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文献名1霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻
文献名2第1篇 流転の涙
文献名3第1章 粉骨砕身〔731〕
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2019-07-15 19:15:41
あらすじバラモン教が顕恩郷を支配していたとき、バラモン教幹部の鬼熊別・蜈蚣姫夫婦の間に小糸姫という一人娘があった。
また部下の雉子という男、世才に長けてうまく鬼熊別夫婦に取り入り、宣伝使に取り立てられて友彦という名を賜った。しかし友彦は、なんとかして小糸姫を自分のものにして、鬼熊別の後継となろうという野心を持っていた。
あるとき鬼熊別一家は部下を連れてエデン河に船を浮かべて酒宴を催した。しかし酔った鬼熊別の鉄拳を避けようと逃げる従臣によって船が傾き、小糸姫が激流に飲まれてしまった。
水練に長けた友彦は、小糸姫を助けて蘇生せしめ、無事に館に連れ帰った。喜ぶ鬼熊別夫婦を前にして、友彦は現幹部の不甲斐なさを讒言して取り入る。
小糸姫の無事を祝ってバラモン教の祝典が開かれた。バラモン教棟梁の鬼雲彦は挨拶に立ち、小糸姫の遭難に対して幹部連が何の力にもならなかったことを引き合いに出して、バラモン教の教勢の衰えを嘆き、一同に奮起を促した。
友彦はこれに力を得て登壇し、現幹部の無力を非難して暗に己を売り込んだ。祭典の場は友彦への賛否で騒然となったが、鬼熊別一家とともに友彦はゆうゆうと引き上げた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年06月14日(旧05月19日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所
OBC rm2401
本文の文字数8646
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本文  遠き神代の其昔  埃及国に名も高き
 イホの都に現はれし  バラモン教の大棟梁
 鬼雲彦が片腕と  頼む鬼熊別夫婦
 イホの館の没落に  後晦まして瑞穂国
 メソポタミヤの顕恩城に  教の射場を立直し
 時めき渡るバラモンの  勢旭の昇る如
 教は四方に輝きて  天地自然の楽園に
 光を添ふる芽出度さよ  鬼熊別と蜈蚣姫
 二人の中に生れたる  十五の春の小糸姫
 一粒種の初愛娘  蝶よ花よと育くみて
 隙間の風もアテドなく  寵愛過ぎて気儘者
 父と母との言の葉を  尻に聞かして小娘が
 年に似合はぬ悪行も  直日に見直し聞直し
 又宣り直し目の中に  飛び入るとても痛からず
 悪逆無道の両親も  我児の愛にひかされて
 眼は晦み耳は聾へ  鼻も無ければ口もなし
 恋に溺れてお転婆の  あらぬ限りを尽したる
 小糸の姫の身の果ては  初めて知つた初恋の
 胸の焔に焦されて  人も有らうに出歯男
 団栗眼の鼻曲り  鼻頭に印した赤痣は
 慕うた女の眼より  見れば牡丹か桜花
 大きな口を打開き  笑ふ姿を眺めては
 男の中の男ぞと  思ひ初めたが病付で
 親の許さぬ縁をば  人目を忍び結び昆布
 濡れてほとびてグニヤグニヤと  寝屋の衾の友彦を
 此上なき者と思ひ詰め  手に手を取つて両親が
 館を脱け出でエデン川  人目の関や涙川
 流し渡りて波斯の国  水火を合はして遠近と
 三十男に手を曳かれ  蜜より甘き囁きに
