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文献名1霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻
文献名2第3篇 天岩戸開(三)よみ(新仮名遣い)あまのいわとびらき(三)
文献名3第27章 航空船〔523〕よみ(新仮名遣い)こうくうせん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-11-12 01:10:33
あらすじウラル彦・ウラル姫はコーカス山を三五教のために追われた。後にコーカス山には神素盞嗚命が武勇を輝かせていたために、邪神も手を下すことができなかった。そのためウラル彦・ウラル姫は美山彦と国照姫にアーメニヤを守らせ、自らは黄泉島に渡って第二の計画をめぐらしつつあった。ウラル彦・ウラル姫は、元は善神であったが、邪神に憑依されて心にもない邪道をたどりつつ、誠の神に叛旗を翻すことになった。美山彦・国照姫も、一度は月照彦命、足真彦命によって善道に立ち返ったが、またしても邪神に憑依されて、ウラル彦の配下となってしまった。三五教の宣伝使・祝部神は、月照彦神の化身とともに、黄泉島の曲津神を掃討すべく、船に乗って進んでいった。筑紫丸というこの船は、竜宮島を経て黄泉島に沿い、常世国に到る航路である。海中には種々の異変が起こり、島や岩石が突然現れたり、日は暗く風は生臭く、不快な航海を続けていた。船中の客は、天変が続いて世の中が不安になってきたので、遠い海の向こうの常世の国に渡ろうとする者が多かった。また、黄泉島はこのごろ地震が頻発し、すでに六分ほど海に沈みつつある、という。たちまち暴風が吹きすさび、筑紫丸は沈没の危機に陥った。祝部神は立って宣伝歌を歌い始めた。すると暴風は止んでしまった。船は黄泉島に近づいてきた。すると黄泉島は轟然たる音響をたてて海中に沈み始めた。祝部神は、船客たちに向かって、祈りの神力で黄泉島を引っ張り上げて見せよう、と言い、祈願をこらし始めた。しかし、島はますます急速に沈んでいく。船客たちは祝部神を馬鹿にしたが、祝部神は一向に意に介さず、海に飛び込んで黄泉島に泳いで行ってしまった。またしても暴風が筑紫丸を襲ったが、黄泉島に泳ぎ着いた祝部神が言霊をかけると、船は引き寄せられて島に着き、沈没の難を免れた。船客たちは喜び、祝部神に感謝の意を表した。祝部神がまたしても言霊をかけると、黄泉島は静々と浮かび始めた。祝部神は、黄泉島は曲津神が棲んでいるので、どうしても沈めてしまわなければならないから、早く逃げるように、と筑紫丸を促した。筑紫丸は祝部神の送る風を受けて、船足早く常世の国へ去っていく。後に残った祝部神の言霊に追いやられて、黄泉島の曲津神たちは、黄泉比良坂に向かって追い立てられていった。坂の上には日の出神が用いた千引き岩があった。祝部神は岩の上に端座して神言を奏上すると、大音響とともに黄泉島は沈んでしまい、あとには千引き岩を残すのみとなった。荒波が祝部神の体をさらおうとした刹那、天空から天の磐楠船がやってきた。日の出神が、正鹿山津見神を遣わしたのであった。祝部神は船に乗ると、天教山を指して帰って行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月11日(旧02月13日) 口述場所 筆録者谷村真友 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年9月30日 愛善世界社版228頁 八幡書店版第2輯 710頁 修補版 校定版243頁 普及版100頁 初版 ページ備考
OBC rm1227
