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文献名1霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻
文献名2第3篇 天岩戸開(三)よみ(新仮名遣い)あまのいわとびらき(三)
文献名3第25章 琴平丸〔521〕よみ(新仮名遣い)ことひらまる
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグサルヂニヤ島(サルヂニヤ)、熊野久須毘命(熊野樟日命) データ凡例 データ最終更新日2021-09-22 04:00:04
あらすじ
高光彦、玉光彦は時置師神とともに橘島を出て呉の港に上陸し、宣伝歌を歌いながら琵琶の湖のほとりまでやってきた。浪が高く、船の出港待ちで七日七夜をすごすことになった。

船客たちは無駄話にふけっている。サルジニヤ島での戦いの様は、船客たちの話にも上っていた。

この話を聞いていた石凝姥神は、厳霊と瑞霊の天の誓約が始まったことを悟り、岩戸隠れを防ぐためにアルプス山に登って八咫鏡を鍛えると言い、時置師神と行平別に別れを告げた。そして二神に、竹島へ渡って秋月姫の消息を探るようにと言い残した。

時置師神は行平別とともに船に乗り込んだ。船は凪いだ湖原を東北さして進んでゆく。

船の一方には、四五人の男たちが車座になって雑談をしている。時置師神と行平別は、その側で話に聞き入っている。

その話によると、素盞嗚命が地上の暗黒を嘆いて高天原に昇ってからは、天変地妖が各地で起こって混乱が続いた。高天原の姉神・天照大御神は、素盞嗚命が悪い心を持ってやってきたのであろうと疑い、打ち滅ぼそうとした。

素盞嗚命は釈明したが、天照大御神の疑いは晴れなかった。そこで二神は、安の河原(太平洋)をはさんで、天の真奈井(日本海)で誓約(うけひ)という御魂改めを行うのだといって、大事になっている。

また、サルジニヤ島では、武を蓄えていた素盞嗚命の娘神・深雪姫を征伐しようと、天照大御神は天菩比命に命じて進軍させたが、深雪姫は美しい瑞霊の神であることがわかって、当てがはずれて帰って行った。

琵琶の湖の竹島にも、秋月姫という瑞霊の女神が鎮まっているが、今度は天津彦根命という天菩比命の弟神が竹島征伐に出立したという。しかし、サルジニヤ島と同じように、案に相違して帰ってくるのではないか。

そもそも、それぞれの神の管掌は、天の真奈井からこちら側が素盞嗚命、天教山のある自転倒島から常世国、黄泉国、高砂島は、天照大御神となっている。しかし、姉神は地教山、コーカス山、黄金山も自分のものにしようと画策していた。

