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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名2第7篇 日出神よみ(新仮名遣い)ひのでのかみ
文献名3第37章 老利留油〔337〕よみ(新仮名遣い)ろうりるゆ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグローレル 月桂樹 データ凡例 データ最終更新日2020-05-06 19:21:11
あらすじ
日の出神は面那芸、祝姫、豊日別(虎転別)を引き連れて、霧島の山の上から景色を打ち眺めていた。面那芸宣使は、豊日別が治めるべき豊の国を指し示した。そこは一面の大砂漠であった。

面那芸は、大砂漠に草木を植えて五穀を実らせるのが、豊日別の役目である、と伝えた。

どうやて砂漠に草木を繁茂させようか、という豊日別に対して、日の出神は豊日別の頭に毛が生えたら砂漠にも草木が生えるだろう、ただし非常な辛い目にあわなければならない、と言った。

豊日別は、天下のためなら痛い目も構いません、と言うと、日の出神は傍らの樹木の中から、青々とした木の枝を握って帰って来た。そして、木の枝を絞って油を取ると、豊日別の頭を荒砂でこすり始めた。

豊日別は痛さを必死でこらえている。日の出神はそこへ、今絞った油を豊日別の頭に塗りつけた。豊日別は涙をこぼして気張り、頭を抑えて目をふさぎ、息をつめてこらえている。

しばらくしてようやく痛みが止まった。日の出神は、人間は一度は大峠を越さなければならぬ、それはずいぶんと苦しいものだ、と諭した。

豊日別が頭をなでると、はげ頭には毛が生えていた。豊日別は飛び上がって喜ぶ。これは老利留という木の油であった。

豊日別ははげ頭に毛が生えた喜びに、勢いよくどんどんと峠を下り行く。四人の宣伝歌は谷々に響き渡った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月02日(旧01月06日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版223頁 八幡書店版第2輯 114頁 修補版 校定版230頁 普及版94頁 初版 ページ備考
OBC rm0737
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本文  神の光を輝かす  この四柱の宣伝使
 日の出神を始めとし  心も豊に治まれる
 豊日の別の宣伝使  醜の曲津も祝姫
 面那芸彦と諸共に  国の八十国八島別
 神の命に立別れ  漸くここを建日向
 別に別れて進み行く  豊葦原の豊の国
 長閑な春日を負ひ乍ら  脚に任せて山坂を
 岩の根木の根踏みさくみ  深き谷間を打渡り
 豊けき豊の神国の  名を負ひませる白日別
 筑紫の国に渡らむと  勇み行くこそ雄々しけれ。
 霧立昇る霧島の山の尾の上に、四柱は腰うち下し草の上にどつかと臀を据ゑて、流るる汗を拭ひ乍ら、四方の景色を眺めて、無邪気な話に耽りける。
豊日別『あゝ実に高山から見た景色は雄大ですな。四方山に包まれ、一方には荒浪に時々襲はれる肥の国に鳥無郷の蝙蝠を気取つて、権利だ、義務だ、得だ損だと狭つこましきことを言つて争つたり、訳の解らぬ人間を相手に昼夜心を腐らし、心配をしながら虎転別の悪魔だとか、鬼だとか云はれて居るよりも、斯うして貴下等と一緒に元の心に生れ変つて、自由自在に山野を跋渉するのは、実に何とも云へぬ天恵ですワ。夫れに就て私は、豊の国の豊日別となつて守護を致さねばなりませぬが、豊の国は一体何の方面に当るのでせうか』
 面那芸宣使は四方を見廻しながら、眼下に展開せる大沙漠を指さし、
『豊の国はこの西南に当る赤白く見える処ですよ』
豊日別『よを、何だ、草も木も一本も生えて居ないぢやありませぬか。彼れは沙漠ではありますまいか』
面那芸『大沙漠ですよ。そこに草木を植付け五穀を稔らせ、豊な豊の国とするのが貴下の役目ですよ』
豊日別『天恵どころか、非常な天刑です。何うしたら草木が繁茂し、人間が繁殖して立派な国土になりませうかな』
日出神『豊日別さまの頭の禿に毛が生えたら彼の沙漠にも草木が生えるだらう。夫れを生さうと思へば大変な辛い目をしなくちやならぬ』
『この禿た頭に毛が生えますか』
日出神『痛い目をすれば生える。生やして上げようか』
豊日別『少々痛い目をしたつて天下の為になることなら構ひませぬ』
 日の出神はつと立上り傍の樹木の中に姿を隠したるが、暫らくありて青々とした樹の枝を握り帰り来たり、傍の岩の上にその樹の枝を積み、手頃の石を以ておさんが砧を打つやうに打ち始めたるに、追々と打たれて枝も葉も容量低になり、水気が滴り出しける。日の出神は黒き被面布にくるくると包み、一生懸命に力を籠めて搾り、出た汁は、岩の上の少しく凹みし所に油となつて充されける。
日出神『さあ、是から毛を生やして上げやう。些は痛いが、辛抱できますか』
と云ひながら、豊日別の頭を傍の荒き砂を掴みて、ゴシゴシと擦りけるに、豊日別は、
『イヽヽヽヽ』
日出神『宣伝使たる者が痛いなぞと弱音を吹いてはならぬ、そこが男だ、気張りなさい』
『イヽヽヽヽ好い気分ですワ』
 日の出神は益々ガシガシと擦る。薄皮は剥ける、血は滲む。
『イヽヽヽヽ至つて好い気分ですワイ』
日出神『よし、これからもう一つ好い気分にして上げやう』
と今搾つた岩の上の油を掬うて、ビシヤビシヤと塗りつける。豊日別は顔を顰め、又もや、
『イヽヽヽヽイヽヽヽヽ』
と泣声になつて来てゐる。
日出神『また貴方は弱音を吹くな』
豊日別『イヽヽヽヽイヽヽヽ好い加減です。成ることなら、もう好い加減に止めて、ホヽヽヽ欲しいことない』
と涙をボロボロと零して気張りゐる。
日出神『さあ、これでよし』
と再び芝生の上に腰を下したりける。豊日別は頭を押へ、目を塞ぎ、息を詰めて蹲踞みゐる。暫時すると痛みが止まり、豊日別はやつと安心して顔の紐を解く。
日出神『如何でした。好い気分でせう。人間は一度は大峠を越さねばならぬ。大峠を越すのは随分苦しいものだ』
豊日別『いや、この大峠まで上つて来たが、さう苦しいとは思はなかつたのに、しかし大峠どころの騒ぎぢやありませぬよ。随分痛い、ドツコイ至つて結構な目に会ひました』
日出神『頭に手を上げて御覧なさい』
 豊日別は、頭を撫で、
『やあ、生えた生えた。すつかり生えた。有り難う』
と俄に飛び上り喜ぶ。これは老利留といふ木の油なりける。
『さあさあ行かう』
と日の出神は先頭に立つ。豊日別は禿頭に毛の生えたのを大いに喜び、
『さあ、これで若くなりました』
と肩を怒らせながら、ドンドンと峠を下り行く。四人の歌ふ宣伝歌は谷々に響き渡りぬ。
(大正一一・二・二 旧一・六 外山豊二録)
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