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文献名1霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
文献名2第2篇 心猿意馬よみ(新仮名遣い)しんえんいば
文献名3第6章 見舞客〔698〕よみ(新仮名遣い)みまいきゃく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ宇都山郷(宇津山郷) データ凡例 データ最終更新日2021-06-02 17:42:28
あらすじ
高姫は自宅に帰ると発熱して寝込んでしまった。遠州と武州が看病に立ち働いている。そこへ玉治別夫婦が見舞いにやってきた。

玉治別とお勝が病床に来ると、高姫は自分は病気なんかじゃない、演説会で癇癪玉が詰めて熱が出ただけだ、と強がりを言う。

高姫は玉治別に、この件でどんな噂が立っているか聞いた。玉治別は、いろんな意見があってまとまっていないが、高姫に責任があるから聖地を出て玉探索にでるべきだ、という者もいることを伝えた。

高姫は日の出神の生き宮である自分は絶対に聖地を離れない、と言う。玉治別は、玉を現に紛失した責任を高姫自身はどう考えているか、と問いかけた。

高姫は青二才が心配することではない、と返して言依別命や杢助、お初にも八つ当たりをはじめた。玉治別は抗議するが、高姫は自分は生き宮だと権威を嵩にかけ、逆上して吠え立てる。

玉治別はなだめようとするが、高姫は荒れ狂って人に責任をなすりつけようとするのみである。玉治別は仕方なくお勝の手を取って高姫の館から逃げ出した。すると、見舞いにやってきた杢助・お初と門のところでばったり出くわした。