素盞嗚命は姉神に敵対することもかなわず、進退窮まって月の国に退隠しようと、高天原に昇って誓約をしているのだ、という。

誓約によって姉神の玉の威徳によって生まれた五柱の男神は、表面は女のように優しいが、心は武勇絶倫で殺戮征伐といった荒いことをする、激しい我の強い性質であった。

一方弟神は、鋭利な十握の剣の霊から生まれたのは仁慈無限の瑞霊の女神だった、という。

時置師が噂話をしていた男に、どこからそのことを聞いたのか、と尋ねると、男はなんだかにわかに頭が重くなって、突然知らないことをしゃべったのだ、と答えた。

船がしだいに竹島に近づくと、竹島は戦場の阿鼻叫喚の声に満ち、地獄の惨状のごとき光景が展開されていた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月11日(旧02月13日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年9月30日 愛善世界社版207頁 八幡書店版第2輯 702頁 修補版 校定版220頁 普及版90頁 初版 ページ備考
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本文  高光彦、玉光彦の宣伝使は時置師神と共に橘島を立出て、呉の港に上陸し、宣伝歌を歌ひながら、天地暗澹たる大野原を進み進みて琵琶の湖の辺に着きぬ。折しも浪高く風烈しく出船を待つこと七日七夜の久しきに亘り、船客は出船待つ間の無駄話に耽り居る。
甲『随分困つた世の中になつたものぢやないか。この琵琶の湖は何時も穏かな湖面で、天女が琵琶を弾ずる様な浪音を立てて、船の往来をして居る安全第一と言はれた湖だのにこの頃の湖の荒れ様、今日で五日も六日も船が出ないと云ふ様な事は、昔からあつた事はない、どうしたものだらう』
乙『定つた事だ。天も暗く地も闇いこの頃、草木も色を失ひ、悪魔は天下に横行濶歩する常暗の世の中だ。琵琶の湖だつてやつぱり天地の間にあるのだもの、チツト位荒れるのは当然だよ。それよりも瀬戸の海の大戦があつた事を聞いて居るか』
甲『イヤ未だ聞いた事はない。どんな戦があつたのだ』
乙『なンでも大きな喧嘩があつたと云ふ事だ。喧嘩の大きなのは戦だ』
甲『そンな事言つたつて、訳を話さな分るかい』
乙『分るも分らんもあるか、戦は戦だ。貴様が何時も女房と嫉妬喧嘩をするやうなものだ。貴様が嬶の横つ面をピシヤリと擲る、嬶が怒つて貴様の腕に咬り付く。「コラ嬶、何を為やがるのだ。放さぬか、放さなドタマをかち割るぞ」と拳骨を振りあげる。女房の奴、腕にかぶりついた儘で、オンオンと泣声を出して、「殺すなら殺せ、殺されても此腕は放さぬ」と云つて一悶着をやる。隣の八公が出て来て「コラコラ鶴公、お亀さま、何を喧嘩するのだ。鶴は千年亀は万年、夫婦喧嘩は犬も喰はぬ。千年も万年も仲好う暮さなならぬ夫婦の間柄で、何と云ふ不心得な事をするのだ」と挨拶に出る。さうすると鶴公………貴様が「イヤ八さま、放つといて下さい。此奴は虫が得心せぬ、今日限り暇を遣るのだ」と力味返る。貴様の女房お亀の奴、四這になりよつて「モシモシ八さま、何卒放つといて下さい。この人には愛想が尽きたのだ。酒を喰ひ博奕をうつ、すべた女の尻を追かける。一寸も取得の無いガラクタ爺だ。これが幸妾は不縁にして貰ひます。今は斯うして別れても、三年先には子供の二人も拵へて、立派な男と手を引いて、モウシモウシ鶴さまへ、三年前にはエライお世話になりました。お蔭でこんな結構な夫を持ち、立派な良い児が出来ました。阿呆なおやぢに連添うて居ると、妾までが阿呆になる。折角子を生むでも、間抜た面した天保銭のやうな小忰より出来やしない。ヨウ別れて下さつた」と言つて礼に来る様なものだよ。兎も角夫婦喧嘩だといふ事だ。イヅとかミヅとかいづもみづ臭い、神様でさへも戦があつたと云ふことだよ』
甲『貴様の云ふ事は、黙つて聞いて居れば、俺ンとこの事まで、大勢の中に曝け出しよつて、怪しからぬ奴だナ』
乙『それでも神島とか、お亀島とか云ふ島の喧嘩だもの、何れ貴様の山の神と喧嘩したことを連想せずには居れぬぢやないかい』
丙『貴様等は良い加減な事を聞囓つて、大勢の中で見つともない。そンな話を今時知らぬ者があるかい』
乙『偉さうに言うな、それなら貴様逐一言つてみい』
丙『目から、鼻から、耳から、口まで能う抜けた此方だ。何も彼も透き通つた新煙管のやうな此方だよ』
