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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第4篇 巴留の国よみ(新仮名遣い)はるのくに
文献名3第22章 五月姫〔372〕よみ(新仮名遣い)さつきひめ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-07 14:44:01
あらすじ
この日は巴留の国の国魂の祭の後、群集が直会の酒に酔いつぶれていたところ、蚊々虎をやってきて、喧嘩虎との騒ぎに発展したのであった。

淤縢山津見の演説が終わり、宣伝歌を歌っていると、群衆の中から天女のような美人が現れ、地方の酋長の娘・五月姫であると名乗った。五月姫は宣伝使のお供をしたいと申し出た。

五月姫は巴留の国の東半分を治める闇山津見の娘であった。群集は威勢ある闇山津見の娘が宣伝使の供を申し出たことで、三五教の徳をますます思い知った。

蚊々虎と高彦は五月姫と滑稽な問答をするが、五月姫は三人を館に招いて、教えを聞きたいと申し出た。三人は五月姫について闇山津見の館に進んで行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月08日(旧01月12日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版147頁 八幡書店版第2輯 203頁 修補版 校定版149頁 普及版65頁 初版 ページ備考
OBC rm0822
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本文  この日は巴留の国の国魂を祭る可く、数多の群衆は広き芝生に出で、神籬を立て種々の物を献じ、直会の酒に酔ひ潰れ、夜に入つて松明を点して、今や直会も済み退散せむとせる折柄に、蚊々虎は一目散に走り来つて宣伝歌を歌ひ始め居たり。蚊々虎は喧嘩虎や喧嘩芳に打擲され、勘忍袋を押へて我慢してゐた矢先、淤縢山津見、高彦の二人現はれたのでホツト一息し、又もや宣伝歌を歌ひ、代つて高彦の改心演説があつて、次に淤縢山津見が、声も涼しく宣伝歌を調子よく歌ひゐたり。
 群衆の中より天女の如き美人が現はれ、宣伝使の前に頭を下げ、
『宣伝使様、誠に有難う御座いました。妾はこの地方の酋長闇山津見の娘、五月姫と申すもの、なにとぞ妾を大慈大悲の大御心を以て御供に御使ひ下さいますれば有難う存じます』
と恥し気に頼み入る。群衆は酋長の娘五月姫がこの場に現はれ、宣伝使に叮嚀に挨拶せる体を見て大いに驚き、口々に、
甲『なんと宣伝使と云ふものは偉いものだな。巴留の国の東半分を御構ひ遊ばす闇山津見の御娘の五月姫様が、あの通り乞食のやうな宣伝使に頭を下げて「何卒御供に伴れて行つて下さい」と仰有るのだもの、何と俺も一つ宣伝使になつて、アンナ別嬪に頭を下げさしたり「妾を何処までも伴れて行つて下さい」ナンテ、花の唇をパツト開いて頼ましたいものだ』
乙『この助平野郎』
と矢庭に甲の横面をピシヤリと擲りつける。
甲『妬くない、妬いたつて馨しいことはありやしないぞ。貴様のやうな蟇鞋面に誰が宣伝使になつたとて随いて行きたいナンテ云ふものがあるかい。突いて行きます竹槍で、欠杭の先に糞でも附て突いて行きます位のものだよ、アハヽヽヽ』
 蚊々虎は五月姫に向ひ、
『エヘン、世の中に何が尊いと云つた所で、天下の万民を救うて肝腎の霊魂を水晶に研き上げる聖い役をする位、尊いものはありませぬ。さあさ、随いて御座れ、蚊々虎が許す。モシモシ御主人、でない、醜、ドツコイ淤縢山津見の宣伝使様、拙者の腕前はこの通り。お浦山吹の花が咲き盛りですよ』