 肝腎要の魂を  抜かれて笑壺に入り乍ら
 廻り廻りて印度の国  錫蘭島に打渡り
 小さき庵を結びつつ  お前と私との其仲は
 仮令天地は覆るとも  月日は西より昇るとも
 千代も八千代も永久に  ミロクの世までも変るまい
 竹の柱に茅の屋根  手鍋提げても厭やせぬ
 ゾツコン惚れた二人仲  天地の愛を一身に
 独占したる面色に  二月三月と暮す内
 小糸の姫は漸うに  男の臭気が鼻につき
 熱き恋路も日を追うて  薄れ冷たきあき風に
 吹かれて変る冬の空  雪にも擬ふ玉の肌
 冷えては最早熱もなく  隙さへあらば飛び出して
 理想の夫に身を任せ  社交の花と謳はれつ
 時めき渡るも女子の  誇りと心機一転し
 うるさくなつた友彦の  酩酊を幸ひ一通の
 三行半を遺し置き  あとは野となれ山となれ
 男旱魃もなき世界  如何なり行ことママの川
 浮いた心の捨小舟  恋のイロハの意気を棄て
 櫓を操りて印度洋  浪のまにまに漕ぎ出せば
 何の容赦も荒の  忽ち船は暗礁に
 正面衝突メキメキと  砕けて魂は中天に
 飛んで出でたる居りもあれ  三五教の宣伝使
 五十子の姫の神船に  ヤツと救はれ太平の
 洋の真中に泛びたる  竜宮島に上陸し
 人気の荒き島人に  日頃のおキヤンを応用し
 鰻上りに島国の  女王と仰がれ三五の
 神の教に帰順して  誠の道を伝へたる
 黄竜姫の物語  褥の船にウキウキと
 身を横たへて太平の  洋をばここに瑞月が
 男波女波を照しつつ  天涯万里の物語
 心の色は真澄空  北極星座に安臥して
 北斗の星に取巻かれ  七剣星に酷似せる
 鉛の筆で研ぎすまし  千代に伝ふる万年筆の
 ペンペンだらりと述べ立つる  手具脛引いて松村氏
 唯一言も漏らさじと  耳を欹て息こらし
 神のまにまに誌し行く  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましまして  二十四巻の物語
 いと速やかに編み終せ  世人を神の大道に
 救ふ栞とならせかし  天地四方の大神の
 御前に祈り奉る。
 中に浮かべる錫蘭島は、昔はシロの島と云ひけり。バラモン教の鬼熊別が部下に仕へし雉子と云ふ男、世才に長けた所より、巧言令色の限りを尽し、鬼熊別夫婦に巧く取り入り、夫婦の覚え芽出度く、遂には抜擢されてバラモン教の宣伝使となり、名も友彦と改められたり。得意の時に図に乗るは小人の常、友彦は何時しか野心の芽を吹き出だし、追々露骨となりて、夫婦が掌中の玉と愛で慈む一人娘の小糸姫に目をつけたり。友彦の心の中は、夫婦が最愛の娘さへ吾手に入らば、鬼熊別の後を襲ひ、天晴れバラモン教の副棟梁、あわよくば鬼雲彦の地位を奪ひ、野心を充さむと昼夜間断なく心慮をめぐらし居たりける。
    ○
 鬼熊別夫婦はエデン河を渡り、対岸の小高き丘に登り、数多の従臣と共に花見の宴を催し、酒に酔ひ潰れ、舌も廻らぬ千鳥足、踊り狂ひつ天下の春を独占せし心地して、意気揚々と、再びエデンの河を渡り此方に向つて帰り来る。鬼熊別は酩酊甚だしく、船中にて手を振り足踏みならし踊り狂ふ悪酒の、無暗に鉄拳振廻し、あたり構はず従臣を擲りつけて興がり居たりしが、一人の従臣は鬼熊別の鉄拳を避けむと、周章狼狽き逃げ廻る機みに、船端に立てる今年十五才の小糸姫の身体に衝突せし途端、小糸姫は『アツ』と一声、渦巻く波に落ち込み、後白波となりにける。
