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文献名1霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻
文献名2第1篇 宇都山郷よみ(新仮名遣い)うづやまごう
文献名3第3章 山河不尽〔665〕よみ(新仮名遣い)さんがふじん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-04-20 18:41:22
あらすじ
留公は友彦の処置を怒りながら、畑の芋を踏み潰している。そこへ天の真浦がやってきて、留公を咎めた。

そこへ、先ほどの畑の主がやってきて、留公の仕業を見ると、さらに怒って鍬を留公に振り下ろした。留公がよけると、鍬は天の真浦の宣伝使の足の小指を切り落としてしまった。真浦はとっさに指をひろってくっつけたが、逆さまについてしまった。これが「真浦」という名の由来だという。

男は平伏して真浦に詫びるが、なおも留公がからかうので、怒ってまた留公に鍬を振りかざした。

留公とその男・田吾作は芋争いをしているが、天の真浦は、いずれにしても神様の御魂が宿っている万物一切を粗末にしてはならない、と二人を諭す。留公は翻然として今までの罪を田吾作に詫び、二人は和解した。

天の真浦はバラモン教を言向け和そうと村を目指すが、留公は、バラモン教の宣伝使・友彦が逗留しているのは自分の館であるが、深い溝が掘ってあるので注意するように、と宣伝使に伝える。

留公は、最初は立派な宣伝使だと思って村に留めたのだが、友彦の言行が一致しないこと甚だしく、まるで主人のように我が者顔に振舞っている、と窮状を真浦に訴えた。

留公と田吾作は、三五教に改心することなり、三人は友彦が逗留する留公の屋敷に乗り込んだ。留公と友彦は激しく言い争うが、友彦は最後は言霊によって留公らを撃退しようと、宣伝歌を歌いだした。

それに対抗して、留公も口から出任せの宣伝歌を歌って返す。しかしその様子のおかしさに、友彦も田吾作も笑い転げた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月12日(旧04月16日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年3月15日 愛善世界社版54頁 八幡書店版第4輯 168頁 修補版 校定版56頁 普及版24頁 初版 ページ備考
OBC rm2003
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本文の文字数7928
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本文  留公はドンドンと地響きさせ乍ら性凝りもなく芋畑の赤子を御丁寧に再び蹂躙り、
『エイ、此芋の野郎、俺に影響を及ぼしやがつた、芋だつて油断のならぬものだ、エヽもう斯うなる上は善いも、悪いも、恐いも、可愛いも、難かしいも、嬉しいも、悲しいもあつたものかい、三度芋の野郎、何処までも六本の指で蹂躙してやらう。アタいもいもしい』
と足に力を入れて心ゆく許り踏み砕いて居る。そこへ走つて来たのは真浦の宣伝使、此態を見て、
真浦『留さん、何をして居なさる』
留公『之はしたり、大変な所を発見されました。然し何卒もう宣伝歌丈けは許して下さい、頭の数が幾つにも分家する様な心持がしますから……』
真浦『よしよし嫌とあれば沈黙しませう、然し今お前の踏んで居るのは芋ではないか』
