文献名1霊界物語 第3巻 霊主体従 寅の巻
文献名2第9篇 隠神の活動よみ(新仮名遣い)いんしんのかつどう
文献名3第35章 宝の埋換〔135〕よみ(新仮名遣い)たからのうめかえ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ
データ凡例
データ最終更新日----
あらすじ
主な人物
舞台
口述日1921(大正10)年12月06日(旧11月08日)
口述場所
筆録者外山豊二
校正日
校正場所
初版発行日1922(大正11)年3月3日
愛善世界社版207頁
八幡書店版第1輯 333頁
修補版
校定版211頁
普及版92頁
初版
ページ備考
OBC rm0335
本文のヒット件数全 0 件
本文の文字数1936
その他の情報は霊界物語ネットの「インフォメーション」欄を見て下さい
霊界物語ネット
本文
大道別は道彦と改名し、南高山の城内に長くとどまり、大島別夫妻の非常なる信任を受け、南高山の八島姫を娶はせて、わが身の後継者たらしめむとし、大島別みづから道彦に向つてその旨をうち明し、しきりに勧めて止まざりにける。
また八島姫は生命の恩人なる上、道彦の英傑なるに心底より心をよせ、ぜひ道彦の妻たらむことを祈願しつつありける。道彦は親子の日々の親切にほだされて、これを素気なく辞退するに苦しみゐたりける。
あるとき大島姫は、身体にはかに震動しはじめ、両手を組みしまま上下左右に振りまはし、城内くまなく駆けめぐり、これを静止すること困難をきはめたり。大島別は大いにこれを憂慮し、地の高天原にむかつて、国治立命の救助を祈願せり。道彦はただちに姫の狂暴を取押へむとして後を追ひ、表の階段の上にて姫とともに格闘をはじめける。
その刹那、道彦は階段より顛落して頭部を負傷し、流血淋漓失神不省の態となりぬ。大島姫は初めて口をきり、
『われは南高山に年古くすむ高倉といふ白狐なり。道彦はわが頭首をうち滅ぼせしにより、その仇を報ゆるために姫の体内を借り、これを階下になげつけ、傷口より毒血を注ぎいれたれば、彼はたちまち聾唖となり、痴呆となり、かつ発狂の気味を有するにいたるは火をみるよりも明らかなり。アヽ嬉しや、喜ばしや』
と肩を前後左右にゆすり、足踏みして愉快気に哄笑するにぞ、八島姫はおほいに悲しみ、道彦を抱きおこし、別殿にかつぎこみて種々介抱に手をつくしたれども道彦の容態すこしも変らず、八島姫の言葉にたいして何の反応もなく、ただただげらげらと涎をたらして笑ふのみなりける。
大島姫はふたたび身体を前後左右に震動させながら、大島別にむかひ、
『われはもはや道彦を術中に陥れたれば、これに憑依するの必要なし。イザこれより常世城に遁げ帰らむ』
と言ふかとみれば、大島姫はバツタリ殿中にうち倒れたり。諸神司は右往左往に周章狼狽して水よ薬よと騒ぎまはりしが、やうやくにして大島姫は正気に復し、さもはづかしき面色にて大島別の前に平伏し、城中を騒がせし罪を拝謝したりける。ここに道彦は真正の聾唖にして、かつ痴呆にかかり、全快の望みなきものと一般に信ぜらるるにいたりけるぞ口惜しけれ。
道彦は白狐の高倉と旭の二柱にみちびかれ、南高山の山頂にある数多の珍宝を調査すべく上りゆく。されど痴呆と思ひつめたる神司らは、道彦の行動に毫も注意を払はざりしは、道彦にとりて非常なる幸福なりける。
道彦は、夜陰に乗じ白狐の案内にて山頂に登りみれば、常世姫の間者なる高山彦は、山頂の土を開掘し、すでに種々の珍宝を奪ひ、常世の国に帰らむとして同類とともに、あまたの荷物をこしらへゐたる最中なりき。そこへ突然道彦が現はれきたりたれど、高山彦は、痴呆にして聾唖なる道彦と思ひ、少しも懸念せず種々の宝を掘出し、かつ貴重なる宝物を道彦の背に負はせ、山を下らしめむとせり。一味の曲者はおのおの宝を背負ひ、山を下りゆかむとするこの時、高倉、旭の白狐はにはかに千仭の谷間を平地と見せかけたれば、いづれも平坦の道路と思ひ誤り、残らず谷間におちいり、岩角に傷つき、あるひは渓流に流され、ほとンど曲者の一隊は全滅しをはりしぞ愉快なれ。
高山彦も大負傷をなし、つひに滅亡せしかば、道彦は白狐に導かれ谷間に下りけるに、不思議にも、その谷間は自分のかつて顛落したりし同じ箇所なりき。すべての宝は皆この谷底に集まりありければ、白狐の指示すままにその宝を一所にあつめ、土を掘りてこれを深く秘め蔵し、その上に千引の岩をもつて覆ひ、何くはぬ顔にて帰り来たりける。
南高山の城内には、高山彦以下のあまたの神司の姿見えざるに不審をおこし、四方八方に手配りして、その行方を探しつつありしところへ帰り来たりし道彦の衣類には、血が一面に附着しゐたれば、大島別は、道彦の衣類の血を見て、やや不審を抱きつつありけるところへ、数多の神司は高山彦の屍骸を担ぎ帰り来たりぬ。しかして数多の神司は渓流に落ちて苦しみ、ほとンど全滅せることを委細に奏上したりける。時しも高山彦の従臣なる高彦は、危難をまぬがれ帰り来り、道彦のために全部滅ぼされむとしたることを、涙とともに奏上したりける。
大島別は烈火のごとく憤り、長刀を引抜き、真向より道彦に斬りつけたるに、道彦はヒラリと体をかはし、手をうつて笑ひながら後退りしつつ、
『ここまで御座れ、甘酒のまそ』
と踊りつつ城門をにげだしたり。八島姫は血相かへて道彦の後を追ひつつ門外に出づるや、たちまち暗にまぎれて行方をくらましにける。
(大正一〇・一二・六 旧一一・八 外山豊二録)
(第三四章~第三五章 昭和一〇・一・一八 於延岡市吉野家 王仁校正)