 鬼熊別夫婦を初め船中の人々は、初めて酔も醒め『アレヨアレヨ』と立騒げども、小糸姫の姿は見えず、狭き船中を右往左往に狼狽へまはる。此時身を躍らして赤裸の儘、河中に飛び込んだ二人の男あり。一人は小糸姫に衝突した三助、一人は友彦なりき。友彦は水練に妙を得、浮きつ沈みつ、姫の行方を足もて探り探り、立泳ぎしながら流れ行く。漸く姫の姿をみとめたる時は、既に十数丁の下流なりき。友彦は小糸姫を小脇に抱へ込み、河辺を辛うじて攀ぢ登り、水を吐かせ、種々雑多と手を尽し、漸くにして蘇生せしめ、意気揚々として鬼熊別が館に立帰りたり。
 是れより先、鬼熊別夫婦は数多の人数を召び集め、小糸姫の陥りし河の辺を力限りに捜索し、到底絶望と諦め、我家に立帰り、夫婦互に我子の不運を歎き悲しみ、涙に暮るる折しも、友彦は小糸姫を背に負ひ、門番に送られ、得意の色を満面に漂はし、揚々として入り来る。鬼熊別夫婦は此態を見て驚喜し、
『ヤア小糸姫、無事なりしか、如何してマアあの激流に生命が助かりしか』
 蜈蚣姫は、
『アヽ娘、よく帰つて呉れた。是れと云ふも、全く大自在天様のお恵だ。アヽ有難い有難い。………おやぢさま、どうぞモウ此れからは妾が何時も云ふ通り、大酒は廃めて下さい。酒の祟りでコンナ心配をしたのも、全く大自在天様のお気付けであらう……生命の親の大神様……』
と泣き沈む。友彦は怪訝な顔付きにて、
『モシモシお嬢さま、チツト貴女何とか仰有つて下さいませ。神様も神様だが生命の親は誰で御座いましたかなア』
『お父さま、お母さま、妾既に縡切れて居りましたのよ。そこへ此友彦が生命を的にして妾を救つて呉れました。沢山な家来はあつても、妾を生命がけになつて助けて呉れた者は友彦一人、生命の親は友彦で御座います。どうぞ褒めてやつて下さいませ』
 夫婦は一度に友彦の顔を眺、顔色を和らげ、
『ヤアお前は常々から気の利いた男だと思つて抜擢して宣伝使に命じたが、わしの眼で睨んだ事はチツトも違はぬ。お前ばつかりだよ。これだけ沢山に居つてもマサカの時に間に合ふ奴は一人も有りはせぬ。ようマア働いて呉れた。第一番の手柄者だ』
 友彦は志たり顔、
『これしきの事にお褒めの言葉を頂きまして実に汗顔の至りで御座います。今承はれば貴方様は、これだけ沢山の家来があつても、マサカの時に間に合ふ奴は無いと仰せられましたが、第一バラモン教の幹部の役員が分らぬからで御座いますよ。神様のお道は看板、自分の出世することのみを考へて居る連中ばかりで、自分より優つた者が現はれると、何とか彼とか申して物言ひを付け、頭を押へようとするものですから何程立派なバラモン教でも、誠の神柱は皆逃げて了ひます。何時までも世は持切りにさせぬと神様が仰せられるのに、今の幹部は何時までも高い所へ上つて権利を掌握しようと思ふ卑劣な心がありますから、至誠の者や少し間に合ひさうな人物は皆圧迫を加へ排斥を致します故、何時まで経つても幹部の改造をするか、幹部連がモウ些と神心になり、心の立替立直しを行つて呉れぬ事には駄目です。何程天に日月輝くとも、途中の黒雲の為に光は地上に届きませぬ。私の様な立派な至誠の者が隠れて居つても、人格を認める目もなし、又認めても自分の地位を守る為に却て排斥を致すのですから立派な者は皆隠れて了ひ、粕ばかりが浮上つて居るのです。石混りの塵芥を水溜りへ一掴み放かして見ると、重みのある充実した石は忽ち水の底に沈み、落着き払つて居りますが、塵芥はパツと上に浮いて、風のまにまに浮動して居る様なものです。稲の穂の稔るに従ひ頭を下げ俯むく様に、充実した至誠の者は皆謙遜の徳を守り、実の入らぬ稲穂はツンとして空を向いて居る様なもの、是れでは到底バラモン教も発達は致しますまい。併し乍ら、貴方様は賢明なお方で、この友彦が実力をお認め遊ばし、土塊の如く幹部より取扱はれて居た雉子を重用して宣伝使にして下さつたのは、実に天晴れな御鑑識、友彦も……あゝ私は何とした立派な主人を持つただらう。私の様な幸福者は又と世界にあるまい……と存じます。聖人野にありとか申しまして、誠の貴方の御力になり、教の後を継ぐ様な人物……言はば御養子になると云ふ人物は、幹部に是れだけ沢山、表面立派な宣伝使はあつても、滅多に御座いますまい。余程御養子の御選択は……如才は御座いますまいが……御注意を払つて頂きたいもので御座います。何程容貌は悪くても魂さへ立派であれば鬼熊別副棟梁様の後が継げまする』
