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文献名1霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻
文献名2第4篇 蛮地宣伝
文献名3第14章 タールス教〔744〕
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ玉治別は次の間に押し出され、そこで天然の岩鏡に写った自分の黒ずんだ鼻を見て、照姫が自分に肘鉄を食わした理由を覚った。そして、木花咲耶姫命に鼻を直してもらうように願った。
玉治別が赤い鼻になるように願うと、鼻は鮮紅色になった。玉治別は友彦をからかったことを反省し、次の部落に宣伝に行くことを決めて部屋を出てきた。ジャンナイ教徒たちは、玉治別の赤い鼻を見て畏れ驚き、次の部落への境界まで胴上げして送って行った。
玉治別が山道に佇んでいると、大きな白狐が現れた。玉治別が白狐について行くと、谷川から玉能姫、初稚姫の祝詞の声が聞こえてきた。玉治別が急いで谷川に降っていくと、そこに二人の姿はなく、大蛇がいるのみだった。
玉治別は自分が友彦を面白半分にからかっていたために、二人の危急の場に間に合わなかったと激しく反省し、また大蛇にたいしては大神に人間界に生まれ変われるように祈りを捧げた。
大蛇は感謝の意を表して去っていった。次に猩猩の群れが現れた。玉治別が天津祝詞を唱えると、猩猩たちは感謝した。大きな猩猩に促されて、玉治別は背に負われて運ばれていった。
するとその谷川を巨大な大蛇が通り過ぎていった。玉治別は猩猩に助けられたのだった。玉治別は感謝の意を表して宣伝歌を歌い、祝詞を唱えて指頭から霊光を発射した。すると猩猩の精霊が現れて玉治別に感謝の意を表すと、玉能姫と初稚姫は無事であることを告げ、煙のように消えてしまった。
玉治別は森林の中に端座して祝詞を上げていると、後ろから刺青をした男たちが現れて、玉治別を見て尊崇の意を表した。男たちは玉治別を担いで自分たちの村に連れて行った。
ここアンナヒエールの里の大将はタールスと言い、やはり一人だけ刺青をしないタールス教の教主で、三十格好の大男であった。玉治別は片言ながらこの地の言葉を話してタールスと意を通じた。タールスは玉治別を尊敬して丁重に扱った。
そのころ、アンナヒエールの里に玉能姫と初稚姫がやってきた。里の酋長チルテルは、二人の美人の前に進み出て、玉能姫の手を取ろうとした。玉能姫は驚いて思わず手を払いのけた。
チルテルは親切心から迎え入れようと思ったのだが、手を払われて非常な侮辱を受けたとみなし、里人に命じて二人を取り囲んだ。チルテルは二人に、タールス教主の女房となるようにと迫った。しかし二人は白狐に守られていることが見えていたので、何の恐れもなく男たちをかわしていた。
チルテルの知らせを聞いた玉治別は、直ちにここに連れてくるようにと命じた。タールス教主の女房にしたらどうか、とチルテルとタールスに問われた玉治別は、この二人は天から降された天女であり、人間の女房にすると神の怒りを受けると告げて、思いとどまらせた。
玉治別はここに滞在して言葉をすっかり覚えると、玉能姫、初稚姫とともに里人たちを強化し、タールスやチルテルを立派な神司になした。
二三ケ月後、三人は里を立ち出でて西北指して山伝いに宣伝に出立した。タールスやチルテルは涙ながらに三人を見送った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年07月05日(旧閏05月11日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所
