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文献名1霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻
文献名2第5篇 膝栗毛よみ(新仮名遣い)ひざくりげ
文献名3第24章 大活躍〔550〕よみ(新仮名遣い)だいかつやく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-11-26 18:17:40
あらすじ六人の宣伝使と弥次彦、与太彦は、途中林の中で野宿をした。しかし起きてみると、音彦、弥次彦、与太彦を残して五人の宣伝使の姿が消えてしまった。弥次彦と与太彦は騒ぎ出すが、音彦は慌てず、追ってフサの都に歩いて行こう、と先を促す。弥次彦と与太彦はおかしなやり取りをしている。すると、にわかに人馬の物音が聞こえ、三人はウラル教の捕り手たちに囲まれてしまった。弥次彦と与太彦はものすごい勢いで拳をふるって血路を開き、駆け出した。音彦はその後を宣伝歌を歌いながらゆうゆうと進んで行く。ウラル教の捕り手頭は、三人を捕らえるように下知するが、捕り手たちは口ごたえして動かない。捕り手頭は一人で追いかけようとするが、馬に振り落とされて帰幽してしまった。捕り手の一人・八公は仕方なく、一人で峠を下って宣伝使らを追いかける。音彦らは丸木橋を渡って逃げるが、さらにウラル教徒らに囲まれてしまい、逃げ出す。荒男の館に迷い込んでまたそこから逃げ、泥田にはまりこんでまたそこから逃げる。最後に小鹿峠に追い込まれ、数百人の捕り手に囲まれた三人は、決死の覚悟で断崖の谷間に飛び降りた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月21日(旧02月23日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年10月30日 愛善世界社版283頁 八幡書店版第3輯 134頁 修補版 校定版283頁 普及版124頁 初版 ページ備考
OBC rm1324
本文の文字数8936
本文のヒット件数全 7 件/ウラル教=7
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本文  茲に六人の宣伝使は、田子の町に於けるお竹の宿の騒動を鎮定し、弥次彦、与太彦は宣伝使に扈従して、コーカス山に向ふ事となつた。六人は馬上に跨り、二人は徒歩のままテクテクとフサの都を指して進み行く。タカオ山脈に連続せる猿山峠の麓に着いた。
 永き春日も早暮れ果てて、四辺は靄に包まれた。一行八人はとある林の中に蓑を敷き寝に就いた。何れも長途の旅に疲れ果て、前後も知らず寝入るのであつた。夜中に弥次彦は目を覚まし、あたりを見れば、朧の月は頭上に木の間を透して輝いて居る。六人の宣伝使のうち五人の姿は、何時の間にか消え失せて、附近に人の気配もない。
弥次彦『モシモシ宣伝使様、起きて下さい、人が紛失いたしました』
音彦『ナニ、人間が紛失した?、ソンナ事があるものか、お前夢でも見たのだらう』
弥次彦『イヤ決して決して夢ではありませぬ、マア目を開けてご覧なさい、馬も居りませず、宣伝使のお姿も何処かへ、蒙塵されたやうな塩梅ですワ』
 音彦は目を擦りながら、附近を見まはし、
音彦『ヤアこれは殺生だ、到頭棄てられて了つた。エー仕方がない、何事も神直日大直日に見直し聞直しだ。吾々を鞭撻しようと思つて、鷹彦の宣伝使が、熟睡の隙を狙つて発足されたのだらう。夫れにしてもご苦労な事だ、自分は斯うして夜中の夢を見て居るのに、五人の宣伝使は、夜露を冒して夜中行軍、大抵の事であるまい。音彦は大変草臥れて居るから、マアゆつくりと休ましてやらうと言つて、一足先へお出でになつたのだらう。何れフサの都の手前で待つて居て下さるであらう』
