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文献名1霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻
文献名2第5篇 五月五日祝よみ(新仮名遣い)ごがついつかのいわい
文献名3第16章 返り討〔644〕よみ(新仮名遣い)かえりうち
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-03-07 12:44:45
あらすじ
そのさなか、表にけたたましい音がした。梅公が出てみると、そこには常彦、板公、滝公が、青彦と紫姫の本心を確かめようと呼ばわっていた。常彦は、友人たちを邪教から救おうとやってきたのだ、と怒鳴りつける。

常彦は中に入り込み、酒宴の場に現れる。しかし逆に青彦、紫姫に、ウラナイ教になるように、と説得される。あくまで聞かない常彦に対し、青彦は棍棒をくらわせて追い出してしまう。

青彦らを信じきった黒姫は、青彦・紫姫一行に、綾彦とお民を預け、玉照姫と交換してくるように言いつける。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月28日(旧04月02日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年2月10日 愛善世界社版265頁 八幡書店版第3輯 735頁 修補版 校定版273頁 普及版121頁 初版 ページ備考
OBC rm1816
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本文  微酔機嫌の梅公は表のけたたましい物音に、鹿公、馬公を伴ひ走り出で見れば、常彦を始め滝公、板公の三人、息を喘ませ大声を張り上げ乍ら、
『青彦、紫姫をこれへ出せエ』
と呶鳴りつけてゐる。梅、ベランメー口調で、
『なゝゝゝ何を吐しやがるのでエ、此処を何処だと心得て居やがるのでエ、畏くも勿体なくも日の出神の生宮と竜宮の乙姫様の生宮の鎮坐まします珍の宝座だぞ、貴様達のやうな反逆者の出て来る処ぢやない、トツトと去にやがれ。コラ常彦、貴様は何だ、恩知らず奴、ドン畜生奴が、永らく黒姫さまの御厄介になつて居やがつて、後足で砂をかけて出やがつた奴ぢやないか、ようのめのめとしやつ面を下げて来られたものだ。エー、之から一寸たりとも入れる事は罷りならぬ、トツトと帰れ帰れ』
常彦『貴様は梅ぢやないか、兄弟子に向つて何と云ふ事を云ふのだ、ごてごて云はずに奥に行つて、青彦や紫姫に、常彦さまがお越しだから一寸此処まで出て来いと云つて呉れ』
梅公『何馬鹿を云うのだ、又紫姫や青彦をかひ出しに来たのだらう』
常彦『勿論の事だ、こんな邪教に友人が眈溺して居るのに、黙つて見て居れるか。ごでごで吐さず、貴様は俺の云つた通り取次げばよいのだ』
梅公『ヤア常彦、貴様は今俺に向つて兄弟子と云ひやがつたな、何が兄弟子だ、ウラナイ教に居つてこそ俺の先輩だが……不人情な……勝手に逃げて行きやがつて、三五教の土持ちをする様な奴に兄弟子も糞もあつたものかい、これや、此梅公を何時迄も鼻垂小僧と思つて居やがるか、今日では押しも押されもせぬ黒姫さまの参謀長だ。折角今日は高姫さまが遥々お越しになつて目出度く祝をして居るのに……けちをつけに来やがつたのだな』
常彦『何、高姫が来て居るとな、其奴は恰度都合が良い、これから俺が直接談判だ、邪魔ひろぐな、そこ除けツ』
と行かむとする。鹿公、馬公は常彦の左右より両手をグツと握り、
『これや、常彦、此処を何と心得て居る』
常彦『ヤア貴様は紫姫の従僕であつた馬、鹿の両人、馬鹿な真似さらすと為めにならぬぞ』
『今日は目出度い日だ、馬と鹿の俺に免じて何卒帰つて呉れ、折角の酒が醒めて仕舞う』
梅公『ヤア貴様は滝に板、又のめのめと何しに帰つて来たのだ、貴様は高城山へ行つて松姫に叩き出され、乞食となつて迷うて居つたぢやないか。又しても舞ひ戻つて来やがつて、口の先でちよろまかさうと思つても……その手は喰はないぞ、サアサア不人情者、三匹の奴、サア帰れ……こんな奴は俺一人で大丈夫だ、オイ、馬公、鹿公、奥へ行つて此由を注進せい』
『よし、合点ぢや』
と二人は奥へ飛んで行く。梅公は三人を相手に論戦をやつて居たが、常彦は構はず強硬的に、
『サア板公、滝公、続けツ』
と一同が酒宴の場に現はれたるを見て高姫は、
『ヤアお前は常彦ぢやないか』
黒姫『お前は滝公、板公、何処をうろついて居つたのだ、よう気の変る男だな、然し今迄の事は見直し聞直す、サア酒でも一杯飲んで高姫さまがお越しだから、とつくりと誠の話を聞かして貰ひなさい』
常彦『もうウラナイ教の話は何もかも、みんな聞いて居る、今更改めて聞く必要はない、又何程頼んでも一旦決心した以上、ウラナイ教に滅多に帰つてやらぬぞ』
青彦『これやこれや、常彦、滝公、板公、何ぢや、貴様は三五教に現を抜かしよつて……良い加減に改心したら如何だ』