玉治別は杢助に、高姫が杢助・お初にも当り散らしていると忠告すると、帰って行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月25日(旧04月29日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月30日 愛善世界社版76頁 八幡書店版第4輯 408頁 修補版 校定版79頁 普及版35頁 初版 ページ備考
OBC rm2206
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本文  高姫はすごすごと我家に帰り頭痛がするとて臥床に入り捩鉢巻の大発熱、大苦悶。遠州、武州は種々と介抱に全力を尽して居る。玉治別は妻のお勝と共に高姫の病気と聞き、見舞のために訪ねて来た。玉治別は庭の表に立ち働いて居る遠州に向ひ、
『遠州さま、承はれば高姫さまには少しお塩梅が悪いと聞きましたが、御様子はどうですかナ』
『ハイ、この間八尋殿で演説をなさつてから肝腎のお宝が石に化けて居つたとか云つて、怒つて溜池の中に放り込まれました。それから気分が悪いと云うてお寝みになつたきり、毎日日日玉々と、囈語ばつかり云うて居らつしやいます。誠に困りものですよ』
『何うか差支なくば、玉治別夫婦がお見舞に参つたと、伝へて下さい』
『承知致しました』
と奥に入り耳許に口を寄せて、
『高姫様、玉治別の宣伝使がお見舞に見えました』
 高姫は人事不省に陥りながらも、玉の一声にふつと気がつき、
『何、玉が出て来たと、そりや結構だ。早く見せてお呉れ』
と起き上つた。遠州は玉ではない、玉治別が来たのだと実を明かせば、又もや高姫が落胆して重態に陥る事を案じ、何気なう、
『ハイ、玉がお出になりました』
と皆まで云はさず、高姫は、
『早く此処へ持つてお出で』
 遠州は、
『ハイ』
と答へて表に出で、
『玉治別さま、お勝さま、どうぞ奥へお通り下さいませ。高姫様が大変お待ち兼ねで御座います』
 玉治別はお勝と共につと奥に進み入り、見れば高姫は真赤な顔をしながら捩鉢巻の儘病床に坐つて居る。
玉治別『高姫様、承はりますれば御病気との事、何うかとお案じ申しましてお訪ねに上りました』
高姫『別に私は、病気なんかありませぬが、つい癇癪玉がつき詰めて熱が出たのです。常に健康なものが偶に寝ると、大変な噂が立つと見えます。ヤアもう大丈夫です』
お勝『毎度夫がお世話になりまして、一度お訪ね致さねばならないのですが、つい御無礼を致しました』
『お前さまが玉さまの奥さまかい。ほんに可愛らしい御器量のよいお方だこと、玉治別さまもお仕合せな事ですワイ。時に玉治別さま、皆さまは如意宝珠の玉の紛失に就て、どう云うて居られますかな』
『いやもう種々の噂で御座います。高姫さまが独断で黒姫さまを追ひ出し遊ばしたが、人を呪はば穴二つ、自分も亦玉で失敗して何処かへ逃げ出さねばなるまい、と云つて居る人もあり、中には如意宝珠は決して紛失して居ない、吾々の身魂が曇つて居るから石に見えたのだと云ふ人もあり、一方には何うも言依別命様の御処置が手ぬるいと云つて居る方もあります。つまり百人が百人、種々の意見を立てて騒いで居ますよ』
『私は誰が何と云うても此処は動きませぬよ。三千世界の救ひ主の日の出神の生宮が離れて、どうして御経綸が成就致しますか。大神さまは日の出神の生魂を地と致して三千世界を助けると、お筆先にまで書いて示して御座るのだから』
『大変な御決心で結構ですが、併しあの玉が若し紛失して居たら、貴女の責任上どうするお考へですか』
『青二才の分際で、そんな事までお構ひなさるには及びますまい』
『何程青二才だつて、やつぱり私も宣伝使の一人、参考までに聞いて置かねばなりませぬ』
『若い人達の聞く事ぢやない。お前達は兎に角神様のお話さへして居ればよいのだ。私等とはお顔の段が違ふのだから。それについても言依別も何とかして大勢の者に云ひつけて、宝の在処を探して下さりさうなものぢやに、エヽ辛気臭い事だ。玉照彦さまも、玉照姫さまも何程立派な神様だとか云うても、何分年が若いものだから、こんな時には仕方がない。アヽ頭が痛くなつて来た。もう玉治別御夫婦帰つて下さい。私が本復の後、篤と皆さまに分るやう、千騎一騎の活動を遊ばすやうに一伍一什の因縁を説いて聞かして上げます。此頃の聖地の方々は薩張り桶のたががゆるんでしまつて、誰も彼も蒟蒻の幽霊見たやうな空気抜けばかりぢや、さうだから結構な玉を全部盗られて仕舞ひ、平気の平左でポカンとして為す所を知らずと云ふ腑甲斐ない為体、私は思うても腹が立ちますワイな。玉治別さま、お前さまも、ちつと此玉の事に就て御心配なさつては何うだい。宇津山郷の蛙飛ばしの蚯蚓切り、薯の赤子を育てるのとは、ちと宣伝使は六ケ敷いですよ。貴方第一チヨカだから此玉探しに率先して、もう今頃にや何処かに飛んでいつてゐらつしやると思うて居たのに、気楽さうに夫婦連れで、ぞろぞろと昼の真最中に何の事だいな、ちと確りなさらぬか。人間の家は女房が肝腎ぢやぞえ。これお勝さまとやら、お前さまがこの玉治別さまを、ちつと鞭撻せなければならぬぞえ。千騎一騎の此の場合に、何を迂路々々と間誤ついて御座るのぢやい』
