今度はもう一人の漂浪人が、自分は強者に片目をえぐられ、何とか敵を取ろうと旅をしているが、これを忘れて敵を赦すことができるでしょうか、と質問した。
北光天使は答えて言う:
憎しみが憎しみを生むことによって、鬼や悪魔が人間にとりつくのであり、そこをよく忍耐しなくてはならない。怨みは忘れなければならない。
先方が悪いのであれば、神様はきっと敵を討ってくださる。
人はただ、己を正しくして善をなせば、神様の御心にかなって幸福になるのである。
あなたが非道い目にあったのも、因縁であり、そこをよく直日に見直し聞き直さなければならない。善悪正邪の判断は、人間にはできないのであり、神の他力によって救われるにみである、と。
最初に小便をかけた漂浪人の甲は、この教えを聞いて怒り心頭に達し、怒鳴り散らすと竹槍でもって北光天使の片目をぐさりと抉った。
北光天使は泰然として竹槍を抜き取り、天に向かって感謝の祈りを捧げた。甲は北光天使を罵ると、竹槍でもう一つの目も突こうとした。
東彦はとっさに甲の手を掴んで押しのけた。甲はよろよろとして倒れ、エデン川に真っ逆さまに転落してしまった。北光天使はとっさに河中に飛び込んで、甲を助け出した。
この北光天使の行為に、さしも猛悪な甲も慈心に感じて悔改め、弟子となった。宣伝使は甲に、清河彦と名を与えた。
北光天使は、天岩戸開きにあたって偉勲を立てた、天の目一箇神の前身である。