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本文  ウラル彦命、ウラル姫命は自ら盤古神王と称し、ウラル山、アーメニヤの二箇所に根拠を構へ、第二の策源地としてコーカス山に都を開き、権勢双ぶ者なき勢なりしが、三五教の宣伝使の為に、コーカス山の都を追はれ、再びウラル山、アーメニヤに向つて遁走し、数多の魔神を集めて捲土重来の神策を講じ居たりき。然るにアーメニヤに近きコーカス山に、神素盞嗚命武勇を輝かし、天下に君臨し給へば、流石の魔神も手を下すに由なく、美山彦、国照姫をしてアーメニヤを死守せしめ、自ら黄泉島に渡りて第二の作戦計画を廻らしつつありける。
 ウラル彦、ウラル姫は、元来純直至誠の神であつたが、美はしき果実には、悪虫の襲ふが如く、少しの心の油断より八岐の大蛇、悪狐、悪鬼の憑依するところとなり、是等の悪神に使役されて、心にもなき邪道を辿りつつ、誠の神に向つて叛旗を翻すに至つたるなり。美山彦も一旦月照彦命、足真彦命の為めに言向け和され善道に立返りしが、再び邪神に憑依され、忽ち心魂くらみ国照姫の言を容れて、又もやウラル彦の部下となり、悪逆無道の行為を専らとするに至りたるなり。
 茲にアーメニヤの神都には、表面美山彦はウラル彦命と称し、国照姫はウラル姫命と称して虚勢を張り、数多の魔神を集めてこの都を死守し、黄泉島と相待つて回天の事業を起さむと企て居たりき。
 三五教の宣伝使、祝部神は月照彦神の化身と共に、黄金山を立出で筑紫の国のヨルの港を船出して、黄泉島の魔神を剿討すべく進み行く。此船は筑紫丸と名づくる大船なり。筑紫丸は竜宮島を経て黄泉島に沿ひ常世の国に通はむとするものなれば、常世の国に渡る船客がその大部分を占め居たり。祝部神は月照彦神と共に、筑紫丸の船客となり、数十日の海路を続くる。海中には種々の変異起り、島なき所に島現はれ、或は巨大なる岩石俄に海中に出没して天日暗く月光も無く、風は何となく腥く、得も言はれぬ不快極まる航路なりける。船中には色々の雑談が例の如く始まり来たる。
甲『モシモシ豊さま、貴方は何処まで行きますか、かう海上に変異が続出しては、余り遠乗りも危険ですよ。私も常世の国まで参る積りで出て来ましたが、この調子では先が険難でなりませぬ。竜宮島迄行つたら又次の船を待つて帰る事にしようと思つて居ますよ』
豊『さうですな、貴方は常世国へ何の為めにお越しになるのですか』
甲『実は家内も小供も一緒に乗つて居ますが、私はコーカス山の山麓の琵琶の湖の畔に住むもの、何だか世の中が変になつて来て何とも譬方のなき風が日夜吹き巻り、息がつまりさうになりますから、遠く常世の国へ移住でもしたらよからうと思つて参りましたが、もう斯うなれば何処に居るも世界中同じ事の様に思ひます』
豊『常世の国は数千里を隔てた、海の向ふの広い国、そこまで行けば日も照り月も輝き、立派な果物も実り、清鮮な空気も流通して居るでせう。私も豊の国の者ですが、豊の国には白瀬川の大瀑布があつて、魔神が棲居を致し、日夜毒気を吐き人民は残らず蒼白い顔になつて、コロリコロリと死ぬもの計り、あまり世の中が恐ろしくなつたので、黄泉島か、もつと足を伸ばして常世の島へ渡らうと思つて、一族を連れて来たのです。何でも黄泉島が此世の境と云ふのですから、黄泉島に渡れば昔のやうな清らかな海も、島も見られませう』
丙『私も常世の国へ遁げて行く者ですが、黄泉島はこのごろ大変な地震で、日々二三十間づつ地面が沈没しかかつて居るやうですな。人の噂に依れば、もう六分通り沈むで仕舞つたさうですよ』
甲『黄泉島でさへもさう云ふ按配だから、俄に海の中に無かつた大きな島が出来たり、岩が立つたり、大蛇が沢山に游ぎ廻るのは当然でせう。兎も角怪しい世の中になつて来たものだ。かうなつて来ると今まで馬鹿にして聞いて居た、三五教の教が恋しくなつて来る。たとへ大地は沈むとも誠の神は世を救ふとか云つて、宣伝使が廻つて来ましたが、我々は「何、馬鹿な、大地が沈むなぞと、そンな事があつたら、日天様が西からお出ましになる」と笑つて居ましたが、この頃は西からどころか、何処からもお昇りなさらず、黄泉島の様な大きな島まで六分まで沈むとは、本当に常世の国だつて我々のこの船が着く迄には、どうなつて居るか分つたものぢやない』
