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文献名1霊界物語 第5巻 霊主体従 辰の巻
文献名2第6篇 聖地の憧憬よみ(新仮名遣い)せいちのどうけい
文献名3第40章 紅葉山〔240〕よみ(新仮名遣い)こうようざん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-04-04 12:04:36
あらすじ月照彦神は、宣伝の道すがら、モスコーの道貫彦の神館を通りかかった。すると館より鷹住別・春日姫夫婦が月照彦神の前に現れた。夫婦は父の八王・道貫彦は天教山の教えに耳を傾けず、どうか諭してほしい、と月照彦神に嘆願した。道貫彦は館で酒宴の真っ最中であったが、突然倒れ、館内は大騒ぎになってしまった。そこへ館の外では怪しい三人の宣伝使が、涼しい声を張り上げて、道貫彦に警告を与える宣伝歌を歌い始めた。この警告の宣伝歌の文句は、道貫姫の胸に突き刺さった。そこで姫は従神に命じて宣伝使を招き、奥殿に招きいれた。宣伝使たちは遠慮もなく進みいると、天教山の教えを伝える宣伝歌を歌い始めた。卒倒していた道貫彦はがぜん立ち上がり、一緒に踊り始めたので、神人らは驚いた。三柱の宣伝使は身にまとった蓑笠を脱ぎ捨て、中央に鼎立した。それは、大八洲彦命(月照彦神)、鷹住別、春日姫であった。道貫彦は悔改め、月照彦神の教示を受け入れて従者となり、一緒に諸方を遍歴することとなった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月13日(旧12月16日) 口述場所 筆録者井上留五郎 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年4月15日 愛善世界社版242頁 八幡書店版第1輯 603頁 修補版 校定版246頁 普及版103頁 初版 ページ備考
OBC rm0540
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本文の文字数1990
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本文  露の弾霜の劔を幾たびか、受けて血潮に染むる紅葉の、丹き心を照らしつつ、錦の機のこの経綸、織りなす糸の小田巻や、真木の柱のいと高く、高天原の神国に、築き上げむと神人の、四方に心を配りつつ、苦しき悩みを物とせず、沐雨櫛風数かさね、草の枕の悲しげに、天津御空の月星を、褥に着つつ進みくる。心も丹き紅葉山の、紅葉の大樹のその下に、腰うち掛けて宣伝の、神の姿の殊勝にも、彼方こなたの山の色、日々に褪せ行く有様を、見る目も憂しと青息や、吐息を月の大神に、祈る心の真澄空、忽ち吹きくる木枯しの、風に薄衣の身体を、慄はせながら又もや起つて出でて行く。行くはいづくぞモスコーの、都をさしてさし上る、東の山の端出る月の、影も円かなその身魂、月照彦の宣伝使、春日の姫の生れたる、道貫彦の神館、息急き切つて進みける。
 折から降りしく村雨に、草鞋脚袢に身をかため、菅の小笠や草の蓑、この世の末をはかなみて、涙の雨の古布子、袖ふりあうも多生の縁、つまづく石も縁のはし。
 走つて馳け来る三柱の神人は、この宣伝使の謡ふ宣伝歌に引きつけられ、たちまち前に現はれて、大地に頭を下げながら、