弥次彦『モシモシ宣伝使様、ソンナ気楽な事を言つてる所ぢやありませぬで、あなたの馬も居ないぢやありませぬか、この辺には大変な大きい大蛇が、夜分に横行しますから、宣伝使も馬も一緒に呑んで了つて腹を膨らし、呑み満足をしよつて、吾々を呑残しにしたのかも分りませんよ』
音彦『マア心配なさるな、神の道を伝ふる宣伝使、神様がご守護遊ばすから、大蛇がどうして呑む事が出来よう。キット先へ行つて、吾々の来るのを待つて居て下さるだらうから』
弥次彦『オイ与太、起きぬか、ナンダ、大変事が勃発して居るのに、グウグウと寝て居る所か、サアサアこれから手配りをして、宣伝使の在処を探さねばならないぞ』
与太彦『ムニヤムニヤムニヤ、アーねむた、折角良い夢を見て居つたのに、起されて惜しい事をした、掌中の玉を奪はれたやうな気がするワイ』
弥次彦『惜しい夢つて、ドンナ夢だい、金でも拾つた夢を見たのだろう』
与太彦『どうしてどうして、ソンナ夢ぢやない、三日間は人に言ふなと云ふ事だ、夢を取られると困るから、ここ三日間は夢に対して無言の行だ』
弥次彦『大体が夢ぢやないか、たとへ実現するにした所で、お前と俺との仲だ、一つの物を二つに割つて食ひ合ふやうな、昵懇な仲で、夢を惜んで話さないと云ふ事があるか。お前の物は俺の物、俺の物はやつぱり俺の物だ』
与太彦『アハヽヽヽ、それだから言はれぬのだ、取込思案ばかりしよつて、抜目のない男だから』
弥次彦『貴様はよつぽど水臭い男だよ、綺麗さつぱりと白状して了へ。大方隣の嬶を何々する所で揺すり起されたのだらう、それだから俺に言はれないのだらう。百尺竿頭一歩を進めて露骨に云へば、俺の嬶に○○しようと思つた所を起されたのだらう』
与太彦『何を言ふのだ、あまり馬鹿にするない、腹が立つわ。これほど昵懇にして居るのに、俺の日頃の精神が、貴様は分らぬのか。エー残念な、腹立たしや、ソンナ事を言うと俺が死んだら化けて出てやるぞ』
弥次彦『腹が立つなら言はぬかい。俺と貴様の間柄ぢや、二人の仲に隔てや秘密があつては親友と云ふ事が出来ぬぢやないか、ナアもし宣伝使様、さうでせう、朋友といふものは互に相信じ、相助けるのが朋友の道でせう』
音彦『さやうぢや、互に打解けた間柄と云ふ者は気分の良いものですなア。与太サン、元来が夢だ、さう弥次サンの気を揉まさずに言つて上げなさい』
与太彦『アー仕方がない、宣伝使様のお言葉、首が千切れても、三日間は女房にだつて言はないのが夢の規則だけれど、天則を破つて一伍一什を展開いたしませう。……抑も夢の顛末といへば、古今に比類を絶したる大大吉祥瑞の大霊夢だ。一富士二鷹三茄子つて夢の中でも王さまだ。与太公が、何処だつたか、処は忘れたが、道を歩いて居ると立派な葬礼が通りました。葬礼の夢は何も彼も落着すると言つて、事が墓行に運ぶと云ふ事、それから芽出度い鷹の夢だ、ヤア立派な葬礼だなと見て居ると云うと、そこへパツパツパツと、飛行機の様にやつて来た結構なお方があるのだ。それは鷹が三匹与太公の前に下りて、与太公の顔を見ては一寸俯き、また上げては俯き、一生懸命にアヽ与太さまは立派な男だナアと言はぬ許りの顔をして見惚れて居ました。私も何だか気分が良いので、ジツとして鷹と睨みつくらをして居ると、どこからともなく一本の穂に五六升も実がなつた様な黍がそこヘバサと落ちて来た、一粒万倍と云つて数の殖える黍の夢だから、あの通り宝が殖えるのであらう。本当に気分の良い夢だらう、ナア弥次彦、コンナ夢は聖人君子でなければ、到底見る事は出来ないよ』
弥次彦『そら大変だ、貴様気を付けないといかぬぞ』
与太彦『大変だらう、本当に気を付けぬと、結構な夢の実現を、他人に横領されては、糠喜びになるからナ』
