秋彦と駒彦の宣伝使は、日高山の山奥に滝があると聞き、荒行をなそうとやってきた。滝の側には竜神の祠があり、社の周りには、立派な実をつけた柿の木が生えている。これは竜神の柿といわれていた。
二人は社の前で鎮魂をしていたが、うまそうな匂いに、鎮魂が終わると柿をむしって食った。すると社が鳴動して怒鳴りつけられ、二人は驚いて元来た道を逃げて行った。
夜が明けると、谷川で衣を洗う白髪異様の婆がいた。見ると、婆の頭からべっこうのような角が二本生えている。二人は谷を通らなければならないので、用心しながら近づいて婆に声をかけた。
婆は驚いて二人を見ると、いきなり二人を泥棒呼ばわりし始めた。秋彦が憤慨すると、婆は先日、バラモン教の宣伝使だという二人連れが泊り込んだが、夜中に強盗を働き、一人娘を殺して金品を奪っていったのだ、と答えた。
そしていきなり娘の敵、と二人に飛びかかろうとする。駒彦は、自分たちは三五教の宣伝使だ、と言い返し、鬼婆の報いとして自分の子を取られたのだろう、と諭した。
駒彦が、自分は元の名を馬という紀の国生まれの者だ、と言うと、婆は何か心当たりがあるものらしく、態度を変えて自分の家へ来てくれと二人に頼んだ。婆の角は、泥棒を脅して寄せ付けないように被っていただけであった。
秋彦は合点がゆかず、婆の家に入らず表で警護をしている。家の中では爺がいて、前のようなことがあるから旅人は泊めないと言うが、婆は紀の国出身で息子と同じ名前だというから連れて来た、と答えた。
爺が駒彦に生まれのことを尋ねると、駒彦は小さい頃に天狗にさらわれたが、自分が持っていた守り袋に常、久という字があり、自分の名前は馬楠と書いてあったのだ、と明かした。
その話で、駒彦は爺・常楠と婆・お久の息子であることがわかった。三人は涙にむせぶ。家の外で話を聞いていた秋彦も、入ってきて駒彦が両親に対面できたことを喜び、感謝の祝詞を唱えた。