と調子に乗つて勝手な理屈を並べ立て得意がつて居る。鬼熊別はニコニコし乍ら、
『オイ友彦……お前は顔にも似合はぬ高遠な理想を抱いて居る者だ。吾々とても同じ事、中々棟梁の家来は得られないものだ。たまたま力にならうと思ふ人物が現はれると、忽ち雲が邪魔して光を隠さうとする。今の幹部だつて其通りだ。大自在天様の教に照して見れば、一人として及第する者はあるまい。耳を塞ぎ、目を閉ぎ、口をつまへて、神直日大直日に見直し聞直して居ればこそ、得意になつて幹部面をさらして居るのだが……アヽ是れを思へば人を使ふと云ふ事は難事中の最大難事だ。肩も腕もメキメキする様だ。どうしてこれだけ身勝手な没分暁漢ばかりが、バラモン教の幹部には集つて来るのだろうなア』
と吐息を漏らすを蜈蚣姫は、
『屍の在る所には鷲集まり、美味の果物には害虫密集するとやら、蟻の甘きに集ふ如く、良い所へは悪い者が来集つて来るものです。これからは今迄の様な和光同塵式は根本革正して、変性男子的にパキパキと率直に、厳粛にやらねば、何時まで経つてもバラモン教は駄目で御座いますよ。それだから妾も貴方に推薦して雉子を宣伝使にしたのぢやありませぬか。妾が雉子を推薦した時、貴方は何と言はれました。「彼奴は見かけによらぬ間に合ふ男だが、アンナ男を推薦すると幹部の連中の気に入らぬから、雉子の人物は認めてゐるが、どうも仕方がない」……と優柔不断な事を仰有つたぢや御座いませぬか。あの時に御採用になつたればこそ、幹部として今日の花見の宴に同行致したお蔭で、一人娘が生命を拾うたではありませぬか、雉子を雉子の儘に置いてあつたなれば、どうして今日の花見の供が出来ませう。さうすれば忠義を発揮する機会もなし、見す見す可愛い娘を見殺しにせねばならなかつたでは有りませぬか。チト是から確かりやつて下さらぬと駄目ですよ』
『さうだなア、副棟梁の為には何時でも生命をあげますとか粉骨砕身犬馬の労を惜まぬとか云つて居た幹部の連中のあの態、俺も実は呆れて物が言はれないのだ』
 友彦は得意顔にて、
『「伸びる程土に手をつく柳かな」……とか言ひまして、地に落ちて居るもの程立派な者が御座いまする。立派な人格者が御座います。「気に入らぬ風もあらうに柳かな」……といふ……幹部が………精神になりさへすれば、バラモン教は旭日昇天の勢で天下無敵の勢力が加はりまする。されど利己主義の猜疑心の深い頭抑への連中計りが幹部を組織して居つては、到底発展の見込みは有りませぬ。現状維持が出来ればまだしも上等、日向に氷の様に、日に日に衰へるは明瞭なる事実で御座いませう。どうぞ副棟梁様、今後は情実に絡れず、適材を適所に抜擢して、神業第一と御心得遊ばして忌憚なく正邪賢愚を御立別けの上、御採用あらむ事を懇願致します』
 小糸姫は、
『お父さま、妾は大勢の役員信者の中でも、本当に偉いのは友彦一人だと思ひますワ』
 蜈蚣姫は、
『オホヽヽヽ、子供と云ふものは正直なものだナア。実際の間に合うたのは友彦だけだワ。ナアモシ鬼熊別様』
 鬼熊別は俯むいて当り障のない様な返辞で『ウウン』と云つて居る。蜈蚣姫は夫に向ひ、
