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文献名1霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
文献名2第4篇 反復無常よみ(新仮名遣い)はんぷくむじょう
文献名3第15章 化地蔵〔689〕よみ(新仮名遣い)ばけじぞう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-05-02 02:25:43
あらすじ国依別は六甲山の頂上を目指して登っている途上であった。枯れ草の中に地蔵が立っているところへやってきて、一休みするうち、動かず冷たい地蔵に対して、外面如菩薩内心如夜叉だと、文句を言い非難をし出した。すると地蔵は石から離れて飛び出し、国依別も心に鬼を飼う宣伝使だと悪口を言って返した。国依別は地蔵の口が悪いので、幽界で高利貸しをしているのではないか、と返す。地蔵は話を合わせて高利貸しの苦労を語り、地蔵としてじっと立っている苦労を語った。そして国依別が宗彦時代に女を苦しめた罪を数えた。地蔵は国依別に、自分を背負って六甲山の上まで連れて行ってくれ、と頼み出した。渋る国依別に対して地蔵は、自分を背負って行くだけの甲斐性がなければ高春山の鷹依姫を言向け和すことはできない、と言い返す。そして竜国別はすでに鬼娘に喰われて他界したと言って国依別の意気をくじこうとした。国依別はその話を信じずに鎮魂を始めた。すると地蔵は国依別の昔の女・お市の姿と化した。そしてここは六甲山ではなく、すでに幽界だと国依別を脅す。国依別はお市と言い争ううち、五六人の男の声で目を覚ました。国依別は石地蔵の前で寝込んで夢を見ていたのであった。国依別に声をかけて起こしたのは、高春山のテーリスタンの部下たちであった。男たちは三五教の宣伝使を召捕りにやってきたのであった。しかし男たちの中に、国依別に妹を取られた常公がいて、見知っていた。そこで国依別は昔の女の一人である常公の妹・お松の消息を尋ねた。お松はその後、ウラナイ教に入って松姫として権勢を奮っていたという。国依別はお松が松姫となっていたことに感心し、一時は自分の女だったことを男たちに自慢してのろけて見せた。男たちはその語り口に呑まれ、すっかり国依別に惚れ込んでしまった。国依別は男たちを言向け和して信者となすと、一行を引き連れて高春山を目指すこととなった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月21日(旧04月25日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年4月5日 愛善世界社版245頁 八幡書店版第4輯 354頁 修補版 校定版253頁 普及版110頁 初版 ページ備考
OBC rm2115
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本文の文字数6830
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本文  バラモン教の其一派  アルプス教を樹立して
 高春山に巣窟を  構へて住める鬼婆の
 鷹依姫が悪業を  言向け和し救はむと
 三五教に名も高き  高姫黒姫両人は
 鳥の岩樟船に乗り  意気揚々と中天に
 雲押し開き分け上り  高春山の麓まで
 二人は無事に着陸し  黄金の草の茂りたる
 胸突坂を攀じ登り  岩窟並ぶ天の森
 祠の前に休らひて  天の瓊矛を振り廻し
 言霊戦の最中に  テーリスタンやカーリンス
 鷹依姫の両腕と  頼む曲津に誘はれて
 岩窟の中に引き行かれ  音信も今に知れざれば
 二人を救ひ出さむと  言依別の神言もて
 竜国別や玉治別の  神の使と諸共に
 遠き山路を打渉り  漸う此処に津田の湖
