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文献名1霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻
文献名2第1篇 弥仙の神山
文献名3第1章 春野の旅〔629〕
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ紅包む弥生の空に朧に月がかかる。和知の里の小路をとぼとぼと、悦子姫、音彦、加米彦、夏彦らの宣伝使一行が歩いてくる。
向こうから二人連れがやってきて、宣伝使たちの方を見ながらひそひそとささやきつつ眺めていた。これは英子姫と亀彦であった。
一行は邂逅し、芝生の上に座って、これまで宣伝の旅の経緯を語り合った。
英子姫は、弥仙山に父神・神素盞嗚大神の神務を帯びて登ったというが、その内容については明かさなかった。悦子姫一行は、英子姫に勧められて弥仙山に登ることとし、英子姫と亀彦に別れを告げた。
険しい弥仙山を登っていく折りしも、加米彦と夏彦は軽口をたたいている。
途中で、一人の爺に声をかけられ、家によって神様の話をするように懇願される。聞けば、以前にここを通った英子姫一行が、後から来る宣伝使に神の道を聞け、と諭したのだという。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月24日(旧03月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所
OBC rm1801
本文の文字数10266
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本文  風暖かく八重霞  春日と伯母はクレさうで
 クレナイに包む弥生空  朧の月は中天に
 照らず曇らずボンヤリと  かかる山家の夕まぐれ
 川の流れは淙々と  轟き渡る和知の里
 空を封じて立並ぶ  老樹の下の小径を
 トボトボ来る宣伝使  神の教をどこまでも
 伝へにや山家の肥後の橋  月の光を力とし
 神の恵を杖となし  烏は眠る鷹栖の
 川辺の里に進み来る  顔も容も悦子姫
 水の流れの音彦や  やがては来る夏彦の
 九十九曲りの山路を  曲つた腰のトボトボと
 這はぬばかりに加米彦が  草鞋に足を擦り乍ら
 神子坂橋の袂まで  来る折しも向ふより
 スタスタ来る二人連れ  何かヒソヒソ囁きつ
 夜目に透かして一行を  心有りげに眺めゐる。
『モシモシ、一寸お尋ね致します。最前から承はれば、路々宣伝歌を謡ひつつお出になつた様で御座いますが、若しやあなたは、三五教の宣伝使様では御座いますまいか』
 加米彦は、
『ヤアさう仰有るあなたは、何だか聞覚えのあるやうな感じが致します。朧夜の事とてハツキリお顔は分りませぬが、どなたで御座いましたかなア』
『私は三五教の宣伝使亀彦と申す者、今一人の方は素盞嗚尊様のお娘子英子姫と云ふ方で御座います』
『アヽお懐しや、英子姫様で御座いましたか、妾は悦子で厶ります。好い所でお目にかかりました。妾は剣尖山の麓に於てお別れ申しましてより、真奈井ケ原の貴の宝座を拝礼致し、それより三岳の岩窟を言向和し、鬼熊別の割拠する鬼ケ城山の岩窟を、四五の同志と共に言霊を以て包囲攻撃致し、それから生野、長田野を越え、神知地山の魔神を征服し、高城山に立向ひ、再び道を転じ、和知の流れに沿うて聖地に引返し、あなた様に御目にかかり、今後の妾等が取るべき方法を、御相談申上げたいと思ひまして、遥々夜を冒し、此処まで参りました』