留公『ハイ、物価騰貴の今日、斯う沢山に赤子が殖えては、第一国民が食糧に困ります。三度芋と云つて年に三度も子を生む奴ぢや、産児制限の為めにサンガー夫人がやつて来て、今此処に大活動を開始した所ですよ。何卒大目に見て上陸を拒否せない様に願ひます、アハヽヽヽ』
真浦『そんな事しては困るぢやないか、天津御空の星の数程人を殖やし、浜の真砂の数程赤子を生まねばならぬ神様のお道ぢや、生成化育の大道を無視してその様な乱暴な事をして良いものか』
留公『私は之が国家の経済上から見ても、人類共存上の学理から考へても最も神の意志に適した良法だと確信して居ます。何卒私の演説を一つ聞いて見なさい、能く徹底して居ますよ』
真浦『演説は中止、否絶対に解散を命じます』
 斯る処へ以前の男、鍬を担げ乍ら怒髪天を衝いて走り来り、
男『こらこら又しても大切の大切の赤子を殺すのか』
留公『オヽ、バラモン教と取換へこして迄、赤子を征伐する覚悟をきめたのだから、何と云つても中止はせない。マア之も前世の因縁だと諦めて鄭重に弔ひでもしてやるが良からう』
 男は怒り心頭に達し鍬を真向に翳し留公の頭を目蒐けて打ち下ろした。留公はヒラリと体を躱した機に、鍬は外れて真浦の足の小指を斬り落した。真浦は顔を顰め落ちた指を手早く拾つて傷口にあてた。指は其儘に密着した。余り慌てたと見えて小指の先は裏表に付けて仕舞つた。之迄は真浦に対し守彦と云ふ名が付いて居たが茲に初めて真浦と云ふ名が出来たのである。
男『之は之は失礼な事を致しました、何卒赦して下さいませ。勿体ない、宣伝使の指を斬るなんて……私は如何して此罪を贖うたら宜しいでせう、神界に対して取返しのならん不調法を致しました』
と泣き沈む。
留公『世界を救ける生神の宣伝使様だ。指の一本や手の半本位取れたとて、そんな事で弱へる様では宣伝使ぢやない。それよりも貴様の所の赤子の生命、随分無残な事になつたものだのう』
男『之だけ丹精を凝らして作つた芋種を台なしにして置き乍ら、まだ業託を吐きやがるか。エーもう堪忍袋の緒がきれた、覚悟をせよ』
と又もや鍬を振り翳し留公に迫る。宣伝使は此鍬の柄を確と受止め、
真浦『マアマアお待ちなさい、短気は損気だ。芋も大切だが人の生命も大切だ』
男『朝から晩まで自分の産んだ子も同然に肥料を掛けたり、草を引いたり、色々と世話をして来た可愛い芋の子、それをムザムザ踏み潰されて……育ての親が如何して黙つて居れませう。芋は芋だけの精霊が宿つて居る。屹度苦しんで居るでせう。可哀相に……此赤子は誰に此無念を訴へる事が出来ませう、私が怒つてやらねば此赤子は能う浮びますまい……アヽ芋の子よ、可憐相な者だが、もう斯うなつては仕方が無い、俺が之からお前の冥福を祈つてやるから心残さずに幽冥界に旅立して安楽に暮してくれ、アンアン』
と態と男泣きに泣き立てる。
留公『アハヽヽヽ、それだから田吾作、貴様は馬鹿だと云ふのだよ、それ程可愛い芋なら大きうなつた奴を何故釜煎にしたり庖丁にかけて喰ふのだ。そんな矛盾な事を云ふからキ印だと云はれるのだ。モシ宣伝使さま、ちつと理屈が合はぬぢやありませぬか』
としたり顔に云ふ。
田吾作『それはそうだけれど……何だか可憐相で仕方が無い哩、西も東も知らぬ弱い赤子を無残にも斯んなに虐殺すると云ふ事があるものか、芋は芋としての寿命がある筈だ。秋が来て蔓が枯れた時は寿命の尽きた時だ、そこで喰ふのなら芋も得心するであらう、折角お前も生れて来て不運な奴だのう』
と又も涙含む。
留公『オイ田吾作、貴様は人の命が大切か、芋の子が大切か、何方を主とするのだ』
田吾作『きまつた事よ、貴様は芋で譬たら良い喰ひ頃だ。此世に最早用の無い代物だから別に惜しくも無ければ、国家の損失でも無い。却つて社会の塵埃掃除が出来た様なものだい』
