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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第5篇 宇都の国よみ(新仮名遣い)うづのくに
文献名3第37章 珍山彦〔387〕よみ(新仮名遣い)うづやまいこ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-07 15:51:07
あらすじ
大蛇に乗った宣伝使たちは、ものすごい勢いで山麓に降ってきた。気がつけば、一同は広い芝生の上に下ろされており、大蛇は影も形も見えなくなっていた。

大蛇を使う蚊々虎の神力に、淤縢山津見、正鹿山津見、五月姫は驚き感心している。淤縢山津見は、これは蚊々虎という名を宣り直さなければ、と言う。

正鹿山津見は、大蛇を使ったから大蛇彦という名を提案した。蚊々虎は珍山彦という名を自ら提案し、一同は賛成した。

正鹿山津見はもうすぐ珍の都が近いことから、神言を奏上して宣伝歌を歌いながら行きましょう、と促した。正鹿山津見は節面白く宣伝歌を歌いながら進んで行く。

ようやく一行は、正鹿山津見の館に着いた。主の正鹿山津見が到着すると、中からは数多の僕が走り出て迎えた。淤縢山津見らは館に世話になることにした。

一同は湯船で旅の疲れを癒し、また珍味佳肴を振舞われ、正鹿山津見の厚意に感謝した。その夜は正鹿山津見を中心に、国魂の神を祀る神前に向かって天津祝詞を奏上し、宣伝歌を歌った。一同は疲れて熟睡し、あくる朝目が覚めると、また旅の四方山話にふけっていた。
主な人物 舞台ウヅの館 口述日1922(大正11)年02月10日(旧01月14日) 口述場所 筆録者東尾吉雄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版258頁 八幡書店版第2輯 243頁 修補版 校定版262頁 普及版115頁 初版 ページ備考
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本文  大蛇の背に乗りたる宣伝使一行は、一瀉千里の勢で山麓に下り行きたり。
 駒山彦は得意顔にて、
『ヤア、馬には乗つて見い、人には添うて見い、大蛇には跨つて見いだな。杏よりも桃が易い。割りとは楽に来たよ。コンナ事なら、これから大蛇に遇うても一寸も怖くは無い。この行く先々に、山へかかれば的さんがやつて来て呉れると、本当に重宝だね』
 蚊々虎は、
『大蛇どの、もうよろし、ここでオロチて下さい』
 見れば五人の宣伝使は、広き芝生の上に下され居たり。そして大蛇は影も形も見えなく成り居たりける。
駒山彦『なんだ、夢だつたらうかな。現に今、大蛇に乗つた積りだつたのに、此の様な芝生の上に坐つて居るとは、一体全体駒山には訳が分らぬわい』
『神変不可思議の神業だ。三五の教には、ドンナ結構なお方が落魄れて御座るかも知れぬから、必ず侮ることは成らぬとあるだらう。この蚊々虎さまは此様に粗末に見えても立派な神様だぞ。化けて御座るのだよ。それだから大蛇で有らうが、何であらうが、宇宙一切のものは、この蚊々虎さまの一言で自由自在になるのだ。風雨雷霆を叱咤し、天地を震動させるのも、吾々が鼻息一つで自由自在だぞ』
駒山彦『また始まつた。オイ、もう吹くのは止めて呉れぬか。お前の二百十日には駒山彦だよ』
 淤縢山津見はアフンとして、
『合点の往かぬは蚊々虎の神力だ。ヒヨツとしたら、此奴はお化けかも判らないぞ』
正鹿山津見『お化けでも何でも宜いぢやありませぬか。あの様な大きな大蛇を自由自在に使ふなんて吾々は到底、目から火を出して気張つた処で、石亀の地団太だ。物には成らない、偉い方ですね。正鹿も感心しましたよ』
 五月姫も、
『ほんたうに感服しましたわ』
 駒山彦はシヤシヤリ出で、
『「妾、ほんたうに感服しましたわ」と、仰有りますワイ。蚊々虎さま、お目出度う』
 淤縢山津見も、
『今日まで蚊々虎々々々と言つて居たが、こりや何うしても宣り直さなくちやいけない。何とか名をあげませうかな』
 正鹿山津見も呆れて、
『さうだなあ、大蛇を使つた神力に依つて大蛇彦と命名たら何うだらう』
『大蛇彦は御免だ。珍山彦だ。珍山彦と言つて貰ひたいね』
 淤縢山津見も、
『ヤア、それは本当にいい名だ。それなら是れから、珍山彦様と申上げるのだねー』
蚊々虎『尤も、尤も。蚊々虎を改名しますよ』
五月姫『ホヽヽヽヽ、なんとはんなりとしたいいお名ですこと、妾、蚊々虎さまより、珍山彦様の方が気持が宜しいわ』
 駒山彦は口を尖らして、
『ホヽヽヽヽ、「なんといい名だこと、妾、蚊々虎さまより、駒山彦が好きだわ」とおいでたな、とは言はぬ「珍山彦様の方が好きだわ」ヘン、馬鹿にしてらあ』