英子姫は喜び乍ら、
『アヽ左様ですか、妾は其方に別れてより、神様の命に依り、弥仙の深山に、或使命を帯びて登山し、今又父大神の神霊のお告に依りて、亀彦を伴ひ、伊吹山に参る途中で御座います。アヽ好い所でお目にかかりました。お連れの方は何方か存じませぬが、何れ三五教の方でせう。此川音を聞き乍ら、出会うたを幸ひ悠くりと休息致しませう』
『それは願うてもないこと。妾もどこか良い所があれば一休み致したいと思うて居ました。……此方は音彦加米彦の宣伝使、一人はウラナイ教に暫く入信して居た夏彦と云ふ男で御座います』
『私は亀彦です。貴下は由良の湊の人子の司、秋山彦の門前に於てお目にかかつた加米彦さまですか、コレハコレハ妙な所でお目にかかりました。又音彦さまとは、フサの国でお別れ致しました私の旧友ぢやありませぬか』
『左様その音彦で御座いますよ』
『遥々と此自転倒島へお越しになつたのは、何か深い仔細が御座いませう』
『これに就いては、種々珍談も御座いまするが、ユルリと後から申上げませう。サアサア皆さま、打揃うて此芝生の上で骨休めを致しませうかい』
『宜しからう』
と一同は老樹の蔭に打解け、手足を延ばして休息したり。
 茲に六人の宣伝使  六つの花散る冬も過ぎ
 風に散り布く山桜  香りを浴びて来し方の
 百の話に花咲かせ  思はず時を移しける。
『モシ英子姫様、最前あなたの御言葉に依れば、弥仙山へ神務を帯びて御登山になつたと仰せられましたなア。音彦も一度其霊山へ、是非登山致したいと存じて居ます。随分嶮岨な所でせうなア』
『お察しの通り、実に嶮峻な深山で御座います。昼猶暗く、鬱蒼たる老樹天を封じ、到底日月の光は拝む事は出来ませぬ。併し乍ら、貴方方は登山なされますならば、大変都合の好い事が御座います。妾は父の神勅に依りて、一つの経綸を行うて置きました。どうぞあなた方一度行つて下さいませ』
『其御経綸とは、如何なる御用で御座いました。予め仰有つて下さいませぬか。音彦も其覚悟を致さねばなりませぬ』
『只今申上げずとも、お出になれば、……ハハア之であつたかなア……と自然にお判りになりませう。先楽しみに、此お話は暫く保留して置きませう』
加米彦『エー英子姫様さう出し惜みをなさるものぢやない、アツサリと云つて下さいナ』
英子姫『イエイエ宣伝使の言葉に二言は御座いませぬ。一旦申上げぬと云つた事は、金輪際口外する事は出来ませぬ』
『あなた様は綺麗な女神にも似ず、随分愛嬌のない事を仰有いますなア。初めて加米の御願ひしたことを、直様お聞き容れ下されず、クルツプ式砲弾を発射し、加米等の欲求を撃退なされますか。シテ、あなたは愛嬌の定義を知つて居ますか』
『イヤもう おむつかしい議論を吹つかけられますこと。マアマアぼつぼつと御登山なされませ。それはそれはアツと言ふ様な仕組がして御座いますワ』
『何だか諄々として詭弁を弄するお姫さまだナア。キベン万丈加米当る可からずだ、アハヽヽヽ』
『コレコレ加米彦さま、さうヅケヅケと無遠慮に物を仰有るものでない。チトたしなみなさらぬか』
『ハイハイたしなみませうよ、悦子さま。無礼ぢやとか、謙遜ぢやとか、遠慮ぢやとか、たしなみぢやとか、種々の雅号が沢山有つて、取捨選択に殆ど閉口頓死致します』
 音彦は顔をシカメ、
『エー縁起の悪い。閉口頓死なぞと、せうもない事を言ふものでない。お前達は哲学とか道学とか云ふ親不孝、不作法の学問をかぢつて居るから、仕末にをへない、マアマア英子姫様の仰有る通りハイハイと温順しくして居れば良いのだ。吾々六人の中では、最もお偉い方だ、言はば吾々のお師匠様だ。師の影は六尺下つても踏むなと云ふ位だ』