 竜国別は北の路  玉治別は湖水をば
 横断り乍ら進み行く  国依別の宣伝使
 鼓の滝を右に見て  神と君とに真心を
 尽くす誠の宝塚  峰を伝ひて六甲の
 御山を指して登り行く。
 国依別は杖を力に巡礼姿の甲斐々々しく、六甲山の頂上目蒐けて登り行くに路の傍への枯草の中にスツクと立てる石地蔵がある。
『アヽ大変にコンパスも疲労を訴へ出した。一つ此石地蔵を相手に一服しようかなア。……オイ地蔵さま、お前は何時も美しい顔をして慈悲の権化とも云ふ様に見せて御座るが、随分冷酷なものだなア。どこを撫でてもチツとも温味はありやしない。何程地蔵だと云つても斯う蒲鉾の様に石に半身をくつつけて、半分体を出した所は、まるで磔刑に遇うた様なものだよ。今の世界悪の映像は、恰度お前が好い代表者だ。外面如地蔵、内心如閻魔の世の中の型が映つて居るのだなア』
 地蔵は石から離れて浮き出た様に、ヒヨコヒヨコと錫杖を突いて、一二間許り歩み出し、
『オイ国依別、イヤ女殺しの後家倒しの、宗彦の巡礼上りの宣伝使、貴様の翫弄した女達に、今此処で会はしてやらうか。俺の悪口を言ひよつたが、貴様も随分悪い奴だよ。貴様こそ心に鬼を沢山抱擁し、外面は三五教の宣伝使なぞと、チツとチヤンチヤラ可笑しいワイ。其様な者を言依別命が信任するとは、ヤツパリ暗がりの世は暗がりの世だ。盲目ばかりの暗黒世界だなア』
『コレコレ石地蔵さま、否化地蔵さま、お前はチツト言霊が悪いぢやないか。大方幽界で高歩貸でも行つて居るのだらう。中々娑婆気があつて面白いワイ』
『今の社会の奴ア、追々と渋とうなつて来やがつて、俺の商売もサツパリ算用合うて銭足らず。あちらからも小便を掛け、こちらからも小便をかけ、まるで世界の奴ア、犬の様なものだよ。借る時にや尾を掉つて出て来るが、返せと言へば鬼権だとか何とか云つてかぶり付く、咬犬の様な奴ばつかりだ。俺も仕方がないで、高歩貸をフツツリと断念し、菩提心を起して石地蔵になり、世界の亡者を助けてやらうと思つて、終始一貫不動の精神を以て、路の辻に鯱こばつて居れば、俺に金を借つた奴、借る時の地蔵顔、済す時の閻魔顔、悪魔道に落ちた報ひで、情ない、犬に性を変じて再び娑婆に現はれ、又しても小便をかけて通りよる。本当に人間と云ふ奴は仕方のないものだ。お前は高歩貸は苦めなかつたが、女は随分苦めたものだのう。キツト貴様も其報いで、今度は猫に生れ変るのは、閻魔の帳面にチヤンと記いて居たぞ。国依別と云ふのは娑婆に居る間の雅号だ。貴様の名はヤツパリ竹公又の名は宗彦、右の腕に梅の花の斑紋があると云ふ事が記してある。どうだ間違ひか』
『それはチツとも間違がない。併し冥土へ行けば美人は沢山居るだらうな』
『居らいでかい。しかし乍ら婦人同盟会が創立されて、第一、宗彦と云ふ奴が出て来たら、集つてかかつて、血の池へブチ込んでやらうと云ふ事に、チヤンと定まつて居るよ』
『お前は一体男か女か』
『それを尋ねて何にするのだ。若し俺が女だと云ふ事が分つたら、又何か地金を出して註文でもするのだらう』
『誰がそんな冷たい奴に秋波を送る馬鹿があるかい』
『幽界に居る女は、誰もかれも氷の様な冷たい体ばつかりだぞ』
『お前は坤の金神の別名で、実に優しい神の権化ぢやと聞いて居つたが、違ふのか』
『地蔵にもイロイロの種類がある。俺は借る時の地蔵顔、済す時の閻魔顔と云つて善悪両面を兼ねた活仏だ。地獄の沙汰も金次第、俺がお前に対し、柔かく親切に持ちかけるのも辛く当るのも、みんなお前の心一つだ。善も悪も全部此地蔵の方寸にあるのだ。昔から地蔵(地頭)に法なしと云つて、天下は地蔵の自由だ。馬鹿正直な、善だの悪だのと、俄上人になつて迂路付くものぢやない。なぜ生地其儘の正体を現はさぬのか』
『お前の様に人を三文もせぬ様に言つて了へばそれまでだが、これでも娑婆世界に於いては最優等の身魂を持つて居る神のお使だぞ』
『何は兎もあれ、俺を背中に負うて六甲山の頂上まで連れて往つて呉れ。俺もこんな谷底に何時までも立ん坊になつて居つては面白くない。そこらの景色も見飽いて了つた。チツと世間を広く見たいからなう……』