 昼とも夜とも判別のつかぬ常暗の世の海面、船は海面に出没する大巌石を右に避け左にすかし、船脚もゆるやかに盲人の杖なくして荒野を行く如き有様、波のまにまに浮かび行く不安至極の航路なりける。
 忽ち暴風吹き来り、山岳の如き波立ち来つて、筑紫丸を呑まむとする危険の状態に陥り、船客一同は互に手を合せ何事か頻りに小声に祈り、祝部神は立つて歌ひ初むる。
『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 朝日は隠れて光なく  月は地に落ち影もなし
 大海原に蟠る  八岐大蛇や醜神の
 醜の猛びを皇神の  依さし給へる言霊に
 伊吹き払へよ四方の国  大海原の醜神も
 言向和す三五の  道を伝ふる宣伝使
 世は常暗となるとても  黄泉の島は沈むとも
 常世の国は永遠に  波の随々漂ひて
 天照します大神や  国治立の大神の
 御霊の恩頼を蒙らむ  神素盞嗚大神の
 深き恵みを白浪の  上に漂ふ民草は
 黄泉の島の日に月に  沈むが如く忽ちに
 浮瀬に落ちて苦しまむ  嗚呼諸人よ諸人よ
 神の教にまつろひて  直霊の御霊研き上げ
 朝夕神の御前に  祈れや祈れ善く祈れ
 我はこの世を救ひ行く  三五教の宣伝使
 月照彦の守りにて  この世の曲を祝部の
 神と現れ黄泉島  その比良坂にさやりてし
 八岐大蛇を言向けて  この世の曲を掃き清め
 世人を助くる神司  神が表に現はれて
 善と悪とを立別ける  この世を造りし神直日
 心も広き大直日  唯何事も人の世は
 直日に見直し聞直し  身の過ちは詔直せ
 神は汝を守るらむ  嗚呼惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
 不思議や暴風は俄に止みて、浪凪ぎ渡りし間もあらず、西北の風またもや吹き来つて筑紫丸は矢を射る如く黄泉島に向つて疾走せり。予期に反して早くも黄泉島は間近くなりぬ。忽ち黄泉島は轟然たる音響をたて、見る見る海中に沈まむとする恐ろしさに、船客一同はこの光景を見て、アレアレと驚きの目を睜る。
祝部神『ヤア船中の方々、吾々は最前歌つた如く三五教の宣伝使、たとへ黄泉島は沈むとも、言霊の神力を以て、再び元の如く海面に浮ばせ見む、信仰の力は実に尊きものである。皆の方々には我が祈りの霊験を見て心を改められよ』
甲『貴方は宣伝使様、如何に御力があるとは云へ、あの島が浮き上りませうか、若しも浮き上つたら吾々は三五教に一も二もなく帰依致します。どうぞ一つ浮して見て下さいませ』
祝部神『神力は偉大なものだ。サア御覧』
と云ひながら拍手をなし天津祝詞を奏上し、鎮魂の姿勢をとり、汗をダラダラ流して一生懸命に霊を送つて居る。黄泉島は益々巨大なる音響を出し速度を早め、海中に沈み行くのみなりける。
祝部神『ヤア、こりや神さまが聞き損ひをなさつたナ。今一度願つて見ませう』
とまたもや一心不乱に祈りかけた。黄泉島は何の頓着も無く、刻々に海中に沈み行く。船中の人々は一斉にドツと声を上げて嘲笑する。
祝部神『オイ皆のもの謹慎をせぬか。お前たちの量見が悪いものだから、俺の鎮魂がチツトも利かない。皆揃つて俺が神言を奏上するからその後に従いて来るのだ。神様を馬鹿にして居ると、思わぬとこへ暗礁が出来て、船が覆へつて仕舞ふぞ。この船には幸ひに月照彦神の御守り厚き祝部の宣伝使が乗つて居るものだから、どうなりと浮いて居るのだ。俺が黄泉島に上陸したが最後この船は危くなるぞ』
乙『何とマア小さい男に似ず大法螺を吹く奴だなア。この法螺には時化の神も吹きまくられて鎮まつてしまふ。アレアレ宣伝使の祈りは利き過ぎたと見えて、黄泉島は益々鳴動激しく急速度を以て沈むぢやないか』
『莫迦を云ふな、島が沈むのぢやない。海嘯が来て居るのだ。波が高くなつて居るのを気が付かぬか』
甲、乙『モシモシ宣伝使様、この広い海の中、盥か何ぞの様に高くなつた、低くなつたと云ふ見当はどうしてとれます。成程水が高くなれば島は沈むやうに見えるのは当然だ。然し俄にかう高くなる道理がないぢやありませぬか』
 祝部神は、