『あなたも縁起の悪い事を言ひますネ。加米が閉口頓首と云つた事を咎め乍ら、あなたは死の影がどうの斯うのつて、夫れこそ自縄自縛ぢやありませぬか』
 音彦は吹き出し、
『ハヽヽヽ、訳の分らぬ団子理屈を能く捏ねる男だなア』
『お前こそ団子理屈だ。吾々のは餅理屈だ。蚋が餅搗きや加米彦が捏ねる、ポンポンと音彦がすると云ふぢやないか、アハヽヽヽ』
 亀彦は立ち上がり、
『サア皆さま、何時まで御話を致して居つても際限が有りませぬ。冗談から暇が出る、瓢箪から駒が出る。駒に鞭打ち、一日も早く目的地へ向つて発足致しませう。ナア英子姫様……』
『折角お目にかかつて嬉しいと思へば、神界の御命令、止むにやまれませぬ。英子も直様お別れ致しませう。皆様左様なら、何れ又お目にかかる機会が御座いませう』
と会釈し、早くも歩み出したり。
 悦子姫は会釈しながら、
『左様ならば、姫様、ご機嫌よくお出で下さいませ。亀彦様、御如才は御座いますまいが、どうぞ姫様の御身辺に注意を払つて下さいませやア』
『亀彦、委細承知仕りました。必ず必ず御煩慮下さいますな。サアこれからコンパスに油を注して進みませう。悦子姫さま、音彦、加米の宣伝使殿、夏彦さま、左様ならば御機嫌よう……』
『お二人様、お仕合せよう抜群の功名手柄を現はし給はむ事を念願致します、アリヨース』
と双方に袂を分つ。二本の白い杖のみ朧月夜の山路を、川上指して上り行く。
 春の夜は瞬く中に明け放れ、霞の空を押し分けて、天津日の大神は、まん円き温顔を差し出して、四人が頭を照し給ふ。心持よき春風に、道も狭きまで散り布く山桜、花を欺く悦子姫、山路通る床しさは、画中の人の如くなり。
 音彦は急坂を打ち仰ぎ、
『アヽ随分嶮しい坂ですなア。英子姫さまが一切沈黙を守つて居られたのも、斯う云ふ胸突坂が沢山あるので、吾々が恐怖心を起し、折角張詰めた精神を、薄志弱行の逆転旅行と出かけるかと思つての御心配り、イヤもう恐れ入りました。人を導き、向上させてやらうと思ふ宣伝使の御心は、又格別なものですなア』
 悦子姫は、
『イヤ決して決して英子姫様の御心中は、さうではありますまい、モ少し意味の深い事があるのでせう。妾も英子姫様の御言葉の端に、深い深い意味があると、直に胸の琴線に触れました。マアマア行く所まで行つて見なくては分りますまい』
『さうですかなア。音彦の様な木訥な人間は、ソンナ微細な点まで気が付きませぬ、何分仁王の荒削り然たる男ですからなア、ハヽヽヽヽ』
 加米彦は大声で、
『コレコレ音彦さま、巧妙い事言つてるぢやないか。悦子姫さまと、此細い道を引つ付く様にして歩き乍ら、似合うの似合はぬのつて、ソラ何を言ふのだ、鬼が笑ふぞよ、アツハヽヽヽ。オイ夏彦、貴様は苦しさうに、汗をたらたらと流して居るぢやないか』
『きまつた事ですよ。夏ヒコに当れば、汗は滝の如く流れ出るのが、昔からきまりきつた、天地の御規則。汗をかかねば、天則違反の罪に問はれるよ加米さま』
『何を言ふのだ。鼈に蓼を咬ました様に、大きな鼻息をしよつて……』
『加米彦、鼈だつて、カメ彦だつて同じ事ぢやないか。鼈が荒い息をする様に、亀が一匹、どこやらで、ヤツパリ、フースーフースーと呼吸をし乍ら、法界悋気をやつて居るやうだワイ、ハツハヽヽヽ』
『アヽ夏チヤン、ホーカイなア』
『オイオイ加米彦、夏彦の両人、早う来ぬか、ナンダ、斯ンなチツポケな坂に屁古垂れよつて………随分足の遅い奴だなア』