五月姫『イエイエ、妾は貴方のやうな御方に連れて行つて貰ひたくはありませぬ。何ほど尊い宣伝使様でも、ソンナ黒い御顔では見つともなくて外が歩けませぬワ、ホヽヽヽヽ』
『顔の色は黒くつても、心の色は赤いぞ。赤き心は神心だ。神の心になれなれ人々よ、人は神の子、お前は人の子、神の代りを致す宣伝使の蚊々虎に随いて来れば大丈夫だよ。結構な花が咲きますよ』
『貴方の鼻は誠に立派な牡丹のやうなはなでございます。奥様が嘸御悦びでせう。縁は妙なもので合縁奇縁と云ひまして、妾は如何したものか、貴方のお顔は虫が好きませぬ。何卒そちらの方の御供をさして頂きたう御座います』
 高彦は右の食指にて鼻を押へて、顔をぬつと突き出し、俺かと云はぬばかりに頤をしやくつて見せる。
『オイ、関守の、谷転びの、死損ひの、荒熊、自惚れない。この世界一の男前、蚊々虎でも肱鉄を御喰し遊ばす女神さまだ。貴様のしやつ面に誰が随いて来るものがあるものかい』
高彦『モシモシ五月姫様、夫れは一体誰の事ですか。耻し相に俯向いてばかり居らずに明瞭と言つて下さい。高彦の私でせう』
 五月姫は首を左右に振り、
『いーえ、違ひます、違ひます』
『ソンナら誰だい』
『もう一人の御方』
『莫迦にしよる。オイ、醜、オド、幽霊、宮毀し、竜宮の門番、世の中に物好きな奴があればあるものだ。コンナ渋紙面がよいといの。オイ醜の宣伝使さま奢れ奢れ。本当に大勢の中で恥を掻かしよつて、蚊々虎はもうお前達と一緒に宣伝は止めだ。コンナ美人を俺が折角宣伝して置いたのに、後の方からチヨツクリ出て来て、仕様も無い声で歌を歌ふものだから、さつぱり御株を奪られて了つた。オイ高彦、お前と二人この場をとつとつと立ち去らうぢやないか』
『蚊々虎、さうは行かぬよ。この宣伝使の御供を吾々は何処までもするのだから』
『ヤア分つた。宣伝使の後にこの別嬪が随いて行くものだから、貴様は体のよいことを云ひよつて五月姫の御供をするつもりだらう。そして間には臭い屁の一つも頂かして貰はうと思ひよつて、本当に嫌らしい奴だナ。貴様は女にかけたら目を細くしよつて、その態たら無い一体何だい』
『貴様の面は何だい。オイ涎を拭かぬか。見ともないぞ』
 淤縢山津見は、黙然として両手を組み吐息を漏らしてをる。五月姫は思ひ切つたやうに、
『もうし三人の宣伝使様、妾の住処は実に小さき荒屋で御座りまするが、貴方等が御泊り下さいまするには、事欠ぎませぬ。妾が父の闇山津見も、三五教の宣伝を非常に有難がつて居ります。何卒妾に随いて御越し下さいませ』
と先に立ちて歩み出す。
 淤縢山津見は始めて口を開き、
『何は兎もあれ、闇山津見に御目にかかつて、三五教の教理を聴いて貰はう。然らば今晩は御世話になりませう』
『あゝ早速の御承諾、妾が両親も嘸や悦ぶことで御座りませう。コレコレ供の者、駕籠を此処へ持つてお出で』
『アーイ』
と答へて暗黒より一挺の駕籠を明りの前に担ぎ出す。
『なにとぞ宣伝使様、これに御召し下さいませ』
『吾々は天下を宣伝するもの、苦労艱難は吾々の天職、勿体ない、駕籠に乗ることは到底出来ませぬ。駕籠に乗らねばならなければ平に御断りを申します』
『やあ、乗り手が無ければ、蚊々虎でも幸抱いたしますよ』
 五月姫は、
『貴方の駕籠ぢやありませぬ』
 蚊々虎は舌を一寸出して、
『あなたの駕籠ぢやありませぬと仰せられるワイ』
と肱鉄砲の真似をしながら、淤縢山津見の後から蚊々虎は不承無精に随いて行く。
 駕籠は空のまま何処とも無しに影を隠しける。五月姫は先に立ち三人の宣伝使を伴ひ、闇山津見の館に帰り行く。
(大正一一・二・八 旧一・一二 外山豊二録)
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