鶴公『さらぎせるテ何だい』
丙『よう通つた男と云ふ事だよ』
鶴公『何を吐しよるのだい。サツパリ新煙管なら、詰らぬ男と言ふ事だらう。アハヽヽヽ』
乙『こンな新煙管に聞いた所が、こつちが詰らぬ。誰か詳しい事を知つて居る者が在りさうなものだなア』
丁『万人の中に一人位はあるものだよ。掃溜にも鶴が降りると云ふ事があるから、併し此鶴さまは嬶取られの鶴さまだから例外だよ』
丙『それなら、その掃溜の鶴と云ふのは誰のことだい』
丁『定つた事だ、大抵顔の色を見ても分りさうなものじやないか。口許の凛とした、目の涼やかな、鼻筋の通つた男だ』
と自分の鼻を押へ乍ら、
丁『真面目に云ふから、真面目に聴けよ。抑もコーカス山には大気津姫命と云ふお尻の大い神様があつた。その神様が多数の八王とかビツコスとか云ふ奴を沢山寄せて、何でも、偉い偉い神様を祀つて都を拵へて居つた所が、そこへ松茸とか椎茸とか干瓢とか何でも美味さうな名のつく小便使が遣つて来て、大尻姫の尻ぢやないが、そこら中に小便やら糞を放かけさがして、流石の大尻姫も大尻に帆をかけて、アーメニヤヘスタコラヨイヤサと逃出したり。後に松茸、椎茸、干瓢さまが酒の燗を須佐之男命とか云ふ、酒の好な神さまを祀り込むで、ツル……ギとかカメとかを御神体にして居つた。さうして月とか鼈とか、花とか、何ぢや六つかしい女の神がお宮のお給仕を勤めて居たが、世が段々曇つて来たので、コーカス山も厭になつたと見え、三人の娘神は、巨きな大蛇となつて、雲を起して天に舞上り、一疋の大蛇は呉の海の橘島に巣を構へ、綺麗な別嬪に化けて居ると云ふ事、モ一つは此琵琶の湖の竹島に大蛇となつて降りて来たといふ事だ。それからモ一つの鼈とか、雪とか云ふ女神は是また白蛇となつて、瀬戸の海の一つ島に住居をして、素的な別嬪と現はれ、多数の家来を連れて住むで居つた。そこへ天教山から変性男子のお使で、天菩比命とやらが、ドツサリと強そな家来を連れて、サルヂニヤの嶋を攻め囲み、火をつけて焼滅して了つたさうだ。ナント偉い事が出来たものじやないか』
鶴公『馬鹿云ふな、サルヂニヤは喧嘩ぢやない、男の方は喧嘩腰で、乱暴な事を行りよつたが、女神の方は沢山な御馳走を拵へて、これはこれはよう来て下さいました。何も御座いませぬがお酒なつと充分に召しあがれと云つて、相手にならなかつたのだ。一方が相手にならねば喧嘩ぢやない』
丁『理窟を言ふな、それでも半分喧嘩だ』
鶴公『男が多数の家来を連れて、女に喧嘩を吹きかけに往つても、一方が相手にならねば間の抜けたものだ。暖簾と腕押しするやうなもので、力の抜けた事だらう』
 斯く話す傍に、目を塞いで静に聴いて居た石凝姥神は、
『オー、是は大変だ、道聴途説とは言ひ乍ら匹夫の言にも信ずべき事ありだ。いよいよ厳霊と瑞霊の誓約が始まつたらしい、まさか違へば天の岩戸隠れにならうも知れない。ヤア時置師神殿、行平別殿、此処でお別れ申す。我は是よりアルプス山に上り日の像の八咫鏡を鍛たねばならぬ。天の目一箇神も大方出かけて居るであらう。貴神は是より竹島に渡つて、秋月姫の安否を探り給へ。さらば……』
と云ひ棄てて、雲を霞とアルプス山目蒐けて進み行く。
時置師『ヤア、石凝姥の宣伝使も、重大な使命を帯びて居られるのだから仕方がない。何だか此処で別れるのは、物足らぬ様だが、これも御神業の一部と思へば結構だ。サア初さま、船が出さうだ、船の中で又ゆつくりと話さうかい』
と云ひ乍ら船に向つて進み行く。百数十人の乗客は、先を争うて琴平丸に乗込んだ。船は真帆に風を孕ませ乍ら、凪ぎ渡つたる湖原を、船底に浪の琴を弾じつつ、東北指して一目散に辷り行く。
 船の一方に座を占めたる小賢しき四五人の男、車座になつて四方八方の話に耽つて居る。時置師、行平別の宣伝使も何喰はぬ顔にて、その傍に雑談を聴き居たり。