『喧しい言うて呉れない音彦さま、上り坂は前が高いワイ。其代りに下り坂になつたら、ドンナものだ、一瀉千里の勢で、アフンとさしてやるぞ。併し乍ら此日の永いのに、さう急ぐにも及ばぬぢやないか、そこらの木蔭で一つ切腹したらどうだい』
 音彦は、
『エー又縁起の悪い事を云ふ加米だナア。エヽ仕方がない。悦子姫様、此の平地で一服致しませうか、両人の奴、大変に屁古垂れて居る様ですから』
 悦子姫は気軽るげに、
『マア此処で悠くりと待つてあげませう』
 加米彦は小柴の茂る小径を、ガサガサ喘ぎ喘ぎ、手負猪の様な鼻息を立て、玉の汗を絞りつつ、漸く二人の側に登り着きける。
 足を容るる許りの細路を、粗朶を背に負うて降り来る二人の女あり、四人の姿を見て、
『コレハコレハ皆様、狭い路を量のたかい物を負うて通りまして、誠に済みませぬ、どうぞ御勘弁下さいませ』
 加米彦は、
『サアそれは仕方がありませぬ、天下御免の大道、否、羊腸の山路、………サアサア皆さま、林の中へ暫く沈没致しませう。そして敵艦二隻、暗礁を避けた安全路を通過させてやりませうかい』
 四人はガサガサと、木の茂みへ避けると、二人の女は汗を片手に、手拭にて拭ひ乍ら、
『コレハコレハ皆さま、済みませぬ』
と板を立てし如き細き坂路をエチエチ降り行く。
 加米彦は二人の後姿を見送りて、
『アヽ無事に御神輿通過も済ンだ。サアサア皆さま、一服のやり直しを致しませう……』
音彦『あの女は沢山の粗朶をムクムクと負うて帰りよつたが、一体何と云ふ雅名だらう』
加米彦『あれかい、きまつて居るワイ。オハラ女が柴を負うて通つたのだ』
『ナニ、斯ンな所に大原女が通つてたまるものか。叡山の麓ぢやあるまいし』
『それでも大きな腹をして居つたぢやないか』
『あれはヤセの女だよ。八瀬大原と云つて、畑の小母の産地だよ。此処もヤツパリ山地には間違ひない。前の女は大変な痩女、後のは孕み女だ。それで一人はヤセ女、一人はオハラ女だ、斯う宣り直せば、双方の意見が成立して、複雑な議論も起らぬだらう』
『モシ悦子姫さま、あなた最前音彦と、大変仲ようして歩いて居ましたなア。気をつけなされませや。此音彦は、女房の五十子姫は竜宮の一つ島へ行つて居るものですから、やもめ鳥も同様、ウツカリして居ると、今行つた女ぢやないが、今はヤセ女のあなたでも、何時の間にか大腹女になりますよ』
悦子姫『オツホヽヽヽ、お気遣ひ下さいますな、決して決して御心配はかけませぬから』
加米彦『アヽそれならマア私も御安心だ』
音彦『オイ加米彦、冗談も良い加減にせぬか、永い春日が又暮れて了ふぞ』
悦子姫『サア皆さま、参りませう』
と九十九折の嶮しき小径を登り行く。
音彦『今度は加米彦、夏彦、先へ行け、又煩雑い問題を提起されては処置に困るから』
加米彦『さうだらう。ヤツパリ物がある奴は、何処までも注意深いものだ、イヒヽ』
 加米彦は悦子姫の後に、三尺許り離れて随いて行く。七八丁登つたと思うと、胸突坂を登り来る二人の姿、半丁許り谷底に、笠ばつかり揺ついて居る。
加米彦『ヤア、大きな白い松茸が登つて来るワイ。オイ音彦、夏彦、悦子姫さまが夫程恥かしいのか。何だ、笠で顔も体もみな隠しよつて……』
悦子姫『加米彦さま、又貴方は嘲弄ふのかい、良い加減、冗談はよしにしなさいよ』
加米彦『此さみしい山路、私の様な鳴り物が一つあるのも亦重宝でせう。併し乍ら、お気に入らぬとあれば仕方がない。冗談はこれ限りヨシコ姫に致しませう、アツハヽヽヽ』
悦子姫『それまた、冗談を仰有るワ』
加米彦『仰有いますな。加米彦に憑依して居る雲雀彦の守護神奴、山へ来ると親類へ帰つた様に思つて、はしやいでなりませぬワイ、ウフヽ』
