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文献名1霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻
文献名2第4篇 神行霊歩
文献名3第19章 第一天国〔586〕
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ神素盞嗚大神は、西蔵を越えてフサの国を打ち渡り、ウブスナ山の山頂に隠れ家を定めて、密かに神徳を現していた。
瑞霊の元津祖・豊国姫神の分霊である言霊別命は、国祖御退隠の際に幽界にて少彦名神となっていたが、神素盞嗚大神が漂泊の旅に出たと聞き、貧しい身分の人の腹を借りて、再びこの世に現れて、言依別命となった。
玉彦、厳彦、楠彦は言依別命の供となり、月の国を越えてフサの国の都・タールへと着いた。タールの都では、吾勝命が日の出別神と現れて、神政を敷いていた。言依別命一行は日の出別神に面会し、神素盞嗚大神の隠れ家を教えられ、喜び勇んで河鹿峠を越えていった。
神素盞嗚大神はウブスナ山の山頂、斎苑の高原に宮殿を構え、八十猛神に守らせた。自らは千種万様に御姿を変じ、変幻出没して御国を守らせつつあった。
斎苑の館に至るためには、河鹿峠を越えていくのが順路である。言依別命一行は、急坂を駒にまたがって進んで行く折、突風に煽られて谷底に転落してしまった。
と思う間に、一行はとある風景のよい高山の麓に降ろされていた。一行は、ここは天国ではなかろうかと不思議に思っていると、天の磐船が降りてきた。中から八人の童子神が現れると、大神の命であるとして言依別命一人を招きいれ、行ってしまった。
残された玉彦、厳彦、楠彦は、足の続く限り進んで行くこととした。途中、美しい河につかって禊をすると、三人の衣服は、鮮花色に変じた。
すると向こうから、多数の奇妙な鳥を連れた男がやってきた。男は、言依別命の命により、三人を迎えに高天原からやってきたという。男は言代別神・松彦と名乗った。
松彦は鳥たちを辺りに放すと、三人を案内して進んで行った。すると、鏡のように輝く岸壁に行き当たった。ここは鏡の岩と言い、三人が降り立った第二天国の終点にあたるという。鏡の岩を越えなければ、第一天国に入れない関門であるという。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月04日(旧03月08日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所
OBC rm1519
本文の文字数7767
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本文  久方の高天原の岩窟も  開けてここに天地の
 百の神達勇み立ち  あな面白やあなさやけおけ
 天の数歌賑はしく  言葉の花の開け口
 常夜の闇は晴れぬれど  まだ晴れやらぬ胸の内
 神素盞嗚の大神は  天地百の神人の
 百千万の罪咎を  御身一つに贖ひつ
 情なき嵐の吹くままに  千座の置戸を負ひ給ひ
 高天原を後にして  天の真名井を打渡り
 唐土山や韓の原  印度の国をば打過ぎて
 秘密の国と聞えたる  高山四方に繞らせる
 由緒も深き西蔵の  山野村々悉く
 太き御稜威を輝かし  猶も進みてフサの国
 タールの都を打過ぎて  雲を圧して聳り立つ