弥次彦『まだソンナ事を言つて居よる、葬礼に鷹三匹、黍といふぢやないか、その夢は大凶兆だ、災難の前提だ、獏に喰はせ獏に喰はせ』
与太彦『コンナ結構な夢を獏に喰はしてたまらうか、俺が食うのだ』
弥次彦『本当に大悪夢だよ、そうれ、三鷹、よい黍だ、アハヽヽ』
与太彦『エー言霊の悪い、詔り直せ詔り直せ』
音彦『ヤア、良いと言へば良い夢だ、悪いと言へば悪い夢だ。良い夢を見たと言つて、油断をすれば、吉変じて凶となり、悪い夢を見ても、心得やうに依つては、凶変じて吉となるものだ。マアマア油断大敵、得意の時には得てして禍の種を蒔くものだ。災厄に悩む時こそ却て喜悦の種を蒔く時だ。善悪不二、吉凶同根だ、ヤア各自に気を付けねばなりませぬワイ』
 斯かる所へ人馬の物音ザワザワと、数十人の黒い影、三人の前に迫り来たる。
『ヤアそこに臥せり居る三人の者は三五教の宣伝使の一行であらう、我こそはウラル教の大目付役、鷹掴の源五郎だ。此処へ来せたは汝が運の尽、サア尋常に手を廻せ』
弥次彦『それ見たか与太彦、貴様の精神が悪いから、碌でもない夢を見よつて、瞬く間に実現して来たぢやないか、コンナ夢ならモウ分配して不用ぬワイ』
与太彦『エー夢どころの話かい、大変だ。モシモシ宣伝使様、コラ一体全体どうなるのでせう』
音彦『アハヽヽヽ、夢の浮世だ、ウラル教の大目付役もやつぱり人間だ、一つ善言美詞の言霊を以て言向和しませう、………高天原に神留ります………』
源五郎『ヤアまがふ方なき三五教の宣伝使、ヤアヤア家来の者共、抜かるな、一度に飛びかかつて、取つ締めて了へ』
弥次彦『エー仕方がない、血路を開いて一目散に韋駄天走りだ、与太公続けツ』
と言ひながら、群がる群集の中に向つて、鉄拳を打振りながら、一目散に駆出した。猛虎の如き凄じき勢に、ウラル教の捕手は、パツと左右に分れた。二人は一生懸命に駆け出す。音彦はその後に悠々として、宣伝歌を歌ひながら進み行く。
源五郎『ヤアヤア部下の奴共、何と云ふ腰抜だ、向うは僅に三人、五十人も居ながら、取り逃すとは不届きな奴だ、どうしてウラル彦の神様に申訳をするのだ、愚図々々いたさず、俺に続いてやつて来い、今度は生命を的に進撃するのだ』
『ヤア御大将、責任はあなたにありますで、あなたの策戦計画が宜しきを得ないから、折角の敵を取逃がしたのだ。吾々はその日限りの傭人足だけの事より出来ませぬワイ。お前さまは、沢山な手当を貰つて御座るのだ、吾々の五十人振もお手当を貰つて居りながら、あた強欲な、みなの頭を張つて、栄耀栄華に暮して居るものだから、たーれも真剣に、阿呆らしくて生命がけの仕事が出来るものか、丈は丈、丈の働きだ。お前さまも丈の働きをしなさい。………オイ皆の奴、馬鹿気とるぢやないか、アンナ奴を追ひかけてでも行かうものなら、それこそ俺ばつかりの難儀ぢやない、一家親類兄弟は申すに及ばず、女房子供までが、どれだけ嘆く事だらう。阿呆らしい、目腐れ金を貰つて、この日の永いのに、朝から晩まで酷使はれて、おまけに夜業まで強制されて堪るものか。ノー皆の奴……』
乙『オーさうださうだ、なにほど大将が威張つた所で、石亀の地団駄だ、おつつかないワ、………モシモシ源五郎の親方、是から往けなら往きますが、ヤツパリ丈は丈ぢや、丈出して下さらぬか』
源五郎『現金な奴だナア、早く往つて手柄を致せ、滅多に使ひボカシは致さぬぞ。ソンナ勘定は後にして、危急存亡の場合だ、早く進まぬかし
丙『ヤア前賃を貰はなくちや、働く勢がないワイ、モシモシ大将、幾許出しますか』
源五郎『エー煩雑い奴だな、愚図々々して居ると、遠く逃去つて了うワイ』
丙『走るのが幾ら、掴まへるのが幾らですか、少々高くつても、つかまへるのはお断りしたいものですな』
源五郎『走つたつて、ナニ役に立つか、捕まへるのが目的だ』