『島が沈むか波が高くなつたか、二つに一つだ。アハヽヽヽヽ』
と気楽さうに笑つて居る。船は漸く黄泉の島近くになつた。
祝部神『サア船頭、黄泉島に船を着けて呉れないか』
船頭『メツサウもない。刻々に沈むで行くあの島、どうして船が着けられませう』
 祝部神は
『エーイ気の弱い船頭だなア』
と云ひながら神を念じ神言を唱へつつ身を躍らしてザンブと許り海中に飛び込み、黄泉島目がけて游ぎ行く。
甲、乙、丙『ヤア、法螺を吹く丈け随分胆玉の太い宣伝使だ。信仰の力と云ふものは、エライものだなア。アレ丈け一生懸命に島を浮かして下さいと頼むのに、チヨツトも聞いて下さらぬ神様を信じて未だ信仰を止めず、危険極まる黄泉島に游いで行くとはあきれたものだ。生命知らずと云ふのは、マアああいふ人の事かい。ヤアヤア偉い速力ぢや。たうとう此長い海面を向ふへ着いてしまつたよ』
 又もや颶風吹き来り波高く帆柱を折り、船はいやらしき物音を立てて、今や破壊せむとする。船頭も船客も一度に蚊の泣く如く、天に哭し地に歎き、刻々沈み行く船の上を前後左右に駆廻り、狼狽へ騒ぐ有様は目もあてられぬ悲惨の光景なりける。
 祝部神は島陰に立つて言霊を力限りに宣り始めたり。アーオーウーエーイの声に連れて、今や沈没せむとする筑紫丸は、何物かに惹かるる如く急速力を以て、黄泉島に近づき来たる。祝部神は又もやアオウエイの言霊を宣り初めければ、不思議やほとんど沈没せむとする船は、ポカリと水音高く浮上り、何時の間にか浸水せし水は跡形もなく除かれ居たりける。
祝部神『ヤア、皆さま、御神徳が分つたかな』
 甲乙丙を初め船客一同は嬉し涙に暮れ一言も発し得ず、両手を合せ祝部神に向つて生神の意を表し合掌するのみなりき。祝部神は又もやウンウンと力を込めたるにぞ、ウの声に黄泉島は静々と浮き上り始めたり。又もやウヽヽの声に連れて島はウヽヽと浮き上りたり。
祝部神『皆の人達、この島が浮上ると云うた時、笑つただらう。どうだこれで分つたか』
甲、乙、丙『イヤモウ確に分りました。今迄の御無礼どうぞ御赦し下さいませ』
『ヨシヨシ分つたらそれで可い、神様の御神徳を忘れてはならぬぞ。サア今の間に早く常世の国に往つたら可からう。愚図々々して居るとこの島は又もや沈没の恐れがある。曲津神の棲む黄泉島はどうしても、海中に沈めてしまはねばならぬのだ。何千里も廻つた此島、一度にドブンと沈ンだ時は、この海原でも天に冲する如き巨浪が立ち上る。さすれば如何に堅固な大船でも一たまりもあるまい。サア早くこの島の沈没せぬ間に風を送つてやるから、常世の国へ向つて走り行け』
 東風俄に吹き来つて筑紫丸は帆を膨らせながら一瀉千里の勢にて波上を滑り行く。船中の人々は黄泉島の祝部神に別を惜み、手を拍ち笠を振り袖を振りなぞして姿の見えぬまで名残りを惜みけり。
 島の曲津神は祝部神の言霊の息に恐れて、雲を霞と比良坂さして逃げて行く。祝部神は足を早めて飛鳥の如く、黄泉比良坂の坂の上に月照彦の冥護の下に登り行く。
 坂の上には、日の出神の用ゐ給ひし千引の岩がある。この岩の上に端坐して神言を奏上する折しも、大音響と共にさしもに広き黄泉島は海中に忽然として没し、残るは千引の岩のみ。折から荒浪は千引の岩を洗ひ、祝部神の身体をも今やさらはむとする時、天空を轟かして此処に降り来る天の磐樟船あり。見れば日の出神の遣はし賜うたる堅牢無比の神船にして、正鹿山津見神が乗つて居られる。祝部神は、
『ヤア貴神は正鹿山津見神』
『ヤア貴神は祝部神で御座るか。サア早くこの御船に乗らせ給へ』
 祝部神は、
『全く救ひの船だ、有難し忝なし』
と磐樟船にヒラリと身を托し、中空高くかすめて天教山を目蒐け、一瀉千里の勢にて天を轟かしつつ阿波岐原に漸く降り着きにける。
 俄に聞ゆる松風の音に目を開けば、豈図らむや、十四日の月は西山に沈み、高熊山の霧立ち昇る巌窟の傍に瑞月の身は端坐し居たりける。
(大正一一・三・一一 旧二・一三 谷村真友録)
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