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文献名1霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
文献名2第4篇 改心の幕
文献名3第15章 情の鞭〔707〕
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ鷹鳥姫と若彦は、この不思議を語り合っている。若彦と金・銀の三人は、とりもなおさず杢助にお礼を言いにいくことになって出立した。
三人が山麓の道にさしかかると、昼寝をしていた数十人の男たちに見咎められた。これはスマートボールらバラモン教徒の手勢だった。若彦は木の上に難をのがれ、金助と銀公はスマートボールに改心を促す。
スマートボールは怒って金・銀に襲い掛かるが、樹上から若彦が改心を促す宣伝歌を歌った。バラモン教徒たちは散り散りに逃げてしまった。
三人は生田の森の杢助の庵にたどり着いた。杢助は知らぬ態にて三人を迎える。若彦が玉能姫がここにいないか尋ねると、杢助は何事も神様に任せて執着を去れ、と若彦を諭す。
玉能姫は杢助親子に助けられてここにかくまわれていた。しかし杢助は女房を訪ねて教えの館を捨ててくる若彦の態度を、宣伝使として厳しく咎めたてた。また玉能姫は素盞嗚大神の御楯となって功名を表すまで夫に面会できないとのお示しを明かした。
若彦は杢助の言葉に胸を打たれ、伏し拝むと金・銀と共に去って行った。一方杢助は、神界の命とはいえ、若彦と玉能姫の間の生木を裂くような仕打ちをした苦しい胸の内をひとり明かして懺悔の涙に暮れている。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月27日(旧05月01日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所
OBC rm2215
本文の文字数5613
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本文  時置師神、初稚姫、玉能姫は、忽然として此の場に姿を隠した。何時の間にか押寄せ来りしバラモン教のスマートボール以下数拾人の人影も、煙の如く消えて了つた。鷹鳥姫、若彦は互に顔を見合せ、不審の念に駆られながら、
鷹鳥姫『これ若彦さま、なんと不思議ぢやありませぬか。私は貴方に御留守を頼み、此山の頂に玉能姫さまと登つて見れば、黄金の立像四辺眩ゆき許りに輝き給ひ、荘厳無比にして近づくべからざるやうでしたが、勇気を出して御側近く立寄つたと思へば、左右の御手を伸ばして吾等二人を中空に投り上げ給ひ、後は夢心地、覚めて見れば吾庵の庭先に倒れてゐました。さうして天より神さまの声聞え、いろいろの教訓を賜はりし時は、実に畏れ入つて自分の今までの罪が山の如く前に現はれ来り、何とも云へぬ心の苦しさ。今迄の取違ひを全く覚り、神さまに罪を赦されたと思へば、バラモン教の人は竹槍を以て、妾等二人を突き滅ぼさむと攻め寄せ来る危機一髪の際、杢助さまは初稚姫様を背に負ひ、玉能姫さまを伴ひ、宣伝歌を歌ひながら此場に現はれ、初稚姫様を背より下し給うたと思へば、初稚姫様は神懸状態に御成り遊ばし、娑婆即寂光浄土の因縁を細々と御説き下され、ヤレ有難やと伏し拝むと見れば、三人の御姿は煙と消えて了はれた。不思議な事があればあるものだなア』
若彦『私も其の通りで御座います。天から女神の声聞え、いろいろの尊き教訓を賜はり、杢助様一行は現に此処に御出でになつたのは、決して夢でも現でもありますまい。又蜈蚣姫の部下の人々が攻め寄せて来たのも事実です。吾々両人は杢助様親子に救はれたも同様ですから、黙つて居る訳には行きますまい。是から杢助様の御宿を訪ね、御礼に参らねばなりますまい』
