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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第2篇 四十八文字よみ(新仮名遣い)しじゅうはちもじ
文献名3第9章 鏡の池〔359〕よみ(新仮名遣い)かがみのいけ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
猿世彦は鏡の池で禊をなして、狭依彦と名を改めた。狭依彦の名は遠近にとどろき、洗礼を受けに来る者や教理を聞きに来るものが次第に増えていった。

狭依彦は三五教の教理は船中で聞いたに過ぎなかったので、夜昼鏡の池に祈願を込めていた。

あるとき黒彦という男が信者の中から現れて、質問を始めた。そして、蕎麦やらうどんやら黍の起源やらを尋ねた。狭依彦はそれに答えて、二人の滑稽な問答はどんどん脱線していく。

すると鏡の池の水がブクブクと泡立ち始め、竹筒を吹くような声で、二人の問答をなじり始めた。狭依彦は驚いて、池の神様に黒彦の問答の答えを伺うと、池の神様の声は、黒彦に答えを聞け、という。

黒彦は得意になって、またもや言葉遊びのおかしな問答を始める。すると鏡の池の声は、お前たちの取り違いははなはだしい、と怒りの声に変わり、ほら貝のような唸り声が次第に大きくなってきた。

黒彦は恐れをなして逃げてしまった。また、そこにいた過半数の信者たちも、あちこちに逃げてしまい、後に残ったのは腰を抜かした肝の小さい人間ばかりであった。

狭依彦も腰を抜かしてしまい、その場に祈願をこらしていた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月06日(旧01月10日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版55頁 八幡書店版第2輯 171頁 修補版 校定版57頁 普及版25頁 初版 ページ備考
OBC rm0809
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本文  猿世彦はアリナの滝に身を清め、この巌窟の鏡の池に禊をなし洗礼を施しゐたり。猿世彦は名を狭依彦と改めける。狭依彦の名は遠近に轟きわたり、洗礼を受けに来るもの、教理を尋ねに来るもの続々殖え来たりぬ。元来三五教の教理は、船の中にて聞き囓りの俄宣伝使なりければ、深き事は分らず。されど苟くも宣伝使たるもの、知らぬとは云はれざれば夜昼鏡の池に祈願を籠め、曲りなりにも説教を始め居たりける。
 このとき黒彦と云ふ色の浅黒き眼のくるりとした鼻の小高く口許の締りし中肉中背の男、大勢の信者の中より現はれて質問を始めたりける。
黒彦『もしもし宣伝使様、貴方は宇宙一切の事は何でも言霊で解決を与へると仰有つたさうですが、一つ聞かして頂きたいですが何をお尋ねしても構ひませぬか』
狭依彦『我は天下の宣伝使、ドンナ事でも知らない事は無い事は無い』
黒彦『曖昧な御言葉ですな、知つてるのですか、知らぬのですか』
狭依彦『ドンナ事でも、知る事は知る、知らぬ事は無い事は無い。何なつと聞かつしやれ』
黒彦『一寸お尋ねしますが、あの蕎麦は何で蕎麦と云ふのですか』
狭依彦『お前の内に作つてゐませぬか。雪隠の傍や、山の側や、畑の側や其辺中の側に生えてるだらう、それで蕎麦と云ふのだよ』
黒彦『貴方の仰有る事はチツト違ひはしませぬか、此間も大中教の宣伝使が遣つて来て、蕎麦と言ふものは、昔の昔のズツト昔の其昔、天の御三体の大神様が柱の無い屋根ばかりの三角形の家を造つて、其処へお住居を遊ばした。其家の側に出来たので蕎麦と云ふのです。それで屋根の形に蕎麦は三角になつてるだらう、お前達の雪隠の側にも、家の側にも出来てるではないか。側に居りながら貴様は余つ程饂飩な奴だと云ひましたよ』
狭依彦『あゝお前さまはウラル彦の教を奉ずる人だな』