 百の山々此処彼処  ウブスナ山の山脈に
 かかる手前の河鹿山  世の荒風に揉まれつつ
 足もいそいそ上りまし  ウブスナ山の山の上に
 四方の景色の美はしき  清き所を選みつつ
 八尋の殿を建て給ひ  千代の住家と定めつつ
 此世を忍ぶ佗住居  黒雲四方に叢がりて
 黒白も分かぬ世の中に  神の稜威もいや高く
 ひそかに四方を照します  その神徳を慕ひつつ
 忍び忍びに遠近の  山の尾の上や川の瀬に
 現れます正しき神人は  吾も吾もと争ひつ
 尋ね来ますぞ尊けれ。
 瑞霊の元津祖、豊国姫の神の分霊、昔は聖地エルサレムに幸魂の神として現はれ給へる言霊別命は、国治立の大神の御退隠に先立ち、千座の置戸を負ひて、一旦幽界に出でまし少名彦の神と改めて、常世の国を永久に守り給ひけるが、瑞霊の本津祖、神素盞嗚の大神の、高天原を退はれて、豊葦原の国々を、心寂しき漂泊の、旅路に上らせ給ひしと、聞くより心も安からず、再び此世に現はれて、賤しき人の腹を籍り、言依別命となり、森鷹彦の霊の流裔、玉彦を御伴の神と定めつつ、常世の国を厳彦や、世人を救ふ楠彦の、三人の神を従へて、波路遥かに太平の、海を渡りて月の国、フルの港に上陸し、印度の御国を乗り越えて、歩みに悩むフサの国、タールの都に出で給ふ。
 吾勝命は、フサの国の首府タールの都に、日の出別神と現はれて、神政を執り行はせ給ひつつありき。言依別命はタールの都の日の出別神に面会し、神素盞嗚の大神のお隠宅を教へられ、喜び勇んで、玉彦、厳彦、楠彦と共に駒に跨り、河鹿峠を越えさせ給ふ。意外の峻坂難路に、流石の駿馬も進みかね、幾度となく駒の転倒せむとする危険を冒して、徐々と山頂目がけて進ませ給ふ。
 この地一帯の山脈は、風烈しく、寒熱不順にして、百の草木の生育悪しく、見渡す限り屹立せる岩山、禿山、此処彼処に起伏し、眺望としては天下の絶景なり。
 神素盞嗚の大神は、ウブスナ山脈の頂上斎苑の高原に宮殿を造り、四方の神人を言向和し給はむと、千種万様に御姿を変じ、此宮殿を本拠と定め、八十猛神をして固く守らしめ、自らは表面罪人の名を負ひ給ひて、大八洲国に蟠まる大蛇、悪鬼、醜の神々を根絶せむと心を砕き身を苦しめ、変幻出没極まり無く、斯くして御国を守らせ玉ひつつありき。言依別命は尊に拝謁し大御心を慰めむと、尊を思ふ真心より遥々此処に百千万の艱苦を冒し、訪ね来り給ひける。河鹿峠を乗り越えて再び平野を渉り、ウブスナ山脈に掛るが順路なり。言依別の一行は、板を立てたる如き急坂を駒に跨り四人連、ハイ、ハイハイと手綱引締め下らせ給ふ折柄に、俄に吹来るレコード破りの山嵐に煽られて、馬諸共に河鹿峠の千仭の谷間に、脆くも墜落し給ひ、数多の傷を負はせ給ひ、茲に一行四人連、河鹿峠の谷底に、痛手に悩み坤吟し給ふこそ果敢なけれ。
 此谷間は河鹿の名所なり。河鹿の声は遠近に床しく、恰も金鈴を振るが如く、琴を弾ずるが如く、美妙の音楽を天人天女の来りて奏づるかと疑ふ許りの雅趣に充ち居るなり。言依別一行は谷水を掬ひ、河鹿の声を聞き乍ら、心ゆく迄渇きし喉を癒やさむとガブガブ嚥下し給へば、何時とはなしに玉の緒の行衛は何処と白浪の谷の水音諸共に、河鹿の声に送られて消え失せ給ふぞ悲しけれ。
 夢とも分かず、現とも弁へ兼ねし旅の空、言依別命の一行は、涼しき河鹿の声に送られて夢路を辿る心持、風に吹かるる木の葉の如く、地を離れて中空を五色の雲に包まれつ、東を指して風のまにまに出で給ふ。