丙『私も捕まへるのが目的だ、早く捕まへさしなさい。ドツサリと………何時も大将は、また後から後からと月並式に仰有るけれど、後はケロリと瘧が落ちた様な顔して何度催促しても歯切れのせぬ御返辞、ヌラリクラリと鰻でも掴むやうに、掴まへ所のないお方ぢや、私も確乎と掴まへた上でなければ、捕まへる事はマア措きませうかい。この睡たいのに、生命懸の仕事をしたつて、お前さまが沢山な褒美を貰つて、吾々は骨折損の草疲儲け、罷り違へば一つよりない生命を棒に振らねばならぬのだからナア』
源五郎『エー分らぬ奴ぢや、急場の間に合はないぞ、早く進まぬか、宣伝使が逃げてから、何ほど走つたつて仕方がないぞ』
甲『こちらが一足走れば向うも一足走る、どこまで往つたつてお月さまを追かけて行くやうなものだ。マアそれほど大将、急ぐには及びませぬワイ、「急がずば濡れざらましを旅人の、あとより霽るる野路の夕立」……やがて雨も霽れませう、あまり慌てるものぢやない、急いては事を仕損ずる、急かねば事が間に合はぬ、アーア彼方立てれば此方が立たぬ、此方立てれば彼方が立たぬ、両方立てれば身が立たぬ、何だか知らぬが、気乗りがせぬので、一向心が引立たぬ』
乙『モウ今頃には、大分に敵は遠く往つたであらう』
丙『ナーニ、さう遠くは行つては居まい、「君はまだ遠くは行かじ吾袖の、袂の涙かわき果てねば」まだ走つて来た汗も碌に乾く暇が無いのだから、さう五里も十里も行つて居る気遣はないワ、併しこれ丈距離があれば、何ほど走つても追付く気遣がないから大丈夫だよ』
源五郎『エー頭が廻らな尾がまはらぬ………コラ馬の奴、頭をこちらへ向けぬかい、尾も一緒に廻すのだぞ……ハイハイ……「カツカツ」……ヤア皆の奴、源五に続け』
甲『ヘン偉相に大将面をしよつて、源五に続けツ……何を吐しよるのだ、表向こそ貴様の乗つて居る痩馬の馬士ぢやないが、へーへー、ハイハイ言つて居れば、よい気になりよつて、源五の野郎、言語に絶する様な横柄な言葉を使つて居やがらア。吾々は素より三代相恩の主でもなければ、身内でもない、露骨に言へばアカの他人だ。エー仕方がない、伴いて行つたろか、是もやつぱり銭儲けだから………』
乙『馬から落ちて腰でも折りよると良いのだけれどナ、彼奴が免職したら、その後釜は此方さまだ、とも角頭がつかへて、吾々の栄達の路を封鎖して居るものだから、良い加減に交迭しても宜かり相なものだ……オイオイ皆の奴、仕方がない進め進め』
 源五郎は馬上より、後振り返り、
『ヤア皆の奴、何をグヅグヅして居るのか、足の弱い奴だな早く続かぬか』
丙『お前は四つ足、こちらは二本足だ、どう勘定しても半分より歩けないのは道理だ、こちらは一足そちらは二足だ、二足三文の腰抜大将、良い加減にスツテンコロリと引つくりかへつて落ちて了はぬかいナア』
 源五郎は烈火の如く憤り、馬の頭を立直し大勢の中に引つ返し来り大音声、
『ヤア貴様達は、今日に限つて主人の吾々に対して無礼千万な暴言を吐く奴、今日ただ今より暇を遣はすから、さう心得よ』
『ヤアご立腹御尤も、何時もコンナ事は、言つた事も思つた事もございませぬが今日に限つて何だか、腹の中から勝手にアンナ事を喋舌りよるのです。決して決して八や、六や、七の言うた事ぢやございませぬ、腹の中の副守護神の囁きですから、悪からず、神直日大直日に見直し聞直し、馬から落ちたら、また痩馬になつと乗り直し下さいませ……』
『ハテ合点の行かぬ事だ、貴様は三五教のやうな事を云ふ奴だナ』
甲『三五教の眷属が、吾々の口を藉つてご託宣遊ばすのだ……コリヤコリヤ源五郎、その方は今日より免職を言ひ渡す、その馬に八チヤンを乗せて、その方は馬の口取を致せ』
『ハテ、けつたいな事になつて来たワイ、何奴も此奴も、両手を組んで身体を揺つて居よる……ハハア此奴あ、神懸りになりよつたな。こりや堪らぬ、如何な珍事が突発するやも計り難し、君子は危きに近寄らず、敵の中にも味方あり、味方の中に大敵ありだ』