『今日は花見の宴で沢山なお酒を幹部一同戴き、まだ充分の酔も醒めず、此上悦びの酒宴を催すのは妙なものだが、併し乍ら大切な娘の生命を拾つたのだから、神様に御礼のお祭をなし、手軽い直会の宴でも開いて、友彦の表彰会を行はねばなりますまい。どうお考へなさいますか』
と夫の顔を覗き込む。
『アヽさうだナア。何と云つても神様に御礼の祭典を行ひ、次に友彦の手柄を表彰せなくてはなるまい。賞罰を明かにせないと、今後の為にならぬから……ヤア片彦、釘彦の両人、祭典の用意に取かかり、次で直会の宴を開くべく準備して呉れ。そして今日は顕恩郷在住の信徒、老若男女を問はず、残らず八尋殿に集めて酒宴の席に列せしめるのだから……』
 片、釘の両幹部は此一言に、又も酒かと雀躍りし乍ら『ハイハイ』と二つ返事で此場を立出で、部下一般に通達したりけり。
 祭典は命の如く行はれたり。御祝ひを兼ね、信者は立錐の余地なきまでに、八尋殿に溢れ出した。祭典は無事に済み、直会の神酒は子供の端に至るまで万遍なく配られたり。小糸姫が無事安全を祝ふ声、殿内も揺ぐ許りなりき。小高き壇上に現はれたのは鬼雲彦の棟梁なり。鬼雲彦は一同を見廻し、
『バラモン教の幹部を初め信者一同と共に小糸姫の無事安全を祝し奉り、鬼熊別御夫婦の御幸運をお悦び致します。つきましては私として少し感想を述べたいと思ひます。大勢の中には少し耳障りの方もお有りなさるかも知れませぬが、バラモン教の教主兼棟梁としては已むを得ない立場で御座いまするから、其処の所は宜しく御諒解を願つて置きます。抑も多士済々たる本教は、開設以来旭日昇天の勢で御座います。これと云ふのも全く幹部を始め信者一同が、有るに有られぬ困難と戦ひ、所在困苦をなして、忍びに忍びて心魂を鍛へて来た結果と私は信じます。常世の国より渡来して、埃及のイホの都に始めて教を開いた時、コーカス山に根拠を構へたる三五教の為に種々雑多の妨害を受け、一時は孤城落日の破目に陥つた所、皆様はよく耐忍び、漸くにしてバラモン教は再び以前に勝る隆盛の域に達しました。併し乍ら艱難の極度に達した時は栄えの種を蒔くものです。今日のバラモン教は稍小康を得、日々隆盛に趣くに連れて人心弛緩し、知らず識らずの間に倦怠の心を生じ、今日では最初の熱烈なる忠誠なる皆様の精神は何処へやら喪失し、幹部は自己を守る為に高遠達識の士を排除し、阿諛諂侫の徒を重用し、各自競うて部下を作り、互に権力を争ふ如き傾向が仄見えて参りましたのは、本教の為に誠に悲しむべき現象と言はねばなりませぬ。現に鬼熊別様の娘子小糸姫様の遭難に対しても、肝腎の幹部は袖手傍観手を下すの術を知らず、実に無誠意、無能力を極端に発揮したでは有りませぬか、斯様な事で如何して神聖なる御神業に奉仕する事が出来ませう。神に仕へ奉るにあらずして、利己心といふ欲心に奉仕するのだとは云はれても、弁解の辞はありますまい。今日はバラモン教に対して国家興亡の境で御座います。教主として私の申す事が肯定出来ない方々は御遠慮に及びませぬ。ドシドシと脱会下さつても、少しも痛痒は感じませぬ。否寧ろ好都合だと確信致して居ります。本当の大神の御心が分つた方が一二人あれば沢山です。それを種として立派に教が行はれませう。然し乍ら肝腎の幹部たる者、神意を誤解し、利己主義を強持するに於ては、一匹の馬が狂へば千匹の馬が狂ふ譬の如く、総崩れになつて了ふものです。それだから幹部の改心が先づ第一等であります。源濁つて下流澄むと云ふ道理は御座いませぬ。どうぞ此際皆さまは申すに及ばず、幹部の地位に在る方々から誠心誠意、神業の為寛容の徳を養ひ、清濁併せ呑み己を責め人を赦す大人の態度になつて頂きたいものです』