 とある高山の麓の風景最も佳き大河の辺に、一行の姿は何時の間にか下ろされ居たり。
言依別『オー玉彦、神素盞嗚の大神の御舎は、どの方面に当らうかなア。此処は河鹿峠の山麓、河鹿河の岸辺と見える。暴風に吹捲られ、吾等は脆くも此山麓に吹散らされ、何となく一種不可思議な心持になつて来たが、汝等はどう考へるか』
玉彦『仰の如く河鹿峠の烈風に煽られ、千尋の谷間へ転落せしと思ふ間もなく、風に木の葉の散る如き心地し、フワリフワリと魂は飛んで大空高く東を指して進み来りしよと見る間に、不思議や吾等一行の身は、名も知れぬ山の麓の風光明媚の河縁に進んで来たのです。吾々が熟ら考へまするに、此処は決して河鹿峠の谷間ではありますまい、自転倒島の中心点の様に思はれます』
厳彦『さうだ、玉彦の言ふ通り合点の行かぬ四辺の光景、現界とは様子が大変に違つて居る様だ、大方此処は天国ではあるまいかいなア』
楠彦『たしかに天国に間違ありませぬ、迦陵頻迦の数限りもなく、アレあの通に舞狂ふ有様、吹き来る風は美妙の音楽を奏し、空気は何となく香ばしく梅花の香りを交へ、見るもの聞く物一として快感を与へないものは御座いませぬ。……もしもし言依別命様、御案じなさいますな、あなたの真心を大神は御見ぬき遊ばして、斯かる天国に導き下さつたのでせう』
と語る折しも、天空を轟かして一道の光明と共に天の磐船に乗りて此場に下り来る神人あり。天の磐船は静に一行が前に舞下りぬ。金銀珠玉、瑠璃、硨磲、瑪瑙、真珠、珊瑚等を以て飾られたる立派なる御船なりき。翼を見れば絹でもなければ、毛でもない、一種異様の柔かき且強き織物にて造られてあり。手を伸べて此翼をスウツと撫でる刹那に、得も言はれぬ美妙の音響が発するなり。玉彦は右左に翼に張り詰めたる織物を撫で廻せば、精巧なる蓄音機の円板の如く、種々の美はしき音響聞え来る。此時磐船の中より現はれ出でたる八人の童子、頭髪は赤くして長く、肩のあたりに小さき翼あり、歯は濡烏の如く黒く染め、紅の唇、緑滴る眼容、桃色の頬に無限の笑を湛へ乍ら、五六才と覚しき童子、言依別命の前に現はれ来り、細き涼しき声にて、
『貴下は瑞霊の分霊、常世の国に生れましし言依別命にましまさずや、吾は高天原より大神の命を奉じ、お迎へに来りし者、サ、サ、早くこの船に召させ給へ』
と言葉を低うし、礼を厚くして述べ立つるにぞ、命は何気なく此美はしき船に心を奪はれ、ツカツカと側に近付き給ふよと見る間に、磐船の傍に装置せる美はしき翼、命の身体を包みて御船の中に入れ奉りけり。忽ち美妙の音響轟き渡ると見る間に、磐船は地上を離れ、ゆるやかに円を描きつつ空中に上り行く。三人は突然の此出来事に呆然として空を見上ぐるのみなりき。磐船は空中高く舞上り、船首を転じ、中空に帯の如き火線を印し乍ら、月の光を目当に悠々と進み、遂には其姿も全く目に止らずなりにけり。
玉彦『常世の国から遥々と、塩の八百路を渡り、あらゆる艱難と戦ひ、雨風に曝され、汗と涙でフサの都に到着し、日の出別の神様のお情深いお詞に、旅の疲れもスツカリ忘れ果て、河鹿峠の絶頂に辿り着いて四方の風景を眺めた時の愉快さは、何ともかとも譬へ方がなかつた。それより板壁の如き峻坂を駒に跨つて下つた時の心持は、全然地獄道の一足飛でもする様な煩悶と驚異に充たされ、心の中に神言を奏上し、やがて慕ひ奉る神素盞嗚尊様に拝謁が得られる事だと、一歩一歩苦痛を忘れ楽しみ進む折しも、俄に吹き来る山嵐に煽られ、身は千仭の谷間に落ちて粉砕したと思へば、豈図らむや通力自在の空中飛行、心イソイソ風雲に任す折しも、思ひきや、斯かる美はしき川べりに下ろされた。どう考へても此処は現界ではあるまい、ヤレ嬉しやと思ふ間もなく、力に思ふ言依別命は、神の迎への船に乗りて、中空高く月の御国へ御上り遊ばした時の嬉しき、悲しき、非喜交々混る吾等が胸の中、アヽどうしたら宜からうか』
