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文献名1霊界物語 第3巻 霊主体従 寅の巻
文献名2第8篇 神界の変動よみ(新仮名遣い)しんかいのへんどう
文献名3第29章 男波女波〔129〕よみ(新仮名遣い)おなみめなみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-02-07 17:55:23
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1921(大正10)年11月29日(旧11月01日) 口述場所 筆録者谷村真友 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年3月3日 愛善世界社版169頁 八幡書店版第1輯 321頁 修補版 校定版173頁 普及版76頁 初版 ページ備考
OBC rm0329
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本文の文字数2235
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本文  モスコーの八王神道貫彦は、ローマに召集されて多年の間不在なりき。妻の道貫姫は子に甘かりしため、その長女春日姫は父の不在に心をゆるめ放縦堕落ますます激しく、神司らの指弾する行動をつねに平気にて演じゐたり。されど母人は、子の愛に眼くらみて春日姫のあらぬ日々の行動如何を少しも気づかざりける。春日姫は眉長く眼涼しく、口許しまりて色白く、膚やはらかく、あたかも桜花の時をえて咲初めたるごとき容姿を持てりき。
 八王大神の従臣に竹倉別といふ若者ありき。竹倉別は水色の烏帽子狩衣を着し、烏羽玉の宮に参拝したるに、春日姫は盛装をこらし侍女の春姫とともに、神前に参拝ををはり階段を下らむとするや、みづからわが衣の裳を踏み階段より真逆さまに顛倒せむとしたり。このとき階段を上りくる竹倉別は、春日姫の体をささへ危く厄難を救ひければ、春日姫の感謝は一通りの歓びではなく、何か深き印象を胸底にとどめける。春日姫は春姫に手をひかれて階段を下り、あと振返りつつ竹倉別の階段を上りゆくを流目に見惚れゐたりしが、これより春日姫は何ゆゑか、ただちに病の床に呻吟する身とはなりける。
 諸神司はこれを憂ひて大神に祈り、医薬を与へなど色々と手をつくせども、春日姫の病にたいしては何の効果もなかりける。母の道貫姫は姫の日夜に弱りゆく姿をながめて、夜も日も、たまらず煩悶苦悩しつつ、あたかも掌中の玉を失ひしごとく、落胆失望の極に達しゐたり。
 道貫姫は春姫をひそかに招き、
『汝はつねに春日姫の側近く仕ふる者なれば、姫の意中をよく察しゐるならむ。姫のこの度の重病につきては、何か思ひあたることなきや』
と耳に口よせひそかに問ひかけたるが、春姫は春日姫の病因はほぼ察知してゐたれども、恐れて口外することをはばかり、
『くはしく探りて後日申しあげむ』
とやうやくその場を立去り、春日姫にむかひ、
『烏羽玉の宮に参拝のをり、竹倉別に危難を救はれ、それより発病したまひしは、神も薬もきかぬ御病気には非ずや』
とおそるおそる尋ねけるに、春日姫は袖にて顔をおほひながら頭をかたむけ、やや覚束なき声にてただ一言、
『然り』
と答へ、そのまま夜具をひきかぶり息をはづませ、病体を左右にゆすりてもがき、かつ啜り泣さへ聞へけり。春姫は春日姫にむかひ、
『主のためならば、たとへ身は天律を破るとも、妾は律法の犠牲となりて目的願望を達し参らせむ』
と決心の色をしめし、しばしの暇を乞ひこの場を立去り、ただちに竹倉別の家を訪れた。
 竹倉別は明けても暮れても、烏の鳴かぬ日はあつても、春姫を思はぬ間は瞬時もなきまでに懸想しゐたりしが、今その当の女性に不意の訪問をうけて胸ををどらせ、肩を上げ下げしつつ顔をあからめ、用もなきに前後左右に室内を駈けまはり、晴天の霹靂頭上にはげしく落下せむとする時の態度そのままなりける。春姫は落付顔に竹倉別の手をとり、
『何事の出来せしか知らざれども、まづ、しばらく落つかせたまへ』
と肩を撫で、胸をさすりてその場に端坐せしめたるに、竹倉別はあたかも酢に酔ひしごとく、骨までぐなぐなになりし心地して、何となく落つかぬ風情なりき。春姫は耳に口寄せ、あたりをはばかりながら、
『春日姫は汝に心をよせ、ために病床に臥したまふ。貴下は主を助くるために春日姫の夫となりたまはずや』
と私語けば、竹倉別は狐につままれたるごとき面持にて、ただ茫然として春姫の面を穴のあくほどうちながめ両眼よりは熱き涙ほとばしりける。春姫は竹倉別の心中を知らず、その態度に焦慮がり百方弁をつくして、春日姫の意に従はしめむとしきりに勧めてやまざりける。竹倉別ははづかしさうに、
『貴下のお勧めを承諾するに先だち、一つの願ひあり』
とて狩衣の袖に面をつつみ、息をはづませ肩まで動揺させたり。春姫は、
『貴下の願とはいかなることぞ。か弱き女の身に叶ふことならば、何事にても身命にかへて応じたてまつらむ』
といふ。このとき竹倉別を訪ねて若彦といふ麗しき若者、烏帽子直垂を着用しながら這入りきたり。若彦は、春姫の寝ても覚めても忘れられぬ若者なりき。春姫の血は燃えたちぬ。若彦はこの場の光景を見ていぶかり無言のまま、直立不動の姿勢を取りゐたり。
 竹倉別は春姫に心奪はれ、若彦の入りきたりてわが前に立てることさへ少しも気づかず、顔の紐を解きてしきりに春姫に向ひ思ひのたけを、ちぎれちぎれに口説きたてたり。春姫は、若彦の前にて思ひもよらぬ竹倉別に口説きたてられ、痛さ痒さの板ばさみとなりて、心中悶々の情にたへざりけり。若彦は竹倉別の家にひそかに春姫の来りゐるを見て、なンとなく不快の念をおこし、たちまち顔色を変じて物をも言はず立去りにける。この時の春姫の胸は剣を呑むよりも苦しかりしならむ。
 春姫はわが心にもなき主命によりての訪問を若彦に認められ、若彦の顔色のただならぬに煩悶し、いまは自暴自棄となりにける。されど主の命は重く千言万語をつくして竹倉別を納得させ、春日姫の夫たることを承諾させたりける。
 春姫は竹倉別をともなひ、春日姫の館に導きぬ。それより竹倉別は春日姫の親切にほだされて、つひには春姫を一時の夢と忘るることとなりぬ。若彦はまた春姫に心を深く寄せゐたりしところ、春姫のひとり竹倉別を訪問せるを認めてより大いに竹倉別を恨み、いかにもして春日姫との間を割き、鬱憤を晴さむと日夜計画しゐたり。
 あゝ竹倉別、春日姫の間は如何になりゆくならむか。
(大正一〇・一一・二九 旧一一・一 谷村真友録)
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