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文献名1霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻
文献名2第1篇 勝利光栄よみ(新仮名遣い)しょうりこうえい
文献名3第4章 夢の幕〔530〕よみ(新仮名遣い)ゆめのまく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグサルヂニヤ島(サルジニヤ) データ凡例 データ最終更新日2020-11-26 16:48:29
あらすじ
日の出別宣伝使は上陸し、フサの都さして出発した。ウラル教の六人の宣伝使たちはその後をそっとつけていく。

砂塵を浴びながら原野を進み、日の出別命はシヅの森に着いて、一夜を明かすことになった。

ウラル教の宣伝使たちも到着し、点呼をするが、肝心の岩公がはぐれてしまったことに気づく。仲間たちは、岩公は普段いばっているからその報いだ、と話あっていたが、そこへ闇の中から大きな声が聞こえてきた。

暗がりの大声は、アーメニヤの神都は荒廃し、ウラル教にもはや勢いはないとして、三五教への改心を迫った。

化け物のような声にどう対処しようかと一同が相談していると、巨大な光が現れて、その中から恐ろしい朱色の顔をした怪物が、舌先に人の首を乗せている。よく見れば、岩彦の首であった。

鷹彦は怒って、岩彦の敵とばかりにウラル教の宣伝歌を歌って化け物をやっつけようとするが、化け物は、ウラル教の宣伝歌を聞くとかえって気分がよくなる、と言う。

仕方がないので、三五教の宣伝歌をうろ覚えで歌うが、それは梅彦、亀彦、駒彦、音彦に食いつけよ、というおかしな歌であった。

仲間は鷹彦を責めるが、鷹彦は、実は自分は三五教の宣伝使であり、今までウラル教に潜伏して布教の妨害をしていたのだ、と正体を明かす。

と、化け物の口から岩彦が落ちてきた。そこで一同は目を覚ます。シヅの森でみな夢を見ていたのであった。
主な人物 舞台シヅの森 口述日1922(大正11)年03月16日(旧02月18日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年10月30日 愛善世界社版54頁 八幡書店版第3輯 51頁 修補版 校定版55頁 普及版22頁 初版 ページ備考
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本文  鶴山丸は、ペルシャ湾のタルの港に寄港した。日の出別の宣伝使は、此処に上陸してフサの国の都を指して宣伝歌を歌ひながら進み行く。
 ウラル教の宣伝使、岩彦、梅彦、音彦、亀彦、駒彦、鷹彦の六人は互に目配せしながらタルの港に上陸し、足を早めて進み行く。
 折から吹き来る強風の景物砂塵を浴び、灰泥餅のやうになつて、最大急行の突喊命令を下しつつ、シヅの森に向つて電光の如く疾走する。
 日の出別命は、暴風強雨我不関焉といつたやうな調子で悠々として原野に遊べる野馬を御し、チヨクチヨクと進み行く。日は漸くに黄昏れたと見え、暗さは一しきり暗くなつて来た。もはや一寸も進むことが出来ない。
 ここに日の出別は馬を乗り捨て、親譲りの交通機関に砂煙を立てながら、シヅの森指して進み来り、一夜を明さむと簑を木蔭に敷いて眠につく。
 岩、梅、音、亀、駒、鷹のウラル教の宣伝使は、タルの港に上陸し足を早めてシヅの森に進み来たり。
