彦は、玉を得て高慢心を生じ、長彦の命を時どき拒むやうになつた。長彦はいかにもして玉彦の高き鼻をくじかむと、百方焦慮してゐたのである。
 そこへ竹熊の間者なる鳥熊は、大八洲彦命の命と佯はり、かつ曰く、
『玉彦のこのごろの行動もつとも不穏なり、彼がごとき者に玉を抱かしむるは、はなはだ危険なり。もしこの玉にして長彦の手に入らば、玉の神力はいやが上にも発揮せむ。何とぞ長彦はわれの内命を諾なひ、かの玉を奪取せよ……との厳命なり』
と、私かに長彦の家にいたつて教唆した。
 ここに長彦は一計をめぐらし、玉彦の妻坂姫を言葉たくみに説きつけ、坂姫の手よりこの玉を奪はしめむとした。坂姫は容色端麗なる竜宮城の美人であつた。玉彦は、平素より坂姫の美貌に恋々たる有様で、坂姫の一言一動は玉彦の生命の鍵であつた。そこを窺ひ知つた長彦は、いかにもして坂姫の首を縦に振らしめむとした。坂姫はいたつて舞曲が好きであつた。
 そこで長彦と鳥熊は、シオン山において見たる天男、天女の舞曲を思ひだし、ひそかに舞曲の稽古にかかつた。百日百夜の習練の結果は実に妙を得、神に達した。もはやこれならば坂姫の心を動かすに足らむと自信し、坂姫の住まへる室の庭先にいたつて、さかんに舞ひはじめた。坂姫は何心なく押戸を開けて庭先を眺めたが、ふたりの妙をえたる舞踏に胆を奪はれ、しばし恍惚としてこれに見惚れてゐた。つひには自分も立つてその場に顕はれ三巴となつて、たがひに手を取り踊りまはつた。かくしていつの間にか坂姫は、長彦、鳥熊らと無二の親友となつてしまつた。その翌日もまたその翌日も、三人はその庭前に出でて舞曲に余念なく、歓喜の声は四辺にひびき、園内はにはかに陽気となつてきた。
 このとき別殿に控へたる玉彦は、最愛の妻の舞ひ狂ふ優美なる姿に見惚れ、玉を奥殿に秘蔵しおき、三人の前に立現はれた。鳥熊、長彦は巧言令色いたらざるなく、玉彦を主座に据ゑ、尊敬のあらむ限りをつくし、玉彦の歓心を求めた。ここに玉彦は、自分の上位にある長彦に尊敬されるのは、全く坂姫の舞曲の妙技の然らしむるところと心中に深く坂姫に感謝した。坂姫は玉彦にむかひ、
『貴下も共に舞ひたまへ』
と無理にその手を取つて舞踏せしめむとした。玉彦には坂姫の一言一句は、常に微妙なる音楽と聞ゆるのである。少しでも坂姫の心に逆らへば、坂姫の顔色はたちまち憂愁に沈む。いかにもして坂姫に笑顔を作らしめむと心を悩ましてゐた。
 ここに鳥熊、長彦は、「獅子王、玉を争ふ」の舞曲を演ぜむことを申し込んだ。坂姫は第一に賛成の意を表し、玉彦に黒色の玉を持ちいだし、舞曲の用に供せむことを懇請した。玉彦はいかに最愛の妻なればとて、
『こればかりは許せよ。わが位地昇進のための重宝なれば』
と拒んだ。坂姫はたちまち顔色曇り、地上に倒れ伏し声をあげて夫玉彦の無情に泣いた。玉彦はやむを得ず、坂姫の請を容れて、不安の内にも此の玉を奥殿より取り出した。坂姫は喜色満面に溢れ、ここに四柱は、玉を争ふ獅子王の舞曲を奏しはじめた。四柱はただちに牡丹の園へ出て、各自獅子に変装した。まづ玉を坂姫の獅子に持たせた。鳥熊、長彦の変化獅子は、坂姫を左右より取りまき、鳥熊はその玉を取るより早く、口に含み庭先の湯津桂の樹上高くかけ登つた。つづいて長彦もかけ登つた。このとき鳥熊は足もて、長彦を地上に蹴落した。長彦は、庭先の置石に頭を打ち砕きことぎれた。
 玉彦、坂姫は、驚き周章て狼狽ゐる其の間に、西方の天より空中をとどろかして、大虎彦の邪神は天の鳥船に乗りきたり、鳥熊を乗せて遠く西天に姿を没した。鳥熊の持てる黒玉は大虎彦の手に入るとともに、鳥熊の身体は鳥船より蹴落され、シナイ山の深き谷間に落ちて、その肉体はたちまち粉砕の厄に遇うた。
 アゝ何処までも巧妙なる邪神の奸策よ。いかに善良なる神人といへども、心中に一片の執着ある時はかならず邪鬼妖神のために犯さるるものである。慎むべきは一切の物に執着の念を断つべきことである。
(大正一〇・一〇・二四 旧九・二四 加藤明子録)
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