黒彦『尤だ、何でも世界の事は皆知つてるとか、知らぬとか、蕎麦を掻いて喰ふ様な法螺を吹いて、側の人間をあつと云はさうと思つても、さうはいかぬぞえ。お前達の様なものが宣伝使になつて居つては、薩張り宣伝使の相場が狂つて仕舞ふワ。馬鹿々々しい』
狭依彦『それならお前さま、大中教の宣伝をやつて下さい。貴方の仰有る事が理屈に合うてゐるなら私は大中教に従ひます。それなら、此方からお尋ねするが黍と云ふのはどう云ふ処から名が附いたのですか』
黒彦『黍の穂は気味が良いほど実がなるから黍だ。ずる黍は手に撫でて見るとズルズルするから、ずる黍だ。大根は神さまの大好物だから大根と云ふのだ。蕪は余り味が良いから、オイ一つお前もかぶらぬかと云うて、つき出すから蕪と云ふのだ。米の炊いたのは美味いから、子供が食つてもウマウマと云ふからママと云ふのだ。さあさあ何でも聞いたり聞いたり』
 狭依彦は一寸感心したやうな顔して首を傾け、
狭依彦『へえ、ソンナものですか、それは結構な事を聞きました。私もコンナ話は大好物で気味が宜しい』
と下らぬ理屈に感心をしてゐる。
 鏡の池の水は俄にブクブクと泡立ち初め、そして水の中から竹筒を吹く様な声がして、
『卑しい奴らだ。喰物ばかりの問答をしよつて気味が良いから黍だの、大好物だから大根だの、召し上れの、うまうまのと、何と言ふ喰ひ違ひの事を申すか。やり直せ、宣り直せ、オーン、ボロボロボロ』
狭依彦『いや大変だ。池の中からものを云ひだしたぞ。何でも之は教へて呉れるに違ひ無い。おい黒さま、お前に用は無い。俺は此池を鑑として之から何でも聞くのだ。もしもし鏡の池の神さま、之からコンナ奴が来たら直に私に教へて下されや』
 池の中から竹筒を吹く様な声で、
『黒彦に教へて貰へ』
狭依彦『やあ、こいつは堪らぬ、偉い事を仰有る。矢張り黒彦が偉いかしら、モシモシ黒彦さまお尋ね致します。私の頭は如何したら毛が生えますか』
黒彦『それあ、生えるとも、一篇芝を冠つて来たら生える』
狭依彦『ソンナ事は、きまつてる。此儘生えぬかと頼むのだ』
黒彦『瓢箪に毛が生えたらお前さまの頭にも毛が生えるよ。枯木に花が咲くか、煎豆に花が咲いたら其時はお前の頭に毛が生えるのだよ。三五教では煎豆に花が咲くと云ふではないか』
狭依彦『もう宜しい、何にもお尋ねしませぬ。口計り矢釜しい、雀の様に云うて何にも知りはせぬ癖に偉さうに言ふない』
黒彦『俺を雀と云うたが、雀の因縁知つてるか』
狭依彦『知つとらいでか、鈴の様に矢釜しく囀るから雀だよ。四十雀の様に、始終ガラガラ吐かしよつてな』
黒彦『ソンナラ鷹の因縁知つてるか』
狭依彦『高い処へ飛ぶから鷹だ。そこら中を飛び廻るから鳶と云ふのだ』
黒彦『ソンナラ雲雀は如何だ』
狭依彦『高い処へ上り上つて告天子と云つて威張り散らすから雲雀と云ふのだ。雲雀何んぞ大鵬の志を知らむやと云ふのはお前達の事だよ。解く位の事なら何でも講釈してやる。朝も早うからガアガア鳴きたてる、日の暮に又ガアガア声を嗄らして鳴く奴を声を烏と云ふのだ。三五教の教には一つも穴が無からうがな』
としたり顔に云ふ。
 またもや鏡の池はブクブクと泡が立つて、前の様な拍子抜けのした声で、
『お前達はとりどりの講釈を致すが、どえらいとり違ひだよ。もつと心をとり直したが良からう。ブーツブーツ』
と法螺貝の様な唸り声が聞え来たる。
黒彦『此奴は堪らぬ、化物だ。何が飛び出るか分りやせぬ。皆の者逃げろ逃げろ』
と尻引つ紮げて一目散に逃げ出したり。唸り声は刻々と高まり来たり、大地震の様にブルブルと大地一面が動き出したれば、転けつ輾びつ、過半数の人間は四方に逃げ散りぬ。膽玉の小さい腰を抜かした人間ばかり、依然として其場に残り居たるなり。狭依彦もまた腰を抜かし其場に依然として祈願を凝らしつつありき。唸り声はますます烈しくなる一方なりけり。
(大正一一・二・六 旧一・一〇 北村隆光録)
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