厳彦『何事も神のまにまにお任せするより仕方がない、言依別命様は荘厳極まりなき天国に上られ、大神の右に座し、地上の経綸を言問はせ給ふお役と見える。吾々は最早言依別命様の事は断念して、足の続く限り進まうではないか、ナア楠彦サン』
楠彦『左様で御座います、それにつけても、何とした気分の良い所でせう。何だか気がイソイソとして腰を下ろして休む気にもなりませぬ、サア早く前進致しませう』
と先に立ちて歩み出した。浅き広き大河は水晶の水ゆるやかに流れて居る。三人は、
『アヽナント綺麗な水だナア、是れが生命の真清水であらう。……どうでせう、一杯手に掬つて頂きませうか。身体の各所に沢山の、各自傷を負うて居ますれば、あの河中に浸つて見れば、この疼痛も癒えるかも知れませぬぜ』
と堤をゆるゆる下り、真裸となつて河にザンブと飛込んだ。清き流れの河水は、河底の金銀色の砂利、日光に映じてきらめき亘る其美はしさ、三人は河の中央にどつかと坐つた。深さは坐つて乳の辺りまでよりない。水の流れは緩やかに、冷からず、ぬるからず、水は名香を薫ずるが如く、味は甘露の如く、身体の傷は忽ち癒えて、肌は紫摩黄金の色と変じ、荒くれ男の肉体は淡雪の如く柔かく、光を放つに至つた。三人は暫くにして此川を上り、衣服を着替へむとした。不思議や三人の衣服は得も言はれぬ鮮花色に変じて居る。
玉彦『ヤア何時の間にか吾輩の御着衣を失敬しよつたな』
と其処をウロウロと探して居る。
楠彦『オー此処に綺麗な衣服が脱いである。恰度三組だ、これを着服したらどうだらうなア』
厳彦『ヤア止け止け、是れは天人の羽衣だ。ウツカリコンナ物を着やうものなら、それこそ折角の天国へ来た喜悦は忽ち変じて地獄道の苦みに早替りするかも知れない、……エ何事も惟神に任せて裸のまま進む事にせう。風暖かく、肌具合は良し、此儘に進まうではないか』
玉彦『ヨー此着物には、何だか印が附いて居るぞ』
と手に取上げ眺むれば、玉彦の衣と印してある。
玉彦『ヤア此れは妙だ、何時の間にか、吾輩の汗に滲んだ衣裳と、コンナ新しい美はしい衣裳と交換した奴があると見えるワイ、……ヨウヨウ是れには、楠彦、厳彦と印してある、……吁、天国の泥棒は変つた者だなア、サツパリ娑婆とは逆様だ。娑婆に居る時には、自分の履き古した足駄と他人の新しい足駄と、黙つて交換する奴許りだが、天国は又趣が違うワイ』
厳彦『そら、そうだらうよ、天国にはコンナ汚い物は珍らしいから、高天原の徴古館へでも飾る積りで、吾々が河中に現をぬかしてる間に、泥棒が取つ換へこを仕よつたのだらう、本当に油断のならぬ世の中だ。天国へ来てもやつぱり元は人間の霊が来るのだから、泥棒根性は失せぬと見えるワイ、アハヽヽヽ』
楠彦『ヤアナント軽い着物だナア、此れを着ると、体も軽くなつて、天へでも自然に舞上りさうだ。身軽になつたのは、気分の好いものだなア』
玉彦『定まつた事だよ、幽霊の体は軽いものだ。此美はしい着物を着たが最後、現世の衣を脱いで、神界の羽衣と着替へたのだから、再び恋しき娑婆へ帰れない事は請合だ』