 正鹿山津見は、
『御一同様、話は途々伺ひませう。はるか東方に当つて小高き森がありませう。そこに田螺をぶちあけた様に小さき家が沢山に並んで居ませうがな。彼の辺が珍の都です。サアもう一息だ。私の宅まで御足労になつて、悠々と休息いたしませうかい。都近くなつた祝ひに、此処で一つ神言を奏上し、宣伝歌を歌ひながら参りませう』
と一同は芝生の上に端坐し神言を奏上し終つて、宣伝歌を歌ひつつ都を指して進み行く。
 正鹿山津見は唄ふ。
『巴留の都を後にして  汗水垂らす夏の山
 涼しき風に煽られて  心は秋の如くなり
 樹々の梢の紅葉の  色にも勝る村肝の
 身魂も清き宣伝使  珍山峠を乗り越えて
 千引の岩に夜を明し  仰ぐも高き天雲山の
 峠を越えて五柱  大蛇の船に乗せられて
 漸うここに月の空  月照彦の鎮まりし
 この高砂の神島は  神の選みしうづの国
 花の都も近づきて  心の駒は勇むなり
 神が表に現はれて  善と悪とを立別る
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 大野ケ原を右左  眺めて通る心地よさ
 向ふに見ゆる白壁は  珍の都のわが住家
 ただ何ごとも人の世は  直日に見直せ聞き直せ
 蚊々虎さまの名前さへ  珍山彦と宣り直し
 天津御神の貴の御子  大御宝と現はれて
 世界を開く宣伝使  淤縢山津見や五月姫
 勇む心の駒山彦や  夏の真盛り正鹿山
 津見の命の五人連れ  誠の神に救はれて
 漸う都へ着きにけり  やうやう都へ着きにけり
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 たとへ大地は沈むとも  誠の神の教へたる
 三五教は世を救ふ  救ひの神と現はれし
 厳の御魂の五柱  瑞の御魂の月の影
 尽きぬは神の御恵ぞ  尽きぬは神の御恵ぞ』
と節面白く歌ひながら、漸く一行の宣伝使は正鹿山津見の館に着きにける。
 駒山彦は、
『ヤア、宣伝使の住居にしては贅沢な構へだね』
珍山彦『決つたことだよ。珍一国の守護職だもの、当然だ』
 門内よりは、数多の下僕蒼惶しく走り来り、
『これはこれは御主人様、ようこそお帰り下さいました。皆の者が、もう今日はお帰りか明日はお帰りかと、首を伸ばしてお待ち申して居りました。サアサアお疲労れでせう、早くお休み下さいませ。ヤア、これはこれは、何れの方か知りませぬが、よく送つて来て下さいました。何卒悠くりと湯でも飲つて、寛いで下さいますやうに』
 正鹿山津見は、
『オー、国彦か、よくまあ留守を仕て呉れた。御苦労であつたな。イヤ、御一同様、見苦しき荒屋で御座いますが、どうぞ御遠慮なくお上り下さいませ』
 淤縢山津見も、
『仰せに従ひ遠慮なく休まして貰ひませう』
と、正鹿山津見の後に随いて、奥の間にドツカと安坐したり。
 国彦は恭しく湯を沸かして持ち来り、
『ヤー、御一同様、山道と云ひ、この頃の暑さと云ひ、嘸お疲労でせう。承はれば、主人も偉いお世話になられたさうで御座います。よくまあ生命を助けてあげて下さいました。今お湯がすぐに沸きますから、どうぞ悠くりと湯浴でもして、お寛ぎ下さいませ』
と、挨拶を終つて、部屋の方へ姿を消す。
 四人の宣伝使は打ち解けて、岩上に一夜を明かし、悪戯をされた事やら、大蛇に出会した時の感想を語り、面白可笑しくさざめき居たり。
 襖を開けて、正鹿山津見は、
『どうやらお湯が沸きました様です。皆さま何うでせう。一緒に這入りませうか』
珍山彦『そら面白からう、一緒に願はうかい』
『どうかこちらへ』
と、先に立つて行く。一同は浴槽の側に衣服を脱ぎ捨て、バサバサと一度に飛び込みぬ。
 珍山彦は、
『ヤアヤア、湯に入つた気分はまた格別だね。湯々自適とはこのことだ。ゆはぬはゆふにいや勝る。ゆうて見ようかゆはずにおこか。ゆはな矢張り虫がゆふ』
駒山彦『そら貴様何をゆふのだ。湯快さうに自分一人はしやいで』
『それでも湯快だよ。湯ぐらゐ結構なものは無いぢやないか。お前は何とゆふことをゆふのだ』
と珍山彦、駒山彦の二人は湯の中で揶揄ひながら、やや暫し汗を流して、一同と共に湯を上り、元の間に引き返し見れば、山野河海の珍味佳肴が並べられてゐたり。一同はその厚意を感謝しながら、漸く夕餉を済ませける。
 正鹿山津見を中心に、国魂の神を祀れる神前に向つて、天津祝詞を奏上し、宣伝歌を歌ひ了つて楽しみ話に耽り、その夜は疲労れはて、何れもよく熟睡し、明る日の八つ時に各自目を醒まし、又もや四方山の話に耽り居たり。
(大正一一・二・一〇 旧一・一四 東尾吉雄録)
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