OBC rm2414
本文の文字数7604
本文のヒット件数全 1 件/木花姫=1
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本文  玉治別は合点ゆかず、次の間に押出され天然の岩の鏡に向つて吾鼻を調べて見たるに、鼻は不細工に膨れ上り、熟した紫葡萄の様な色になり居たりける。
『ヤア、是で読めた。真黒ケの此鼻では、テールス姫さまも……エツパエツパ……と仰有つた筈だ。イーエス イーエス……と仰有るのも尤もだ。エヽ残念な……どうぞして此鼻が元の通りになれば、も一つ揶揄つて友彦の慢心せぬ様に戒めてやるのだが、神様も聞えませぬワイ。到頭残念乍ら大失敗かな。それは如何でも宜いが、数多の土人が折角尊敬して呉れて居たのに如何して此面が向けられよう……アヽ天教山に在します木花咲耶姫命様、何卒此花の黒いのをお癒し下さいませ。惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世。はなは桜木、人は武士、名を後の世に穢さぬ様に、木花咲耶姫さま何卒々々神直日大直日に見直し聞直し、何卒此玉治別に暫時の間、赤いはなを持たせて下さいませ』
と一心に念じた。不思議や葡萄の様な鼻の色はサツと除れ、一層麗しき鮮紅色の鼻となつて仕舞つた。
『神様、早速お聞き届け下さいまして有難う御座います。併し乍ら、もう友彦の膏は取りませぬ。之から私は此処を立去つて西へ西へと進み、次の部落を宣伝します』
と言ひ乍ら、次の間へ悠々と下つて来た。チーチヤーボールは又もや此姿を見て打驚き、
『ボース ボース、チユーチ チユーチ、チーリスタン、ポーリンス、テーク テーク、オツポツポ オツポツポ』
と言ひ乍ら恐相に後退りする。此意味は、
『此人は神か悪魔か、訳の分らぬ大化物だ。迂濶して居ると如何な神罰が当るか知れぬ……皆の者、用心せい。さうして皆々、お詫をせい』
と言ふ事である。一同はチーチヤーボールの言葉に頭を大地につけ、
『プースー プースー』
と声を揃へて謝つて居る。「プースー」と言ふ事は「お許し」と言ふ事である。玉治別は口から出放題に、
『トーリンボース トーリンボース』
と言つた。誰も彼も此声に頭を下に足を上にノタノタと歩き出した。中心を失つて何れも是もバタバタと前後左右に倒れて仕舞つた。
『クース、リヤー、ポール、ストン』
と出放題を言つて見た。此言葉は、
『皆さま許して上げますから御安心なさい』
と言ふ意味に惟神的になつて居たのである。一同は声を揃へて「ウワーウワー」と言ひ乍ら玉治別を胴上げし「エツサーエツサー」と声を揃へて一里ばかり山道を送り、谷一つ向ふへ風の神でも送る様にして送りつけ、一生懸命に鬨を作つて逃げ帰り行く。玉治別は後見送つて、
『何だ、薩張り訳が分らぬ。まるで疱瘡神でも送る様にしやがつた。余程俺が恐かつたと見えるワイ、アハヽヽヽ。……時に玉能姫様、初稚姫様は何方へお行きなされたらう。洒落どころの話ぢやない。一時も早く御所在を探さねば申訳が無い』
と思案に暮れて両手を組み俯向いて居る。其処へガサガサと足音をさせ乍ら近寄り来るものがある。見れば大なる白狐であつた。玉治別は白狐に向ひ、
『やア貴方は鬼武彦様の御眷属月日明神様、ようこそ御いで下さいました。初稚姫様、玉能姫様の所在をお知らせ下さいませ』