梅彦『ヤア、漸く此処がシヅの森だ。サア人員点呼だ、一、二、三、四、五、』
梅彦『六は無いのか、オイ誰だ、途中落伍した奴がありさうだナア』
音彦『闇がり道を強行的行進を続けたものだから、岩公の奴たうとう落伍しよつたな。口程にもない奴だ。空虚なる器物は強大なる音響を発すと云うて、実力のないものだ。言葉多ければ品少しだ。吾々は三五教に帰順しようと思つて居たのに、岩公の奴、減らず口を叩きよつて、たうとう議会の停会と来たものだから、一も取らず二も取らず、その間に日の出別の宣伝使は、この広いフサの国に上陸して仕舞はれた』
亀彦『彼奴は何を云つたところうでモウ駄目だよ。自分ほど偉い者は無いと定めて居るのだから馬耳東風、余程酷い目に遇はねば、免疫性の無感覚者だから目が覚めないよ。多分タルの川の崖道の断巌絶壁から空中滑走をやつてタルの川の川底へでも有事着陸したのだらう。今頃にはプロペラーが折れたので谷底で進退谷まつて岩彦が岩を抱へてアヽいはぬは云ふに弥勝る、鶴山丸の中で、あんないはいでもよい事をいはなかつたらよかつたになぞと云つてこうかいして居るだらう』
駒彦『航海は吾々もして来たぢやないか。後の後悔先に立たず、ぢやない役に立たずだ。併し乍ら此処はシヅの森と云ふて、バの字とケの字の出る処と云ふ有名な妖怪窟だ。オイ確かりせぬと、トンダ目に遇ふか知れやしないぞ。岩彦は云はひこで好いと云ふ訳に行かない、吾々も極力捜索をやつて彼の潜伏所を突き留めねば宣伝使の役が勤まらない。アーメニヤに帰つて、あの大きな岩公をまさか紛失したとも、途中で遺失したとも、また磨滅して仕舞つたとも云ふ訳には行かぬからなア』
梅彦『何だ。遺失だの磨滅だのと、恰で手荷物のやうに云つて居るじやないか、些と言霊を慎まむかい』
駒彦『マア、マア、今晩はこれで打切りとして、明朝早々捜索兼探険と出かけよう。鼻を摘まれても分らぬやうな此暗夜にどうして居所が分るものか。木乃伊取りが木乃伊になるやうな慘虐事が継続しては堪らぬからなア』
鷹彦『君達は随分冷淡な男だなア。人情軽薄なる事紙の如しだよ』
梅彦『それや貴様、神様の使だもの、紙辺暗雲に包まれ咫尺も弁ぜざる深夜に、どう心配したつて進退谷まつた此場の光景、否暗景だ。如何とも策の施す余地が無いぢやないか』
鷹彦『何、暗くつても矢張り神の造つた神国の地の上に居る吾々だ。如何に妖怪が現はれるシヅの森だと云つても、これも矢張り神国の断片だ。誰か一人此処に待つ事にして後四人は岩公の捜索だよ』
音彦『おとましい、この深夜に縁起の悪い四人とはどうだ。何故四人と云はないのだ』
駒彦『言霊と云ふものは妙なものだ。まかり間違へば岩彦は死人になつて居るかも知れやしないぞ、よい辻占だ。マア如何でも好いぢやないか、明日は明日の事だ』
鷹彦『たかが知れた宣伝使の一羽や二羽、無くなつたつて構ふものかい。彼奴は余り自負心が強いから、神様の懲罰に遇うて居るのだ。何時も豪さうに聖人振つて、宇宙間の無限絶対なる不可解的な事実を道破したものは此岩彦だ……ナンテ駄法螺を吹きよつて吾々を煙に巻いて居たが、フサの海の暴風雨に出遇つた時は随分六ケ敷顔をしとつたよ。負惜みで声を立ててオイオイと吠えはせなかつたが、力一ぱい気張つて涙と泣面の保留をして居たのは確な事実だよアハヽヽヽ』
 斯く話す時しも鼓膜の運命を危殆ならしむる如きドラ声が暗中より聞えて来た。
梅彦『ヤア唸るぞ、唸るぞ、大変だぞ』
