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文献名1霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
文献名2第3篇 邪神征服よみ(新仮名遣い)じゃしんせいふく
文献名3第32章 土竜〔462〕よみ(新仮名遣い)もぐら
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-07-16 02:11:16
あらすじ
海月なす漂える国を固めた伊邪那岐皇大神は、日の国の元津御座に帰りましました。そして神伊邪那美大神は、月の御国に帰りましました。

速須佐之男大神が大海原の主宰神と定められた。そして、伊都能売の神の霊である木之花姫神と日の出神に、現界・幽界・神界を守られた。

天地はよく治まり、ミロクの御代となった。

しかしそうした時代もつかの間、荒ぶる八岐大蛇や鬼や狐の曲津神が起こって神の国をかき乱す。

大自在天・大国彦とその妻神大国姫は、真の神の光に照らされて神人を守る神となった。

しかし常世彦・常世姫の末裔であるウラル彦・ウラル姫は、懲りずにまた盤古神王と偽って、アーメニヤに都を構えてまたぞろ世を乱す活動を始めた。

東雲別の宣伝使・東彦は、石凝姥神となって、アーメニヤに宣伝をしようとアルタイ山の原野に進んで行く。

ここには大きな川が行く手をふさいでいた。この川は渡る者の命を奪い、死の川、魔の川といわれる恐ろしい川であった。

そこへ上流から濁流が流れてきて、巨大な材木を流し、自然に浮橋ができた。この光景を見て魔の川のほとりに話しにふける四五人の男たちがいた。

男たちは、ウラル彦が三五教の宣伝使を捕らえればこの川に橋をかけてやる、と言っていたことを思い出して話していた。そこへ石凝姥神が三五教の宣伝歌を歌いながらやってきた。

男たちは川べりの砂の中に首から下をすっかり隠して潜り、宣伝使を待ち構えた。そこへ石凝姥神がやってきて川の面をみると、沢山の材木が自然の浮橋を架けている。

石凝姥神は神恩を感謝し、河辺で神言を奏上し始めた。おりしも日は西山に傾きはじめている。すると、祝詞の声が始まると共に、付近の河辺からうめき声が聞こえてきた。

石凝姥神は正体を見極めようと河辺の砂原に降りた。すると男たちはむっくと砂から姿をあらわし、宣伝使を捕らえようと前後左右から石凝姥神を取り囲んだ。

石凝姥神は天の数歌を唱えると、男たちは頭痛を催して、砂の中に逃げ込んだ。石凝姥神は砂を握って団子にし、ふっと息をかけると石になった。それを砂の中の男たちに次々に投げつけると、男たちはたまりかねて砂から姿を表し、両手を合わせて平伏し、降参した。