『貴下は地中海の西南岸にて御目にかかりし月照彦神にましまさずや、吾らはそのとき天地の神の懲戒を受け、道踏み外す躄の、旅に徜徉ふ折からに、天地も動ぐ言霊の、三千世界の梅の花、一度に開くと言挙げし、東を指して御姿を、隠したまひし現し神、吾らは御後を伏し拝み、その再会を待つほどに、天の時節の到来か、思はずここに廻り会ひ尊顔を拝するは、盲亀の浮木、浮木はまだおろか、枯木に花の咲きしが如く感きはまりて言の葉の、散り布く紅葉顔あからめて、耻を忍びつつ出で迎へ申したり。わが父道貫彦は幸にして今に健全に月日を送り候へど、素より頑迷不霊にして、天教山に現はれし神の教をうはの空、空吹く風と聞き流し、塞がる耳は木耳の、気苦労おほき吾らが夫婦、いかに教示を諭すとも、ただ一言も聞かばこそ、日に夜に荒ぶ酒の魔の、擒となりし両親の、心浅まし常暗の、岩戸を開き救はむと、朝な夕なに身を尽くし、心を竭し諫むれど、馬耳東風の浅ましさ、鳥は歌へど花は咲けども吾心、父の心を直さむと、暗路を辿る憐れさを、推し測られて一言の、教示を頼み奉る』
と涙と共に嘆願したりける。
 モスコーの奥殿には、道貫彦あまたの侍者と共に、八尋殿において大酒宴の真最中である。神人らは一統に声を揃へて、
『飲めよ騒げよ一寸先や暗よ
 暗のあとには月が出る
 暗のあとには月が出る』
とさうざうしく謡ひ狂ふ声は、殿外に遠く響き渡りける。
 たちまち道貫彦は顔色蒼白と変じ、座上に卒倒した。数多の神人の酔は一時に醒め、上を下への大騒ぎとなつた。道貫姫は大いに驚き、鷹住別は何処ぞ? 春日姫……と、狂気の如くに叫び狂ふ。
 神人らは二神司の所在を探さむと、鵜の目鷹の目になつて、城内くまなく駆け廻つた。されど何の影もない。
 このとき城門外にどやどやと数多の神人の囁く声が聞えた。そして三柱の怪しき宣伝使は、涼しき声を張りあげて、
『飲めよ騒げよ一寸先や暗よ  暗のあとには月が出る
 月が出るとは何事ぞ  月は月ぢやがまごつきよ
 息つきばつたり力つき  今に命もつきの空
 空行く雲を眺むれば  東や西や北南
 酔うた揚句は息つきの  道貫彦の憐れなる
 最後を見るは眼のあたり  冥加につきし今日の月
 曇る心は烏羽玉の  暗路を照す月照彦の
 神の命の宣伝使  月は御空に鷹住別や
 長閑な春の春日姫  命の瀬戸を救はむと
 心一つの一つ島  神の鎮まる一つ松
 堅磐常磐の神の法  法を違へし天罰の
 報いは忽ちモスコーの  道貫彦の身の果か
 果しなき世に永らへて  果なき夢を結びつつ
 心の糸の縺れ合ひ  乱れに乱れし奇魂
 照れよ照れてれ朝日の如く  澄めよ澄めすめ月照彦の
 神の教に目を覚まし  再び息を吹き返し
 救ひの司と現はれよ  救ひの司と現はれよ』
と門前に佇み、数多の神人に囲まれて大音声に呼ばはつてゐる。
 この声は胸を刺すが如く道貫姫の耳に入つた。姫は従臣に命じ、三柱の神司を招いて奥殿に進ましめた。
 三柱の神司は簑笠のまま遠慮会釈もなく奥殿に進み入り、又もや三千世界の宣伝歌を謡ひ、手を拍つて踊り始めた。
 息も絶えだえに卒倒しゐたる道貫彦は、俄然として起ち上り、両手を拍ち踊り始めた。神人はあまりの不思議さに、アフンとして開いた口も塞がらなかつた。
 三柱の神司は目配せしながら、身に纏へる簑笠を脱ぎ捨て、宴席の中央に三つ巴となつて鼎立した。見れば大八洲彦命初め鷹住別、春日姫の三柱である。
 是よりさしも頑迷なりし道貫彦も前非を悔い、月照彦神の教示に従ひ、顕要の地位を捨てて、月照彦神の従者となり、天下救済のために諸方を遍歴する事となりたり。
(大正一一・一・一三 旧大正一〇・一二・一六 井上留五郎録)
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