音彦『ヤイ、何者なればこの深夜に唸るのだ。この方はウナル教の宣伝使、ウナル彦様の御家来だぞ。何ぼなと法螺を吹け、太鼓を打て、もつともつと馬力を出して喉が裂ける程呶鳴つたがよいわ。シヅの森は静な処だと思へば、反対に喧しの森の、騒がしの森の、呶鳴りの森だ。呶鳴るなら呶鳴れ、どうなりても構はぬ、命知らずの宣伝使の音さまだ。オイオイ梅、亀、鷹、駒、貴様達も何とか防戦せむかい。大きな言霊を出しよつて、吾々の耳の鼓膜を破裂させようとかかつて居やがるのだよ』
暗中より一層大きな声で、
『オヽヽー音公、駒の鼓膜が破れるどころか、鷹のやうな高声で呶鳴つてやるから、胆が破裂せぬやうに用心を致せ』
鷹彦『何ぢや、ケ、ケ、怪体な奴が、飛んで出よつたものだ。オイ、ドラ声先生、俺を誰人と心得て居る』
暗がりの大声、
『ウラル教の腰抜野郎、よつく聞け。アーメニヤの神都は殆ど零敗に帰し。今は僅に美山彦、国照姫の曲津見が弧塁を死守するのみ、実に惨なものだ。アーメニヤの城壁は所々くたぶれ果て、穴だらけ、貴様達はコーカス山に帰つて往くつもりであらうが、コーカス山は、もはや三五教の勢力範囲に帰して了つたぞ。今の間に改心いたせばよし、違背に及ばば汝が生命は風前の灯火、また岩彦のやうな運命に陥るぞ。アハヽヽヽ、オホヽヽヽ、ウフヽヽヽ、イヒヽヽヽ、エヘヽヽヽ』
と五韻を離れた鶴のやうな笑ひ声が聞え来たる。
亀彦『オイ皆の奴、これや一つ作戦計画を遣り直さねばならなくなつたぞ。新規蒔直し、吾々は兎角善と信じた事は飽迄も決行せなくてはならないのだ。どうだ岩公は今のバーとケーサンの言葉によれば、どうやら寂滅為楽疑ひなしだ。吾々も一つ我を折らねばなるまい、アヽ困つた事だワイ』
音彦『何だ、弱々しい亡国的の哀音を吐き、絶望的悲調を帯びたその世迷言は、貴様は宣伝使の天職を忘れたのか』
亀彦『宣伝万化、隠顕出没極まり無きが、宣伝使の正に用ふべき神秘だよ。貴様のやうな杓子定規でこの世の中が渡れるものか。郷に入つては郷に従へ、時の力には抵抗する事は出来ない。この頃は桜のシーズンだと云ふのに如何だ。花もなければ葉も萎れ、山野はほとんど冬のやうだ。これも天の時だ、何時までも春は花が咲く、秋は紅葉が照ると思つて居ると訳が違ふぞ』
 かく雑談に耽る折しも、俄にクワツと明くなつて来た。五人は驚いて空を見上ぐる途端に、アツと一声大地に打ち倒れたり。
 巨大なる光り物の中より、得も云はれぬ恐ろしき朱色の顔色に、アーク灯のやうに光つた目玉を剥いた怪物、五六尺もあるやうな舌の先に何だか人の首のやうな物を乗せてペロペロさして居る。よくよく見れば岩彦の首である。
梅彦『アヽ、岩々、岩公がいはされた』
音彦『ヤア、モシモシ赤い顔の白い目玉サン、それや余り胴欲だ。その首は岩彦の首ぢやないか、あまりだよ』
化物『余り退屈なのでア首が出たのだよ。人肉の温い奴を食ひ度いと思つて居たら、此処に四つ五つ転ついて居るワイ、ヤア甘い甘い、天道は人を殺さず、化物は人を食ふ、美味さうな奴が来たものだワイ。アハヽヽ、イヒヽヽ、ウフヽヽ、エヘヽヽ、オホヽヽ』
鷹彦『コラ、バヽバケモノ、了見せないぞ。今待つて居れ、俺がウラル教の宣伝歌を歌つてやるわ』
化物『ウラル教の宣伝歌を聞かして貰うと気分が好くなつて、益々貴様等が食ひ度くなつて来る。食はれぬ前にこの世の歌ひ納め、一つ歌つて呉れまいか』
鷹彦『ヨー、此奴は零敗の大当違ひだ。ソンナラ三五教の宣伝歌を歌はう』