石凝姥神はこの土竜のような男たちを許す宣伝歌を歌った。男たちは石凝姥神の神にしたがって浮橋を渡り、一緒にアーメニヤに宣伝に行くこととなった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月27日(旧02月01日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年8月20日 愛善世界社版243頁 八幡書店版第2輯 479頁 修補版 校定版249頁 普及版111頁 初版 ページ備考
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本文  海月なす漂ふ国を真細さに  固め成したる伊邪那岐の
 皇大神は日の国の  元津御座に帰りまし
 神伊邪那美の大神は  月の御国に帰りまし
 速須佐之男の大神は  大海原の主宰神と定め給ひて
 伊都能売の神の霊の木之花姫  日の出神に現界、幽界、神の界を
 守らせ給ひ天地は  良く治まりて日月は
 清く照り渡り風爽かに  雨の順序も程々に
 栄えミロクの御代となり  天津神等八百万
 国津神等八百万  百の民草千万の
 草木獣に至るまで  恵みの露に潤ひて
 歓ぎ喜ぶ其声は  高天原に鳴り響く
 芽出度き神世となりにけり  黄泉軍の戦争に
 八十の曲津は消え失せて  此世を造りし神直日
 心も広き大直日  直日に見直し聞き直し
 互に睦み親しみて  天の下には争闘も
 疾病も老も死も無くて  治まりけるも束の間の
 隙行く駒の此処彼処  荒振る神の曲津見は
 八岐大蛇や醜の鬼  醜の狐の曲業の
 おこり来りて千早振る  神の御国を撹き乱し
 世人の心漸くに  あらぬ方にと傾きて
 乱れ騒ぐぞ由々しけれ  恵みも深き皇神の
 誠の光に照らされて  常世の国の自在天
 大国彦や大国姫の命は畏くも  魂の真柱樹て直し
 任のまにまに黄泉国  常世の国に留まりて
 四方の神人守れども  常世の彦や常世姫
 神の末裔なるウラル彦  ウラルの姫は懲りずまに
 盤古神王と詐りて  ウラルの山の麓なる
 アーメニヤの野に都を構へ  探女醜女と諸々の
 八十の曲津を引寄せて  又もや此世を乱し行くこそ是非なけれ。
 闇を照す東雲別の宣伝使、東彦は石凝姥神となつて、アルタイ山の麓の原野に進み行く。ここには可なり大きな川が流れて居る。之を宇智川と謂ふ。此川を渡るもの、百人の中ほとんど九十九人まで生命をとらるるので、一名死の川又は魔の川と称へて居る。石凝姥神はアーメニヤに宣伝を試みむとし、アルタイ山を越え、クスの原野を渉り、アカシの湖、ビワの海を渡つてコーカス山の南麓を通り、アーメニヤに行かむと行を急ぎける。
 石凝姥神は漸う此魔の川の辺に着いた。橋も無ければ舟も無い。加ふるに濁流が漲つて居る。偶上流より巨大なる材木が続々として流れ来り、川に横たはり、自然に浮橋が出来た。この時四五の男は川辺に立ち此光景を眺めて話に耽り居たり。
甲『此川は何時も泥水が流れ通しで、向ふへ渡らうと思へば誰も彼も川の真中で皆生命をとられて仕舞ふのだが、今日は又珍らしい材木が沢山に流れて来よつて、自然の橋が出来たがどうだらう。吾々も三年前にあの橋が出来て、こちらに良い果物があるのを幸ひに漸う渡つたと思へば橋は流れて仕舞ひ、帰る事は出来なくなつて、もう一生川向ふの吾家には帰る事はあるまいと覚悟して居たのに、今日は又如何した事か、橋が架かつた。此機を幸ひに帰らうぢやないか』
乙『まア待て、一つ思案せなくてはならぬ。大切な、一つより無い生命だ。魔の川の藻屑になつても困るからのう』
丙『何、構ふものかい。恋しい女房や兄弟が心配して待つてゐるから、運を天に任して一つ渡つて見ようかい』