『それや事と品によつたら、負うて行つてやらない事もない。併し地獄の沙汰も金次第だ、金を幾ら出すか』
『俺は貴様の実地目撃する通り石の地蔵だ、金があらう筈はないよ』
『そんなら止めて置かうかい。アタ重たい。此山坂を自分の体丈でも持て余して居るのに、此上重量を追加しては堪つたものぢやないワ』
『貴様も割とは弱音を吹く奴だなア。そんな事で高春山の鷹依姫が帰順すると思ふのか。俺を山頂まで連れて行く丈の勇気がなければ、どうせ落第だ。貴様の連れの玉治別は津田の湖水で、遠州、駿州、武州の為に亡ぼされ、竜国別は鬼娘に喰はれて了つたぞ。後に残るは貴様一人だ。到底此言霊戦は駄目だから、俺を負うて上まで能う行かぬ位なら、寧ろ兜を脱いで、是から引返したがよからうぞ』
『何ツ、竜国別は鬼娘に喰はれたと。それや本当かい』
『それや本当だ。地蔵(自業)自得だ』
『コレヤ石地蔵、貴様は洒落てるのか。嘘だらう』
『誰が嘘の事を言つて、あつたら口に風を引かす馬鹿があるかい。玉治別は寂滅為楽の運命に陥り、頭に三角の霊衣を被つて、たつた今やつて来る。マア暫く待つて居るが宜からう』
 国依別は「ハテナア」と手を組み大地にドツカと坐し、鎮魂を修し、自ら虚実の判断に心力を熱中して居る。
『ハヽヽヽヽ、何時まで考へたつて、一旦国替した者が帰る気遣ひはない。早く俺の要求を容れないか』
『八釜しく云ふない。自分の体も自由にならぬ中風地蔵奴。負うて行つてやるも、やらぬも、俺の考へ一つだ。今臍下丹田、地の高天原に八百万の神を神集ひに集ひ、神議りに議らむとして、諸神を鎮魂にて招ぎまつり居る最中だ』
 地蔵は何時の間にか、なまめかしい美人の姿と化して了つた。
『サア国さまえ、妾はお前さまに娑婆で随分嬲られたお市ですよ』
『ナニ、お市だ、馬鹿を言ふな。大方金毛九尾の奴狐め。俺を誑す積りだらうが、そんな事に誑される国依別と思つて居るかい』
『妾は最早幽界の人間、お前も、何と思つてらつしやるか知らぬが、此処は六甲山ぢやない、六道の辻ぢやぞえ。よう考へて見なさい。そこらの光景が娑婆とはスツカリ違ひませうがな』
『馬鹿を言ふない。何処に違つたとこがあるか。グツグツ吐すと、狐の正体を現はしてやらうか』
『ホヽヽヽヽ、あの宗さまの気張りようわいなう。腹の底から恐ろしくなつて来たと見え、汗をブルブルかいて、あらむ限りの力を出して、空威張りして居らつしやるワ、そんなこつて、どうして鷹依姫が往生しますかい』
『往生さす、ささぬは此方の自由の権だ。女だてら我々の行動を、喋々と容喙する権利があるか』
『あつても無くても、妾は妖怪だから容喙するのが当然だ。お前さまは現界に居つた時から、沢山の女を誘拐しなさつただらう。それだから今度は幽界へ来て、反対に女から何も彼も容喙されるのは、過去の作つた罪業が酬うて来たのですよ、ホヽヽヽヽ、あのマア不快らぬさうなお顔……』
『エー放つときやがれ』
『放つとけと仰有つても、お前さまの様な悪党は何程気張つても仏にはなれませぬぞえ。鬼にもなれず、マア石地蔵に小便をかけて歩く犬位なものだ。けれども幽界では顔丈は人間たる事を許される。それだから人犬と云ふのだ。人犬番犬妻王の馬と云つて妾を今まで馬にして来たが、今度は妻王の馬にしてあげるのだ。サア其処に四這ひに這ひなさいよ』
『どこまでも男をチヨン嬲るのか。男の腕には骨があるぞ』
『女だつて骨はありますよ。細うても樫の木、お前の腕は太く見えても新米竹の様な、中が空虚でヘナヘナだ。娑婆では腕を振廻して、こけ嚇しが利いただらう。新米竹の竹さんと云つて、威張つて行けたが、幽界ではチツと様子が違ひますよ』
『エー雀の親方見たいに、女と云ふ奴は娑婆でも囀るが、幽界へ来てもヤツパリ囀るのかなア。雀女奴が』