『さうですかなア、貴方御苦労だが妾は此処に神様の御給仕をしながら、留守をしてゐます。一度御礼に行つて来て下さい。金さま、銀さま、貴方も共に助けて頂いたのだ。若彦さまと一緒に杢助さまの宅迄、御礼に行つてお出でなさい』
 金、銀一度に、
『ハイ、有難う、御伴致します』
と感謝の涙に咽ぶ。茲に若彦は口を嗽ぎ手を洗ひ、高姫、金、銀二人と共に、神前に向ひ恭しく天津祝詞を奏上し、神言を宣り、庵を後に崎嶇たる山坂を伝ひ伝ひて下り行く。
 山麓の稍平坦なる大木の茂みに差掛る時しも、午睡をしてゐた拾数人の男、三人の姿を見るよりスツクと立ち上り、前途に大手を拡げ、
『ヤー、其方は三五教の若彦であらう。汝は玉能姫と云ふ魔神を使つて、俺達を清泉に投げ込んだ悪神の張本、手足も顔も傷だらけに致しやがつた。サア、これからは返報がやしして呉れむ、覚悟をせよ』
と四方八方より棍棒打振り攻め来る。
 若彦は飽く迄無抵抗主義を支持すれども、敵の勢余り猛烈にして危くなりければ、四辺の枝振りよき松を目蒐けて猿の如く駆け上つた。金助、銀公の二人は松の小株を楯に取り、
金助『オイ、スマートボール、カナンボールの阿兄、その腹立は最もだが、此の宣伝使の知つたことぢやない。貴様等が作つた心の穽に落ち込んだのだ。敵は汝の心に潜んでゐるぞ。マア気を落着けよ。貴様は今杢助の娘初稚姫に危急を救はれて、雲を霞と遁げ去りながら、其の御恩を忘れ、未だ三五教に敵意を含むのか。貴様冷静に考へて見よ』
スマート『考へるも考へぬもあつたものかい。俺が何時杢助の娘に救けられたか。莫迦を云ふない、テンで鷹鳥姫の庵に行つたこともない。なア、カナン、妙なことを金助の奴吐すぢやないか』
『吐すも吐さぬもあつたものかい、白々しい。僅か一人や二人の宣伝使に向つて、竹槍隊を引率し、芋刺しにして呉れむと、大人気なくも襲撃して来よつたぢやないか。余り空惚けない』
『貴様はちつと逆上せてゐよるなア。これから俺が谷水でも掬つて飲ましてやらう』
『逆上せて居るのは貴様等ぢや。皆神様が貴様等のやうな分らん屋には相手になるなと云つて、若彦さまを此の松の木の頂上まで上らせてござるのだ。ちつと上せ様が違ふぞ。水を飲ましてやると云ひよつたが、俺の欲する水は、飲めば直様、汗や小便になるやうな水ではない。乾くことなく、尽くることなき身魂を洗ふ生命の水だ。瑞の身魂の救ひの清水だ。サア、これから俺が飲ましてやらう。確り聞けよ』
カナン『金助の奴、貴様は筒井順慶式だな。腹の黒い裏返り者、サア、一つ目を覚ましてやらう。覚悟を致せ』
と迫り来る。
金助『アハヽヽヽ、俺の腹が黒いと吐すが、貴様が大将と仰ぐ蜈蚣姫は何うだい。身体一面真黒ぢやないか。其の股肱と仕へてゐる貴様の顔は野山の炭焼きか、炭団玉か、但は屋根葺爺か、アフリカの黒ン坊か、烏のお化けか、紺屋の丁稚か、岩戸を閉めた曲神か、得体の分らぬ真黒黒助。アハヽヽヽ』
と肩を大きく揺り、二三度足で大地に餅搗きながら笑つて見せた。スマート、カナンは烈火の如く憤り、
『腹黒の二枚舌、腰抜け野郎奴、云はして置けば際限もなき雑言無礼、最早勘忍相成らぬ、覚悟致せ』
と武者振りつく。金、銀二人は拾数人を相手にコロンツ、コロンツと格闘を始めた。
 松の大木の上より若彦は声を張り上げて歌ひ出した。
『神の造りし神の国  恵みの露に潤ひて
 大神宝と生れたる  世界の人は神の御子
 人のみならず鳥獣  魚貝の端に至るまで
 神の造りし貴の御子  互に憎み争ふは
 吾等を造りし祖神の  深き心に背くなり
 スマートボール其他の  バラモン教の人々よ
 吾等も同じ天地の  神のみ息に生れたる