常彦『青彦、貴様こそ良い腰抜けだ、あれ程鬼ケ城で奮戦をして置き乍ら、又もやウラナイ教に尾を掉つて帰つて来るとは……腰抜野郎だ。然し一つ思案をして見よ、如何しても三五教の方が奥が深いぢやないか、さうして不言実行の教だ、それは貴様もよく知つて居る筈、何故又こんな処へ帰つてきよつたのだ』
青彦『ほつときやがれ、俺は俺の自由の権でウラナイ教に這入つたのだよ、三五教の奴は吾々の如何しても虫が好かない哩、誰が何と云つても三五教なぞへ這入る馬鹿があるか、貴様も良い加減に見切りを付けたら如何だ』
常彦『紫姫と云ひ、馬公、鹿公まで惚けやがつて何の醜態だ。サア俺に跟いて来い。俺は貴様が可憐相だから友人の情を以て迎へに来たのだ。こんな処に愚図々々致して居ると、如何な目に会はされるか知れたものぢやない、悪い事は云はぬ、サア俺に跟いて帰つて呉れ』
紫姫『ホヽヽヽ、あの常彦さまの仰しやる事、妾は何と云つて下さつても三五教は何だか虫が好きませぬ、もうすつかりウラナイ教に身も魂も入れて仕舞ひました。何卒おついでの節、悦子姫さまに宜しく云つて居たと仰しやつて下さいませ』
常彦『流石は魔窟ケ原だ、此処まで来て、何れも之も皆籠絡せられて仕舞ひよつたか、アヽ残念な事をした哩』
と双手を組み乍ら涙を零し思案に暮れて居る。
青彦『これほど黒姫さまが、貴様の反対を少しもお怒りなく、旧の古巣へ帰つて来いと仰しやるのは普通の人間には出来ない事だ』
常彦『何と云つても金輪奈落、仮令大地が沈まうがウラナイ教に帰つて来て堪るものかい。これや青彦、貴様も目を覚ましたら如何だい』
青彦『何云つてるのだい』
と棍棒を把るより早く常彦目蒐けて三つ四つ喰はした。常彦は身に数ケ所の傷を負ひ悲鳴をあげて表へ駆出した。滝、板の二人も後に跟いて駆け出す。馬公、鹿公は一生懸命に青彦の棒を引つたくる。一方常彦外二人は戸口を這ひ上り、魔窟ケ原を何処ともなく駆けて行く。後には高姫外一同大口開けて高笑ひ、
黒姫『オホヽヽヽ、到頭帰つて来よつたが、やつぱり心が責めると見えてよう居りませぬ哩。然し乍ら青彦、お前もこれからあんな乱暴をしちやいかぬよ』
青彦『つひ酒の機嫌で……余りむかついたものだから、やつてやりました』
高姫『然し乍ら青彦はあれで……すつかり吾々の疑がとけた、畢竟或意味から云へば、結構な御神徳を頂きなさつたのだ』
青彦『御神徳か何か知りませぬが真実に乱暴な奴で困つて仕舞う、三五教に這入ると直あんなヤンチヤになると見える、アヽ思へば思へば益々三五教が嫌になつて来た哩』
高姫『ヤア皆さま、此処が大切な処ぢや、悪魔奴が色々と手を換へ品を替へ、引き落しに来るから用心しなされ』
黒姫『ヤア青彦、紫姫さま、御苦労だが貴方はこれから玉照姫の宅へ行つて下さるまいか、貴方でなければ到底他の奴をやつても要領を得まい、其代りに首尾よく玉照姫を渡せば、綾彦、お民の両人を帰してやるから……』
青彦『承知致しました、然し乍ら先方の豊彦と云う爺さまは仲々頑固な奴と見えますから到底口先位では聞くものぢやありませぬ。力にして居つた綾彦、お民の行衛が分らぬものだから、今ではお玉と玉照姫が老夫婦の生命の綱の様なものであります、私が談判に行つても駄目でせう、綾彦、お民の両人を引連れて爺さまにお目通りをしたならば、御礼返しに渡して呉れるかも知れませぬ』
黒姫『そうかも知れぬ、一切青彦に任しますから何卒往つて来て下さい』
 青彦は紫姫と共に綾彦を伴ひ、馬、鹿の一行五人は、
『然らば高姫様、高山彦様、黒姫様、その他の御一同様、何とぞ待つて居て下さいませ』
 斯く云う所へ俄に帰つて来たお節にお民、
『ヤア、これはこれは黒姫様』
黒姫『ヤア、お節にお民好い処へ帰つて来て呉れた、松姫には機嫌ようして居られるかな』
お節『松姫さまを初め皆さま御無事で、御神務に鞅掌されて居られます』
黒姫『アヽそれは重畳々々、幸ひウラナイ教の御大将高姫さまがおいでになつて居る、サア御挨拶を申しあげなされ』
 二人は、
 『ハイ』
と答へて高姫に向ひ、
『これは予て承はる高姫様で御座いましたか、ようマアお越し下さいました。妾はお節……お民と申すもの、黒姫様のいかい御世話になつて居ります、何卒今後とても可愛がつて下さいませ』
高姫『お前達は若い年にも似合はず感心なお方ぢや、就いてはこれから青彦や綾彦に行つて貰ひ度い処があるので……お二人とも恰度都合の好い所だ、貴方も一緒に跟いて行つて下さいな』
お節『ハイハイ有難う御座います、何処までもお道の為めなら参りますから……』
 茲に紫姫、青彦、馬、鹿の四人は、綾彦、お民、お節を伴ひ高姫その他に挨拶を述べ、悠々として此場を立ち去りぬ。アヽ紫姫、青彦その他の一行は再びウラナイ教に帰り来るならむか。
(大正一一・四・二八 旧四・二 北村隆光録)
(昭和一〇・六・三 王仁校正)
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