真浦『アハヽヽヽ、随分面白い芋論を聞かして貰ひました、併し乍ら万物一切皆神様の霊が宿つてゐるのだから、貴賤老幼草木器具の区別なくそれ相当の霊魂がある。万有一切は総て神様の大切なる御霊が宿つてるから、木の葉一枚だつて粗末にしてはなりませぬぞや』
田吾作『そら見たか、留州、キ印の阿呆の云つた事でも矢張天地の真理に適つて居るのが、ちと妙ではないか』
 留公は首を傾け手を組んで青芝の上に端坐し何事か頻りに考へて居る。漸くにして顔を上げ、
留公『ヤ、何事も氷解しました。田吾作どの、どうぞ怺へて呉れ、之からは決してもう斯んな事はせないから……』
田吾作『何と云つても斯うなつた以上は仕方は無い、今後は気をつけて呉れ。芋ばつかりぢやないよ、豆だつて麦だつて皆其通りだからなア』
留公『ハイ承知致しました、ちつと心得ます』
と以前に変つて丁寧に挨拶する。
真浦『アヽ之で凡ての解決がついた、芋の死骸で最早平和克復だ。サア之からバラモン教の友彦さんにお目に掛つてお話を承はりませうか』
と行かむとするを留公は引き留め、
留公『モシ、宣伝使様、一寸待つて下さい、貴方只一人でお出でになつては大変です、私等は勝手を能く覚えて居ますが、私の離座敷に宣伝使が置いてある、そこに神様も祀つてあります。然し乍ら家の周囲に広い深い溝が掘つてあつて迂濶跨げようものなら……それこそ大変……生命が無くなりますぜ』
真浦『それは本当の話か』
留公『本当ですとも、現在私の家ですもの、何間違つた事を云ひませう。軒下を貸して母屋を取られると云ふ譬の通り、初め乞食の様な態をしてやつて来た友彦の宣伝使が、今では大変な勢で私の座敷や本宅を我物顔に振舞ひ、私は丁稚役、主客顛倒も之位甚しい事はありませぬ。私は初めの頃は実に立派な宣伝使だと思つて現を抜かし、云ふが儘にして居りましたが、此頃の宣伝使の言行の一致せない事、実にお話になりませぬ。けれども私が率先して村中の者に勧め廻つたと云ふ廉があるので、今更責任上此宣伝使は喰はせ者だつたと云つて告白する訳にもゆかず、本当に困り抜いて居つた所ですが、最前松鷹彦の宅へ使に行つた時、奥の間に何百人とも知れぬ人声で宣伝歌が聞えて来た。その声の恐ろしさ、実に無限の威力が備はつて居ました。私はバラモン教は愛想がつき三五教へ入信したいので御座いますが、あの様な頭の割れる宣伝歌を謡はれては困るなり、如何したら良いでせうかなア』
真浦『宣伝歌は聞けば聞く程気分が良くなつて来るものだ。お前に憑依して居る副守護神が嫌ふのだ、それさへ体内より放逐して仕舞へば何でも無いのだ。さうしてあの小さい家に百人も居る筈がない、其実は私一人より居らなかつたのだ』
留公『イエイエそれでも沢山なお声でした。年寄の声、若い者の声、鈴の様な綺麗な女の声も聞えましたがなア』
真浦『そら、そうだらう、沢山な神様が集まつて宣伝歌を合唱遊ばす事が始終あるからだ。そりやお前の神徳の頂け口だ、天耳通の開けかけだから安心して吾々の唱ふるお道へ這入るが宜からう』
留公『そんなら私を入信させて下さいますか』
真浦『アヽ宜しい宜しい、何卒入信して下さい』
留公『之は有難い、もう斯うなる上は百人力だ。オイ田吾作、お前も仲直りをした以上は、俺と同様に此方に従つて三五教を信仰しようぢやないか』
田吾作『ウンそうだ、さうなれば此村も天下泰平だ。毎日日にち血を見る残酷な行を強圧的にさせられる心配も要らず、定めて女子供が喜ぶ事だらう』
真浦『然し私がお前の宅へ出張すれば、友彦の宣伝使が随分妙な顔をするだらうなア』
留公『そりや致しませうとも、今迄は無鳥郷の蝙蝠気取りで随分威張つて居ましたが、上には上があるから何時迄も世は持ちきりにはなりますまい、之が良い切り替へ時でせう。サアサア世の立替立直しは之からだ、天の岩戸の開け口だ』
と雀躍し乍ら先に立ち二人を伴ひ吾家を指して帰り行く。
 留公は矢庭に友彦の割拠せる離座敷に躍り入り、