と無性矢鱈に馬に鞭ち、一生懸命に駆出した。馬は何に驚いたか、俄に前足を浮かして直立し、勢あまつて仰向にドサンと転倒した。源五郎は馬の背に押へられ、蛙をぶつつけた様に手足をビリビリと震はし、二声三声ウンウンと言つたぎり縡切れにけり。
八公『ヤアまるで蛙見たいなものだ、フン延びて居るワ、再び生蛙と云ふ気遣ひはないワ、アーア人間も斯うなると脆いものだナ、万物の霊長だナンテ威張散らして居つても、四つ足の背中に押へられて、ウンと一声この世の別れ、厭な冥途へ死出の旅、憐れなりける次第なりだ。………ヤア馬が空いた、サア是から俺が大将だ、皆の奴、この八大将に続いて来れ』
六公『続いて行かぬ事もないがやつぱり丈は丈ぢや』
八公『また神懸りになりよつたな、エー仕方がない、人を使へば苦を使ふ、自分一人これから走つて、あの宣伝使を捕まへねばなるまい』
と馬を乗り棄て、裸足の儘、尻ひつからげて、峠を目がけて駆出したり。
 話変つて音彦は弥次彦、与太彦と共に、爪先上りの坂路を避けて、右手に取り、原野の正中を韋駄天走りにトントンと、マラソン競争をやつて居た。ピタリと大河に行詰まつた。両岸は断巌絶壁に囲まれ、河幅の割には非常に深く、且急流にして、水音が囂々と轟いて居る。
音彦『アヽ此奴は大変だ、どこぞ橋がありさうなものだナア』
とキヨロキヨロと河の上流下流を眺めて見た。二三丁下手に当つて丸木橋が見える。
音彦『ヨー彼処に橋が架つて居るぞ』
と又もや三人はトントントンと走り出した。橋詰に来て見れば、一抱へもあらうと思ふ丸木橋が架々つて居る。三人は勢ひを立てて一散走りに無難に向ふ岸に渡り、敵の追跡を遮断するため、丸木橋を落して了つた。さうする間に、
『オーイオーイ』
と八公の一隊は遥の後方より呼んで居る。
弥次彦『アハヽヽ、モウ大丈夫だ、この橋さへ落しておけば、追つ付く気遣ひはない。マアゆつくりと、宣伝使様一服致しませうか』
音彦『宜からう、お前たちも足が草臥れただらう、三人此処でゆつくりと休息して、敵の襲来するのを見物しようかい』
『コリヤ面白い』
と三人は腰を芝草の上に、ドカリと下ろし、大船に乗つた様な心持になつて、身を横たへて居る。傍の雑草の茂みより、覆面した四五人の男ヌツト現はれ、
『サア貴様は三五教の宣伝使、吾等が計略の罠にかかつたのは、汝等が運の尽き、サア尋常に手を廻せ』
弥次彦『宣伝使様、神言を言つて下さいナ』
音彦『コンナ四足人間に神言を言つた所で、盲蛇に怖ぢずだ、勿体ないことを知らぬ奴に何を言つたつて駄目だ、三十六計の奥の手だ』
と云ひ乍ら又もやトントントンと駆出した。黒頭巾の大男は、一丁許り遅れて追跡して来る。ピタツと行当つた一棟の可なり大きな館がある、三人は矢庭に門を潜つて、中よりピシヤリと戸を閉め錠をおろし、奥へ進んで行く。見れば、かなり大きな土間があつて、七八人の荒男手に手に血の滴る出刄を携へ、何だか料理をして居る。
男『ヤアいい所へ椋鳥が飛んで来よつた、サア三人足らぬと思つて居た所、有難いものだ、都合の宜い時はコンナもの、ドーレ早速料理をやらうかい』
 その中の一人の男、一方の板戸に目を注ぎ、三人に向つて目配せした。音彦は合点だと板戸を押せば、苦もなくプリンと開いた。三人は矢庭に戸の内に駆込んだ。さうして中より鍵をかけて追跡を防ぎつつ、四辺を見れば、広き大道が通じて居る。
音彦『ヤア有難い、敵の中にも味方があるとはこの事だ、弥次サン、与太サン、私に続いてお出』
と一生懸命に駆出し、四五丁進めば、道の両側には、泥深き沼田が並んで居る。
『ヤア此奴は一筋道だ、進め進め』