化物『ウン、そいつは困る。しかし貴様はウラル教だ。三五教の宣伝歌を知らう筈が無い。マアマア大丈夫だ。歌ふなら歌つて見よ、アハヽヽ、イヒヽヽ、ウフヽヽ』
鷹彦『何を吐かしよるのだ。不完全な奇数的の馬鹿笑ひをしよつて、俺の宣伝歌を聞いて胆を潰すな。オイ梅公、音公、亀公、駒公、鷹サンと一緒に宣伝歌を歌ふのだ。サア今度は三五教の宣伝歌だぞ』
亀彦『三五教は一向不案内だ。まして宣伝歌なぞはサツパリ分らないよ』
鷹彦『貴様はウラル教の宣伝使であつて不心得な奴だ。三五教を征服しようと思へば、敵の総ての教理を呑み込んで置いて、ウラル教との優劣を判断し、ウラル教が三五教と、どの辺が勝つて居ると云ふ点を宣伝するのが、宣伝使の役ぢやないか。俺はウラル教だから三五教の教理は研究するのも汚らはしいと云ふやうな事で、どうして敵に向つて勝利を得る事が出来ようか、エヽ仕方がないデモ宣伝使ばかりだナア。サアこの鷹サンが俄に三五教の宣伝使と宙返り飛行をやつて御覧に入れる。化物の奴、今くたばるか、くたばらぬか、試して見るのだ。もし三五教の宣伝歌で化物が滅びたら矢張り三五教が豪いのだから、そこで貴様達も決心するのだぞ。サア俺の宣伝歌を聴いて見ろ』
と云ひながら怪しき化物の顔をグツと睨み付け、
『神が表に現はれて お膳と箸とを立別ける
 この世の中に化物が あつて耐るかシヅの森
 静になれよ静になれよ 三五教の宣伝歌
 宣伝万化に曲津見の 向ふを張つて跳ね廻る
 梅彦、亀彦、駒彦や おとなしうない音彦の
 頭を目蒐けて食ひつけよ』
音、亀『コラコラ鷹公、何を吐かしよるのだ。貴様は極端な個人主義だなア。一連托生、無我平等のウラル教、オツトどつこい三五教の精神を知つて居るか』
鷹彦『アハヽヽヽ、馬鹿な奴だなア、俺を一体誰だと考へて居る。抑々アーメニヤを出立するその時より、吾は三五教の鷹彦と云ふサルジニヤの一つ島に居つた宣伝使だ。猫を被つてウラル教に這入り、貴様等五人の中に加はりて竜宮の一つ島に渡り、飯依彦と以心伝心的作戦計画をやつて居るのも気がつかず、悪の企は注意周到にして水も漏らさぬやうに見えるが、肝腎の身魂に執着があるから足許が真暗がり、この鷹サンの化物に気が付かなかつたのだよ。アハヽヽヽ、オホヽヽヽ、イヒヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エヘヽヽヽ』
梅、駒『何だ、貴様までが俄に化物の後継をしよつて、頭の上からと下からと、化物の包囲攻撃をやられて耐つたものぢやないワイ』
 頭の化物、大きな舌を出して、
『アハヽヽー、イヒヽヽー』
亀、音『ヤア、又やりよつた。上下挟撃、えらい敵の術策に陥つたものだワイ』
 頭の化物、
化物『オホヽヽー』
と笑つた途端に、舌の先からつるつると空中滑走をしながら五人の前に着陸した男がある。
一同『ヤア岩、岩、岩彦か、貴様は一体どうして居たのだ。化物の喉から出て来よつて、恰で、飴の中からお多ヤンと金太サンが飛んで出たやうな曲芸だ。誰にソンナ手品を教へて貰ひよつたのだい』
岩彦『オイ皆の奴、よい加減に目を醒まさぬかい。何をウンウンと唸つて居るのだ、此処はシヅの森だぞ、静にせないと化物が出ると云ふ事だよ』
一同『ムニヤ ムニヤ、アーアー恐かつた、エライ夢を見たワイ』
岩彦『アハヽヽヽ』
(大正一一・三・一六 旧二・一八 加藤明子録)
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