留公『サア友彦、今日から一寸都合があるので此家を開けて貰ひ度いのだ。俺も今迄はバラモン教のお世話係をやつて来たが、お前さんから除名されてからは何時迄も此家を貸す訳にはゆかない。之から三五教の宣伝をしようとするのだから、未練残さずトツトと帰つてお呉れ』
 友彦は怪訝な顔して、
友彦『オイ留公、そりや何を云ふのだ。貴様、初めに何と云つた、……私の家はお粗末乍ら一切神様にお供へします。……と大勢の前に立派に誓つたぢやないか』
留公『そりや誓ひました、否違ひました。然し神様に上げるも上げぬもない、世界中皆神様のものだ。仮令上げると云つた所でお前に上げたのぢやない、天地の元の大神様に奉つたものだから、何卒出て呉れやがれ』
友彦『左様な不都合な事を申すと神罰は立所に当るぞ、それでも宜いか、此友彦だつて天地の大神様、殊に大国別の神様の生宮だ、神様の生宮が神様の家に居るのだ、貴様の様な四足の容器とは違ふぞ、エヽ穢らはしい、トツト出てゆけ。左様な無体な事を申すと神様は兎も角として村中の信者が承知致すまいぞ』
と信者をバツクに落日の孤城を固守せむとする。
留公『何といつても、もう駄目だよ。零落ぶれて袖に涙のかかる時、人の心の奥ぞ知らるると云つてな、除名された俺は村中の除外者になり、何処へ頼る所もなし、自暴自棄となつて田吾作の芋畑に駆込み、事の起りは此奴ぢやと芋の赤子を片端から踏み殺す最中に、一人で百人の声を出すと云ふ立派な三五教の宣伝使が其処に忽然として現はれ給ひ、此留公の頭を、膝に上つた猫でも撫でる様な調子で可愛がり、一の乾児にして下さつたのだ。サアサア早く出立致さぬと表に三五教の御大将が見張つて御座るぞ』
友彦『何、三五教の宣伝使が見張つて居るとな、大方武志の宮の神主の宅に去年の冬から潜伏して居た守彦と云ふ弱腰宣伝使だらう。バラモン教の友彦が威勢に恐れて今まで蟄伏して居た蛙の様な代物だ、そんな者が仮令千匹万匹やつて来たとて驚くものかい。万々一此場へ進んで来ようものなら、それこそ神界の御仕組の陥穽に真逆様に顛倒し生命を捨つるは目の当りだ。心配致すな、貴様も今日限り除名処分を取消すから安心せい』
留公『何を吐きやがるのだ、取消も何もあつたものかい、三五教の宣伝使は俺の詳細なる報告に依つて陥穽の箇所は全部承知して御座るのだ。さうして俺は案内役だから滅多に別条は無い、吾身の一大事が迫つて来て居るのにお前、人の疝気を頭痛に病む様な馬鹿な真似はなさいますなや。大きに御心配……有難う』
と長い舌を出し、両手を鳶が羽翼を拡げた様な風にして二三遍虚空を掻き、尻をニユツと突出して舞うて見せる。
 友彦は祭壇の前に額き祈願の詞を奏上し、言霊戦を以て真浦の宣伝を撃退せむと、声張り上げて謡ひ初めたり。
『常世の国を守ります  大国彦の大神の
 珍の御裔と現れませる  大国別の大神は
 仁慈無限の救世主  常世の国より遥々と
 イホの国迄渡りまし  霊主体従の御教を
 開かむ為に霊幸ふ  神に等しき鬼雲の
 彦の命や鬼熊別や  其他数多の神々を
 豊葦原の中津国  メソポタミヤの顕恩郷
 果実豊な楽園に  本拠を定めフサの国
 ツキの国まで教線を  拡め給ひて自転倒の
 島に又もや下りまし  大江の山を中心に
 神の光を三岳山  鬼をも拉ぐ鬼ケ城
 伊吹の山まで開きまし  世人を救ひ助けむと
 心を尽し魂を錬り  此世を乱す悪神の
 神素盞嗚の枉津見が  下に仕ふる悦子姫
 鬼武彦や高倉や  旭、月日の白狐等が
 悪逆無道の振舞に  時を得ずして本国へ
 一先づ退却し給へど  必ず捲土重来の
 時こそ今に近づきて  コーカス山やウブスナの
 山に建つたる斎苑館  黄金山はまだ愚
 自転倒島の中心地  世継王の山の辺傍
 錦の宮を忽ちに  手の掌翻す其如く
