高山彦は、聖地を指して白瀬川のほとりにやってきた。降り続く五月雨に河水は氾濫して渡れない。
高山彦は悔しそうに世継王山を見ていると、後から黒姫が追いついてきた。黒姫は早く河を渡れ、と高山彦をせっつく。高山彦は、どうしてこの激流が渡れようかと黒姫に返すが、黒姫はたちまち大蛇の姿となって河を渡ってしまった。
高山彦はそれを見て震えている。黒姫の大蛇の体から黒雲が出て、高山彦を包むと、高山彦を河の向こうに渡してしまった。黒姫は大蛇から元の姿に戻った。
高山彦は、黒姫の大蛇の姿を見てすっかり恐れをなしてしまった。黒姫は構わず、高山彦を前に立てて世継王山に進んで行く。
世継王山の館では、馬公と鹿公が夜の門番をしていた。二人は月を見ながら俳句を読み合っている。すると、二人は黒姫と高山彦がやってくるのを見つけた。鹿公は、門内に入ると馬公を外に置いたまま、錠を閉めてしまった。
黒姫は、門を開けてくれと頼むが、鹿公は錠を下ろしたまま青彦に注進した。黒姫は馬公が門外に締め出されているのを見つけ、人質にしてしまう。
門の内外で、黒姫と青彦、紫姫、鹿公は互いの主張を言い合って譲らない。黒姫は馬公を人質に取っていても役に立たないと、馬公を放した。紫姫が天の数歌を歌うと、黒姫と高山彦は逃げてしまった。
鹿公は馬公を門内に迎え入れた。馬公は、黒姫は自分を縛るとき、神様にお詫びをしてきつく縛らなかった、と報告すると、青彦はこれを聞いて首を垂れて思案に沈んでしまう。
紫姫は感謝の祝詞を上げるが、玉照姫は激しく泣き出した。