 断つても断れぬ同胞よ  愛し愛され助け合ひ
 聖き尊き此の世をば  一日も長く存らへて
 皇大神の降らします  恵の雨に浴し合ひ
 互に心打ち解けて  四同胞の標本を
 世界に示し神の子と  生れし実をめいめいに
 挙げよぢやないか人々よ  三五教やバラモンと
 名は変れども世を救ふ  誠と心は皆一つ
 一つ心に睦び合ひ  下らぬ争ひ打切りて
 手を引合うて神の道  花咲く春をやすやすと
 心楽しきパラダイス  進み行く世を松の上
 松の緑の若彦が  皇大神に照らされし
 心の魂を打開けて  神より出でし同胞に
 真心籠めて説き諭す  あゝ諸人よ諸人よ
 三五教やバラモンと  小さき隔てを打破り
 尊き神の御子として  清き此世を永遠に
 千代も八千代も暮さうか  返答聞かせ早聞かせ
 汝が心の仇波は  汝が心に立ち騒ぐ
 波の鎮まる其の間  この若彦は何時迄も
 松の梢に安坐して  改心するを待ち暮す
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  神は吾等の御親ぞや
 人は残らず神の御子  人と人とは同胞よ
 親子兄弟睦び合ひ  五六七の神代を永遠に
 手を引合うて楽まむ  神が表に現れまして
 善と悪とを別け給ふ  此世を造りし神直日
 心も広き大直日  唯何事も吾々は
 互に胸を明かし合ひ  過ちあらば御互に
 諫め交して天地の  神の心に叶ひつつ
 二つの教を解け合せ  誠一つの神界の
 道に復ろぢやないかいな  道に進もぢやないかいな
 これ若彦が一生の  バラモン教の人々に
 対して願ふ真心ぞ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
と歌ひ終つた。
 俄に吹き来る春風に、松葉の戦ぎそよそよと、梢を伝ひ下り来る。此の言霊に辟易し、スマートボールを始めとし、数多の人々一散に、雲を霞と走り行く。金、銀一度に、
『若彦さま、貴方の宣伝歌に依つて一同の者は、頭を抱へ尻引からげ、初めの勢にも似ず、雲を霞と遁げ散つて了ひました。併し乍ら彼等とても良心の閃きはありませうが、さうぢやと云つて決して油断はなりませぬ。気をつけて参りませうか』
若彦『マア急ぐに及ばぬ。バラモン教の人々に対し、私の宣伝歌が功を奏したか、奏しなかつたかは知りませぬが、兎も角吾々の進路を開いて呉れただけでも結構だ。此の松の木の麓に於て大神さまに感謝の祝詞を献げませう』
と言ひ終り早くも拍手再拝、鷹鳥山の絶頂を目標に祝詞を奏上し始めた。若彦外二人が汗を流して奏上する英気に充ちた顔を、遠慮えしやくもなく山の春風が吹いて通る。
 再度山の山麓、生田の森の中に庵を結ぶ杢助の仮住居、形ばかりの門戸を開いて入り来る三人の男があつた。その中の一人は若彦である。若彦は、
『頼みます 頼みます』
と門の戸を叩いて訪へば、
『オー』
と答へて出で来る以前の杢助、素知らぬ顔にて、
『ヤーお前さまは若彦の宣伝使さま、鷹鳥山の庵に於て身魂を研き、旁御教を鷹鳥姫と共に四方に宣伝して御座ると聞いて居たが、今日は又如何なる風の吹き廻しか、此の杢助が隠家を訪ねて御越し遊ばしたのは、如何なる御用でございますか』
『最前は鷹鳥姫様始め吾々一同、いかい御世話になりました。御礼を申さむかと思ふ間もなく、貴方は初稚姫さま、玉能姫と共に御帰り遊ばしたので、鷹鳥姫さまも一つ、言葉の御礼に行つて来ねば済まないから「若彦、お前御礼に行つて来い」との仰せ、遅れながら只今参りました』
『此の日の暮紛れに三人連れで、此処へやつて来るとは合点が行かぬ。此の杢助は二三日前から閾一つ跨げた事はござらぬ。随つて貴方を最前とやら御助け申した覚えはござらねば、何うぞ此儘御帰り下さいませ』