 土崩瓦解は目の当り  先の見えたる三五の
 神の教は風前の  灯火の如く日に月に
 危険益々迫り行く  実に憐れな其教義
 それをも知らぬ守彦が  天の使と名乗りつつ
 図々しくもバラモンの  神の使の友彦が
 館を指して来るとは  飛んで火に入る夏の虫
 それに従ふ留公や  田吾作野郎の蚯蚓きり
 蛙もきれぬ分際で  神徳高き友彦に
 刃向ひ来るとは何事ぞ  身の程知らぬも程がある
 天が地となり地が天と  変る此の世が来るとても
 三五教に迷ふなよ  霊主体従の此教義
 誠一つの神界の  深き経綸は三五の
 浅き教ぢや分らない  飯守彦の宣伝使
 留公田吾作諸共に  今から心を立直し
 バラモン教の神徳を  受けて身魂を研き上げ
 神世を来す神業に  心を尽し身を尽し
 天地に代る功績を  千代万代に樹てよかし
 これ友彦が詐らぬ  誠一つの言葉ぞや
 言霊幸はふ世の中に  善ぢや悪ぢやと何の事
 朝日が照るとか曇るとか  月が盈つとか虧くるとか
 大地が泥に沈むとか  世人欺くコケ嚇し
 そんな馬鹿げた言霊を  之だけ開けた世の中の
 人が如何して聞くものか  馬鹿を尽すも程がある
 一時も早く目を覚せ  神の心は皆一つ
 世界の氏子を助けむと  大国別の御言もて
 憂瀬に沈む民草を  救はせ給ふ有難さ
 一度は喰つて味はへよ  喰はず嫌ひは仕様がない
 苦けりや吐き出せ甘ければ  遠慮は要らぬドシドシと
 心ゆく迄喰ふがよい  善の中にも悪がある
 悪の中にも善がある  三五教は表向
 善と雖も内実は  悪鬼悪魔の囈言ぞ
 バラモン教は表から  眺めて見ても善である
 裏から見ても亦善ぢや  其内実は殊更に
 善一筋で固めたる  昔の元の神の道
 斯んな結構な御教を  調べもせずに一口に
 悪の雅号で葬りて  此世を潰さうと企む奴
 憎さも憎い三五教  一時も早く留公よ
 飯守彦と云ふ奴の  甘い言葉にのせられて
 お尻の毛迄抜かれなよ  憐れみ深い友彦が
 真心籠めて気をつける  大国別の神様よ
 彼等が心に生命を  与えて再びバラモンの
 神の教に救ひませ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひ坐ませよ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひ坐ませよ』
と口から出任せに汗をブルブル流し乍ら呶鳴り立てて居る。留公は此歌を聞いて躍起となり、
『オイ、バラモン教の御大将、随分立派な言霊だのう。雲烟模糊として捕捉すべからず、支離滅裂、聞くに堪へざる亡国の悲歌、そんな事を囀ると天地が暗くなつて仕舞ふ哩。サア之から此留公が十一七番の宣伝歌を謡つてやらう、耳を浚へて謹聴せい』
と長々と前置してエヘンと一つ咳払ひ、鷹が翼を拡げた様な手付で腰を屈め足を踏ん張り、右や左へ身体を揺ぶり乍ら奇声怪音を放つて揺ひ出した。
『此処は名に負ふ秘密郷  四面深山に包まれて
 中を流るる宇都の川  流れも清く澄み渡る
 武志の宮の御住家  大江の山を破壊されて
 逃げて出て来たバラモンの  言霊濁るども彦が
 鳥なき里の蝙蝠か  蛇なき里の青蛙
 威張散らして村人を  何ぢやかんぢやとチヨロまかし
 霊主体従を標榜し  利己一片の強欲心
 最極端に発揮して  宇都山村の婆、嬶を
 有難涙に咽ばせつ  遂に進んで吾々も
 慣用手段の口の先  一寸うまうま乗つて見た
 さはさり乍らつくづくと  胸に手を当て真夜中に
 臥せりもやらず窺へば  表面を包む金鍍金
 愈色は剥げかけた  時しもあれや三五の
 誠一つの宣伝使  天の使の守彦が
 雲路を分けて下りまし  武志の宮の御前に
 現はれました雪の道  雪より清い神心