丁『何でも此水上にウラル彦の家来の悪神が居つて、三五教の宣伝使とやらが此川を渡らぬ様に魔神が守護して居ると云ふ事だよ。吾々はウラル教でもなければ、三五教でもない。いろいろの神さまが現はれて、両方から喧嘩をなさるものだから、吾々の迷惑此の上なしだよ』
甲『オー、其三五教で想ひ起したが、ウラル彦の神とやらが、三五教の宣伝使が来たら、引攫へてアルタイ山の砦まで引立てて来い。さうすれば此川に橋を架けてやる。そして沢山の褒美を与るとの事だから、こんな処へ三五教の宣伝使が来よつたら、それこそ引捉まへて一つ手柄をしようぢやないか』
乙『そんな都合の良い事があれば結構だが、吾々の様な賓頭盧型では、到底思ひも寄らぬ事だ。三年も斯うして川を隔てて、棚機さまでさへも年に一度の逢瀬はあるに、永い間川を隔てて互に顔を見乍ら、侭ならぬ憂目に遭うて居る様な不運な者だから、そんな事はまア孫の代位には会ふかも知れぬよ』
 斯く語り合ふ処へ何気なく石凝姥神は、三五教の宣伝歌を歌ひ乍ら進み来る。一同は此声に耳をすませ頸を傾け、
甲『オー、噂をすれば影とやら、呼ぶより誹れとは此事だ。三五教の宣伝使の歌らしい。オイオイ皆の奴、此川辺の砂の中へ体躯をスツカリ匿して首だけ出して、様子を考へて見ようかい』
 一同は灰の様な軽い柔かい砂の中へ、首から下をスツカリ隠して仕舞ひ、俯伏になつて宣伝歌を聞いて居る。石凝姥神は何気なく此川辺に進み来り、川の面を見れば、沢山の材木が横倒れになつて自然の橋を架けてゐる。
『ホー、神様の御恵と言ふものは結構なものだナア。実は此宇智川は死の川とか魔の川とか謂つて到底渡る事が出来ない。此川を首尾克く渡るものは百人に一人より無いと云ふ事を聞いて居たが、今日は又、何と云ふ都合の好い事だらう。之も全く三五教の神の御守護だ。アヽ之を思へば前途の光明は赫々として輝き渡る様な思ひがするワイ。何は兎もあれ広大無辺の神恩を感謝する為めに、此処で一つ神言を奏上し、宣伝歌を潔く歌つて渡る事にしよう』
と独語ち乍ら神言を奏上し始むる。
 日は西山に傾いて川水に光を投げて居る。祝詞の声始まると共に、附近の川辺から呻き声聞え来る不思議さ。
 石凝姥神は不図声する方を眺むれば、四五の黒い円いものが何だかウンウンと呻いてゐる。
『ホー、此奴はウラル彦の部下の魔神の所作だナア。大方悪魔が化けてゐるのだらう。何だ西瓜畑の様に……黒い、円いものがウンウンと呻き出したぞ。どれ一つ正体を見届けてやらうか』
と膝を没する柔かき砂原に足を向け、黒い円い塊を掴んで見れば、土人の首である。見れば眼をギヨロギヨロさせ口を開けて、
『アヽヽア、お前は三五教の宣伝使か、此川は魔の川と謂つて渡るものは皆生命が無くなるのだ。三五教がある為めに此土地の人民はどれだけ苦労するか知れやしない。之から吾々が寄つてたかつて、お前を引捉まへてアルタイ山の魔神の砦に連れて行くから覚悟をせい。斯う橋が架つた様に見えても此橋は化物だ。吾々も向ふ岸に帰りたいのだが土産が無ければ渡る事は出来ぬ。オイ皆の者、出て此奴を引捉まへて呉れ。俺の頭の毛を引掴へよつて離さうとしよらぬので如何する事も出来やしない』
 此声に四人の頭は俄に砂よりムツクと姿を現し、前後左右より石凝姥を取り囲む。
一同『ヤア、待ちに待つたる三五教の宣伝使、さア尋常に手を廻せ』
『貴様等は一体何だ、砂の中に住居を致す人間か。オチヨボ虫かベンベコ虫の様な奴だなア。斯んな馬鹿な態をすな。此方は三五教の宣伝使だ。此川を渡つてアーメニヤに進み、ウラル彦の悪神を平げてお前等の難儀を救うてやるのだ。心配致すな』
一同『板すなも糞もあるものかい、砂の中を自由自在に潜る此方だ。弱い奴は引捉まへてウラル彦の神に奉り御褒美を頂戴致す積りだが、万々一お前が手に負へぬ剛の者なら、俺等は砂の中を潜つて隠れるから、如何する事も出来やせぬぞ』
『何だ、貴様は土竜か、火鼠か、蚯蚓の様な奴だな。砂を潜る、それは面白い。一遍その芸当を旅の慰めに見せて呉れないか。素直に砂くぐりを致せ。やり損なひはすな』