『竹さんに雀は品よくとまる、とめて止まらぬ恋の道だ。あちらからも青い顔して細い手を出し、こちらからも細い手を出して、竹さん来い来いと招んで居る……あの厭らしい亡者の姿を御覧。それ芒原の彼方から、お前に翻弄された雀女が、沢山に頭を出してゐるぢやないか。チツとは思ひ知つただらう』
『オモイ知るも、軽い知るもあつたものかい。女なら亡者であらうが、化物であらうが、ビクとも致さぬ竹さん兼宗彦兼国依別命様だ。サアお市、気の毒だが貴様ここへユウカイして来て呉れ。俺が一々因縁を説いて、諒解の行く様にしてやる。ワツハヽヽヽ。女と云ふ奴は化物でも気分の良いものだワイ』
『お前は娑婆で、石灰竈の鼬のやうにコテコテ塗つた魔性の女や、化女、売淫女、夜鷹なぞに、何時も現を抜かして、鼻毛を抜かれ、眉毛を数まれ、涎を垂らかし、骨まで蒟蒻の様に為られて来た代物だから、化物は好い配偶だ。どんな奴でも構はぬ物喰ひのよい助作だから、ヤツパリ幽界へ来ても其癖が止まぬと見える。娑婆から幽界へ、そんな糟を持越して貰つては、閻魔さまも聊か迷惑だらう。地蔵顔してお前の巾着ばつかり狙つて居る魔性の女は、幽界にも多数に居るから、御註文なら幾らでも召集して来ませうか』
『オイ一寸待つた。物も相談ぢやが、貴様一旦暇をやつたのだが、今度は一つ焼き直し、ドント張り込んで焼木杭に火が点いた様に、旧交を暖めたらどうだ。さうすれば貴様も沢山な女を集めて来て、修羅を燃やし修羅道へ落ちる心配はないぞ』
『ホヽヽヽヽ、自惚も良い加減にしたがよいワイナ。誰がお前の様なヒヨツトコから暇を貰ふものかいナ。暇を貰ふ所までクツついとる馬鹿があるものかい。憚り乍ら、お市の方から肱鉄を喰はして、鼻毛を抜いてお暇を呉れたのだ。三行半は誰が書いたのだ。お前覚えがあるだらう』
『幽界へ来てまで、そんな恥を曝すものぢやない。俺ばつかりの恥辱ぢやないぞ。女は温順なのが値打だ。一旦女房になつたら、仮令夫が馬鹿でもヒヨツトコでも、泥棒でも、どこまでも女としての貞操を尽すのが良妻賢母だ。それに滔々と女の方から暇をやつたなぞと、天則違反的行為を自ら曝け出すと云ふ不利益な事があるか。閻魔さまに聞えたら、キツト貴様は冥罰を蒙るに定つて居るぞ』
『ホヽヽヽヽ、ガンザカ箒の様な男が、どこを押したらそんな真面目くさつた言葉が出るのですかい。貴方はそんな事を云ふ丈の資格はありませぬよ』
『アヽしようもない。石地蔵や亡者女に妨げられて、思はぬ光陰を空費した。サア是れから高春山へ出陣せねばならぬ、そこ退け』
『退けと云つたつて、どうして退けませう。妾だつてアヽ云ふものの、ヤツパリ、仮令三年にもせよ、お前と、夫よ妻よと呼んで暮した仲だもの、チツとは同情心が残つて居るのだから、お前も酷い女だと思はずに、腹の底をよく考へて下さらぬと困りますよ。此位な事に怒る様では、人犬たる資格はありませぬぞえ。夫婦喧嘩は犬も食はぬと云ふぢやありませぬか。お前もあんまり夫婦喧嘩に角を立てて怒ると、外の人犬が見て馬鹿にしますよ。そこらの女に小便を掛けさがし高利を借つては糞を掛けさがしたか……そいつア知らぬが、後家倒しの婆喰ひの人犬ぢやないか。お前に喰はれた後家婆アも、臭い顔して随分沢山に色欲道の辻に待つて居りますぜ。これからがお前の性念場だ。マア楽しんで行かつしやい。妾は夫婦の交誼でこれ丈の注意を与へて置く。何と言つても地蔵(自業)自得だから諦めて行きなさい』
『俺は何時の間に幽界に来たのだらうかなア。オイお市、俺にはテンと顕幽分離の時期が分らない。貴様は知つて居るだらう。言つて呉れないか』
『オホヽヽヽ、分りますまい。お前がモウ此後七十年経つた未来に、斯うして妾に会ふのだよ』
『なあんだ。それならまだ大丈夫だ』
『お前は丙午の年だから、随分これから女を沢山に殺して、七十年後になれば今の何十倍と云ふ亡者が出来て、歓迎会でも開くだらうから、苦しんで待つて居るがよからう』
『お構ひ御無用だ。俺は楽しんで待つて居る。楽天主義の統一主義の進展主義の清潔主義を標榜する三五教の宣伝使だ』