悦子姫『大分音彦さまが遅れなさつたよな塩梅ぢや。少し待ち合はせませうか』
加米彦『ヤツパリ気に懸りますかな、遅れとるのは音彦ばつかりぢやありませぬ。腰の曲つた夏彦にもチツとは目を呉れてやつて下さいナ。あなたは博愛心がどうかしてますネー』
悦子姫『何だかケンケン言つてるぢやありませぬか』
加米彦『エーあれや雉子ですよ。音彦の兄弟分ですがなア。二つ目にはケンケンコンコンと言つては頭を打たれ、腰を打たれ、攻撃の矢ばつかり喰つて居ます。雉子も鳴かねば撃たれまい………と云ひましてなア……』
悦子姫『雉子と云ふ鳥はコンナ深い山に棲みて、何を喰つてるのでせう』
加米彦『アルタイ山の蛇掴の様に、蛇ばつかり喰つて居よるのです』
悦子姫『丸で加米彦さまの様な鳥ですネー』
加米彦『ソラ何を仰有います。私が何時蛇を喰ひましたか』
悦子姫『蛇ぢやありませぬ。あなたは何時も、ヘマばつかり喰つてるぢやありませぬか、ホヽヽヽ』
加米彦『ナアンダ、屁でもない屁理屈を能く並べなさる。あなたも随分言霊の練習が出来て、お口丈は悦子姫ぢやなくて、悪子姫になりましたなア』
悦子姫『ホツホヽヽヽ』
加米彦『アヽ何だか交通機関が倦怠して来ました。音彦の来るまで待つてやりませうかい』
悦子姫『重宝なお口だこと、進退維れ谷まりて、待つておあげなさるのでせう』
加米彦『ハハア、あなた用心しなさいよ。悪神が憑いて居ますで………随分言霊が濁つて来ました。一つ神霊注射をやつてあげませうか』
悦子姫『有難う。またユルユル皆さまの御協議の上で、御願致します』
と悦子姫が蓑を敷いて、一年越の霜枯れの萱の上にドツカとすわる。
 千歳の老松杉檜  槻楓雑木も苔蒸して
 神さび立る左右の密林  躑躅の花の此処彼処
 白に紅青黄色  艶を争ふ其中を
 藪鶯や山雀  四十雀ガラ鳴き立つる
 山路を越えて何時しかに  小広き田圃に流れ出る
 古き神代の物語  唯一言も漏らさずに
 書き伝へむと土筆  鉛筆尖らし道の辺に
 待構へ居るしほらしさ  麦の青葉は止め葉うち
 筆を隠して青々と  手具脛ひいて待つて居る
 花は一面田の面に  艶を競ふて咲きぬれど
 床には置くな、矢張野で見よ紫雲英  虎杖草のここかしこ
 万年筆の芽を吹いて  書き取り清書の準備顔
 此物語の主人公  四辺の景色も悦子姫は
 音彦、加米彦、夏彦を  吾子の如く労はりつ
 親になつたる気取りにて  お山を見当てに進み行く。
加米彦『アーアナント云ふ佳い景色だらう。……音彦さま、向ふに雲の被衣を着て居るズンと高い高山がそれぢやないか』
音彦『さうだ、あれが目的の木の花姫の御分霊の祀られてある弥仙のお山だ』
加米彦『道理で、首から上は、雲の奴、スツカリ包みて、峰の姿を……ミセンの山だな、併し乍ら泰然自若として動かないあの姿を見ると、実に癪に障るぢやないか。俺達ばつかりにテクらせよつて、一歩も動かず、ヂツとして、俺が見たけら此処まで御座れ、と云ふ塩梅式だ。丸で吾々を眼下に見くだし、奴隷視して居るぢやないか。何だか軽蔑せられる様な心持がしてきたワイ』
音彦『アハヽヽヽ、云ふ事が無いと、何なと言はねば気の済まぬ男だなア。さう心配するな、今に、何程威張つて居る弥仙山でも、頭の頂辺を、吾々の足で踏みにじる様になるのだよ。さうだから、時節を待て……と云ふのだよ』
夏彦『皆さま、此美しい紫雲英野で、お弁当でも開いて、お山を拝み乍ら休息致しませうか』
加米彦『待て待て、女王様の御機嫌を伺つた上、認可してやらう。暫く控へて待つて居らう』