と諄々として鋭鋒を幹部の面々に指し向けたり。幹部の連中は教主鬼雲彦の此教示に対し、余り快く感ぜざれども、一々胸を刺さるる此箴言に、返す言葉もなく唯冷然として、空吹く風と聞き流し居る者も少くなかりける。
 此時得意の鼻を蠢かして壇上に大手を振り乍ら、眼をキヨロキヨロ廻転させ、一同の顔を眺めつつ現はれた一人の宣伝使は、小糸姫の生命を救うた友彦なりき。拍手の声急霰の如く、場の四隅より響き亘りぬ。友彦は満場に向ひ軽く一礼し、稍反り身になりて赤い鼻をピコヅかせ乍ら、無細工な欠げた出歯をニユツと噛み出し、厭らしき笑を湛へて握拳を固め、卓を一つトンと打ち、雷の如き蛮声を張り上げ『皆さま』と一喝し、
『私は只今の教主様の御演説につき感慨無量で御座います。皆様の大多数に置かせられましても、敬神、愛教、愛民の教主の御心中に、嘸嗚咽感激遊ばした事と確信致します。我々は大慈大悲の大神様は申すも更なり、教主様の仁慈無限の御精神に酬い奉り、副教主として、重任の地位に着かせ給ふ鬼熊別様の教を思ひ給ふ御熱情に対し、どこ迄も粉骨砕身、以て微力の有らむ限りを尽さねばならないではありませぬか。然るに今日の幹部は偸安姑息、大事に際して躊躇逡巡、なす所を知らずと云ふ為体では御座いますまいか』
 聴衆の中より『賛成々々』と手を拍つ者四隅より現はれ来たりぬ。此声援に力を得て友彦は益々語気を強め、
『現にエデン河の小糸姫様の遭難に対し、幹部の御歴々は如何なる活動をなされましたか、幹部の総統たる片彦、釘彦の御両人は、我より以下の者共早く河中に飛び込み御救ひ致せ……と云ふ様な御態度でいらつしやる。次の幹部は又次へ、又次へ、我々幹部にあつては人を統率すれば良い、命令権を持つて居るのだから、直接活動すれば幹部の沽券を傷つけると云はぬばかり、次から次へ押せ押せに危ない事は塗りつけ合ひ、唯一人として身を挺しお救ひしようとする方々はなかつたぢやありませぬか。日頃のお言葉に似ず、実に冷淡極まる振舞、斯様な事でどうして神業が発展致しませうか。我々は実に遺憾に存じます』
と又もや卓を叩く。場内は『賛成々々』『尤も尤も』の声破るる許りに響き渡り、中には両手をあげて躍る者さへ現はれた。友彦は尚も語を継ぎ、
『皆さま、今日はバラモン教の立替の時機ではありますまいか。上流濁つて下流澄むと云ふ道理はありますまい。舎身的活動をなす至誠の士……例へて見れば九死一生の人の危難に際し、生命を的に助けに行く丈の真心を持つた真人をして、幹部の総統たらしめなば、名実相伴なふ所の立派なるバラモン教が築き上げられ、神政成就の大望も容易に運ぶでせう。抑も幹部たるものは重大なる責任が御座いますから、自己の安全のみに焦慮する如き人物は、この際信者多数の団結力を以て、根本改革を致さねば、迚も完全なる教は立ちますまい。何卒皆様の御熟考を煩はす次第で御座います』
と結んで降壇せむとするや、片彦は怒気を含み、拳を固め、壇上に現はれた。参集者の中より『下がれ』『退却』『無腸漢』『利己主義の張本人』などと、頻りに罵声を浴びせかけ、喧々囂々鼎の湧くが如く、片彦は壇上に立往生の儘一言も発し得ず、唇をビリつかせて居る。鬼雲彦、鬼熊別両夫婦は信者一同に軽く一礼し、館に悠々として立帰る。友彦も続いて退場する。
 一同は片彦を壇場に残し、先を争うて各々住家に帰りゆく。あとには幹部の錚々たる者合せて十二人何事かヒソヒソと話に耽りゐる。
 忽ち聞ゆる暮の鐘、諸行無常と鳴り響き、八尋殿の屋根に止まつた二羽の鴉、大口あけて『アホーアホー』と鳴きたてゐる。
(大正一一・六・一四 旧五・一九 松村真澄録)
(昭和一〇・三・八 於吉野丸船中 王仁校正)
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