『如何にもお前は畜生道へ落転主義だらう。さうして現界で高春山を征服し、鬼婆に糞をかけられ、天の真名井へ泣きもつて、吠面かわいて立帰り、他の宣伝使からドツサリ氷の様な冷たい水を打掛けられ、アヽこれで清潔主義の実行だと喜ぶのだらう。折角人犬になつた魂を曇らして、再び鼬となり、人に最後屁をひりかけ、業を経て貂に進む、進貂主義を実行なさいませ』
『娑婆にある間は、どうしようと斯うしようと俺の腕にあるのだ。お構ひ御無用だ。亡者は亡者らしく石塔の下へ蟄伏して、時々風が吹いたら首を突出し、糠団子でも喰て居れば好いのだ、マア暫く楽しんで待つて居れ。七十年未来になれば、俺の殺した女亡者に限り、全部統一主義を実行し、幽冥界に一つの国依別王国を建設するから、それまでにイロイロと世の持方の研究をして置くのだよ。其時には貴様を伴食大臣に登庸してやる』
『誰が、お前の部下になるものが一人でもありますかい。エー娑婆臭い事を言ひなさるな』
 斯かる所へ五六人の男、茨の杖を突き乍ら走せ来り、
『オイ三五教の……貴様は宣伝使だらう。俺は高春山のテーリスタンの部下の者だ。早く起きぬかい』
『ハハア、貴様は悪業充ちて幽界へ来せたのだなア。良い加減に改心せぬかい。貴様等は何奴も此奴も独身生活と見えるが、何程幽界へ来ても、女房は欲しいだらう。チツト使ひ古しでお気に入らぬか知らぬが、俺のお古が一寸十打程此処にあるのだ。一つ手を叩けば「アーイ」と言つてやつて来るのだ。「旦那さん、こんちは」と云つてお出でになるぞ。中にや随分素敵な奴もあるから、何れなつと選り取り見取りだ。一品が一銭九厘屋で御座い』
『オイ貴様は何寝惚けて居やがるのだ。辻地蔵の前に寝転びやがつて、シツカリさらさぬかい』
 此声に国依別は四辺をキヨロキヨロ見まはし、
『ハハア、なあんだ。夢を見て居つたのか……オイ貴様は何処の奴だい』
『俺は言はいでも知れた、高春山の鷹依姫様の御家来だ。貴様は唯一人高春山へ何しに行くのだ。此処は南の関所だぞ』
『アヽさうだつたか。マアゆつくり一服せい。相談がある』
『貴様に相談をかけられるのは、碌な事ぢやあるまい』
『其落ちつかぬ様子はなんだい。戦はぬ間から負けてるぢやないか、地震の神懸をしやがつて………チツと胴を据ゑないか』
『貴様は国依別のヘボ宣伝使だらう。サア白状せい』
『アハヽヽヽ、天晴れ堂々たる天下の宣伝使だ。貴様の様な小童武者に、何隠す必要があるか。国依別命とは俺の事だ』
『ヤア貴様は竹公ぢやないか。何時やら俺の妹をチヨロまかした曲者奴』
『ウンお前はお松の兄貴の常公だつたなア。言はば義理の兄貴だ。併し貴様もよく零落したものだなア。さうしてお松はどうなつたか』
『貴様余程迂濶者だなア。俺の妹のお松は生意気な奴で、俺と信仰を異にし、到頭ウラナイ教の高姫の乾児になりやがつて、高城山で松姫と名乗り、立派にやつてけつかるのだ。俺は心が合はないから行つた事がないが、中々俺の妹だけあつて善にもせよ、悪にもせよ、傑出した所があるワイ』
『何ツ、あの松姫がお松だと云ふのか。其奴ア大変だ。さう云へば何だか合点がゆかぬと思つて居たのだ。松姫は中々俺達とは違うて、今は三五教の錚々たる宣伝使だ。ヤツパリ俺に秋波を送る様な奴だから、代物がどつか違つた所があるのだな、アハヽヽヽ』
『オイ斯んな所で惚気を聞かしやがつて、何だ、チツと確乎せぬかい』
『羨ましいだらう。随分松姫は別嬪だぞ。知慧もあれば力もあり、愛嬌もあり、あんな奴ア、滅多にあつたものぢやない。俺もさう聞くと、松姫が一層崇高な人格者の様に見えて来たワイ』
 一同は、
『ワツハヽヽヽ』
と笑ひ転ける。甲、乙、丙、丁、戊、己の六人は遂に国依別に言向け和され、心の底より国依別の洒脱なる気品に惚込み、信者となつて高春山へ筒井順慶式を発揮すべく、がやがや囁きながら進み行く。
(大正一一・五・二一 旧四・二五 松村真澄録)
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