甲『この間もあまり世の中が悪くなつて治まらぬと云ふので、善い神様は皆天に上り、竜宮に集まり、地上は魔神計りの暗黒界、どうする事も出来なくなつたと云つて、コーカス山の素盞嗚尊様が高天原とかへ、お越し遊ばしてからと云ふものは、彼方にも此方にも、地震が揺る、海嘯が起る、悪い病は蔓延する、河は干る、草木は枯れる五穀は実らず、大変な事になつて来た。そこで天の高天原の撞の御柱の神様が、素盞嗚尊様に何でも悪い心があるとか言つて、大変御立腹なされ、弓矢を用意し、剣や鉾を設け備へて、素盞嗚尊様を討滅さうとなさつたさうだ。そこで、素盞嗚神さまは「私は決して決してその様な汚穢い卑劣しい心は持ちませぬ。モウ此地の上が厭になりましたから、母神の御座る月の国へ帰りたい。それ迄に姉神様に一目お目に掛りたさに来たのだ」と仰有つても、姉神様はお疑が深うて、容易に納得遊ばさず、たうとう、安の河原(太平洋)を中において、天の真名井(日本海)に霊審判とか誓約とか遊ばすので、此頃は大変な事だ。サルヂニヤの一つ島に、素盞嗚尊様の瑞霊の一柱、深雪姫様が多紀理姫神となりて、この世の為に神様をお斎り遊ばして御座つた所が、姉神様はこれを疑ひ、自分の御珠に感じてお生れになつた天菩比命とか云ふ血染焼尽の神様を遣はして、全島を焼滅ぼし、最後になつて、深雪姫様は案に相違の美しき瑞霊の神様であつたと云ふ事が分り、アフンとして帰られたといふ事だ。この湖の竹の島にも、秋月姫と言ふ瑞霊の中の一人の綺麗な神様が鎮まつて居られるのを今度は天津彦根命と云ふ、菩比命の弟神が現はれて、竹の島の宮殿を破壊したり、人民を悪者と見做し、虱殺に屠り殺すと云つて行かれたさうだ。又サルヂニヤの深雪姫様のやうに柔かく出られて、アフンとして帰られるだらう』
乙『それは妙な事だなア、神様でもそンな酷い喧嘩をなさるのか。さうすれば我々が夫婦喧嘩をするのは当然だなア。一体この辺は何の神様がお守護ひ遊ばすのだ』
甲『きまつた事だよ。天の真名井から此方の大陸は残らず、素盞嗚尊の御支配、天教山の自転倒島から常世国、黄泉島、高砂島は姉神様がお構になつて居るのだ。それにも拘らず、姉神様は地教山も、黄金山も、コーカス山も全部自分のものにしようと遊ばして、種々と画策をめぐらされるんだから、弟神様も姉に敵対もならず、進退維れ谷まつて此地の上を棄てて月の世界へ行かうと遊ばし、高天原に上られて、今や誓約とかの最中ださうぢや。姉神様の方には、珠の御徳から現はれた立派な五柱の吾勝命、天菩比命、天津彦根命、活津彦根命、熊野久須毘命といふ、それはそれは表面は美しい女の様な優しい神様で、心は武勇絶倫、勇猛突進、殺戮征伐等の荒い事を為さる神様が現はれて、善と悪との立別を、天の真名井で御霊審判をして御座る最中だと云ふ事ぢや、姉神様は玉の如く玲瓏として透き通り愛の女神の様だが、その肝腎の御霊から現はれた神様は、変性男子の霊で、随分烈しい我の強い神さまだと云ふ事だ。弟神様の方は、見るも恐ろしい鋭利な十握の剣の霊からお生れになつたのだが、仁慈無限の女神様で、瑞霊といふ事だ。此処で天の安河原を中に置いて、真名井の水に其玉と剣をふり滌いで善悪の立別けが出来ると云ふ事だよ。それだから、三五教が昔から、「神が表に現はれて善と悪とを立別ける、此世を造りし神直日」とかナンとか言つて居るのだ』
時置師『一寸皆さまにお尋ね致しますが、御姉弟の神様が、誓約なさると云ふ事は、何処でお聞になりましたか』
甲『イヤどこでも聞きませぬ、何だか最前から頭が重くなつたと思へば知らず識らずに、私の口からあンな事を喋つたのですよ。怪体な事があればあるものですなア』
乙『オイ貴様。現に貴様の口から云つたぢやないか。何だ、しらじらしい。とぼけよつて、正直な貴様に似合はぬ、何故そンな無責任な事を言ふのだ』
甲『それだと言つて仕方がないわ。俺の心にもない事を言ふのだもの……』
丙『モシモシお客さま、此奴はこの頃の陽気で、どうかして居ります。何申すか分りませぬから、どうぞ取上げて下さいますな』
時置師『イヤ結構です、大変に参考になりました。全く此方が言はれたのでありますまい、神様の我々に対するお示しでせう』
丙『ヘーン、貴方も一寸、云うと済まぬが、どうかして居やしませぬか。こンな気違の言ふ事を一も二もなく鵜呑にして、あまり軽卒ではありますまいか』
甲『わしは秋月姫命の使神である。その方は我言葉を気違と申したが、尤もだ。汝はウラル教の間諜だから、我直言がきつく耳に障ると見えるワイ』
丙『コラ、何を呆けよるのだ、良い加減に馬鹿な真似をしておけ』
 斯く話す折しも、船はチクチクと竹の島に近づき居る。忽ち起る矢叫びの声、鬨の声、阿鼻叫喚、地獄の惨状を見るが如き、竹島の磯端に激烈なる惨劇が演ぜられつつある光景、手に取る如く見え来たる。
(大正一一・三・一一 旧二・一三 松村真澄録)
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