夏彦『随分薬鑵が能く沸騰りますなア、否かめは能く沸騰しますナア、アハヽヽヽ』
悦子姫『皆さま、どうでせう、此麗しい野原で、お山を遥拝し乍ら、くつろぎませうか』
夏彦『ソラ、どうだい、以心伝心、吾輩の身魂は暗々裡に、女王様に感応して居たのだ。斯うして見ると、肉体は主従だが、霊は……』
加米彦『その次を言はぬかい、霊魂が何だい、狸身魂の鼬みたまをして、何だか物臭い事を言ふ奴だ、斯ンな怪体なスタイルをして、能うソンナ事が云はれたものだワイ』
夏彦『ナーニ、スタイルで女が……ウンニヤ、ムニヤムニヤ』
加米彦『又行詰りよつたナ、閻魔さまの浄玻璃の鏡の前では、心の奥まで照されて、恥かしさに忽ち唖とならねばなるまい。グヅグヅして居ると、舌を抜かれて了ふぞ』
夏彦『舌の一枚や二枚抜かれたとて、沢山に仕入れてあるから大丈夫だよ。今の人間に一枚や二枚の舌で甘ンじて居る様な者は、それこそ不便極まる片輪人足だ』
加米彦『本当に能う廻る舌だなア。俺も此奴には一寸ビツクリ舌、イヤ感服舌、アツハヽヽヽ』
 斯かる所へ、小夜具染の半纒をまとひ、あかざの杖を突き乍ら、ヒヨコリヒヨコリと一人の老翁、四人が前に立現はれ、
『皆さま達は、弥仙のお山へ御参拝のお方と見受けますが、どうぞ私の家へお寄り下さいませぬか。一つお尋ねをしたり、お願ひしたい事が御座います』
加米彦はシヤシヤり出で、
『ヤアお前さまは、北光の神さまの様な、崇高な容貌をしたお爺さまだな、コンナ若い宣伝使や、若い男に、老人が物を尋ねるとは、チツと間違つては居やせぬか。一年でも先へ此世へ飛び出した者は、経験が積み、社会学に達して居る筈だ、怪体な事を言ふお爺さまだなア。わしは又、お前さまの姿が木蔭にチラと見えた時から……ヤア占た、一つ沓でも穿かして上げて、張子房ぢやないが、太公望の兵法でも伝授して貰はうと思うて楽しみて居たのだ』
爺『世界の事なら、一日でも先へ生れた丈わしは兄貴だ、教へても上げるが、これ丈長生をして、世の中の酸いも甘いも悟りきつた此爺に、どう考へても合点のいかぬ事が一つあるのだ。これはどうしても神様のお道の人に聞かなくては、分らぬ事だと思うて、お山へ詣るお方を、婆アと二人が、茅屋へ寄つて貰ひ、種々と尋ねて見るけれども、どのお方も完全な解決を与へて下さらぬのだ。此間も英子姫さまとやら……此お女中よりもズツと綺麗な、神様のお使ひのお方が凛々し相なお従者を連れて通らしやつたので、一つ尋ねてみた所、二人のお方はニヤツと笑うて、何にも仰有つて下さらず、やがて女一人男三人の一行が、お山詣りをするから、其者に会うて尋ねて呉れいと仰有つたので、毎日日日首を長うして待つて居つたのだ、もしや、お前さま等の事ではあるまいかと思うて、重い足を引きずつて出て来たのだ』
加米彦『アヽさうだつたか、社会学はまだ未完成だが、神様の事ならば、ドンナ事でも解決をつけてあげよう。英子姫さまも流石は偉いワイ。手柄を俺達に譲つてやらうと思召して、昨夜会うた時にも仰有らなかつたのだ。流石は先見の明ありだ。古今来を空しうして東西位を尽したる、世界の外の世界迄踏み込んで、宇宙の真相を悉皆看破したる、此加米彦がお出でになると云ふ事を、流石は明智の英子姫様、予期して御座つたと見える。サアサア何なりとお尋ねなされ。神界に関する事ならば決して退却は致さぬ、三五教には退却の二字は有りませぬから………オツホン』