 松鷹彦の住む家に  去年の冬から出でまして
 世界の立替立直し  天地百の神等を
 宇都の川辺に呼び集め  神徳茲に備はつて
 バラモン教の枉神を  言向け和し如何しても
 往生致さな是非はない  神の定めの根の国や
 も一つ違うたら底の国  万劫末代上れない
 根底の底のまだ底の  真黒暗のドン底へ
 落してやらうかこりや如何ぢや  此世でさへも限りがある
 早く心をきり替へて  瓦落多教に暇呉れて
 誠の神の開きたる  三五教に帰順せよ
 俺も長らく友彦を  師匠と仰いで来た誼
 別れに際して親切に  誠心で気をつける
 気をつけられた其中に  聞かねば後は知らぬぞよ
 神の心を取り違へ  留公さまの真心を
 無にするならばするがよい  皆お前の身の上に
 かかつて来ること許り  俺はもう早や三五の
 神の教に帰順した  バラモン教に用は無い
 とは言ふものの人は皆  同じ御神の分霊
 世界同胞の誼もて  一度は忠告仕る
 早く改心して呉れよ  決して俺に損得の
 一つも関はる事ぢやない  みんなお前が可愛から
 お前が改心するなれば  宇都山村の神村も
 天下泰平無事安穏  五穀成就目のあたり
 改心せなけりや是非も無い  留の腕には骨がある
 天地の神になり代り  貴様の雁首引き抜こか
 眼玉を抜こか舌抜こか  地獄の鬼ぢやなけれども
 止むに止まれぬ大和魂  とめてとまらぬ留公が
 思ひ詰めたる善の道  道に迷うた里人を
 助けにやならぬ此場合  先づ第一に友彦が
 改心すれば三五の  神の司と手を引いて
 元は一つの神の道  腹を合して仲好くし
 お道を開く気はないか  早く薫しい返事せよ
 返事がなければ是非が無い  芋の赤子を潰す様に
 片つ端から踏みにじり  鬼の餌食にしてやろか
 サアサア早うサア早う  お返事なされよ三五の
 誠一つの宣伝使  言霊戦を開いたら
 とても敵はぬ尻に帆を  掛けて走らにやなるまいぞ
 そんな見つとも無い事を  するより早く我を折つて
 改心なされ改心を  すれば忽ち其日から
 喜び勇んで神界の  御用が屹度出来ますぞ
 三五教が善なるか  又悪なるか俺や知らぬ
 俺の感じた動機こそ  不言実行の誠のみ
 バラモン教は善の道  善ぢや善ぢやと謡へども
 言心行が一致せぬ  一致を欠いだ御教は
 半善半悪雑種教  斯んな教が世の中に
 若しも拡まるものならば  世界の人は悉く
 みんな不具者になつて仕舞ふ  生血に飢ゑたる枉神の
 醜の企みと知らないか  お前も天地の御徳にて
 生れ出でたる神の宮  悪魔の巣ふ破れ屋と
 なつて天地の神々に  如何して言訳立つものか
 早く改心してお呉れ  留公さまが一生の
 誠尽しのお願ぢや  之程誠で頼むのに
 首を左右に振るならば  もう是非なしと諦めて
 直接行動にとりかかる  返答聞かせ友彦よ
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  お前一人は如何しても
 改心させねば措かないぞ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひ坐しまして  頑固一途の友彦が
 心を照させ給へかし  身魂を光らせ給へかし』
と敵やら味方やら訳の分らぬ歌を謡ひ首をすくめ、糞垂れ腰になつて、左右の手を胸の四辺にかまきりがすくんだ様な手付し、ピリピリ慄ひ乍ら左右の足を一所にキチンと合せ待つて居る。その可笑しさに友彦も、跟いて来た田吾作も、思はず声を上げて笑ひ転けたり。
(大正一一・五・一二 旧四・一六 北村隆光録)
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