 白狐は無言のまま、打頷き尾を二三遍左右に掉り、ノソノソと歩み出した。玉治別は白狐の後に従ひ、樹木茂れる山林の中を右に左に小柴を分け乍ら、大蛇の背を踏み越え或は跨げ、二三里ばかり西北指して随いて行く。谷の底に幽に聞ゆる天津祝詞の声、耳を澄まして聞いて見れば確に初稚姫、玉能姫の声の様であつた。念の為めと再び目を塞いで声の所在を確めた上、目を開けば白狐の姿は影も形もなくなり居たりけり。
 玉治別は谷底の声をしるべに草を掻き分け下つて行く。不思議や今迄聞えた声はピタリと止まり、谷川の岩に打かかる水音のみ囂々と聞え、雪の如き飛沫を飛ばして居るのみで、人の影らしきもの少しも見当たらない。谷川の上流下流を声を限りに、
『玉能姫様、初稚姫様』
と呼ばはりつつ捜索すれども何の応答もなく、谷川の水音に加へて猛獣の唸り声、刻々に烈しく聞えて来る。谷川の彼方を見れば蜿蜒たる大蛇、鎌首を立て三四尺もあらむと思はるる舌をペロペロと出し、玉治別を睨みつけて居る。
『ヤア、大変な太い奴だ。確に此処にお二人の声がして居た筈だが、大方大蛇の奴、呑んで仕舞ひやがつたのだらう。アヽ残念な事をした。友彦等を面白半分揶揄つて居た天罰で遅くなつたか。も一歩早かりせば、お二人をヤミヤミと蛇腹に葬るのではなかつたのに、三五教の御教には……油断は大敵、一寸の間も油断を致すな、改心の上にも改心を致して、一呼吸の間も神を忘れな、慢心は大怪我の基だ……と戒められてある。我々も日々口癖の様に世人に向つて……慢心をすな、改心をせよ……と言つて宣伝に廻つたが、遂には無意識的に蓄音機の様に出る様になつて、言葉ばかり立派で魂が脱けて居つた。それだからコンナ失敗を演じたのだ。エヽ憎き大蛇の奴、……否々決して大蛇が悪いのではない。彼奴は所在生物を呑むのが商売だ、生物を呑んで天寿を保つ代物だから大蛇を怨めるのは我々の見当違ひ、玉能姫様、初稚姫様も矢張り注意が足らなかつたのだ。みすみす二人を呑んだ大蛇を前に見ながら敵を討たずに帰らねばならぬのか。最早大蛇を殺して、無念を晴らして見た処が、お二人の生命が助かると言ふ訳でもなし、要らざる殺生をするよりも此実地教訓を玉治別が胸に畳み込み、之から粉骨砕身、生命を的に三人分の活動をして見よう。さうすればお二人の心を慰むる事が出来るであらう』
と独語ちつつ谷の傍に立つて両手を合せ天津祝詞を奏上し、大蛇に向つて鎮魂を施し、
『一時も早く………大本皇大神様、大蛇の罪を御宥し下さいまして、早く人間界へ生れさしてやつて下さいませ』
と涙と共に祈願を凝らす。大蛇は両眼より涙をポロポロと流し、玉治別に向つて頭を下げ感謝の意を表し乍ら、悠々として嶮しき岩山を上り、遂に其長大なる姿を隠しけり。
 俄に後の方に当つて数多の足音が聞えて来た。玉治別は不図振り返り見れば、猩々の群の数十匹、中には赤児を抱き乳を含ませ乍ら、玉治別の前に向つて進み来る。玉治別は一生懸命に天津祝詞を奏上した。猩々の群は各々跪き、両手を合せ「キヤア キヤア」と言ひ乍ら、感謝するものの如くであつた。猩々の中より最も勝れて大なるもの現はれ来り玉治別の前に手をつき乍ら頭を下げ、背に無理に負ひ乍ら、嶮しき道を矢を射る如くに登り行く。数多の猩々は玉治別の負はれたる後より従ひ来る。此時、山岳も崩るるばかりの大音響聞え、周囲三四丈ばかり、長さ五六十間もあらむと思ふ太刀肌の大蛇、尻尾に鋭利なる剣を光らせ乍ら、玉治別が端坐し居たりし谷川を一瀉千里の勢にて囂々と音させ乍ら、ネルソン山の方に向つて進み行く。若し猩々の助けなかりせば、玉治別の生命は如何なりしか殆ど計り知れざる破目に陥つたであらう。