爺『さうかな、若いにも似合はず、能うそこまで勉強をなさつた、感心々々。今時の若い者は、皆心得が悪くて、神さまなンテ、此世の中に有るものか、人間が神さまだ、神があるのなら、一遍会はして呉れ、そしたら神の存在を認めてやるなンテ、大ソレた事を云ふ時節だ。それにお前さまは、何も彼も御存じとは、実に偉いお方だ、此爺も今迄コンナ方に会ひたいと思うて、待つて居ました……アヽ神様、有難う御座います、これと云ふのも全く弥仙のお山の木の花姫様の篤き御守護……』
と袖に涙を拭ふ。
夏彦『モシモシお爺さま、此奴ア、由良の湊の秋山彦の門番をして居つた男です。偉さうに口ばつかり開くのですよ。朝から晩まで門を開くのが商売だから、其惰力が未だに残つて居つて、大門の様な大けな口を開きよるのだ。相手になりなさるな。此男の云ふ位な事は、私だつて、年の功は豆の粉だ、豆の粉は黄な粉だ、黄な粉はヤツパリ豆の粉だ。猪喰た犬は、犬のどこやらに勝れた所が有りますワイ。私が教へてあげませう』
加米彦『コレコレお爺さま、此奴はなア、ウラナイ教の黒姫と云ふ、口ばつかり達者な奴に十年間も朝から晩まで、法螺を仕込まれて来た奴だから、何を言ふやら、蜜柑やら、金柑桝で量るやら、なにも分つた代物ぢやありませぬワイ』
爺『最前から此老爺が一生懸命に頼みて居るのに、お前さま達は、此老人を飜弄するのかい、エーエやつぱり英子姫さまの仰有つた偉いお方は、此御連中ぢや有るまい。アーア阿呆らしい、コンナ事なら此重い足を、老人が引摺つて来るのぢやなかつたのに……』
音彦『モシモシお爺さま、さう腹を立てて下さるな。此等二人は雲雀や燕の親類ですから、どうぞお望みの事を、私に仰有つて下さいませ。私の力限り神様に伺つて御答を致しませう』
爺『アヽさうかなア、お前さまはどこやらが、締りのある男だと思うて居つた。此処では話が出来ませぬから、お前さま一人、私の宅へ来て下され、婆アや娘が待つて居ります』
音彦『お爺さま、それは有難う御座いますが、私の……此処に御主人とも先生とも仰ぐ悦子姫さまがいらつしやいます。此お方は吾々の大先生で御座いますから、此方を捨てて私ばつかり参る訳にはゆきませぬ』
爺『アーさうだらうさうだらう、ソンナラ、悦子姫さまの先生とお前さまと来て下され、斯ンな若い男は此処に待たして置いたら宜しからう』
音彦『併し乍ら、四人はどうしても離れないと云ふ不文律が定められてあるので、此男二人を此処に放棄して置く訳にはゆきませぬ、四人共参りませう。それがお気に入らねば仕方がありませぬから御断り申すより途は御座いませぬ』
爺『アヽソンナラ来て下さいませ。コレコレ二人のお若いの、私の家へ来て下さるのは構ひませぬが、あまり喧しう言つて下さるな、娘の身体に障ると困りますから……』
加米彦『オイ夏、貴様一杯奢らぬと冥加が悪いぞ、此中で一番の年長だ、それに「お若いの」と云はれよつたぢやないか、是れと云ふのも、俺の好男子の余徳に依りて若く見られたのだよ。それだから老爺さまが、娘の体に障ると困ります……ナンテ予防線を張るのだよ。険呑な代物と見込まれたものだなア、アツハヽヽヽ』
音彦『サア悦子姫さま、御苦労乍ら、一寸老爺さまの宅まで寄つてあげて下さいませ』
悦子姫『不束な妾でもお間に合ひますれば、お爺さま参ります』
爺『ハア有難い有難い、御礼は後で致します。老爺の家は此向ふの森を一つ廻つた所で御座います。私の座敷から、あなた方が此処に御休息になつて御座るのが、手に取る様に見えました位ですから、ホンの一寸の廻りで御座います』
と先に立ち、ヨボヨボと己が家路へ伴ひ行く。
(大正一一・四・二四 旧三・二八 松村真澄録)
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