『高姫さま、貴女は人を責むるに急にして己を責むると云ふ事は知らないのですか』
『そんな事は疾うの昔に知つて居りますワイな。よう考へて御覧なさい。金剛不壊の宝珠の玉や紫の玉は、謂はば一旦私の身の内のもので、私の御魂同然だ。腹の中から吐きだしたのと、吐き出さぬだけの相違ぢやないか。アヽこんな事なら腹に呑んでさへ居れば、こんな不調法は出来やしまいのに、お前さまが仕様ない木挽の杢助やらお初のやうな阿魔つちよを引張つて来て高姫の腹から吐き出さしたりするものだから、こんな事になつたのだ。この大責任は元を糺せば、玉さま、お前が負はねばならぬのだ。その次に杢助の娘のお初、是でも口答へをするならして見なさい』
『高姫さま、怪しからぬ事を仰有います。玉を吐き出したのと此度の紛失とは別問題ぢやありませぬか。さう混淆にせられては聊か私も迷惑致します』
『其理屈が悪いのだよ。お前さまは謂はば新米者の端役人ぢや。私は日の出神の生宮ぢや、同じ宣伝使にしても天と地との懸隔がある。私を失敗らしてお前さまは平気で見て居る気か。私の失敗は謂はば三五教の自滅も同然ぢや。お前さまが一人や二人失敗つたつて、決して三五教に影響を及ぼすものでない。兎も角大責任を自覚し私が盗りましたと云うて責任を帯び、一先ず此場のごみを濁しなさい。その間にこの高姫が天眼通で在処を探し、お前さまの無実を晴らし、さうして玉治別さまは立派な人だと云はれて信用が益々あがつて来る。神さまに仕へるものは、これ位な犠牲的精神がなくては駄目ぢや、それが出来ないやうな事なら宣伝使を返上なさいませ。なアお勝さま、私の云ふ事が無理ですか、無理なら無理とハツキリ云うて下さい』
と稍精神に異状を帯びたせいか、勝手気儘な理屈を吹き出す。
玉治別『まアまア高姫さま、お鎮まりなさいませ。貴女は少し許り逆上して居ますから、病気の害になると済まぬによつて、今日は一先づお暇致します』
『これこれ、此重大なる責任を此高姫に塗りつけようとするのか。大方お前さまがそつと何々したのぢやなからうかな。何うも素振が怪しいぞえ』
『病人だと思うてあしらつて居れば余りの事を云ひなさる。これから私も言依別の教主さまにお届けして来ます』
『言依別が何ぢやいな、あれは言依姫の婿ぢやないか。謂はば私の妹の婿で私の弟も同然だ。真の日の出神の憑つた高姫を措いて、あんな者に何を云つたつて埒が開くものかい。あれは知慧と学とで、人間界では一寸豪さうに見えるが、神の方から云へば赤坊みたやうなものぢや。なぜ高姫の云ふ事を聞きなさらぬのかい』
と目を三角にして睨みつける。お勝は悔し涙に堪へ兼ねて其場に泣き倒れる。
高姫『泣いて事が済むなら易い事だ。私でも泣きたいけれども神政成就の御宝の行方を探す迄は、そんな気楽な、泣いてをれますか。大きな口を開けて、わあわあと泣くお前さまより、ぢいつと耐へて気張つて居る高姫の方が何程苦しいか分りませぬぞえ』
玉治別『兎も角今日はお暇を致します。ゆつくりと思案して御返事に参ります』
『どつこい、夫婦の者、此解決がつく迄一寸も動いてはなりませぬぞや』
『はて迷惑の事だ。お勝、どうしようかなア』
 お勝は又もや大声を上げてオイオイ泣き出した。高姫は枕許の金盥を爪でガシガシと掻き鳴らし乍ら、もどかしさうに、
『あゝ玉が欲しい。玉が欲しい。玉はやつとあつてもがらくた人間のどたま計りで仕方がない。よう是だけ蒟蒻玉が集まつたものだ、これ確り……玉さま……せぬかいな』
と金盥をもつて玉治別の頭をガンとやつた。玉治別は、
『困つた事になつたものぢや、云ふ事が薩張支離滅裂、到頭魂が抜けて発狂して了つた』
と呟くを聞き咎めて、高姫は口を尖らし、
『何、私が発狂したと見えますか』
『八(発)狂と嘲弄ふ貴女は、非常に九(苦)境に陥つて居るやうに見えますワイ。アハヽヽヽ』
と焼糞になつて高笑ひをする。高姫はムツと腹を立て、
『長上に対して無礼千万なその振舞』
とあべこべに、頭をこづいた方から無礼呼はりを浴びせかけられ、玉治別はお勝の手を取り、
『サアお勝、長坐は畏れぢや、気の鎮まる迄家に帰らう』
と此場を見捨てて表へ駆出した。高姫は狂気の如く奥の間で怒鳴つて居る。
 高姫の病気と聞いて見舞にやつて来た杢助は、お初の手を引き、門口で玉治別夫婦にベツタリ出会し、
『ヤア、先生か』
『杢助さまか、お初さま、ようお出なさいました』
『高姫さまの様子は何うですか』
『いやもう大変です。カンと叩られて来ました。大変に、私やお初さま始め、杢助さまを恨んで居ますよ。用心なさい、又カンとやられちや耐りませぬからなア』
『テンと訳が分りませぬなア』
『別に勘考せいでも奥へお出になれば分ります。一寸私は急ぎますから、お先へ御免蒙ります』
と云ひながら女房のお勝と共に、慌しく吾家をさして帰つて行く。
(大正一一・五・二五 旧四・二九 加藤明子録)
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