 猩々は玉治別を背に負ひ、谷を幾つとなく飛び越え、或高山の山腹の稍平坦なる地点に導きドツカと下した。玉治別は猩々に向ひ、
『アヽ何れの神様の化身か存じませぬが、危き処をよくもお助け下さいました。お礼には天津祝詞を奏上致しませう』
と猩々の群に向つて、宣伝歌を歌ひ祝詞を奏上し、指頭より霊光を発射した。さしも多数の猩々は忽ち霊光に照され、烟の如く消えて仕舞つた。一塊の白煙は其処より立昇るよと見る間に、美しき一人の女神、ニコニコし乍ら玉治別の前に近より来り、両手をつかへ、
『妾は猩々の精で御座います。折角人間の姿に生れ乍ら斯様な浅間しき言葉も通ぜぬ獣と生れ、身の不幸を嘆いて居りました。然るに有難き尊き天津祝詞の声を聞かして頂き、我々は之にて人間に生れ変り、天下国家の為めに大活動を致します。さうして貴方の御探ね遊ばす初稚姫様、玉能姫様は御無事でいらつしやいます、御心配なさいますな。軈てお会ひになる時があるでせう。此先如何なる事が厶いませうとも、必ず御心配下さいますな』
と言ふかと見れば、姿は消えて白煙も次第々々に薄れゆき、遂には影も形も見えなくなつた。
 玉治別は一生懸命に祝詞を奏上して居た。後の方の森林より忽ち現はれ出でたる十四五人の文身した大の男、玉治別の姿を見るなり、
『ウツポツポ ウツポツポ、ホーレンス、サーチライス』
と言ひ乍ら両手を合せて拝み倒す。玉治別は心の中にて、
『……ハヽア又……サーチライス………だな。俺の鼻が赤くなつたので、友彦の二代目にして呉れるのかな。然し如何な別嬪が居つても、俺には国依別の妹のお勝と言ふ立派な女房が国許に待つて居るのだから、そんな巫山戯た真似は出来ないし、有難迷惑だ。然し大将は女ばかりに限らない。ひよつとしたら此棟梁は男かも知れない、さうすれば大変に都合が好いがな………』
と呟き乍ら、
『我こそは天教山に在します、神伊弉諾大神の珍の御子木花姫命であるぞ』
と赤い鼻を指で抑へて見せた。一同は「ウワーウワー」と言ひ乍ら、玉治別を手に乗せる様に大切にし乍ら、土も踏まさず丁寧に身体を持ち上げ、傍の岩の戸をパツと開いて蟻が蚯蚓を引込む様な調子で奥深く連れて行く。二三丁ばかり隧道を担がれ、パツと俄に明るくなつたと思へば、大きなあかり採りが出来て居る。それより奥に担がれ、又もや四五丁ばかり進んだと思うた処へ一同は声を揃へて、
『ウツポツポ、ジヤンジヤヒエール、ウツパツパ』
と言ひ乍ら恭しく稍広き場所に玉治別を下し、チルテルと言ふ其中での大将らしき男、玉治別の手を握り、傍の岩の戸を押し奥に連れ込んだ。思ひの外広い岩窟であり、芭蕉の葉の七八倍もある様な大きな葉が、鱗形に厚く敷き詰めてあつた。木の葉の青く枯れた香りは何とも言へぬ気分が漂うて居る。
 斯かる処へ、髪の毛を漆の如く黒く塗つた三十恰好の大の男、文身もせず男振りの良い比較的色の白い、何とはなしに高尚な風姿にて、ニコニコし乍ら玉治別の前に出で来り、丁寧に両手をつき、
『ホーレンス、サーチライス、ウツタツタ ウツタツタ、カーリス カーリス』
と言ひ乍ら、忽ち玉治別の手を握り頻りに揺つた。玉治別はニコニコしながら、右の拳を握り、人差指をツンと立て、天井の方をチユウチユウと二三回指さして見せた。さうして、
『アーマ アーマ、タラリー タラリー、トータラリ トータラリ、リート リート、ジヤンジヤヒエール、オノコロジマ、玉治別、神司』
と言つた、其男はタールス教の教主であつて、名をタールスと言ふ。タールスは、
『ホーレンス、タールス、チツク チツク、アツパツパ、テーリス テーリス』
と挨拶する。此意味は、