と七八丁も先に進んだ。弥次彦、与太彦はどうした機か沼田の中に落ち込み、着物も何にも泥まぶれになり、重たくて身動きが出来ぬ、已むを得ず二人は真裸となる。向ふの方より色の黒い背の高い、顔の尖つた男一人現はれ来り、三人の姿をジロジロと見まはして居る。
音彦『ヤアお前はウラル教の目付だらう、邪魔ひろぐと為にはならぬぞ』
 男は厭らしき笑顔し乍ら、
『モウ斯うなつては駄目だよ、観念したがよからう』
 後を振返り見れば数十人の捕手、突棒、叉股、手鎗を提げ、一筋道を追ひかけ来る。この間の距離わづかに四五丁許りである。音彦は二人の裸と共に、目付の男を沼田の中に押込みながら、爪先上りの一間巾位の道をトントントンと駆出した。俄に嶮しい坂路になつて来た。一丁許り進んで息も切れむとする時、又もや三人の男現はれ来たり、
『ヤア待つて居た良い所へ来た、俺はウラル教の目付役だぞ』
音彦『ナンダ、ウラル教の目付役とな、ゴテゴテ吐すと為にならぬぞ、スツコメ スツコメ』
目付『此処はどこだと考へて居る、小鹿峠の四十八坂の一つだ。これから先へ行けば行く程、路は峻しくなつて来る、ウラル教の目付は数百人、手具脛ひいて貴様を待つて居るのだ、あれ見よ、後からは沢山の捕手があの通りやつて来る、先には沢山待構へて居る、グヅグヅ致すより、態よく俺に降参致して、吾等の手柄にさして呉れ、冥途の土産だ、キツト極楽へ陥落するだらう』
音彦『エー面倒だ、モウ斯うなつては善言美詞もあつたものぢやない、一つ大法螺を吹いて驚かしてやらう………この方こそは閻魔の庁より現はれ出でたる艮彦の大神だぞ、失敬千万な、三五教の宣伝使とは、何と云ふ見当違な事を申す、この方が一つ四股を踏めば、小鹿峠は瞬く間にガラガラガラ、左の足をドンと踏み鳴らせば、貴様の様な端下人足は千人万人一度に風に木の葉の散る如く、中天に舞上り、バラバラバラ、泥田の中にズツテンドウと真つ逆様だ』
弥次彦『天から降つた神の弥次彦さまだ、裸百貫と地上の奴は吐せども、俺の力は百万貫だ、二人合して二百万貫、サアどうぢや、右の足で四股を踏まうか、左の足で踏まうか踏んだが最後、小鹿峠は岩で卵を砕くやうにガラガラとも、メチヤメチヤとも言はず、ピシヤリと葱のやうに平茶張つて了うぞ、それでも貴様は合点か』
目付『ヤアヤア大変な豪傑が来よつたものだ、オイオイじつとしたじつとした、足を動かすな、歩くのなら、さし足だ、ぬき足だ』
弥次彦『一つ四股を踏だらうか』
音彦『ヤア待つた待つた、危ないぞ危ないぞ、後がないぞ後がないぞ、ハツケヨイヤ、ハー』
弥次彦『アハヽヽヽ、日の下開山蛇塚蛇五左衛門、横綱張つた摩利支天の再来だ、ア仕方がない、貴様を助けるためにソーツと歩いて行つてやらう、有難く思へ……』
と三人は態と、ノソリノソリと登つて行く。前方よりは数百の人数、手に手に柄物を携へ下つて来る。後方よりは又もや数十人の捕手刻々に近付いて来る。一方は屏風を立てた様な岩壁、一方は千仭の谷間、進退維れ谷まり、逃げるにも逃げられず、
『エー仕方がない、モウ斯うなる上は、破れ被れだ。サア来い勝負』
と三人一度に拳骨を固め、捕手の中に暴れ込んで当るを幸ひ擲り立てる。数多の捕手は群り来つて、今や三人を捕へむとする時、三人逃路を失ひ、一二三つの声諸共、決死の覚悟で谷間を目がけて飛込みたり…その途端に驚いて目を開けば、瑞月は高熊山の巌窟に横たはり居たり。二月十五日の太陽は煌々として中天に輝き渡りける。
(大正一一・三・二一 旧二・二三 松村真澄録)
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【霊界物語誕生百周年】
大正10年(1921年)10月18日に王仁三郎が霊界物語の著述を開始してから
令和3年(2021年)10月18日で百年目を迎えます。
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