『洒落やがるない。貴様こそ素直に手を廻せ、取り損なひを致して後で、後悔すな』
と言ひ乍ら砂を掴んで石凝姥神の両眼めがけて一生懸命に投げつける。石凝姥神は目を閉ぎ乍ら思はず一人の男を手放した。五人は一度に立ち上り、
『さア、斯うなつてはもう大丈夫だ。早く此方の申す通りに致さぬか』
石凝姥『一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、万』
『ヤア、こいつは堪まらぬ。頭が痛い、目が眩む、潜れ、潜れ』
と土竜の様に砂をムクムクさせ乍ら全身を隠して走り行くのが浪の様に見えて居る。石凝姥は砂を両手に握つて団子を拵へ息をふつかけると、忽ち凝結して石の玉となりける。その玉を砂の浪を目がけて、ポンポンと投げつくれば、一同の土人は堪まり兼ねてか、砂まぶれの体躯をヌツと現はし、両手を合せ、
『カヽヽヽ勘忍々々』
と砂上に平伏して謝り入る。
『オイ、土竜、許してやるから俺の前へ出て来い。何を怕ぢ怕ぢとして居るか。少しも恐い事はないぞ』
『ハイ、本当に、タヽヽヽ助けて貰へますか』
『仮りにも三五教の宣伝使たるもの、嘘偽りは少しも申さぬ。素直に此方の前に集まり来れ。良い事を聞かして与らう』
 土人は恐る恐る前に集まり来り、俯伏せになり半泣きになつて居る。石凝姥は又もや宣伝歌を声爽かに歌ひ始めたり。
『吾は石凝姥の神  ウラルの神の曲津見を
 言向け和し三五の  神の教に救はむと
 東雲の空別け昇る  東の彦の宣伝使
 心も固き石凝姥  神の命と現はれて
 数多悪魔もアルタイの  山の砦を清めむと
 夜を日に次いで道の為め  世人を救ふ真心に
 宇智の川辺に来て見れば  瓜の畑を見る如く
 円い頭の此処彼処  これ枉神の曲業と
 川辺に下り立ち髪の毛を  一寸握つて眺むれば
 烏の様な黒い顔  美事、目鼻も口耳も
 眉毛も額も出来てゐる  頭ばかりの人間が
 如何して此処に住まうかと  思案にくるる折柄に
 土竜の様にムクムクと  砂もち上げて現はれし
 黒さも黒し鍋墨の  様な体躯は化物か
 大馬鹿者か知らねども  三五教の宣伝使
 召捕り呉れむと四方より  吾に向つて攻め来る
 その有様の可笑しさに  天の数歌宣りつれば
 頭を抑へ目を顰め  堪へ兼ねたる体たらく
 吾行く道は三五の  教なれどもお前等は
 穴有り教か忽ちに  土竜の様に穴あけて
 砂に波をば立たせゐる  あな面白や面白や
 一つ嚇して見ようとて  砂を握つて固めおき
 神の御息を吹き掛けて  石凝姥の玉となし
 前後左右に投げやれば  こりや堪まらぬと各自が
 生命惜しさに我を折つて  素直に吾に従ひし
 心の神の助け神  もう之からは慎みて
 決して馬鹿な真似はすな  素直に心を改めよ
 素直に心を改めよ』
と滑稽交りに宣伝歌を歌ひければ、五人は一斉に顔を上げ、
『アヽヽア、有難う御座います。もう之からスツカリと改心を致します。すなと仰有つた事はすなほに廃めまする。オイオイ皆の奴、これから素直になれよ』
石凝姥『貴様もよく洒落る奴だな、さア之から此橋を渡るのだ。お前達も俺に跟いて来い。俺が宣伝歌を歌ふ後から一緒に歌ふのだ。さうすれば無事安全に渡れるから』
甲『可愛い嬶に久し振りに御面会が叶ひますかなア』
乙『又嬶の事を言ひよるワ。渡つた上の事だ。一寸先は暗の世だよ』
石凝姥『貴様はウラル教だな』
乙『滅相な、ウラメシ教です。もう之から私も三五教になります。然し私の女房だけはあなない教にして貰つては困ります』
丙『三五教でも心配するな。矢つ張り、あな有難やアルタイ山だ』
としやれながら、石凝姥神の後に跟いて浮木の橋を西に向つて漸く渡り終りぬ。
(大正一一・二・二七 旧二・一 北村隆光録)
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