『吾等の救世主、よくまア、お越し下さいました。只今より貴方を救世主と仰ぎ、誠を捧げてお仕へ致します。何卒長らく此処にお鎮まり下さいませ』
といふ事であつた。玉治別は、
『テーリス テーリス』
と半ば歪みなりの此処の語を使つた。その意味は、
『何事も惟神に任してお世話になります』
といふ事なり。タールスは尊敬至らざるなく、玉治別を最も奥深き最上等の室に導き、珍らしき果物を出して饗応し、生神の降臨と心の底より感謝して居た。ネルソン山以西の住民は昔より、救世主、天より降り給ひ、万民を霊肉ともに救ひ給ふと言ふ事を堅く信じて居た。こはジヤンナの郷でも同様である。此処はアンナヒエールと言ふ里であつた。
 此時玉能姫、初稚姫は宣伝歌を歌ひ乍ら、アンナヒエールの里に進んで来た。チルテル以下数十名の里人は、果樹の実を採らんとてアンナの大樹の下に集まつて居た。其処へ二人の美人現はれ来れるを見てチルテルは真先に進み出で、二人の前に目礼し乍ら、
『アツタツタ、ネース ネース』
と言ひ乍ら玉能姫の手を執らむとした。玉能姫は驚いて強く振り放した。チルテルは、
『エーパツパ、エーネース エーネース』
と言ひ乍ら、顔面怒気を含んで大勢に目配せするや、寄つて集つて二人を手籠めになしタールスの岩窟内に運び込みぬ。
(是から分りやすき様に日本語にて物語る)
『汝は何処の女だ。此処を何と心得て居る。竜宮の一つ島でも最も獰猛な人種にして、他郷の者は一人として、恐れ戦き此地を踏んだものはない。然るに図々しくも女の分際として、此里に断りもなく進み来るこそ不届き至極の女ども、此チルテルは斯う見えても血も涙もある男だ。何とかして助けてやり度いと思ひ親切に手を執れば素気なくも振り放し敵意を表する横道者、さアもう斯うなる上は此方の自由自在だ。煮いて喰はうと焼いて喰はうと此方の儘だ』
と、鬼の様な顔に真黒気に文身した奴、前後左右より取囲む。
『ホヽヽヽヽ、僅かに二人の繊弱き女を、大きな男が数十人、寄つて集つて蟻が蝉の死骸でも穴へ引込む様に「エツサエツサ」と担ぎ込み、御親切によう言つて下さいました。吾々は天教山に現はれ給ふ花赤神の一の眷属、玉能姫、初稚姫と言ふ生神で御座るぞや。取違ひ致すと量見ならぬぞ』
と目をキリリツと釣り上げたり。
『花赤神の眷属とは真赤な偽りだらう。よし、そんな偽りを申すと今に化の皮を剥いてやるぞ。花赤の神様はタールス教の教主様と今奥にてお話の最中だ。一度お目に懸け様ものなら、忽ち汝の化が露顕れるだらう。左様な偽りを申すよりも、今日は目出度き神様の御降臨日だから赦して遣はす。よつて此方の申す事を素直に聞くが宜い。常の日ならば汝の生命は無い処である。さア我教主は未だ女房はお持ち遊ばさず、何とかして文身のない女を女房に致したいと常々仰有つて御座るのだ。恰度よい処だ。ウンと言はつしやい。さすれば我々は今日只今より………御主人様、奥様と崇め奉つて、如何な御用でも御無理でも聞きます程に、万々一不承諾とあれば本日は成敗を赦し、明日はお前等の生命を奪つて仕舞ふから、覚悟をきめて返答をなさい』
『モシ玉能姫さま、何と言つても、仮令殺されても応ずる事はなりませぬぞや。貴女には立派な若彦様と云ふ夫がおありなさるのだから』
『お言葉までもなく、妾は決して生命を奪られても左様な難題には応じませぬから、安心して下さい』
『こりや、小女ツチヨ、何悪智慧をかうのだ。不届き千万な……俺を何方と心得て居る、ジヤンジヤヒエールのチルテルさんとは、アンナヒエールの郷に於て誰知らぬ者もない、鬼をも取挫ぐチヤーチヤーだぞ。チヤーチヤー吐すと最早堪忍ならぬ。膺懲の為めに此鉄拳を喰へ』