厳彦『娑婆だつて、神界だつて構はぬぢやないか、兎も角、神様の為に働ける丈働けば、吾々は人生の本分が尽せるのだ。サアサア行かう、……ヤア体も足も滅法界に軽くなつた。アア気分も何となく、爽々として来た。神言を奏上し乍ら、往く所まで行かうかい』
と厳彦は先に立つて進み出した。前方より頭髪漆の如く黒く、光沢豊に、身の丈は六尺許り眉目清秀の一神人、数多の美はしき鳥を数百羽引きつれ、金の杖を持つて指揮し乍ら此方に向つて進み来る。
玉彦『ヤ、何ンと綺麗な鳥が居るではないか、到底現界では、見られない、美はしいものだ』
 かく言ふ中、件の男は一足一足近付き、三人を見て、
『ヤアあなたは高天原へ御参詣ですか』
と笑顔を以て、言葉優しく問ひかけた。
 三人は声を揃へて、
『ハイ、不思議の事で、吾々は斯様な立派な国へ思はず参りました。高天原は何方を指して行けば宜しいでせうか』
男『マア急ぐ旅でもなし、この美はしい草の上で、皆サンゆつくりと休息を致しませうか、吾々は言依別の命様の命に依り、あなた方三人の方をお迎へに参りました』
玉彦『エー、ナント仰有います、言依別命様は、最早高天原へお着きになりましたか、それやマアどうした事で、そう早くお着きになつたでせう……ハテ……合点の行かぬ事だワイ』
男『神界には時間空間は有りませぬ、仮令幾億万里と雖も、一息の間に往復が出来ます、それが即ち神界の特長で御座いませう。アハヽヽヽ』
 茲に四人は美はしき花毛氈を敷き詰めた様な河辺の芝生に腰うち掛け、脚を伸ばして種々の話に耽るのであつた。風は音調淑やかなる笛を吹いて、河の面をよぎつて居る。魚鱗の波は金色の光を放ち、風に連れて河下より河上に流れ行く様に見えて居る。数多の美はしき鳥を熟視すれば、人の顔に翼の生えたかつかう鳥の様なものばかり、妙な声を出して呟き出した。
厳彦『モシモシ神界と云ふ所は、総の物が変つて居ますな、此鳥は又何として人間に似て居るのでせうか』
男『イヤ是れは人鳥と言ひます、高天原の玩弄物になつたり、或はお使をするものですが、もとはヤハリ現界に居つて、高い所へ上つて訳の分らぬことを囀り、バカセだとか、何とか云ふ保護色や、長い嘴を使つて人間の頭をこついた報いで、コンナ者に変化して了つたのですよ、今年も殆ど三千八百羽幽界から輸入して来ました。みな言語は明瞭ではありませぬが、各自に小賢しい事を喋る怪鳥ですよ』
厳彦『そうすると是れは神界、天国の産物ではありませぬか』
男『無論の事、コンナ畸形児的鳥類は、神界には一羽も有りませぬ。此れは要するに閻魔の庁より、高天原には珍らしいと云つて、神界のお慰みの為に、輸入されたものです、言はば、舶来ですな。アハヽヽヽ』
厳彦『兎も角も妙なものだ、此奴等は娑婆に居る時には、自由恋愛だとか、共和だとか、民衆だとか何とか言つて、沢山な娑婆の亡者を煽動した何々長とか云ふ怪鳥でせう。併し此綺麗な天国浄土に糞をひりさがされては、又もや娑婆の様になりはしますまいかなア』
男『イヤ大丈夫です、此奴の尻は最早糞詰りですから……娑婆に居る時には、何事も知つて知つて尻抜いた様な事を言つて、長い嘴を振りまはし、囀つては喰つて居ましたが、モウ娑婆でも此嘴が間に合はなくなつて口は詰り、尻は塞がり、行詰りの悲境に陥つてる代物です。娑婆でもあまり喰へないので、糞をこく種もなし、清潔なものですよ』
厳彦『ソンナ話を聞くと、吾々も生物識の聞噛じり学問をやつて来たが、コンナ事になると思へば、ガツクリして胸も学々致しますワ、アハヽヽヽ』