と膠も杓子もなく、榎で鼻を擦つたやうな挨拶振り、稍面を膨らし、目を凝視めて不機嫌顔、若彦は合点行かず、暫し答ふる言葉も知らなかつたが、思ひ切つたやうに、
『玉能姫は貴方の宅に御世話になつて居りませぬか』
『それを訊ねて何となさる。三五教の宣伝使たるものは、一切を神様に任せ、総ての執着を去り、師匠を杖につかず、人を相手とせず、親子女房血類を力にすなとの教ではござらぬか。何を血迷うて鷹鳥山の霊場に玉能姫を伴れ込み、穢らはしくも此の杢助の宅に玉能姫は居ないかなぞと以ての外の御心得違ひ、左様な腐つた魂の宣伝使には今日限り絶縁致します。此の閾、一歩でも跨げるなら、サア、跨げて見なさい』
 奥には玉能姫の咳払ひ、若彦の耳には殊更刺激を与へた。玉能姫は杢助に救はれ、此処に病気の身を横へながら、若彦との問答を心痛めて聞いて居る。飛び立つばかり会ひたさ見たさに、玉能姫は心は矢竹に焦れども、人目の関や、抜きさしならぬ杢助の堅き言葉に遮られ、何と返答もないじやくり、夜具に食ひつきハラハラと涙を袂に拭ひつつあつた。
 杢助は二人の心を察し得ない程の木石漢にはあらねども、二人を思ふ慈悲心の波にせかれて涙を隠し、態と呶鳴声、
『ヤイ、黄昏のこととて顔は慥かに分らねど、其の声は若彦によく似たり。恐らくは若彦に間違ひなからうかも知れぬ。併し乍ら三五教には不惜身命的宣伝使の数多綺羅星の如く、心の玉を輝かし神の教の道を猛進し、世人を導く身分として女房に心を奪はれ、教の館を捨てて遥々訪ね来る如き腰抜けは一人も御座らぬ。汝は神の名否宣伝使の雅号をサツクとなし、此世を誑かる泥坊の類ならむ。汝の如き偽物、諸方を徘徊致すに依つて、第一三五教の面汚し、獅子身中否志士集団の団体をして腰抜教と天下に誤解せしめ、神の神聖を冒涜するもの、汝は是より己が住家へ帰り、一意専念身魂を研き、名実相合する神人となつて、然る後宣伝使が希望ならば宣伝使となれ。それが嫌なら只今の儘流浪人となつて人の門戸を叩き、乞食の恥を曝すがよからう。斯く申す杢助の心は千万無量、推量致して名誉泥坊の二人と共に疾く此場を立去れ。又玉能姫とやらの宣伝使は、神界のため夫に暫く離れて素盞嗚大神の御楯となり、華々しき功名を致す迄、夫に面会は致すまいぞ』
と声張り上げて夫婦に聞かす杢助が情の言葉、若彦は胸に鎹打たるる心地、両手を合せ杢助の庵を伏し拝み、名残惜しげに振返り振返り、二人の男と共に、闇の帳に包まれてしまつた。
 後に杢助は声を湿らせながら独言、
『大神のため、世人のためとは云ひながら、生木を裂くやうな杢助が仕打ち、若彦必ず恨んで呉れな。それに就ても玉能姫、せめて一目なりと会はして呉れたら良ささうなものだのに、気強い杢助であると嘸恨んで居るであらう。最前初稚姫様の御知らせに依つて鷹鳥山へ救援に向ふ折りしも玉能姫は御伴をしようと云つた。其時無下に叱りつけ初稚姫様を背に負ひ、後に心を残しつつ宣伝歌を歌ひながら鷹鳥姫が館に行つて見れば、神の御告に寸分違はず、悲惨の幕が下りて居た。玉能姫の幽体は又見えつ隠れつ来て居つたやうだ。嗚呼無理もない。併し乍ら今会はせるは易けれど、言依別命様の御内命もあり、且又至仁至愛の大神様の厳しき御示し、何程玉能姫の心情を察すればとて、神さまの仰には背かれず、神の教と人情の締木にかかつた此の杢助の胸の苦しさよ。アヽ両人、今の辛き別れは勝利の都に達する首途、杢助が心の中も些は推量して下され』
と流石剛毅の杢助も情に絡まれ、潜々と落涙に咽んでゐる。奥には初稚姫、玉能姫が奏づる一絃琴の音、しとやかに鼓膜をそそる。
(大正一一・五・二七 旧五・一 外山豊二録)
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