と言ひ乍ら、初稚姫を目蒐けて鬼の蕨を頭上より喰はさむとする。
 初稚姫は、飛鳥の如く体を躱し「オホヽヽヽ」と平気で笑つて居る。白狐の姿は両人の目に明かに映じて居る。チルテル初め一同は「タールス教主の女房になれ」と種々嚇しつ慊しつ、遂には声高となつて来た。チルテルは斯くては果てじと奥の間に走り入り、タールスの前に両手をつき、
『只今麗しき女二人、此郷に迷ひ来り、玉能姫とか、初稚姫とか申して居りましたが、実に綺麗な女で御座います。貴方の女房には持つて来いの適役、若い方は先でお妾と遊ばしたら宜しからうと存じ、岩窟の中へ連れ込みましたが、なかなかの剛情者で、少しも、我々の申す事を尻に聞かして、頤で返事を致す横道者、如何取計らひませうや』
 之を聞いた玉治別はハツト胸を躍らせたが、さあらぬ態にて控へ居る。
『何、美しき女が二人迄も来たか、此場に引連れ来れ。因縁の有無を調べ見む、一時も早く』
と急き立てる。「ハイ」と答へてチルテルは此場を立退き、
『サア玉能姫、初稚姫、今日は花赤神様の御降臨で、教主様の大変な御機嫌、其処へ其方が参つたのも何かの因縁であらう。兎も角御面会の為、チルテルの後に従いて御座れ』
『ハイ、有難う。然らば参りませう。……初稚姫様、貴女も一緒に』
と初稚姫の手をとり、チルテルの後に従ひ教主の居間に導いた。玉治別は二人の顔を見るなり、「アツ」と言はむとせしが自ら制し止めた。玉能姫、初稚姫は玉治別の姿を見て、救世主に会ひし如く心の裡に喜んだ。然し、様子ある事と態と素知らぬ顔して俯向いて居る。タールスは玉治別に向ひ、
『オーレンス、サーチライス、アツタツタ、今日は遥々天上より御降臨下さいまして、アンナヒエールの郷人は欣喜雀躍、天下泰平を祝福致し居ります処へ、又もや当国に於ては類稀なる是なる美人、而も二人までこれへ参りましたのは、全く神様の御引合せで御座いませう。私の女房に致しましたら如何で御座いませう』
『イーエス イーエス、エータルス エータルス、エツパツパ、パーツク パーツク、エツパツパ』
と言つた。タールスは頭をガシガシ掻き乍ら再び、
『左様で御座いませうが、何とかしてお許し頂く訳には参りますまいか。ならう事なら、私が宿の妻と致したう御座います。又若い方は我娘として大切に育て上げ、天晴タールス教の神司と仕上げる覚悟で御座いますから、何卒お許しを願ひます』
と頼み込んだ。
『是なる女は高天原より降り給へる天女にして、人民の左右すべきものに非ず。万々一過つて神慮に触るる様な事あらば、汝が生命は直に召取らるるであらうぞ』
と声に力を入れて、きめつけた。タールスは其厳しき言霊の威に打たれ、思はず頭を下げ、
『今後は決して左様な事は申しませぬから、何卒お許し下さい』
と嘆願した。玉治別は心中に可笑しさを堪へ、ソツと見ぬ様な風して両女の顔を覗き込んだ。両女の目は同時に玉治別の両眼に注がれた。
 是より玉治別は此里の言葉をスツカリ覚えた上、三五教の教理を説き諭し、タールスを立派なる神司に仕上げ、チルテルも同じく神司となり、アンナヒエールの里人を一人も残らず大神の道に帰順せしめ、二三ケ月滞在の上、三人は此里を立ち出で、西北さして山伝ひに宣伝歌を歌ひ乍ら進み行くのであつた。七八里の間はチルテルを初め一同見送りをなし、茲に涙と共に惜き別れを告げたりける。
(大正一一・七・五 旧閏五・一一 北村隆光録)
   窓外和知川の氾濫を眺めつつ
(昭和一〇・三・八 於吉野丸船室 王仁校正)
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