玉彦『一寸此鳥に物言はして見て下さいな』
男『ナンダか言語が通じ難いから、聞取れますまい、此奴は金鳥と云ひ、此奴は銀鳥と云ひます。娑婆で、椅子とか云ふ木に巣を作り、月給々々と鳴いたり、ホーホー俸給々々と囀つて居つた鳥ださうです。此天国へ輸入されてからと云ふものは、何だか鼠の病人の様にキウ窮と囀つて居ます』
 数多の人鳥は、キウ窮、クウ苦々と鳴き乍ら、家鴨の様に河にバサバサと飛び込み心地よげにかいつぶりの真似をして、浮きつ沈みつ戯れて居る。
楠彦『ナント天国も変つたものですな、迦陵頻迦の名鳥が沢山居ると聞きましたが、其様な鳥は余り見当らないぢやありませぬか』
男『其鳥は高天原を中心として、十里四方の区域に限つて住んで居ます。此辺は要するに準天国と云つても宜い様な所ですよ、まだまだ此先へお進みになれば、立派な所があります。……私はウツカリとネームを申上げるのを忘れて居ましたが、実は高天原の使松彦と申す者、昔はヱルサレムに於て、言霊別命にお仕へ致した事のある言代別で御座います』
楠彦『ヤア昔語に聞いて居つた言代別はあなたの事ですか、ヤアこれはこれは妙な所でお目に掛かりました』
松彦『然らば御案内致しませう』
と先に立つて行かむとする。
玉彦『もしもし松彦様、あの沢山な鳥は、連れてお帰りになりませぬか』
松彦『折角閻魔の庁より輸入されたものですが、十里四方の内には置く事が出来ないと大神様の厳命に依りて、十里圏外に送り出して来ました。……あの様な鳥族には少しも執着心はありませぬ、どうなつと勝手に方針を立てるでせう』
と足をはづませ、飛鳥の如くに進み行く。三人も何となく足許軽く、飛び立つ如くに追跡する。一時許り歩いたと思ふ頃、ピタリと岸壁に行当つた。此岩は鏡の岩と云つて、浄玻璃の鏡の如くに光り輝き、日光鏡面に映じて、得も云はれぬ美はしさ、一行の姿は鏡に隈なく映つた。見れば自分の背後に五色の霊衣現はれ、優美にして、気品高き女神が現はれて居る。三人は思はず合掌した。
松彦『此処が鏡の岩です。大抵の者は此処へ来りて、後へ引返す者が多いですよ。天国にも上中下と三段の区劃があります。此鏡を無事に通過すれば、最上の天国です。此鏡さへ突破すれば、モウ占めたものです』
玉彦『アー、それは有難う御座いました。併し乍ら吾々は、第二の天国を何時の間に通過したのですか、まさか途中で天国の移転と云ふ様な事もありますまいが……』
松彦『あなた方は、言依別命様のお蔭に依りて、第三の天国は抜きにし、第二の天国へ直接お下りになつたのです。夫れも第二天国の殆ど終点ですから、大したものですお喜びなさいませ』
三人『身分に過ぎたる有難き神様の御待遇、恐縮の至りだ、………此鏡岩をどうして突破すれば可いでせうか』
松彦『是より以内は宮の内、此鏡岩は外囲です、これを突破しなくては、最上天国へ進む事は出来ませぬ。神界に於ても、斯う云ふ一つの苦しみがありますワイ。吾々は幾度も此処を往復致して居りますから、勝手も分つて居りますが、あなた方は始めての事各自に心をお開きになれば、自然に此鏡岩の通過が叶ひます。神界の厳しき警告に依りて、此事ばかりは御教へ申す事は出来ませぬ、是れが神界の関門、霊の試金石ですよ』
 三人は、
『ハテナア』
と双手を組み、首を項低る。
(大正一一・四・四 旧三・八 松村真澄録)
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